第50話 それぞれの理解/人、温もり。
ルィリアを連れてシイナの住処へと戻ってきた俺は、それからずっと割れた窓の外を眺めていた。
初めてこの景色を見たのは昨日だというのに、翌日にはマリスメアだったのがあの魔獣にすり替えられ、俺達を探しているように徘徊している。昨日とはもう全く別の光景に変わっている。
「何で窓割れたままなんですか」
「…」
「…俺に聞いてる?」
「いや、誰にという訳ではありませんけど…強いて言うならシン君にですね」
そう言って、ルィリアは気まずそうな表情でシイナの方に目を向ける。ルィリアと俺の目線の先には、ここに戻ってからずっと部屋の隅で座り込んで俯いて動かないシイナの姿があった…気のせいかもしれないが肌の色も少し血色が悪いように見える。
最初こそ明るく振る舞っていたが、やっぱりマリスメアを失ってしまった事はシイナにとってかなりショックだったのだろう。
…まぁその度に“じゃあ何でマリスメアの肉は平然と食えたんだ”と疑問に思うのだが。
「別に虫が入ってくる訳でも無いしな」
「そうですか…」
普段うるさい奴がテンション低いとここまで気まずくなるのか。俺はこの気まずい空気から脱するために“外の空気を吸おう”というのを建前としてルィリアに提案しようとしたが、外には魔獣達が目を光らせている為、無闇に動けない。
ルィリアと話したい事が山ほどあるのだが、その殆どがシイナの前では話せない内容ばかりなのである…例えば、この世界からの脱出についてとか。
「…ねぇシン」
ずっと何も喋らずに屍のようになっていたシイナが突然、弱々しく震えた声で俺の名前を呼んだ。にも関わらずその視線は地面を向いたままで、俺の事は見向きもしようとしていなかった。
…今回の出来事で、シイナが相当メンタルをやられているのがその声だけで理解できる。
「ん、どうした」
「…シンはこの世界から脱出なんてしないよね…?」
「え?」
「シンだけは…“わたし”の側にずぅーっと居てくれるよね…?」
シイナは徐ろに顔を上げて俺を虚ろな瞳で見つめ、何故か口角を吊り上げて微笑みながらそう言ってくる。そんなシイナに、俺は思わずゾッとすると同時に焦りで冷や汗を垂らす。
…“シイナの求めている返答をしなかったらやばい”と。
「…それは」
我儘ではあるが、俺はもう嘘は付きたくはない。かと言って本音をそのまま伝えていいのか…その一瞬で、俺はどうすれば良いのか判断が出来ず、あやふやにして返答して無意識に目を逸らしてしまう。
「…何で目を逸らすの」
「っ…!!」
突然耳元でそう囁かれ、俺は驚いて目線を前に戻すと、先程まで部屋の隅にいた筈のシイナがいつの間にか息が当たる程の近距離で俺の目を覗き込むように見つめていた。
俺の視界に広がるシイナの瞳の奥には、飲み込まれてしまいそうなほど底知れぬ闇が広がっていた。
「…いっつもそう。肝心なトコあやふやにして、結局は何も答えてくれない」
「っ…」
俺は図星を突かれ、言葉に詰まってしまう。
だって、マリスメアという仲間を一気に失って狂いかけているシイナに対して“咲薇を守る為にこの世界を出なきゃいけない”なんて言える訳がない…人が壊れてしまう決め手は暴力でも孤独でもなく、“言葉”なのだから。
…他人の心を気にせず、本音が言える非情さが俺にあれば、悩む必要も無いのに。
「…その辺にしてください」
「お前は黙ってて…お前はわたしの為に生きてればいいの」
「…え?」
「シイナ…何言ってんだ?」
以前のシイナなら絶対にありえない発言に、俺もルィリアも思わず首を傾げる。これはシイナがルィリアを仲間だと認めているという事なのか、あるいは…。
「何って…あの女はシンにとっても、わたしにとっても大事な存在…ただそれだけ」
「…言っておくが、ルィリアを殺したら許さないからな」
「大丈夫、ちゃんと有効活用するから…うふっ、アハハハ…」
シイナは意味深な発言をすると、ルィリアを愛くるしいような目で見つめながら不気味に笑った。その目線の先にいるルィリアはそれを悍ましく思ったのか、眉間に皺を寄せて目を細めている。
「…それで、シンはこの世界から居なくならないよね?」
不気味に笑った後、シイナはまるで人が変わったかのように表情を一瞬で切り替え、真顔で俺に振り戻って問うてくる。
「…」
「またそうやって、あやふやにして逃げられると思った?…ちゃんと答えて」
シイナは俺に顔を近づけ、脅迫するような勢いで俺からの“本当の”返答を求める。
だが、本当は俺がどう考えているのかなんて言わなくてもシイナは知っている筈だ。というか実際に昨日、俺はシイナに“咲薇を守る為に脱出しなくてはいけない”と、“脱出したとしても必ず戻ってくる”と…そう告げたから。
…そうか、じゃあ昨日言った事をそのまま言えば良いだけか。
「俺はこの世界を出て咲薇を守りたい」
「…やっぱり、そうだよね」
「でも、必ずこの世界へ戻ってくる!まぁ大罪人としてだが…絶対に!」
「シン君…」
俺の“本当の”返答、“大罪人としてこの世界に戻ってくる”…それがどんな意味を指すのかを察したからだろうか、ルィリアが悲しげな表情で俺の名前を呟く。
「でも戻ってくるまでどれくらい掛かるの…1秒?1分?それとも1時間?…そんな訳無いでしょ…?早くてもどうせ1週間とかでしょ」
「…多分」
「嫌だよぉ…1日以上も独りなんてもう嫌だよぉ…マリスメアもみんな死んじゃった…もう“おれっち”にはシンしか居ないんだよぉ…!」
そう言って、シイナは子供のように泣いて俺に抱きついた。
俺にはシイナとマリスメアがどんな関係だったのかは知らないが…シイナにとって、マリスメアは孤独を紛らわせてくれる唯一の存在だったのだろう。だが、そのマリスメアはもう居ない…そんな中で俺まで居なくなるのは、確かに引き止めたくなるのもわからなくはない。
…というかそれ以前に。
「…一人称、戻ったな」
「当たり前じゃん…!心折れそうなか弱い女の子を演じても、全然考えを改めてくれないから…このシスコン!」
「シスコン、か…確かに俺にぴったりだな」
シイナのその発言に、俺は思わず口角が上がってしまいながらそう返した。
妹の為なら命をも厭わない、そんな奴をシスコンと言わずして何というんだ。寧ろ、今まで言われてこなかったのが不思議なくらいだ。
「何で笑ってんだよ…おれっち、悪口言ってんだよ!?」
「…だって、いつものシイナが戻ってきてくれたからさ」
「っ!」
「…どうした?」
突然驚くような表情で目を見開くシイナに、俺は疑問を投げかける。
「シンって、本当にギルティ…わかったよ、おれっちもシンがこの世界からの脱出するの手伝う!」
「…良いのか?」
「説得しても無駄なんでしょ?だったらいっその事、手伝った方がいいだろが。その代わり!なるだけ早く帰ってきてね…?」
「もちろんだ」
俺はシイナがこの世界からの脱出を手助けする条件に頷くと、シイナはいつもの調子を完全に取り戻したのかにししっ、と綺麗な白い歯を見せつけながら笑った。
改めて、女性って凄いんだなと思い知らされる。あんな明らかにそう思っているかのような演技を熟るなんて。特に、あの目は本当に闇を抱えているかのようだった。
「では早速、脱出の件なのですが」
シイナが俺がこの世界から脱出する事に協力するという事になったからか、ルィリアは若干強引ながらも脱出の話題を切り出した。
「何か分かったのか?」
「いえ…残念ながら。言い訳ですが、丁度調査を始めようとした頃にあのガルバーという男が私達に悪魔崇拝教団を布教してきたのです」
恐らくガルバーは俺と同じか少し前に目を覚ましたのだろう。だがどちらにせよ目が覚めてからそこまで時間は経っていないはずなのに、この世界で悪魔崇拝教団を復活させようという考えに至って、すぐに行動出来るのはもはや行動力の化身とも言える。
ルィリアが追われていたのを察するに、恐らくガルバーは殆どの大罪人を悪魔崇拝教団に引き入れられたのだろう。
…大罪人はどんな痛い目を見ても、悪魔の囁きには勝てないということか。
「そうか…俺の方は脱出に繋がるかはわからないが、咲薇の記憶がどうやら現世の咲薇の状態がわかるみたいだ…あっ!」
俺はルィリアに咲薇の記憶の新事実について告げると、ずっと俺のポケットに隠れていた咲薇の記憶が飛び出してルィリアの周りを嬉しそうに飛び回った。
「えっ、何その蝶々!めちゃ綺麗じゃな!」
「なるほど…元は一つの存在でしたから、そういった繋がりがあるのでしょうか?だとすれば現世のサクラさんもこちら側の事情を理解出来るのでしょうか…もし仮にそうだとしたら、サクラさんの記憶を触媒にしてサクラさんの身体に座標を合わせればシン君を…いやそれはダメですね…であれば…」
ルィリアは緑色に発光する蝶に目を輝かせるシイナを無視して、俺によって告げられた新事実を基にぶつぶつと考察し始め、辺りをぐるぐると歩き回る。
「…ねぇシン、あの女何言ってんの?」
蝶に対してのリアクションを無視されたシイナは、少し不機嫌そうな顔をしながら俺の横に駆け寄ってきてそんな事を耳元で囁く。
「ルィリア、な。これから一緒に戦って助け合っていく仲間なんだから、ちゃんと名前を覚えな」
「仲間…うん、そうだっちゃね。んじゃ改めて、ルィリアはさっきから何言ってんの?あとこの蝶々は何?」
シイナは、かつてこの世界で目を覚ましたばかりの俺のように目の前の出来事を質問攻めしてくる。そういえばまだあの時はシイナに何をされるかわからなかったし、脱出に関しては非協力的だったから話せなかったんだった…今なら話してもいいか。
「ルィリアは恐らく、あの蝶…咲薇の記憶を使って俺がこの世界から脱出出来ないか考えてるんだと思う」
「咲薇って確か、シンの妹だよね?この蝶が妹ってどゆこと?」
「…実は、咲薇は一度死んでるんだ」
「えっ」
「でも俺は悪魔と契約して、咲薇を蘇らせた…その代償に咲薇の記憶を無くしてしまったんだ」
「悪魔と契約…なるへそ、だからシンはこの世界に戻ってくるって確証があった訳ね」
シイナは俺の言葉に納得して深く頷いた。
悪魔の契約は世界にとって重罪…仮に誰も殺していなかったとしても、誰かを助ける為だったとしても契約をした事に変わりは無く、悪魔と契約を交わして賞金稼ぎとして悪人を裁いてきた俺は大罪人である。
「でもねシン、確かに早く戻ってきて欲しいけど…だからって無理に自殺とかする必要は無いからね」
「…散々悪人を残酷なやり方で殺してきたシイナがそれ言うか」
「シンだけは特別」
「都合が良いな」
「それはシンもそうでしょ」
「…そうだな」
俺は愛想笑いをしながらシイナの言葉に頷いて、ふとルィリアの方を見つめる。どうやらルィリアは咲薇の記憶と会話をしているようだ…だが、その時のルィリアは明るいとは言えない表情をしていた。
…先ほど、ルィリアは“咲薇の記憶を触媒に”と言っていた。だがそれはルィリアにとって一番やりたくない方法なのだろう。だから咲薇の記憶と相談し、なんとかそれ以外の方法での脱出方法を模索しているんだと思う。
「はぁ…貴女達兄妹は本当に似た者同士ですね」
咲薇と話が纏まったのか、ルィリアはそう呟いて落胆する。似た者同士とはどういう事なんだろうか…俺と咲薇って、似てる部分あったっけ?
そんなことを考えていると咲薇の記憶はいつの間にか俺の肩に戻ってきており、まるで怒っているかのように俺の頬に突撃してくる。
…“私とお兄ちゃんはちゃんと似てるから悩まないで!”か、ごめんごめん。
「それで、何かわかったのか?“咲薇の記憶を触媒に”とか言ってたが」
「…よりにもよって、そこは聞かれてたんですね」
「咲薇の記憶を触媒にすれば、俺はこの世界から出れるのか?」
「理論上では可能ですが…どちらにせよ今はまだ出来ません」
「どうしてだ?」
「…この方法は、サクラさんの記憶だけではなく、現世にいる身体の方もこちら側を認知出来なくてはいけません。もしくはサクラさんがシン君に纏わる何かを持っていればの話ですが」
「俺に纏わる何か…」
俺は生まれてからこの世界に来るまで、咲薇に何かを渡した物があるかどうかを記憶の中を思い出すように漁る…が、そもそも咲薇とはいつも一緒だったし、それ故に何かをあげるという習慣が無かった。
確かにグラトニーと共に繁華街で悪魔崇拝教団を追い払った時に貰った高級アクセサリーとかはあるかもしれないが、それが俺に纏わる物かと言われればそういう訳でもない。
「…俺に纏わる物って、例えば?」
「そうですね…シン君が日頃から使ってた物とかですね」
「じゃあ無いな」
「ふぅ…そうですか…」
俺に纏わる物を咲薇にあげた記憶が無いことを伝えるとルィリアは胸を撫で下ろし、ため息を吐いてそう答える。
…やっぱり、ルィリアにとって咲薇の記憶を触媒にする手段は行使したくないのだろう。まぁ俺に纏わる物を咲薇が持っていないのならその手段は出来ないらしいし、どちらにせよ、まだ俺はこの世界でやる事がある。
俺達はちゃぶ台を中心に座り、今後の方針を話し合う事にする。
「ひとまず、今は悪魔崇拝教団だ」
「ええ…あの魔獣達はどうにかしなくてはなりませんね」
「…あの魔獣はガルバーによって召喚されてる。だったら、大元のガルバーを倒せば魔獣の無限増殖は止まるはずだ」
ガルバーはこの世界の住人ではない。だがガルバーの場合、何とも言えないラインなのだ。禁書の力を使ったとはいえその本質はただの空っぽの本であり、悪魔との契約もただの魔獣を操っていただけだから、俺達が転生したあの異世界の法律的に実はグレーゾーンなのである。だから仮に死んだとしても、大罪人としてこの世界の住人になる確率は低い…と思う。
「ひとまず今の目標は、魔獣ガン無視であのガルバーとかいうヤツをぶっ殺すってことだべ?」
「まぁそうなるな…ガルバーが居なくなれば、自ずと悪魔崇拝教団は滅ぶだろうし」
「そうですね…結局は悪魔に縋らないとダメな、一人では何も出来ない人達ですからね」
「お前がそれ言うんだ…」
「わ、私は人の為を思って!…と言いたい所ですが、結果的にはあの人達と同じですから何も言い返せませんね…」
最初は立ち上がってシイナの発言に否定をするルィリアであったが、やがてゆっくりと座り込みながらそう言って、威勢を失ってしまった。
…最初はどうであれ、結果的にルィリアは人を殺めた。その事実はどんな事があろうと揺るがない。
「…ま、あれね。ひとまず腹減ったからメシにすっぺ!てな訳でシン、お願いっ!」
そう言ってシイナは手を合わせて俺に料理を作れと頼んでくる。俺はため息を吐いて面倒くさそうに立ち上がってキッチンへと向かった。
…まぁ自分で言うのもアレだが、この場で一番料理が出来るのは俺だから、こうなるっちゃこうなるよな。
「えっ!シン君の料理がまた食べられるんですか!?」
「シンの料理、食べた事あるんかいな!?」
「はい!特にあの“カレー”なる料理が非常に美味でした!」
「えー!シンってやっぱそういう系統の料理得意なんだ!おれっちも昨日ハヤシライスなるものを食させてもらったんぞー!」
「“ハヤシライス”!?なんですかその料理、野菜丼みたいなものですか…?」
「ははは!何その野菜丼って!不味そー!」
リビングでルィリアとシイナの会話が盛り上がっている。俺の料理という話題だけで仲良くなりやがって…料理は人を救うという事だろうか。
まぁ、俺が昨日掬ったのはハヤシライスだがな…うん、クソつまんないな。
「さて、今日は何を作るかな…あ、もうマリスメアの肉無くなってる…て事はもうあの肉食わなくて済むんだな…よし!」
俺はキッチンで誰にも気付かれずに、一人で小さくガッツポーズをした。
◇
「ん…んぅ…」
私は珍しくあの嫌な夢を見ずに目を覚ました…が、辺りは鬱蒼と茂った木々が広がっており、少なくとも気を失ったあの家の中では無かった。
「目が覚めた…ようだな、えーっと…女」
突如聞こえた声に、私は振り返るとそこには小柄でボロ布を上から被っただけの華奢な女の子が仁王立ちをしてこちらを見下ろしていた。
「…女の子?」
「違う!僕…あ、いや…オレ様は男だ!」
「…別に“僕”でも男の子っぽいと思うんだけど」
「えっ…じゃあ僕は男…だ!」
…とは言うものの、髪の毛は腰ぐらいまで長くて声もとても可愛らしく、まだ幼いからか顔もぷにぷにしてそうで、一目では男の子だとはわからない。実際男だと言われても疑うほどだ。
「…君、名前は?」
「僕はナギノ…君っ、あ…違う、お前は?」
「私はフェリノート。フェリィで良いけど…別に無理してその口調で喋らなくてもいいんだよ?」
何だか自分を強く見せようとしているのかはわからないけど、わざわざ言葉を言い換えたり最後に付け足したりしているナギノくんに、私は思わずそう言ってしまう。
「そ、そういう訳にもいかない!人間なんて、みんな…!」
「じゃあ何で私を助けてくれたの?」
「お、お前は人質なんだ!だから捕らえるついでに助けてやったんだ!」
「私が人質なら、全然拘束とかされてないんだけど…逃げれちゃうよ?」
「それは…」
するとナギノくんは突然、言葉に詰まって俯いてしまった。私を拘束しなかったのには、何か理由があるのだろうか?
「…人を縛ろうと思うと、あの嫌な光景を思い出しちゃうんだ」
「嫌な…光景?」
「う、うん…だから…僕には…」
その時のナギノくんはその“嫌な光景”を思い出してしまったからなのか、自身の両手を見つめながら、まるで恐ろしいものでも見たかのような表情で怯えているように全身が震えていた。
…私は思わず、そんな状態のナギノくんに駆け寄って抱きしめた。
「ううん、無理に思い出さなくていいよ…ごめんね」
「…うっ、うぅ…」
ナギノくんは私に抱きしめられると突然目から涙を零し始める。でもそれを何とか耐えようとしているのか、うぅ、と呻き声を出していた。
「…どうしたの?」
「お姉ちゃんを思い出しちゃったんだ…お姉ちゃんも、僕が辛くなった時はこうやって抱きしめてくれたから」
「…そっか」
「すっごく温かくて、安心できるんだ…やっぱり、ドラゴンの身体とは違う」
「うん…無理しなくていいんだよ。別に泣いたって、この場には私しか居ないから」
私はそう言うとナギノくんはそのまま…本能の赴くままに、私をお姉ちゃんと重ねているのか、ぎゅーっと抱きしめて子供のように泣き喚いた。ナギノくんの泣く声と零す涙、そしてお姉ちゃんに会いたいという孤独な想いが服を通じて感じる。
本当はドラゴンとの関係や、ナギノくんはもんすたーていまーなのかなど、色んな事を聞きたかったけど…私は、ただ泣くナギノくんの頭を優しく撫でてあげる事しか出来なかった。




