表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/134

アターシャ

「お待ちください!!」


 本当に戦闘が始まろうかと思われた時、高い女性の声が響き、ドアが開かれた。


 すわ何者かとそちらを見れば、それは女性だった。


 年の頃はアティと同じくらい。

 ちょっと癖のある金の髪。

 美しく白い肌。

 あれは天性のものもあるのだろうが、相当肌に気を使っているのが、化粧からでも判った。

 美しいドレスと、煌びやかな装飾品に身を包み、それを見事に引き立て役にする美しく整った顔は、怒りに燃えている。


「貴方達は一体ここを何処だと思っているのですか!? セリシオ様に何をしようとしていたのです!」


 すごい剣幕で捲し立て、女性は体を震わせる。


「・・・アターシャ」


 ああ、やっぱりか。


 この子が例のアターシャ嬢か。


「貴方は、アティシア殿下!? 何故貴方がここに? そ、その魔力は、なんですか? 本気でセリシオ様に攻撃をするつもりだったのですか?」


 アティは噴き出した魔力を一旦抑え、アターシャ嬢に向き直る。


「アターシャ聞いて。あれは貴方が思っているような男じゃないわ。正真正銘のクズ。貴方は騙されているのよ」


「ああ、貴方もですの」


 これまで興奮していたアターシャ嬢は、一転して静かな、冷徹ともいえる表情を作り、小さくため息をついた。


「お父様を始め、多くの人があの方を悪く罵る。まったく愚かしい」


 やっぱり、この子はセリシオに心酔しているのか。


「セリシオ様は素晴らしいお方。何故誰もがこの方を悪く言うのでしょう」


 黙っていたセリシオが薄く笑いながら、アターシャ嬢の傍に近づく。


「おお、愛しい人」


「セリシオ様」


 俺達がいるにも関わらず、セリシオはアターシャ嬢を優しく抱く。


「危ういところでした。もう少しで私はこの野蛮人共に殺されてしまうところでした」


 憐れみを誘うように、憂いを称えた瞳でセリシオは言葉を紡ぐ。


 吐き気がする。


 思ってもいないことをなんでこいつはスラスラと言えるのだろうか?


 アターシャ嬢も、そんなセリシオを優しく、潤んだ瞳で見つめ返す。


 おいおい、完全に二人の世界に入っているぞ。


 いや、違うか。

 入っているのは、アターシャ嬢一人、セリシオはアターシャ嬢からは見えないようにこっちを見ると、ムカつく下卑た笑いを向けてくる。


「アターシャ。後で貴方の部屋に行きます。先に行っていてください」


「・・・ですが」


 アターシャ嬢はチラリとこっちを見る。


 恐怖と侮蔑。


 自分がいなくなれば、俺達が何をするのか分からない。

 そんな視線だ。


「大丈夫です。この野蛮人も、流石に再び私を襲おうとは考えないでしょう」


 アターシャ嬢は汚らしい物を見るような目で俺達を見ると、フィっと視線を外した。


 もうこんな悍ましいものを見たくないというように。

 そのまま部屋を出て行った。


 アターシャ嬢が出て行った後、セリシオは再び太々しく笑った。


「こういうことです。あなた達とはゲームのテーブルにはつけません」


「ゲームだと?」


「そうですとも。あなた達のカードは何です? どうせカスばかりでしょう?」


「・・・なら、お前のカードはオープンできるほど強いってのか?」


「既に見せましたよ。つまりですね、私はアターシャ嬢の心を完全に射止めたということです。これが何を意味するのか解りますか?」


「っく」


 拳を握る。


 だが、だからといって何ができるわけではない。


 そう、あのアターシャ嬢の態度を見る限り、説得は難しいだろう。


 アティも流石に再び魔法を使おうとはしなかった。


 悔しそうに(ほぞ)を噛む。


「あんな純粋な子を騙して。恥を知りなさい!!」


 セリシオは「ふん」と鼻を鳴らす。


「私は彼女を心の底から愛していますよ」


 セリシオは酷く薄っぺらい言葉を吐く。


 先程まで、慈しむようにアターシャ嬢に語り掛けていた甘い言葉と同じ響きで。


「去りなさい。愚かな者達よ。その顔、二度と見たくありません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ