幕12 還った
思わず羽ばたく翼を止めそうになり、慌てて飛翔の姿勢を保つ。
(いや。待て。ばかな―――――あり得ない)
あの男は、魔族に憑依された。
憑依された時点で、人間は死ぬ。
その魂は消滅し、肉体も生命活動を停止するのだ。
それが理。世界の。
なのにこれは―――――いったい、何だ。
(何が起こっている?)
あれは、魔族などではない。人間―――――いや、噂通りなら。
天人だ。
間違いない。
では、―――――…では。
戻ったのか。還ったのか。あの男が。
オズヴァルト・ゼルキアンは、この世に。
「あり得ない、あり得ない、あり得ない…っ!」
目の前に見える光景が事実なら、リオネルは魔族たちに警句を放たなければならない。
オズヴァルト・ゼルキアンには近づくな。
彼を、憑依した魔族と侮って、近づけば―――――。
リオネルの警戒と焦燥を感じ取ったか、魔神が、オズヴァルトに向かって、威嚇の唸りを上げる。
警戒、というよりも。
ちっぽけな存在のくせに、無礼を働く愚か者を粛正する、そんな積極的な戦闘態勢に入っていた。
ああそうだ。
いかにオズヴァルト・ゼルキアンが規格外のことをやり遂げ、天人となったとしても、本来は人間だ。
魔神にかなうわけが。
安心したリオネルの目に映ったのは。
―――――オズヴァルトの口元に浮かんだ笑み。…それは、不敵な笑みだ。
魔神の威嚇に怯むどころか、…望むところ、とばかりに。
「私に勝負を挑むというのなら」
言うなり。
オズヴァルトは、崩壊していた足元を、退屈そうな様子で、危なげなく蹴りつけ、
「言い値で買うから、楽しませたまえ」
刹那、高い位置にある魔神の顔の眼前にいた彼は、拳をねじりこむように、その中央に叩き込んだ。




