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呂色高校対ゾン部!  作者: 益巣ハリ
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14. 悪役密談

『コードB。コードB。私立磐田高校にてゾンビ発生。破壊者の可能性あり』


 空気が一気に張り詰める。磐田高校……確か呂色高校の隣町にあるところだ。自分が普段生活している地域でゾンビという非現実的な化け物が発生していることを、絹人は改めて実感する。


「コードB…ゾンビをコントロールできるものが全員、正しい心を持っているとは限りません。己の欲望を満たすために使おうとする者もいます。彼らは『破壊者』と呼ばれますが――今まさに、破壊者が動き出したようです」

「さっそく破壊者のお出ましとは。あなた達は運がいいですね」

「エージェントドチ、皮肉はやめて下さいます?」

「皮肉だなんて。破壊者との出会いは早い方がいいじゃないですか。いずれは戦うことになるんだから」


 戦う?その言葉を聞いて、梔倉は目を煌めかせたが、絹人はしかめっ面をした。


「今回は見学だけですよね?カンニィン、私が引率して連れて行きます」エリスンが手を挙げた。


「あなたは彼らの教師ですし、それがいいでしょう。今現場に別の能力者が向かっているので、風綿くんたちは彼女の戦いを見学してください」


 カンニィンがテキパキと指示を出している間、梔倉はずっとウキウキしていた。


「私たちこれから、世界を破壊しようとする奴らと戦うってこと?ふふ、いい展開になってきたじゃない」

「僕は緊張してもう帰りたいよ……破壊者って奴もいるんだよ?」

「大丈夫よ。陽向先生もついてるし、何よりこの私がいるもの。これから会う能力者の子もきっとびっくりするわ、組織の新エース誕生!って」


そりゃあなたは能力使えるからいいけどさ、僕はまだただの一般人だよ、と半ばうんざりした気持ちを込めて、絹人は「羨ましいよ」とつぶやいた。用意が終わった陽向に促されながら車に乗りこんでもまだ心の準備が終わらずに、ため息をついてシートベルトを閉めた。


そして。



時は少し遡る。ビロードと真鍮がふんだんに使われたラグジュアリーな設えの部屋で、女が1人、調子はずれの声で呟いた。


「あり?セピオライトと異極鉱が消えちゃった」

 

 女の名は或田(ありた)ミサキ。波打つ金髪に長いまつ毛、派手なネイルといった出立ちの彼女は、ギャルの最大公約数といったビジュアルである。ミサキは淡いピンク色をしたビロードのソファに深く座り、オーロラの様にキラキラ輝く爪先で手元の水晶を撫でた。


「ねぇのばらちん、ゾンビにしたのって1人だけよね?何で2人分の石が消えたのかな」

「おい或田!!小夜川(さよかわ)様にそんな口を利くなと何度言ったら理解できるんだ?」


 ミサキの背後から怒声が響いた。


「ごめんってえ!たまちんったらき〜び〜し〜い!」

「ふざけるな!大体いつもお前は……」


 たまちんと呼ばれた女は、山尾環(やまお たまき)という。まるで軍隊の点呼のように歯切れ良く喋る彼女は、とにかく背が高く圧迫感がある。刈り上げにした黒髪とキツい目元のせいで一瞬男性と見間違えてしまうが、背丈に負けず劣らず大きなバストとヒップが、女性であることを主張する。とにかく何もかもがデカい女である。


「お前には敬意というものがないのか?小夜川様がお優しいから許していただいていることを自覚しろ!」

「ね~、そろそろダルいんだけど。のばらちんが良いって言ってんのに、なんでたまちんがそんなキレるわけ?」

「お前っ…!」


 ミサキと環の言い争いがエスカレートし、あわや掴み合いの喧嘩、というところで、気だるげで溶けるような声が響いた。


「うるさアい」


 決して口調は強くないが、聞いた者が思わず従ってしまうような威圧感を秘めた声。その一言で2人とも嘘のように口をつぐんだ。


「…野ばら様」


 その女の名は、小夜川野ばら(さよかわ のばら)という。右側は漆黒の黒、左側は妖しい紫のツートンカラーを高い位置でツインテールにしている彼女は、一見あどけない幼さを感じさせる。しかしその瞳は深く虚ろで、視線が合ってしまえばその中に引きずり込まれそうな恐ろしさを秘めている。彼女は深緑色のカウチソファから身を起こし、毛足の長いラグに足を沈めた。


「鉱石が2つ消えたってことはア…破壊者じゃなく守護者が産まれたんでしょ。呂色高校にゾンビを放ったのは逆効果だったみたいねエ」

「申し訳ございません!!」

「こればっかりはしょうがないよオ。ゾンビ化させる人間を選んだのはあたし。あたしの見る目がなかったってだけ」

「そんなことは…!」

「でもまさか一日で2人も守護者が生まれるとはねェ…これもアレに関係あるのかしら」

「アレ?」

「んーん、環は気にしなくていいから」


 野ばらがアレ、といった瞬間にミサキと目くばせをした。それを環は見逃さなかった。自分はまだ信頼されていない、と思うと悔しさで血管が切れそうになる。


「小夜川様!新しい守護者二人、この山尾に始末させてください」

「ちょっとちょっと~!たまちん、相手はまだ生まれたてのベイビーだよ?たまちんが行くことないって!」

「黙れ或田!お前が口を出すな!」


 はあ?とミサキが吐き捨て、再び険悪な雰囲気になり始めたところで、また野ばらが口を開いた。


「生まれたての守護者にしてはさア、周りが静かすぎない?万一、そいつらが発現直後から能力を使いこなせる天才で、見事ゾンビをやっつけちゃったとしても…普通痕跡は残るでしょ?でもほら、SNSになアんにも書かれてない」


 小夜川は『呂色高校 事件』の検索結果は0件、というスマホの画面を見せた。画面の明るさで、薄暗い部屋がぼんやりと明るくなる。


「最悪のこと考えるとさア…もうあのクソ組織に“保護”されちゃってたりして」


 手元にあったウサギのオブジェを持ち上げて、壁に思い切り投げる。ウサギは壁にかかった六角形の鏡に激突し、そのどちらともめちゃくちゃに割れた。


「そんでさア!洗脳されちゃってるかもよ??あたしたちが悪で、自分たちこそが正義だって!!バカげた蝟地説なんか信じちゃってさ!!」グラス、花瓶、壁にかかった絵画。小夜川は立ち上がり、部屋中のものを壊していく。


 先ほどまでと打って変わり、狂ったように暴れまわる小夜川に、或田の額にさえ汗が浮かんだ。


「ハア…ま、いいわ。洗脳されるようなバカ必要ないってことで」


 手あたり次第に投げ続けたせいで、破片が掌に刺さって血が流れている。その棘を抜き、血が落ちるのを眺めながら、小夜川はにたりと歯をむき出して笑った。


「うん、賛成。環が行くって案にイ、賛成!」


 ばちん。


 壁に取り付けられた薔薇型のライトに、どこからかやってきた虫が飛び込んで焼け死んだ。

 

 ジジ、ジジジ。


 小夜川の癇癪にすっかり凍り付いてしまった2人は、何も言葉を発せない。異様な沈黙に、死にゆく虫の命の音がやけに大きく響く。


 さきに正気を取り戻したのは、名前を呼ばれた環だった。


「あ…は、はい!!」

「頼むよ環。あなたの能力、信頼してるからね?とりあえず適当な場所で騒ぎを起こしてさ、そいつらが来るか見ようよオ。2人だけなら、生かしたまま連れてきて。組織と一緒なら…もう殺しちゃっていいから」


 小夜川の目に射すくめられた環は、自然と膝をついてしまう。履いているズボンが汚れるのもいとわず、両膝をついて彼女を見上げた。すると細い腕が伸びてきて、環の顎が引き上げられる。自分とは全く異なる、柔らかく細い手のひら。ひんやりとした冷たい指先。破片が刺さった部分だけが熱を持っている。その温度は、真っ赤になった環の顔の熱と溶け合い、均された。


 小夜川の手から落ちる血が、環の顎を伝い、柔らかいカーペットに落ちる。その一滴が乾くのを待って、小夜川が「いってらっしゃい」と微笑んだ。


 完全にのぼせてしまった環は、自分に檄を入れるように――頭の芯のしびれを取るかのように大声で返事をすると、騒ぎを起こしに向かっていった。

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