救い
ふらふらと、俺は何も考えられない頭で町を徘徊した。
どうすれば、どうすればいいんだ?
これから俺はどう生きればいい。
俺は銀貨を見つめる。
これがあれば宿にしばらく泊っていられる。
だが、このまま宿を探す気にはなれない。
どこかの酒場でヤケ酒?
そんな気にもなれない。
「これから俺は、どうしたらいい?」
誰かに救いを求めるように、俺はぽつりと呟いた。
「ステータスオープン」
俺はそう言って、自身のステータスを開く。
レベル19
魔法剣士
体力124
筋力98
俊敏性102
知力85
魔力69
魔力耐性54
幸運53
スキル
早熟
俺はそのステータスを見つめ、歯噛みした。
スキル早熟。
俺は成長が早かった。
このまま皆よりも4,5レベル、上のままいけると思っていた。
だが、一年ほど前から成長が止まった。
皆が成長していく中、俺だけ置いていかれた。
あのセリシオもスキルに“賢者の知恵(魔導書並びに魔法に関わる本の理解度が増し、速読が出来る)”“魔力強化”“魔力耐性強化”の三つがある。
俺には一つしかなく、まったく増える気配もない。
三年前にあった俺の心の拠り所が、今俺を苛立たせた。
「・・・剣が欲しいな」
俺はどうしても諦めきれず、武器屋へと向かった。
*********
「いらっしゃい」
武器屋には昔は冒険者をやっていたんじゃないかと思える程、筋肉のついた親父が俺を迎えてくれた。
俺はきょろきょろと店の中を見渡しながら、剣を品定めする。
どれも銀貨一枚よりは高い。
やはり一枚じゃ無理なのか。
親父は俺が中々決まらないので声をかけてきた。
「どんな武器をお求めで?」
「あー、剣が欲しいんだけど」
俺は若干気まずげにそう言うと、
「手持ちが銀貨一枚しかないんだ」
「一枚かい・・・」
親父は顔をしかめた。
「それじゃあろくな剣が買えないぜ?」
やっぱりそうだよな。
頭をかきながら、ため息をつく。
「この際なんでもいいんだけど、何かないか?」
やれやれと首を振りながら、カウンターの奥から、一本の剣を取り出した。
所々に刃こぼれがある。
おそらくは買い取った武器だろう。
「新人冒険者が買ったはいいが、ろくに使いこなせずに売っていったやつだ。見ての通りまだ鍛え直してないから傷だらけ。切れ味も悪い」
「それなら売ってくれるのか?」
「銅貨三枚分でいいよ」
「そんなんでいいのか?」
酒場で飲んだらその場で消えてしまう額だ。
親父は鼻を鳴らす。
「本来ならくれてやってもいいが、一応買い取ったからな。“斬る”ってよりも“叩きつける”って感じになっちまうが、それでもいいか?」
「ああ、それで頼む」
「毎度」
俺は使い古しの剣を受け取った。
一度素振りをしてみると、新人冒険者が使っていたからか、俺が今まで使っていた剣よりも幾分軽い。
攻撃力は落ちるが、仕方がない。
俺は剣を腰に差し、親父に礼を言った。
「ありがとう」
「ああ、お前さん」
「ん?」
店を去ろうとした時、親父に声を掛けられ、振り返る。
「なんだ?」
「ひでぇ顔だ。何があったか知らねーが、それでもお前さんはまだ生きている。そして剣を取った」
俺は黙って親父の話に耳を傾ける。
「それはまだお前さんがあがこうとしている証拠だ。まだ絶望せずに戦おうとしているから、少ない金で剣を買ったんだ」
コクリと俺は頷いた。
そうだ。
俺はまだ死んでいない。
ここから俺はやり直す。
俺は自分でもハッキリと判るほど、顔の生気が戻るのを感じた。
それを見て、親父は大きく頷く。
「そんな顔も出来るんじゃねーか。金が貯まったらまた来い。今度はもっとましな剣を鍛えてやる」
俺は再びコクリと頷く。
「親父さん」
「あん?」
「救われたよ。必ずまた来る」
心からの感謝を込めて、俺は頭を下げた。
「いいってことよ」
親父は大笑して俺を見送った。
そうだ。
俺はまだ五体満足に生きている。
このままじゃ終われない。
俺は近くのダンジョンに向かって歩き出した。