カルルタート山の攻略は難しい④
狼型。
ワイルドドッグが12匹か。
ダンジョンだと広さの関係でこれだけ多くのモンスターに囲まれるのは珍しい。
この間はゴブリン50匹と遭遇したが、あれよりも手強そうだな。
とはいえ、この状況、やるしかないか。
「“アイシクルエッジ”!」
アティが唱えた魔法により、氷の刃が生み出され、ワイルドドッグに向かって飛んでいく。
これをあっちは跳んで躱し、こちらへと迫って来た。
「躱された!」
驚いたアティは次の魔法の詠唱に入る。
その間、俺はワイルドドッグに立ちはだかり、先頭の一匹に向かってドラゴンスラッシュを振り下ろした。
「ギャウン!!」
的確に斬って捨てる。
流石はドラゴンスラッシュ、切れ味が全く落ちない。
時間を稼いでいる間にアティの魔法が完成した。
「どいてレオダス。“グラウンドショック”!」
「むっ」
アティが使ったのは土系魔法で地面が盛り上がり、下から岩を突き上げる魔法だ。
ワイルドドッグはこれをもろにくらい二匹倒した。
だが、これは悪手だ。
「アティ、出来るだけ地面を弄るな。特薬草が何処にあるか分からないぞ!」
「あっ、そっか!」
忘れてはならない。
俺達の目的はモンスターの討伐ではなく、採取なのだ。
クエストクリアに必要な特薬草を痛めてしまっては本末転倒である。
とはいえ、やられてしまってはそれこそ本末転倒。
実戦経験の少ないアティには酷な注文かもしれない。
「っつ、なら!」
アティは杖を構え、前に出る。
飛び掛かるワイルドドッグの腹に一撃を叩きこみ、そのまま地面にねじ伏せた。
それを待っていたかの如く飛び掛かってきた違う個体を、杖の尻で顔面を突き、杖を回して更にもう一撃。
連撃を叩きこむ。
「ひゅ~、やるー」
思わず口笛を吹いてしまう。
これで実戦経験を積めば、恐ろしく強くなる。
お姫様にしておくのはもったいないくらいだ。
「さて、こっちは・・・」
俺目掛けて二匹同時に飛び掛かってきた。
ステップを踏んで位置をずらし、二匹が交差する辺りで回転切り。
二匹を同士に仕留めた。
これで七匹。
この辺で引いてくれないかと期待したのだが、そうはならなかった。
むしろ積極的に攻めてくる。
木を縫うように襲い掛かるワイルドドッグ。
ここは奴らのテリトリー、迷いなくこちらに突撃してくる。
「“エアボール”!」
アティの魔法だ。
圧縮された空気の塊が、ワイルドドッグ二匹に命中。
が、物量で押される。
残った奴がアティに迫る。
「あっ!」
魔法を使った直後で硬直してしまっている。
俺は急いでフォローに回る。
飛び掛かっているワイルドドッグの横っ腹に一閃。
返す剣で近くにいたもう一匹も斬り捨てる。
ラスト!
「“アイシクルエッジ”!」
アティの唱えた氷の刃が、今度こそワイルドドッグの頭に突き刺さった。
まだ終わりとは限らない。
辺りを警戒する。
・・・どうやら終わりのようだ。
「力を抜いていいぞアティ」
「うん、ふ~。危なかった」
手でパタパタと顔を扇ぎ、一息つくアティ。
俺も汗をぬぐう。
この山に入ってから緊張の連続が続く。
間違っても初クエストの難易度じゃない。
俺は冒険者に成りたてといっても、これまでの経験があるからなんとかなるが、アティは相当辛い筈だ。
俺は決断を下す。
「山を降りようアティ」
「えっ!」
「この山は危険すぎる。これ以上長くいるべきじゃない」
「だ、だって特薬草は?」
「これまで採取した中にあるかもしれない」
俺が気休めを言うと、アティはブンブンと首を横に振る。
「確実だと思ったのないじゃない! ここまで来て失敗なんて」
「アティ!」
俺が強めな口調で言うと、アティはビクリと震えた。
「“無理はしない”“俺の言うことは聞く”。出発前に言ったはずだぞ」
「・・・それは、言ったけど」
俺は気を抜いて、優しくアティに諭す。
「俺達はこれからこの山を降りないといけない。これがどれだけ重労働かは、ここまで登って来た俺達が一番よく知っているだろう?」
無言でアティはコクリと頷く。
「どうしたって降りるまでにもう一泊する必要がある。ゆっくり休まないと身体が持たない」
「・・・分かった。約束だもんね。レオダスに従うよ」
ホッと肩の力を抜いた。
ここで我儘を言われたら困ってしまうところだった。
俺だって残念なわけじゃない。
高難度だから仕方ない面もあるが、失敗は失敗だ。
一人ならもう少し粘るだろうが、勿論それをアティの前で言う程無神経じゃない。
「モンスターの間引きをしたと思えばいいんじゃないか? な?」
「うん・・・」
とはいえ、賢い子だしな。
自分のせいで失敗したと思っているだろう。
次は難易度の低いクエストを受けよう。
今大事なのは自信を失ったアティに、達成の喜びを教えて上げることだ。
荷物をしょって山を下ろうとすると、アティが横を向いて止まった。
「アティ? まだ何かいたのか?」
俺もそちらを向くが、モンスターはおらず、気配もない。
「レオダス。あれってさ」
「ん?」
アティは何かを指した。
その指が示した先を見てみると、草がチラチラと生えている。
「まさか」
俺達は駆け出した。
草の前まで来ると、スケッチと草を見比べる。
間違い、ない!
「「特薬草だ!!」」