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第30話 ゆうしゃのかくご

「…んだよ、あれ」


 俺は咲薇とルィリアの風呂待ち中になんとなく窓の外を眺めると、俺達が数時間前まで居た繁華街が火の海と化していた。

 俺はタンスの中にしまってあった2本の黒い剣を取り出すと、窓から飛び降りて繁華街へと走って向かった。

 俺とは逆方向に逃げていく人々は皆、重傷を負っていたり血を流していたりと、意外にも被害が大きいのが窺える。

 当然、繁華街の何かが自然発火なんて有り得ない…誰かが燃やしたのだろう。だがもしそうだとして、一体何故…?


「ふはははは!!何もかも焼き尽くしてやる!!テメェらが何年も掛けて作り上げてきたものをぶっ壊してやる!!」


 繁華街の広場の中心で、高笑いしながら目に映るもの全てを燃やしていく俺と同年代か少し年上そうな男が居た。

 …幼稚園児でもわかる、アイツがやったんだろうな。


「何してやがる!」

「あ?んだよウッゼェなぁ…」

「こっちからしたらお前が迷惑なんだがな」

「ちっ…テメェみてぇな正義のヒーローヅラしてる奴が一番ムカつくんだよ…!」

「お前の感情なんざ知るか」

「あぁマジでウッゼェなぁテメェッ!!」


 そう叫ぶと、男は俺にボールを投げつけるように点火イグナイテッドを放ってきた。

 俺はすぐに剣を鞘から引き抜いてそれを切り捨てた。直後、俺の背後が爆発する。

 なんだかアイツが放った点火イグナイテッドは、俺の知っているものとは明らかに何かが違った。密度が高いというか、ド直球に言うと“強い”。


「まさかお前、異世界転生者か」

「だとしたら?」

「お前が異世界転生者なら尚更、なんでこんな事すんだよ…前世に比べりゃこの世界はだいぶ生きやすい筈だ!」


 そう…あんな生きづらい世界よりも、この異世界の方がよっぽどマシな筈だ。俺が少しハードモードだっただけで、普通はここまでするほど生き辛くは無い筈だ。

 それとも…前世では裕福な御坊ちゃまだったとか?


「生きやすい…?何も知らねぇ、何の運命も背負ってねぇ奴はそうだろうなぁ!」

「あ…?」

「俺はな、ゲームとかでよく見る“選ばれし勇者様”って奴だったんだよ」


 そう言うと、男は俺にやたら豪華な装飾の剣を見せつけてきた。あれが恐らく勇者の…ファンタジー風にいうなら、選定の剣なのだろう。


「勇者とはまさに異世界転生らしいな」

「そして俺は勇者アーシュとして仲間を連れて世界を旅して、やがて魔王をぶっ殺した…だが、王国の奴らはあろう事か、俺を魔王に仕立て上げやがったんだ!!仲間もグルだったんだ!!んで、俺はその後に処刑されたんだ」

「処刑…って、お前まさか」


 なんかそういうパターンの異世界転生モノを読んだ事がある。

 いや、まぁ流石に勇者が魔王に仕立て上げられるのは見たこと無いが、ある程度察しがつく。


「異世界転生者同士、察しが良くて助かるぜ…そう、俺はコンティニューしたのさ!そして決意した…俺を嵌めやがったこの王国に復讐してやるってな!!」

「…」

「どうした?何も言い返せないか?」

「バカなのか、お前」


 俺はため息混じりにそう言って、俺と同じ異世界転生者改め、アーシュを睨みつける。


「あ?」

「お前の気持ちには心底同情する…でもな、だからって人の幸せを、積み上げたものを壊す事は…どんな理由であったとしても許されないんだよ!!」


 本音を言うとイェレスの幸せは俺にとって不快だ。でも、俺はその幸せを壊してはいけないと思っている。

 別にそれはイェレスが幸せでいて欲しいからという理由ではなく、俺が加害者になりたくないからだ。

 どちらか片方が我慢をすれば、それで平穏は保たれる。だったら、悩みはするが俺が我慢すれば良いのだ。

 …それに、復讐は憎しみしか生まない。


「何なんだテメェ…いきなり現れて説教なんてさぁ…俺そういう偉そうな奴がいっちばん嫌いなんだよなぁッ!!」


 そう叫ぶとアーシュは俺に向かって走り出し、選定の剣を振り下ろしてきた。

 俺はそれを2本の黒い剣で受け流すが、アーシュは負けじとまた剣を振りかぶってくる。

 2本の黒い剣と選定の剣がぶつかり合って火花が散り、鍔迫り合いになる。


「殺しはしないが、お前を止める!」

「うるせぇんだよテメェ…!俺は壊されたから壊し返すんだよ…お互い様だろうが!」

「それはコンティニューする前の話だろ!まだ壊されてないだろ!」

「黙れぇぇえええええ!!」


 アーシュは怒りで叫び散らかしながら選定の剣に炎属性を纏わせてくる。

 炎属性は俺も得意だ、と言わんばかりに俺も2本の黒い剣に炎を纏わせて対抗し、更に加えて点火飛行イグナイテッド・フェニックスを発動して押し返す力にブーストを掛ける。


「うぉおおおおおおお!!!」

「なんだよっそれはァアアアッ!!?」


 俺は鍔迫り合いに打ち勝ち、アーシュがよろめいたその一瞬、剣から手を離して顔面目掛けて炎を纏わせた拳を一発入れて吹っ飛ばした。


点火拳イグナイテッド・フィストッッッ!!!!」


 俺にパンチを食らわされて吹っ飛ばされたアーシュは、遠くまで飛んでいって形だけ残っていた屋台に突っ込んでいった。

 またしてもどさくさ紛れに新技を作ってしまった俺は、足元に落ちた炎を纏った黒い剣達を拾い上げる。

 …というか、炎属性の魔術を見に纏っているにも関わらず全然熱くもなんともないな。まだこの剣にルクスリアの加護が宿っているのだろうか?


「あぁっ…クソが…!」


 屋台の残骸の中からアーシュが鼻血を垂らしながら出て来た。

 まぁ向こうは仮にも魔王を倒した奴だ…このくらいで負ける訳も引く訳無いだろうし、恐らくまだ本気は出していないだろう。


「…お前、まだ本気出してないだろ」

「んだよ…わかってんのかよ」

「当たり前だろ、仮にも魔王倒したんだろ?そんなんで魔王倒せるなんて思えないしな」

「はぁ…あんま使いたかねぇんだが仕方ねぇか…はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 アーシュは構えて力を溜めて声を上げると、選定の剣が金色の光を発し始めると同時に地震が起こる。

 アーシュの“本気”を目の当たりにして、まだ戦ってもいないのに戦意が喪失しかけてきた。ありゃ倒せないわ、ほんとに。


「さぁ行くぜ…!はぁっ!!」


 そう言って俺に向かって飛んでくると、アーシュは俺とはまだ距離があるにも関わらず金色に輝く選定の剣を横に振ると、三日月の形をした光が俺目掛けて飛んでくる。

 しかしなんとなくそんな攻撃をしてくるだろうと予想していた俺は、点火飛行イグナイテッド・フェニックスで空を飛んで躱し、アーシュの背後に回る。

 そして俺もアーシュの真似をするように、2本の黒い剣に炎を纏わせX字を描くように振って、炎を飛ばした。


「真似すんじゃねぇよクソが!つか飛ぶんじゃねぇよウゼェなぁっ!!」


 そんな文句を垂らしながら振り返りがてらに俺の斬撃を斬り捨てると、その場から高く飛んで、近くの建物の壁を蹴って俺との距離を詰めて剣を振りかぶった。

 俺はアーシュの攻撃を炎を纏わせた剣達で防ぐが、先程よりも“重さ”が増しているようで、そのまま力負けして地面にめり込む程の力で叩きつけられてしまう。


「かはっ…あれが勇者の力か…!」

「俺の力だァァァァアッ!!」


 俺の真上を飛んでいるアーシュは、そのまま地球の重力に従って俺に向かって落下し、トドメだと言わんばかりにまたあの重い剣を振り下ろしてくる。

 …このままだと真っ二つにぶった斬られるのに、さっきの重い剣に耐えきれなかったのに加えて、思い切り叩きつけられたからか物は持てるが上半身が痙攣して動けねぇ…!

 終わった…と思ったその時、俺は手に持っている2本の剣に、まだ炎が纏っている事に気付く。


「俺はまだ…飛べる!」


 そう確信した俺は、アーシュの持つ剣が足が届く範囲まで来た瞬間、その剣を持つ手に蹴りを入れ、更に加えて点火飛行イグナイテッド・フェニックスを応用して足に発動させ、振る勢いを増して蹴りの威力を底上げする。

 すると、俺の想定通りアーシュの手から選定の剣が離れ、そのまま遠くに吹っ飛ばされ、アーシュ自身も空中で横向きに回転する。


「なっ!?」

「更にオマケだ転生者ッ!!」


 俺は空中でなす術なくクルクルと回る無防備なアーシュの腹に蹴りを入れる。


「うぶっ!?て、テメェッ!」

「お前の強みはあの剣だ、だったらその剣を無くしてしまえばこっちのもんなんだよ!はぁぁぁぁぁぁぁァァァァア!!!」


 俺はまるで、最終決戦で敵にとどめを刺すヒーローのように叫んで、アーシュに蹴りを腹に入れた状態で点火飛行イグナイテッド・フェニックスでそのまま上空へと飛んでいった。恐らくアーシュの腹へのダメージは計り知れないだろう。

 …確かにアーシュは強い。だがその強さの殆どはあの剣の恩恵によるものだというのはすぐにわかった。

 そもそも、勇者として転生したアーシュが転生者とはいえ凡人としてこの世界に生まれた俺に魔術面で劣っているなんておかしい。実際、鍔迫り合いの時の炎対決でも、点火飛行イグナイテッド・フェニックスを使った途端に俺が優勢となった訳だし。

 まぁ、最初に放った点火イグナイテッドは確かに強かったから、多分基礎だけはしっかりとしているのだろう。

 アーシュは例えるなら、数学において基礎は完璧だが、応用問題を出された時に困惑するタイプだろう。

 つまり純粋な炎の火力では俺を上回るが、炎の使い方や経験値では俺に劣る、といったところか。


「テメェ…下ろせ!このままだと凍え死ぬぞ!」

「別に炎纏ってるから寒くは」

「俺が凍え死ぬんだよ!テメェ、俺を殺しはしないんじゃなかったのか…!?」

「…そういえばそうだったな」


 コイツ随分都合が良いな…と言いたい思いをグッと堪え、足を引っ込めると、アーシュは空を飛ぶ手段がない為そのまま落下していった。


「あの野郎…おい!俺に捕まれ!!」

「はぁ!?テメェが手出せよ!!」

「お前の剣で地面に叩きつけられたせいで上半身痙攣して動かないんだよ!死にたくねぇなら捕まれ!」

「…ぁあもうウゼェなぁ!!…ひっ!!いや、わ、わかった!わかったっつーの!!」


 ウゼェウゼェと文句を叫びながらアーシュは下に目を向けると、地面との距離があまりにも遠過ぎてビビったのか、焦って俺の身体にしがみついた。…はっ、情けねえ。

 俺はアーシュにしがみつかれた状態で、火の海と化する繁華街へ舞い降りていった。


「…水流コリエンテ


 俺は水流コリエンテという水属性の基礎魔術を発動して、火の海となっている繁華街に擬似的に雨を降らせて消化した。

 一応言っておくと、俺はただ炎属性が一番得意というだけであって、基礎魔術は氷属性以外使えるからね?

 

「…何してんだよ」

「消化だ。本当はお前がやるべき事なんだからな」

「あぁ!?何で俺がやんなきゃ」

「当たり前だろうが!悪い事をしたら償う、そうだろ?」

「…でも、俺だって裏切られて」


 ずっと威勢だけはあったアーシュの声は、遂に弱くなった。


「今はまだ裏切られてないだろ」

「これから裏切られるってわかってて従う奴がいるかよ!」

「だからって関係ない人達巻き込んで、街を燃やして良い理由にはならない」

「この王国に住むすべての民は同罪だ…みんなして俺を悪者に仕立て上げて…!」

「…あのなぁ、お前は未遂とはいえ確かに被害者だ。でもそんなお前が加害者になっちまったら、意味ないだろ」

「…じゃあ、俺はどうすれば良いんだよ!」

「知らねーよ、それを見つけんのはお前だ。またコンティニューでもして新しい選択肢を見つければいいんじゃないのか?」

「新しい、選択肢…」

「さて…そろそろ地面だ、着地するぞ」


 そう言って、俺はゆっくりと着地してわざと雑にアーシュを下ろした後、点火飛行イグナイテッド・フェニックスを消した。


「テメェ…!」

「お兄ちゃん!」


 雑に下ろしたアーシュに睨まれているとそんな声が聞こえてきて、声の方に顔を向けると、咲薇が泣きながら俺の方に走ってきて、俺に抱きついた。


「咲薇!?何でここにいるんだよ!?」

「お兄ちゃんこそ勝手に家飛び出して!またあの時みたいに、ボロボロになっちゃうんじゃないかって…もう二度と帰ってこないんじゃないかって… 本当に心配したんだからね!ばかばかばかぁっ!」


 そう言って、咲薇は俺を全然力のこもってない拳でぽこぽこ殴ってくる。


「ごめんな…でも大丈夫だ。だって俺は咲薇のお兄ちゃんで、この異世界で一番強いからな」


 俺は優しく言って、咲薇の頭を撫で…ようとしたが、上半身が痙攣しているせいで動かず、頭を撫でてやる事ができなかった。

 すると咲薇は痙攣して動かない俺の手を持って、咲薇自身の頭に乗せた。


「…何してんだ?」

「頭撫でてくれないから」

「はは、そっか…ごめんな」

「うう、謝らないで…私がわがままみたいじゃん…」

「そんな事無いよ」


 咲薇とそんなやり取りをしていると、火が消えた繁華街に人が集まってくる。…が、どうやら国民という訳ではないようだ。

 咲薇も怯えて、俺の背後に隠れてしまった。


「反逆者アーシュ!貴様を捕らえ、処罰する!」

「や、やめろ…やめてくれ!」

「観念しろ反逆者め!」


 どうやら王国の兵士達らしい。

 兵士達は、ボロボロになったアーシュを乱雑に捕らえると、そのまま王宮へと連行していった。途中で聞こえてくるアーシュの悲痛な叫びには、耳を塞ぎたくなった。

 …アーシュは、選定の剣に選ばれた勇者として、後に魔王を倒す使命を背負った異世界転生者である。しかし魔王討伐後、王や民によって魔王に仕立て上げられ、処刑されてしまった。

 そして、王国に対する憎しみを持ったままコンティニューを果たし、王国への復讐をすべく、みせしめとして繁華街を燃やした。

 俺は事情を知っているからアーシュの感情が理解出来るが、王国からしたら、アーシュを勇者として迎えたら突然繁華街燃やされてる訳だもんな…。

 アイツは1番の被害者だというのに、結果的に1番の加害者になってしまったという…皮肉なものだ。


「帰ろう、咲薇」

「うん…きっとルィリアさんも心配してるよ」


 そう言って、咲薇は俺の手を握った。

 ふと、咲薇の腕が火傷している事に気付いた。


「咲薇…その腕、火傷したのか?」

「…うん。でもお兄ちゃんと比べたらどうって事無いから」

「そりゃ俺と比べたらな!?」


 自分で言うのもアレだが、こんな痛くはないとはいえ全身火傷していてかつ上半身痙攣している奴と比べたら、骨折を除けばどんな傷であろうと些細なものに思えるだろう。

 …いや、こうしてみると結構重傷だな。


「だから早く帰ってルィリアさんに治療してもらおうね」

「俺はいい…咲薇こそ、その火傷を治してもらった方が…ん?」


 俺はふと、兵士達が群がっている事に気付いて、足を止める。


「お兄ちゃんこそ、火傷治してもらった方が…って、どうしたのお兄ちゃん?」

「…咲薇、先に帰ってろ」

「え?何で」

「良いから早く!…大丈夫、もう戦わないから」

「…絶対だよ?約束だからね…!」

「ああ」


 俺と約束を交わすと、咲薇は俺の手を離してそのまま走っていった。

 俺が咲薇を先に帰らせた理由…それは。


「王女殿下、なぜこのような場所まで!?」

「何だって良いでしょう!?」

「せめて、お付き添いに…!」

「お願いだから一人にさせて!」

「…御意。みんな、アーシュを連行するぞ!」


 そう言うと、群がっていた兵士達は例の王女殿下から離れて王宮へと歩いていった。

 途中、アーシュの王女殿下に対しての怒声が聞こえたが、その直後に殴るような鈍い音も聞こえてきた。

 …もう、アイツが可哀想に思えてきた。


「シン!こんなにボロボロになって…!でも良かった…無事で」


 王女殿下…イェレスは俺を見つけると、俺に怪我をした子供を心配する母親として接してくる。


「…いつの間に王女になったんだな」

「今日の昼からだけどね」


 今日の昼…そういえば、獣人が“国王即位記念”って言っていたな。あれは前世でいう天皇誕生日的な奴かと思っていたが、どうやら俺達が来る前に即位の儀式が行われていたようだ。


「…それで何の用だ、言っておくがアンタの元に戻る気は無いぞ」

「そうじゃないの!私はただ…シンにお礼を言いたかったの」

「お礼?」

「…この街を救ってくれてありがとう」


 そう言ってイェレスは王女という身分でありながら、一般人である俺に頭を下げた。

 兵士達が見ていればきっと、誤解して俺を槍で突き刺していただろう。


「…別にアンタの為じゃない」

「でも…」

「一人で抜け出すからもしや不倫かと思っていたが…この騒動の英雄にして、かつての息子だったシン君と会っていたんだね!」


 俺とイェレスの会話に、聞き覚えのある声が乱入してくる。その正体は、イェレスの夫にして本日国王に即位した…デリシオスだった。


「浮気だなんて…そんな訳無いじゃない」

「ふふ、冗談さ。僕からもお礼を言わせておくれ、ありがとうシン君」


 デリシオスはそう言うと、国王という身分でありながら…ここからはイェレスの時と以下同文。


「…だから、アンタ達の為じゃないって」

「いいや、君のお陰で反逆者アーシュを捕らえることが出来た。感謝せずにはいられないよ」

「反逆者、か…」


 アーシュが言ってた“勇者を魔王に仕立て上げる”というのは本当なのか、仕立て上げた張本人である国王が目の前にいる為聞こうかと思ったが、仮にそうだったとしても“その通りさ!”なんて言う訳ないだろうと思い、やめた。


「にしてもイェレスときたら、炎の鳥となった君を見たら、すぐに飛び出していったんだ」

「ちょ、ちょっとデリシオス…」

「ははは!例え前の夫との子供とはいえ、やはり子を思う親の愛情はあるということさ」

「…何が言いたい」

「フェリノートと共に、僕達の元に来ないか。イェレスからもお願いされたとは思うのだが、僕からも改めてお願いしたい。もちろん王宮総出で歓迎するし、今回の君の功績を讃えて、将来を保障しよう!」

「断る」


 俺は即答で誘いを断った。

 裕福な暮らしが出来て、将来も保障されて、それはそれはきっと幸せな人生を送れるだろう。断って損は無いし、普通の人ならこの上ない幸福だろう。ましてやそれを国王直々にお願いされているのだから、断る理由は普通なら無い。


「どうしてだ!?王宮ならば、君も、僕の娘であるフェリノートも幸せになれる筈だ!」

「俺はアンタ達の不倫を絶対に認めない…今更、俺と咲薇を幸せにしてやるだと?ふざけんな…俺達は元々幸せだったんだよ!でも、アンタ達の不倫が!俺達の幸せをぶっ壊したんだよ!!」


 …とデリシオスには言ったものの、本当の事を言うと咲薇の出産が幸せの崩壊の引き金となってしまった訳だから、実際はデリシオス達が破壊した訳ではない。

 それに幸せだったとはいえ、それは俺だけで…イェレス、いやシェリーは不倫に手を出してしまうほど辛かったとは思うんだが。

 でも俺は咲薇を…責めたくない。

 だって…咲薇はただ不倫相手デリシオスとイェレスの子供というだけで、引き金になってしまっただけで…何の罪も無いんだ。

 俺は…中々にクズだな。


「そうか…すまない。これは僕なりの罪滅ぼしでもあったんだけど…」

「罪滅ぼしなんてしなくていい…俺と咲薇の事も考えなくていい。アンタ達はアンタ達だけの幸せを歩んでいけば良い。俺達の事はもう…考えるな」

「でも…フェリノートは僕の娘でもあるんだ…!」

「だったら…!その咲薇フェリノートの兄である俺が、アンタ達の代わりに守って、幸せにしてやる!だから…心配するな」

「…わかった。僕は君を信じる。だから…フェリノートを…僕の娘を幸せにしてやってくれ」

「…任せろ」


 俺はデリシオスの思いを託されると、そのまま無言で背を向けて、咲薇の待つルィリア邸へと走って帰っていった。

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