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第46話 反逆の業火、その真実。

 私はとある夢を見た。

 それは、私がお兄ちゃんと一緒に居酒屋みたいな場所で、店主らしき人物と仲良く話している…そんな何気なさそうな風景。でもお兄ちゃんは何故か私に背を向けていて、まるで私の事が嫌いかのようだった。もしかしてこれは、私の知らない“咲薇”としての記憶なのだろうか?

 やっぱりお兄ちゃん、本当は私の事…。



 そんな少し嫌な夢から目を覚ますと、そこは馬車の中だった。でも、どうやら動いてはいないようだ。

 私は確かスライムに入られて意識を失って…でも私自身の意識はもちろんあるし、寄生はされていないみたいだ。


「…何だったんだろう?」


 すぐに耳の中へ入られてしまった為、その姿を見る事は出来なかったが、あの感触はスライムと同じであった。だとしても、何故意識は乗っ取られていないのだろうか?スライムに寄生されたら、あのメイドさんやパパとママみたいになってしまうはずなのに。

 別に身体にも違和感や不快感がある訳でも無いし、きっと何かしらの理由があってスライムが出ていったのだろう。例えば、私の体の居心地が悪かったとか。

 …まぁ、それはそれで何か嫌なんだけど。


「フェリィ、大丈夫か?」


 馬車の扉が開き、アーシュ君が心配そうな表情で私にそう言ってきた。

 …結果的にスライムに寄生されていないとはいえ、一度入られた事はアーシュ君やカナンさんには言わない方が良いだろう。


「…うん」

「頭とか痛くねぇか?」

「大丈夫だよ」

「なら良いんだ。俺の運転が荒すぎてフェリィが頭ぶつけて気を失ったんじゃねぇかってあのクソ団長がうるせぇんだ」

「そうだったんだ…でもあの状況じゃ運転が荒くなるのは仕方ないよ」


 あの時はモンスターが押し寄せてきていて、そんな中でアーシュ君は馬に乗って操縦しながら戦っていたんだ。寧ろ、戦いながら馬を操れている方が凄い。私からすれば。


「…そう言ってくれんのはフェリィだけだ、ありがとな」

「うん。でもねアーシュ君、カナンさんもただ心配なだけなんだと思うよ」

「そりゃわかってんだけどさ…何もかも俺が悪いみてぇに言ってくんのもどうかと思うんだよな」

「それはそうだね…それは私からも言っておくね」

「…ああ、頼む」

「ところでカナンさんは?」

「アイツなら周辺を探索してる。まぁ大丈夫だろ…まぁとりあえず出てこいよ」


 そう言って、私はアーシュ君と一緒に馬車の外に出る。今私達がいる場所はもう国の外だからなのか辺りには何も無く、殺風景であった。人の気配も無く、人工物も無い…あるのは岩と地面から少しだけ生えている雑草と木だけ。

 遠くを見渡すと私達が数時間前まで居た王国のようなものが微かに見えるが、距離的にはだいぶ離れていると思う。

 …もう、あそこには帰れないんだ。

 ふと目に入ったのは、焚き火とテントだった。今日はもう遅いし、辺りに身を隠せる建物がある訳でも無いから野宿なのだろう。


「あっ」


 家で頭痛が酷くて倒れたあの日から何も食べていないからだろうか、突然お腹がぐぅ、と鳴り始め、私は恥ずかしくなってお腹を隠すように押さえた。


「腹減ってんのか?」

「う、うん…丸一日何も食べてなかったから」

「そうか…アイツが何か狩ってくれりゃいいんだが」


 アーシュ君がそう言うと、近くで何かを引きずるような音が聞こえてくる。アーシュ君は選定の剣を引き抜き、音の方向から私を守るように構えた。


「…姫様!目が覚めたのですね!」

「んだよテメェかよ、驚かせやがって」


 アーシュ君は音の正体がカナンさんだと知ると、嫌そうな顔をしながら剣を鞘に収めた。

 カナンさんは引きずっていた動物から手を離すと、アーシュ君を突き飛ばして私の元に駆け寄ってきた。

 …アーシュ君、大丈夫かな。


「姫様、お怪我はありませんか!?」

「大丈夫だよカナンさん。頭打った訳じゃないから」

「そんな…あのような者を庇護する必要は無いのですよ?!」

「本当だってば!アーシュ君を敵視し過ぎだよカナンさん!」

「…奴を敵視するのは騎士団として当然です。何故なら奴は9年前、勇者という身でありながら王国に反逆を成し、繁華街を火の海にして壊滅を目論んだ罪人なのですから」

「…えっ?」


 カナンさんから告げられた事実に、私は驚きを隠せなかった。アーシュ君が、あの王国を壊滅させようとした反逆者だなんて。

 …信じたくはないけど、カナンさんがアーシュ君の事を悪者に仕立て上げたいが為にそんな嘘をいう訳が無いし、何よりそれに対してアーシュ君は反論せずに黙り込んでいるから尚更それが真実であると思い知らされる。


 “貴様は反逆者のアーシュ!?何故檻の外に!?”


 カナンさんを助けた時のあの言葉…あれはつまり、王国を壊滅させようとしたアーシュ君は反逆者として檻の中に居たという事になるし、カナンさん自身も反逆者であり異世界転生者であるアーシュ君を嫌っているのにも、逆にアーシュ君が騎士団総団長であるカナンさんを嫌うのにも納得がいく。


「本当なの、アーシュ君?」

「…ああ」

「どうしてそんな事をしたの!?」

「…どうせ信じちゃくれねーさ。異世界転生者でもない限りな」

「私も異世界転生者だよ!」

「…そうなのか?」

「うん!まぁ前世の記憶は無いんだけど…でも、聞かせてほしい!」

「姫様、奴の言葉など…!」

「カナンさんは黙ってて」

「ですが…!」

「黙っててって言ってるでしょ!私の…姫様の言うことが聞けないの!?」


 あまり言いたくはなかったが、私は自分が姫様である事を利用して言うと、カナンさんは無言で頷いて黙り込んだ。

 …あんまり良い気分じゃないな。“私は◯◯なのよ!”とか言って黙らせる人はよく多用できるよね…私はもう二度と使わないようにしよう。


「アーシュ君、話して」

「ああ。フェリィも知ってる通り、俺はこの剣に選ばれた勇者で、仲間を揃え、10年の時を経て遂に魔王を討伐した…だが、何故か王国の奴らは俺を魔王に仕立て上げ、やがて処刑された」

「王国の人達が、アーシュ君を…?それに処刑って」

「俺は処刑され、この世を去った…だがコンティニューをして再び勇者として選ばれたが、俺には王国に裏切られた記憶がある。後に裏切られると知って、魔王を倒せなんて従う訳無いだろ…だから俺を処刑した復讐として、手始めに繁華街を燃やしたんだ」


 アーシュ君は、何故反逆をするに至ったのかを話した。“こんてぃにゅー”という単語はちょっとわからなかったけど、要するにアーシュ君は王国に裏切られたからその復讐として壊滅を目論んだ…という事みたいだ。

 …王国に裏切られたって事は、パパとママがアーシュ君を魔王に仕立て上げて処刑したって事になるけど、パパとママがそんな酷い事をする訳がない。

 アーシュ君が反逆をしたのが9年前で、“こんてぃにゅー”とやらをする前の、魔王を倒すまでが10年…つまり、もしアーシュ君がまた魔王を倒しにいったとしたら、帰ってくるのは1年後…。


「王国の人…パパとママがアーシュ君を魔王に仕立て上げて処刑するなんてあり得ないって思ったけど、まさか」

「…ああ、あの時俺を裏切って魔王に仕立て上げた王国の奴らは皆、スライムに寄生されていたんだ…流暢に喋れてたのも、寄生してから1年経って身体が馴染んでいたからだったっつー訳だ」


 アーシュ君は勇者に選ばれ、“こんてぃにゅー”する前から今に至るまでの…合計で19年越しに裏切りの真実を知り、その場に座り込んだ。

 パパとママが自分の意思でアーシュ君を裏切った訳ではない事に安心したが、その反面、約10年間もスライムという存在に騙され続けていたアーシュ君の事を考えると、心が痛んだ。

 …だって1番の被害者なのに、9年前に起こした反逆によって1番の加害者になってしまったんだから。


「すま…」


 カナンさんが何かを言いかけたその時、私の腹の虫が大きく鳴り、私は恥ずかしくなってまたお腹を押さえてその場にしゃがみ込んだ。


「ごめんなさいっ…何も食べてないの!」

「ははは!そういえばフェリィが腹減ってんの完全に忘れてたな…おいテメェ、何か食いもん無ぇか?」

「えっ、あ、あぁ…ちょうど探索中に狩ってきた動物を持ってきていたんだ。解体して腹を満たそう」


 カナンさんはどこか焦ったように言い、先程探索から帰ってきた時に引きずっていたあの動物を私達の目の前に置いた。

 …その動物は少しイノシシに似ている。


「解体出来んのか?」

「ああ。だから解体中は姫様の目を塞いでいてほしい」

「お、おう。だが血と獣の匂いはキツいからな…そこら辺を軽く散歩してくる」

「ああ、頼む」


 珍しくアーシュ君とカナンさんが一切喧嘩に発展する事なく会話を終えると、アーシュ君がこちらに向かって歩いてくる。

 …どうやら、真実を知った事でお互いの間にあった蟠りが無くなったみたい。


「…てな訳だ、少し散歩するぞ。大丈夫、もし何かヤベェ奴と遭遇しても俺がいるからな」

「うん。じゃあ解体はカナンさんに任せよっか」


 そう言って私とアーシュ君はその場から少し離れて辺りを散歩する事にした。と言っても、特にこれといって特別なものがある訳でも発見がある訳でもなく、本当にただ二人きりで散歩をするだけだった。


「…にしてもこうやって二人で歩くの、お兄ちゃん以外じゃ初めてだなぁ」

「そうなのか…コンティニュー前はよく仲間同士で野宿したもんだ。そう思うと俺も今回は人と一緒に歩くの初めてか」

「そういえば、その仲間はどうしたの?」

「さぁな…今頃スライムに寄生されてんじゃねぇか?」

「…お兄ちゃんもグレイシーさんも、大丈夫かな」

「フェリィの兄貴もグレイシーも強いんだろ。だったら大丈夫だ…って信じるしかねぇよ」

「うん…でもさ、これからどうするの?」

「そうだなぁ…俺は特にしたい事とかは無ぇし、フェリィの兄貴を探すか?」

「いいの?」

「ああ。どちらにせよ今じゃ戦力不足に加えて、人間からスライムを取り除く手段もわかんねぇしな」

「ありがと、アーシュ君」

「お、おう…」


 私にお礼を言われ、アーシュ君は照れ隠しに頭を掻いて目を逸らした。可愛らしい。

 …私としても、お兄ちゃんに会いたいし、パパとママ…そして王国の人達を元に戻したい。ひとまず今後の目標は、お兄ちゃんの捜索、スライムを人から分離させる方法の模索。


「と、とりあえずそろそろ解体が終わってるだろ、戻ってみようか」

「うん!」


 そう言って、私とアーシュ君は馬車を停めてある場所まで戻っていった…が、野宿する場所に近づけば近づくほど、嘆くような声と刺すような音が聞こえ、血の匂いも強くなり、私は怖くなってアーシュ君の腕にしがみつく。


「あぁあっ!!ぁあああ!!」

「この声…カナンさん?」

「アイツ、何叫んでんだ?」

「行ってみよ!」


 私とアーシュ君は解体をしているであろうカナンさんの元へと駆けつけると、そこには殆ど解体を終えた動物の残骸と、血まみれになりながら私達に気付かず残った肉を弓矢で狂ったように滅多刺しにしていた。

 私はそんなカナンさんの姿に戦慄し、アーシュ君の袖をぎゅっと掴んだ。


「すまない…すまないっ、私のせいで…!」

「あ…?何言ってんだ?」

「私がスライムに寄生されなければ…!王国は…奴は…!」

「…おい、それどういう事だよ」


 アーシュ君のその言葉でようやく気付いたのか、カナンさんは弓矢を持っていた手を止めて、こちらにゆっくりと振り返る。その表情は血まみれで、まるで恐ろしいものを見てしまったかのような顔をしていた。


「…二人とも、いつの間に」

「んな事より、スライムに寄生って」

「そ、それは…」

「道理でおかしいと思ってたんだ…あの場で倒れててスライムに寄生されてないのがな」

「…まさか、パパとママが寄生されたのって」

「…はい。姫様のお察しの通り…国王様がスライムに寄生されてしまったのは、私に寄生したスライムが国王様に乗り移ったからなのです」

「そんな…!」


 カナンさんの口から告げられた事実は、私にとってかなり衝撃だった。という事はつまり、王国がスライムに乗っ取られてしまったのも、アーシュ君が魔王に仕立て上げられて処刑されたのも全て…カナンさんが…。

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