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呂色高校対ゾン部!  作者: 益巣ハリ
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13. 蝟地説って何ですか

「私たちの組織は『エリナケウス』という。はるか昔……人類が文字を持った頃から続く、歴史ある組織です」

「そんなに昔からあるんですか?」


 カンニィンからビスケットのおかわりをもらった梔倉が、もしゃもしゃと咀嚼しながら質問した。


「はい。もともとこの組織は、『蝟地説(いじせつ)』を信じる者たちによって大陸で結成されたと言われています」


 『蝟地説』。それは絹人が今まで読んだどんな本にも乗っていない言葉である。


「蝟地説とは…まあ平たく言えば、今我々が生きている大地は全て、ハリネズミの背中の上である、というような考えですね」


 途方もない説に、思わず梔倉は吹き出した。


「そう、確かに笑ってしまうほど荒唐無稽ですが……昔、世界はゾンビたちの破壊や暴走に対し、成すすべがありませんでした。世界が荒れ果て人々が絶望にさいなまれる中、我々がἕν(はじまりの人)と呼ぶ初期のメンバー達はある日突然『ハリネズミこそが大地である』という天啓を受けたのです。そしてその日以降、不思議な力が使えるようになったと言われています」

「不思議な力って、まさか」 ごくりと唾をのみ、絹人が呟いた。


「そう。君たちが先ほど使った石の力です」

「あの、すみません」梔倉が挙手した。

「失礼ですが私、このビルを見て大変失望しました。秘密組織というにはあまりにお粗末じゃありません?そんな力を本当に持っていたなら、戦争でも強かったでしょう。ならどうして、蝟地説は歴史に残っていないんですか?」

「梔倉、さっきから言葉が過ぎるぞ。すみませんドチさん、うちの高校の教育がなってなくて」


 「人は、己とは違うものを憎む生き物なんですよ」


ドチは寂しげに笑い、それ以上は語らなかった。 初対面から仮面のような笑顔を絶やさない彼だったが、その笑顔は今日見たどの笑顔とも違っていた。


 現在は蝟地説を信じている人はほとんどいないが、世界に散り散りになったἕν(はじまりの人)の意思を継ぐ者たちが集まってこの組織を作っている、とドチは付け加えた。


「世界が安定して色々なことが便利になるにつれ、ゾンビの発生件数も少なくなっていき、今はメンバーも私たちと他数人ほどの小さい組織になってしまいましたけどね」


 そんな組織がなぜうちの街にあるんだろう。絹人は不思議に思ったが、それより早く梔倉が口を開いた。


「その蝟地説と、さっき手に入れたこの石って何か関係があるんですか?」

「良い質問ですね。パワーを持つ石は全て…大地である原祖ハリネズミの排泄物とされています」

「えっ、うんち!?」 綺麗な顔に似合わない言葉が梔倉の口からこぼれた。

「まあ、そうとも言います」


 自分の石、異極鉱をいたく気に入っているらしい梔倉は、空色のそれを大切そうに部屋の明かりにかざしながら呟いた。


「最初、地よりも人よりも空よりも先に、原祖ハリネズミがありました。ハリネズミは宇宙の星屑を食み、大いなる太陽の光を呑み込んで、体内で消化して石を作り出し、全ての石を排出したあと眠りについて地球ができたそうです。それゆえ、石は不思議なエネルギーを持っているのです」


 力を持った石は人間の精神に溶け込んで……と、ドチが興奮気味に捲し立て始めたところで、カンニィンが口を挟んだ。


「ドチ、蝟地説の話はそれ位にして」

「ああ…すいません。私はこの説が好きでして。いつも熱くなってしまうのです」

「お二方、もし興味があれば後で彼に聞くと良いですよ。それでは次に私が、能力とゾンビについて説明させていただきます。梔倉さん、ちょっと能力を使ってみていただけますか?」


 いきなり指名された梔倉は一瞬戸惑ったが、すぐに切り替え、目を閉じた。はっと息を吸い込むと、次の瞬間彼女のティーカップが壁に叩きつけられて粉々になった。


「ごめんなさい。ただ浮かしたかっただけなんですが」

「…素晴らしい。普通は目覚めたての微弱な力を訓練して伸ばしていくのですが、あなたの場合は違うようですね。すでに強大な力が溢れています。これをコントロールできるようになれば、どれだけの戦力になるか」カンニィンは独り言のようにつぶやいた。


「っと、すみません。能力は人によって異なるのですが、梔倉さんの能力はサイコキネシスのようですね。エリソンから軽く説明があったとは思いますが、能力発現のきっかけは強いストレスです。人間の中には始祖ハリネズミにリンクしやすい特性を持つ人もいて、彼らが15歳から18歳、いわゆる思春期の時期に強いストレスがかかると、脳の奥に潜んでいたエネルギーが目覚めるのです。それを意志の力でコントロールできる人間が『能力者』になり、エネルギーに自我が乗っ取られてしまった人間が『ゾンビ』になります」

「じゃあ僕たちも、一歩間違えればゾンビになっていたってことですか」絹人の背中を冷たいものがつたった。


「そうなりますね。ただ普通、ゾンビが発生するのも、能力者が生まれるのも、世界全体で年に一人あるかないかという確率なんです。ゾンビが激減して倒す必要がなくなったからこそ、エリナケウスはここまで縮小したんですから」

「じゃあ私たちみたいに一気に2人が能力に目覚めるのは、天文学的確率ってことですか?」

「はい。正確に言えば、以前まではそうでした」


カンニィンの表情が硬くなる。


「以前までゾンビや能力者は、日本、アメリカ、ブラジル…世界中で発生していました。しかし30年ほど前から日本を中心としたアジアに集中しはじめ、最近はもはや日本以外での発生は見られません。そして昨年度から、ここ福岡県のみにおいて異常なペースでゾンビや能力者が発生しています」

「うちの県だけですか?」梔倉が驚いた。

「はい。残された文献を見ても、この発生ペースは明らかに異常です。私たちは、何者かの手によって人工的にゾンビが作られていると考えます」

「人工的って、そんなこと可能なんですか」生唾を飲み込みながら、絹人が口を開いた。

「本来はありえません。始祖ハリネズミとリンクしやすい人間自体、そうそういませんからね。ですが何らかの理由で、始祖の意志に反して人間の一存で能力が付与されるなんてことが可能になったら…」


「この世は、終わります」


 カンニィンが言い終わった途端、空間を切り裂くようなサイレンが鳴った。


『コードB。コードB。私立磐田高校にてゾンビ発生。破壊者の可能性あり』


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