カルルタート山の攻略は難しい⑤
苦労の末に見つけた特薬草を俺達はそっと摘んだ。
よく見れば、この辺りには特薬草がチラホラと見られる。
やっぱり探していた場所がいけなかったのか。
ある場所にはあるもんだ。
「全部持って行っちゃっていいかな?」
「いや、この場所じゃないと生えない草かもしれない。取り過ぎるのは不味い」
「それもそっか」
そうだ。
ついでにここの土も持っていこう。
成分を分析すれば何か分かるかもしれない。
ある程度採った俺達は下山することにした。
植物には詳しくないが、鮮度はやっぱり大事だろうからな。
前に来た人間がどれだけの時間をかけて持ち帰ったかは分からんが、急いで帰るに越したことはないだろう。
それでも、やっぱり中腹辺りで一泊する必要があるが。
そっと特薬草を包んでカバンに入れる。
貴重な薬草だからな。
大切にしなくては。
「それじゃあ行こうか」
「うん」
出発しようとすると、ぐらぐらと、地面が揺れた。
「ん?」
「地震?」
ぐらぐらと、
「何?」
「お、大きくない!」
「違う、これは地震じゃない!」
俺は振り返り背後を見た。
すると、一本の木の根がうねり、なんと独りでに地面から抜け出した。
「な、何あれ!?」
「不味い、トレントだ!」
トレント。
木の姿をしたモンスターで、なんと土や水だけでなく、生き物すらも養分に変えて成長する化け物だ。
平均的なサイズは5メートルから大きくても10メートルなのだが。
「・・・でかいな」
ざっと幹周り10メートル。
高さ50メートル。
とんでもないでかさのトレントだ。
こんなのは見たことがない。
というか、こんなにでかいモンスターに遭遇したのは初めてだ。
「お、大きすぎない!!」
「冗談じゃない。逃げるぞ!」
俺はアティの手を引き、逃げを打つ。
すると、地面から完全に抜けたトレントの根が動き出し、俺達を追って来た。
「な、何あれ、虫みたい」
アティは顔色を悪くした。
た、確かにダンゴムシみたいに根が動くな。
木の根はせわしなく動き、どんどん俺達を追いかけてくる。
は、速い!
あんな巨体だっているのになんて速さだ。
「このままじゃ追いつかれちゃうよ!」
「ああ、やむを得ない。戦うぞ」
こんな奴に勝てるか分からないが、今ならばいけるかもしれない。
「大きいっていっても木なんでしょ! “ファイアバレット”」
アティが生み出した炎の弾丸が、トレントと衝突した。
これで燃えてくれればいいんだが・・・。
煙が消えると、トレントはわずかに衝突箇所が焦げた程度。
まるで燃え移っていない。
「ええ、嘘!」
「・・・生木は燃えにくいからな。それに硬い」
そこいらの木の硬さではないだろう。
それにあの巨体、轢かれただけで戦闘不能だ。
「フオオオォォー!」
トレントの中央に穴が開いた。
俺達が攻撃したわけじゃなく、勝手に開いた。
よく見ると穴の上には出っ張りが二つあり、三点を見ると目と口に見えなくもない。
そして、木の枝は巨大な手だ。
いくつもの枝が、俺達向かって叩き落ちてくる。
「チッ!」
振り下ろされる枝をドラゴンスラッシュで斬り捨て、隙を窺う。
アティも枝に向かって魔法を撃ちこみ、少しづつではあるが、枝を減らしてはいる。
とはいえ、数が多い。
相手はお構いなしに振り回してくる。
それに高速で振り下ろされる枝から生えた木の葉はまるで鋭利な刃物だ。
あんなの食らったら人間の皮膚など簡単に引き裂かれてしまうだろう。
まさか、ここまでトレントが恐ろしい相手だとは。
アティは杖術も達人級だが、これは叩いてもどうしようもない。
後衛から魔法で援護をしてもらいつつ、俺が前に出る。
枝が振り下ろされればこれを払い、飛び散る木の葉を叩き切る。
「ぜあ!」
幹を斬り付けた。
流石はドラゴンスラッシュ。
刃は通る。
しかし、太さがあるためこれだけでは斬り倒すことが出来ない。
厄介だな。
生物ならこれで痛がってくれるんだが、そもそもこいつは痛覚があるんだろうか?
全く手ごたえがないんだが。
「“ファイアボール”」
後ろからアティが中級火炎魔法を撃つ。
ドーンという衝突音が響き、ファイアバレットよりも広範囲にダメージを与えたが、それでも広く浅くといった感じで決定打にはならない。
すると今度はトレントはブルブルと自身を揺らし始めた。
今度はなんだ?
それはすぐにやって来た。
ガザガザという音と共に、頭上から木の実が落下してきたのだ。
木の実といっても、巨大なトレントの実だ。
一つ一つが大人の頭程の大きさがある。
こんなの貰ったら一たまりもない。
「アティ!」
広範囲に降り注ぐ木の実はアティも攻撃範囲に入っていた。
俺は猛スピードで後ろに下がり、アティを抱えて跳んだ。
「ひゃ!」
木の実を躱し、斬り払い、これを何とか凌ぐ。
攻撃手段は意外と多彩だぞ。
とんでもない奴だ。
「それから」
俺も大技を使う。
俺のファイアボールなら実質最上級魔法のレベルになる。
これを当てれば流石にあの巨体もただでは済まないだろう。
「ファイ」
ビュンと、木の根が俺目掛けて伸びてきた。
横に跳んで躱し、木の根を斬る。
本能なのか、俺に攻撃されると不味いと思ったのか、溜めの必要な中級の魔法を使わせてもらえない。
くそ、どうする?
「レオダス。“ファイアボール”を使って」
「あ、ああ。使いたいんだが、隙が」
「あたしが抑える」
「お、おい」
アティがさっき“ファイアボール”を使えたのは俺が前衛で護っていたからだ。
今度はアティがその役をやるという。
普通の相手ならアティは前衛を十分に果たしてくれるだろうが、こいつは規格外過ぎる。
任せるのは余りにも酷だ。
「やって!」
躊躇している間にアティは前に出た。
その顔には決死の覚悟が見受けられる。
「っつ」
彼女も俺の相棒としての自覚があるのだろう。
なんとかその役を全うしようとしている。
「俺も、俺も相棒を信じる!」