15. ピンク、ピンク、ピンク!
緊張しながら現場に着いた絹人たち一行が目にしたのは、とんでもなく珍妙な生き物だった。
数十メートル先からでもわかる、爆発したようなピンクのお団子頭。一応制服らしきものは着ているが、シャツの上に着込んだニットは、髪と同じくド派手なピンク色で、胸元には顔より大きい虹色のリボンがデカデカと付いている。短いプリーツスカート、しましまハイソックス、厚底ローファーも全て全身ピンクだ。そして服にも靴にも、ユニコーンやら虹のワッペンやら、派手で子供っぽいアイテムがゴテゴテと飾り付けられている。
夜のグラウンドにはあまりにもそぐわないそれは、近づいて来た絹人たちに気づき、トライアングルのようなキンキン声を発した。
「皆さんどうもこんばんわ!磐井高校3年の、須栗珊瑚と申しますぅ」
あっけに取られる2人をよそに、珊瑚と名乗った物体はペラペラと喋り続ける。
「さっき無線で事情は聞きましたぁ♡あなたたちが新人さんですかぁ?かっわいい!後輩クンたち、珊瑚になんでもきいてねぇ♪」
「よろしくお願いします」
狼狽えながらも、絹人は頭を下げた。梔倉は失望を隠そうとすらしていなかった。腐っても秘密組織の先輩というからには、スーツでビシッと決めたカッコいい人を想像していたのに……このピンクの生き物は何なの?という心の声がこっちまで聞こえて来そうな表情だ。
「わぁ!あなたとってもかわいい!珊瑚お姉ちゃんって呼ぶことを許可しちゃいますぅ」
「うわっ!触らないで!あっち行って!」
頬を触ろうといきなり伸ばされた手を、梔倉はしっしっと追い払う。
「おい、先輩に対して失礼だぞ。珊瑚は組織の中でもトップクラスの実力者なんだ」
「エリソンさぁん!珊瑚カンゲキ!」
「これがトップ?能力者がこの人しかいないってことですか?」
大きなため息をついた陽向は、その質問には答えずに続けた。
「珊瑚、現場の様子はどうだ?今は何もいないようだが……」
「そうなのぉ!確かにゾンビの気配がしてたんですけどぉ、姿が見えなくって…」
「破壊者が関わっているかもしれないからな。姿を消せる能力かもしれない。こっちの梔倉は能力が使えるが、こっちの風綿はまだ能力が使えない。お前の能力で守ってやってくれ」
「かしこまりですぅ」
さっきのゾンビから梔倉に守ってもらっただけで悔しいのに、こんなピンクまみれの可愛い女の子にもお世話をお願いされるなんて……と、絹人のプライドはぐさぐさと傷つく。陽向先生って悪い人じゃないけど、こういうところちょっと無神経だよなあ。僕の能力はいったいいつ発現するんだ?そんなことを考えながら、愛想笑いするしかなかった。
気を取り直して周りを見渡すと、確かにグラウンドは異様に静かである。けたたましい緊急放送に追い立てられてきたものだから、今日の夕方のような地獄絵図が広がっているものだと緊張していたのに拍子抜けだった。しかしこれが嵐の前の静けさかと思うと、絹人の緊張はますます強まった。
場所は移り、磐井高校の屋上。
緊張感のないやり取りをしている一同を監視する者がいた。
山尾環である。
ちょっと騒ぎを起こしてやったら、組織に続いて見知らぬ顔が2人やってきた。小夜川様の読み通り、こいつらが新たな能力者で――もう組織に洗脳され、守護者とやらになってしまった後だろう。
さすが小夜川様、全てお見通しだ。環は心の中で改めて小夜川への忠誠を誓いながら、自分の顎にそっと手をやった。まだ彼女の手のひらの感触が残るそこは、ほんのりと熱を持っている。
「小夜川様のお役に立ちたい」
誰に聞かせるでもなくそう呟いた。もっと役に立てば、或川のような適当な女ではなく自分を信用してくださるはず。そしていずれはーー。出過ぎた想像をした自分を窘め、拳を握りしめた。
「いけ、蝙蝠悲譚」
環の声に呼応して、幾つもの影が揺らめいた。




