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原初の魔女と雇われ閣下  作者: 野中
第4章
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幕4 悪党の遊びをしよう



× × ×






双子の少女、ジュスタとジャンナは、本当に幸せだった。

一足先に顔を合わせていた昔馴染みのアスランから聞いた通りだったからだ。


その姿を見た時には、歓声を上げ、手に手を取って飛び上がってしまった。




「「ご主人さまがお戻りになられた!!」」




宴前の支度を手伝った時は、幸福のあまり指先が震えた。

気付けば泣き出してしまった二人を、オズヴァルトは根気よく慰めてくれた。


アスランは肩を竦めたきり何も言わず、いつも厳しいビアンカも二人を追い出したりはしなかった。

きっと皆、同じ気持ちだったのだ。

そして、今。



「すぅっごく、広いです」



VIP席を、オズヴァルトの左右で、双子は楽し気な笑顔を浮かべながらも見渡した。

彼女たちは今日、メイドの格好をしている。


うつくしい少女二人を左右に伴ったオズヴァルト・ゼルキアン―――――その光景は、やたらと目立った。

堂々とふるまったものの、オズヴァルトの内心は。



場違い感に、今すぐ逃げ出したくてたまらなかった。



それでも堪えたのは、彼女たちが楽しそうだったからだ。

水を差すわけにはいかない。

苦労を掛けた分、労いたいではないか。


「でも」

すぐ、双子同士顔を見合わせ、少しふくれっ面になる。




「ご主人さまには、足りません」




何が? と思ったが、オズの記憶を見る限り、彼女たちは、昔からこうだ。


オズヴァルトを置いて、二人が満足の行く納得できる光景というのは、少なかった。

どこが合格点なのか不明だから対処のしようがない。

いずれにせよ、オズヴァルトには文句はなかった。


「ここは、秘密基地には丁度よさそうだが」

体温が低そうな声で言って、オズヴァルトはコロッセオ試合会場を一望できる席に優雅に腰かけた。


動作をいちいち意識したりはしていないのだが、オズヴァルト・ゼルキアンはつまり、育ちがいいのだろう。

何気ない動きが優雅で、ふと目に止まり、印象に残る。


少女たちは、感嘆の表情で彼の動きを追った。


自身の事には無頓着に、オズヴァルトは闘技場を見渡す。

(ま、秘密基地と言っても)


これだけ会場が一望できるということは、この席も丸見えということだ。秘密も何もない。

だが子供にはそのフレーズがお気に召したようだ。

双子がいそいそと左右に寄る。


「ほんと狭いのって素敵ですね」

「色んな遊びができそうで楽しみです」


彼女たちが甘えた声で内緒話のようにそんな台詞を口にすると、言葉に卑猥な響きを感じた。

その淫靡さを受け流したオズヴァルトは、唇の前に人差し指を立てる。


どこか不穏な空気で薄く笑った。



「なら悪党の遊びをしようか」



承知した態度で、双子はかわいらしく微笑んだ。

心底楽しみにしている様子で。


きっと頭の中にあるのは、破壊と暴力と流血だ。


なんにしたって、彼女たちにとってはオズヴァルトの目が届く場所で行う遊びほどたのしいものはない。




ここに来たことで、暴力の行使は結局避けられないだろう。




覚悟は決めているが、最初にすることは話し合いだ。

叶うなら暴力は避けたい。

という甘い考えが通じる相手ならいいのだが。


オズヴァルトの肩に乗っていた白猫が、ひょいと膝の上に移動する。


当然のようにそこで丸くなった白猫の背を、オズヴァルトの大きな手がゆっくりと撫でた。

横目に見た双子の目が一度その手を凝視する。二人の表情が言っていた。




羨ましい。代わってほしい。




「…ここに座るのはいっときだ、しばし鳥籠を楽しもう」

鳥籠とは言ったが、オズヴァルトにとっては、ここも随分広く感じる。

ただ、双子には不満のようだ。


「「…はあい」」


再度目を見かわした二人は、オズヴァルトの横顔を見遣り、物騒なことを考えていた。




―――――左右の壁をぶち抜いて、この場所を広げてしまおうかしら。




気持ちが想像から本気へ切り替わるタイミングで、オズヴァルト。

「それで、首尾は」

二人の頭の中の雑音は、主人の声を聴くなり、あっさり消えた。真面目に答える。





「王女さまが奴隷の地下牢にいるのは間違いないです」


「ただし、報告通り、連れ出すのは不可能と思われます」





「そうだな」

言いながら、オズヴァルトはひとつ頷く。


「ルビエラさまが、魔女の資質を持っていて、闇の精霊で身を守っている以上は」


その話を聞いたオズヴァルトは―――――真っ先に、女帝クロエに相談した。

精霊と言えば魔女であり、クロエは魔女のまとめ役のような存在だ。


いつ会ったのかと言えば、昨日、宴前の夕方である。

彼女とは、こちらの世界で会って以降、毎日夕方には一緒にお茶をしようという話がついていた。



何のためかと言えば。



オズヴァルトの中に入っているのは、こちら側から見れば、異界の魂である。

女帝クロエは、その異界の情報が通じる唯一の存在なのだ。


…話が通じる、そういった存在が、弱音を吐けない立場上、どれほどありがたいか。


クロエとの席は、向こう側の常識とこちら側の常識をすり合わせるのに、ちょうどよかったりする。

昨日、彼女はティムを通してオズヴァルトを呼び出した。




―――――異空間へ。




異空間、とは言っても。

周囲に何もない混沌とした場所ではなく。


草花に溢れた、一見雑多な、そのわりにきちんと管理されたイングリッシュガーデンと言った雰囲気の場所だった。ただ。


先にあるのは普通の部屋だと思ってドアを開ければ、そこに見えたのが青空と奥行きを感じる庭であり、風を頬に感じたらさすがに驚く。













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