カルルタート山の攻略は難しい①
「あの時は本当にびっくりしたけど・・・」
焼き尽くした木々を見て、アティは呆れた様子で半眼になる。
「実際に見ると、なんか色々呆れちゃうというか諦めちゃうというか」
「そうだよな」
俺としても苦笑するしかない。
「レオダスって、今、人間では世界最強だと思うのよ」
「やっぱりそう思うか?」
俺の問いにアティはコクリと頷く。
「確か騎士団長のレベルが26だったから、我が国最高峰のレベルが25前後ってところ」
そうだ。
騎士団長は俺にもよく稽古をつけてくれた。
当時は“早熟”のスキルを持っていて、同年代では負けなしだった俺に、挫折を味合わせてくれた人物だ。
そんな人のレベルを三倍近くも上回ってしまった。
無論、レベルが全てじゃない。
基本的にステータスの数値を上げるもので、技術そのものが高まるわけでは無いからだ。
低レベルで高レベルの相手を倒すことはままある。
ただ、これだけ高くなってしまうと、大概のことが力技でどうにかなってしまいそうだ。
「凄いね。最強、最強よこれは!」
アティは我が事の様に喜んでいる。
俺としても嬉しいのだが、力の感覚は馴染んできても、認識まではまだ理解が追い付いていない。
俺が、最強?
「これならこのクエストも楽勝よ。ガンガン進みましょう!」
「こーら、さっき危なかったのを忘れたか? 慢心するなよ。油断した奴から死んでいくぞ?」
「う、分かった」
アティがしゅんとなってしまったので、俺は彼女の髪をくしゃっと触り撫でてやる。
こんなこと、本来王女様にするなんて不敬もいいところだ。
だが、彼女は今王女様じゃない。
俺の大切な仲間なんだ。
「分かればいい。そもそも経験が足りないのは仕方のないことなんだ」
「うん。これからいっぱい経験するね!」
出来る限り優しく笑う。
「頼りにしてるぜ相棒」
アティはキョトンとした。
「相棒?」
「違うのか?」
思わず素で尋ねてしまった。
アティは一瞬ポケッとしたが、すぐに嬉しそうに首を縦に振る。
「うん。あたしはレオダスの相棒!」
「よし、それじゃあ行こうか!」
「うん!」
俺達は山を登った。
途中で危険なモンスターと多数遭遇したが、なんとか切り抜けた。
俺がこのトンデモスキルで強くなってから、これだけの強敵と連続戦闘する機会がなかったが、このクエストは俺にとっても良い経験となった。
ようやく慣れてきた。
自分の身体能力、魔力の多さもほぼ把握した。
これならある程度力加減も出来る。
アティとの連携も出来てきた。
ここに来る前も、簡単なダンジョンで経験も積んだけど、やはり緊張感を伴う強敵との経験値は段違いだ。
驚くべきことに、アティはこの短期間で一つレベルアップして20になった。
まさか、俺と同じレベルになるとは。
まあ、俺は規格外のスキルで本来のレベルが霞んでしまうが、彼女の成長には目を見張るものがある。
ハッキリ言って、このままレベルアップを続ければ勇者パーティーに参戦も可能だろう。
やっとカルルタート山中腹辺りまでやって来た。
これまではなんとかなった。
これからも慎重に行こう。
「ふぅ」
アティは汗をぬぐう。
これまで緊張の連続だ。
今いるこの辺りにはモンスターの気配はない。
だからこそ、無理をせずに、今日はここでキャンプをすることになった。
「疲れたか?」
「まだまだ平気だよ。もっと進めるよ」
「そう言うな。俺は疲れた」
嘘ではない。
彼女を休ませたい気持ちはあるが、俺も疲れが溜まっている。
キャリアオーバーのおかげで、以前ほどではないが、疲れは疲れだ。
「今日はここで休む。俺は起きているから君は寝てくれ」
「レオダスは寝ないの?」
「勿論寝るさ。少ししたら起こすと思うが、大丈夫か?」
アティは頷く。
「じゃあ、休もうか。食事の支度をしよう」
俺達はキャンプの準備をする。
死闘はこれからだ。