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カルルタート山へ

「酷い。意地悪ー!」


 アティはほっぺを膨らませて怒る。


 王女様がそんな態度を取るもんじゃありません。


「別に意地悪で言ってるんじゃないぞ。アティの対人戦闘のレベルは俺の予想を超えたものだ。流石と言っておくよ」


「じゃ、じゃあなんでよ?」


 褒めたからか、照れながら怒っている。


 可愛い。

 はっ! いかんいかん。

 彼女は王女、変な気を起こしてはならんのだ。


 王様の言葉が蘇る。


 変な気を起こしたら俺の身体がさよならしてしまう。


「言ったろ? モンスターは一体づつ攻めてきたりしないぞ? 死角から、複数で襲ってくるなんてザラにあるんだ」


「うっ」


「これから敢えて視界の悪く、敵が隠れやすいダンジョンに潜る。そこで一定の経験を積まないと連れては行かない」


「うーー」


「『うーー』じゃない。初めから言ってただろ?」


「分かったよ」




 それから俺達は、ダンジョンに潜り、修行を開始した。


 アティの戦闘技術は十分だったが、やはりダンジョンは勝手が違うのか、思うように戦うことが出来なかった。


 それに狭い場所もあったので、杖を振り回すのにコツがいる為、何度か壁に当たってしまい、致命的な隙を晒すことにもなった。


 注意するポイント、道具の使い方。

 多数のモンスターとの戦闘。


 正直詰め込み過ぎと思う程、俺は彼女に厳しい試練を課した。


 苦しかっただろうが、彼女は泣き言も吐かずについてきた。


 俺は心の中で、頑張れ、頑張れと何度も念じながら、彼女と共に連携の練習をした。


 そして、


「ここまでにしようか」


「はあはあ」


 肩で息をしているアティに、俺は出来る限り優しく声をかけた。


「アティ、よくこれまで頑張った。王女様にはさぞ過酷だったろう」


「な、なんてことないよ、これくらい」


 青い顔をしながら彼女は答える。


 大した根性だ。


「最低限のレベルには到達したと思う。行こう、二人でカルルタート山に」


「・・・え?」


 ぱっと顔を上げ、彼女は口を震わせた。


「い、行っていいの?」


「ああ」


「付いて行っていいの?」


「ああ、頑張ったな」


 ブルリと震えた後、


「やったーー!!」


 感極まったのか、俺に抱きついてきた。


「やったやったー!!」


 困った。

 どうしようか。


 俺はアティの肩をぽんぽんと叩く。


「大したもんだ、実際にな」


 アティはすとんと俺から離れると「えへへ」と笑う。


「だが、これで慢心するなよ。あくまでも“最低限”だ。本来なら何年もかけて身体に染み込ませなければならない所を突貫で詰め込んだんだ。必ずボロが出る。それを忘れるな」


「はい!」


 現金な奴だ。


 思わず笑ってしまう。


「さ、帰ろう。身体を綺麗にして疲れを取って、明日は早く出るぞ」


「分かった!」


 これで準備は整った。


 遂に旅立ちの時だ。




 王都を出て一日。


 俺達はカルルタート山にやって来た。


 まだ(ふもと)だというのに辺りには妖気とも言える雰囲気が立ち込めている。


 辺りに転がっている岩の陰からはいつ何が飛び出してくるか判らないし、木々はそれ自体が生き物の如く、ザアザアと不気味な音をたてている。


 まだ朝だというのに、これから入る森は薄暗く、何かが蠢く気配を感じた。


 それは動物か、はたまたモンスターか。


 ブワっと風が吹き、木々がザーっと(なび)く。


 木に止まっていた鳥が不気味な鳴き声を上げて飛び立った。


 アティはゴクリと唾を飲む。


「ほ、ほほぉ? 中々雰囲気あるじゃあない?」


「なんだ、ビビったのか?」


「び、ビビってないよ!!」


 俺がからかうと、アティはムキになって反論する。


 俺は真面目な顔を作り、アティを見た。


「実際ただならぬ雰囲気だ。気を引き締めて行くぞ」


「分かった」


 こうして俺達はカルルタート山に入った。


 待ち受ける魔物達が牙を剝いて襲い掛かって来ると覚悟を決めて。

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