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絶望

 冷徹に奴はそう言った。


 実際に、俺は役に立っていたのかと言うと、最近は戦闘では直接活躍はしていなかったかもしれない。


 だけど、索敵や、戦闘の指示、荷物持ちまでなんでもやった。


 足手まといとまで言われる筋合いはない筈だ。


 だけど、


 確かに以前のように先頭に立って戦うことはもう・・・。


「皆の意見を聞きたい。皆もお前と同じ」


「同じです」


 俺の言葉に被せて奴はそう言う。


 俺は愕然とした。


「き、聞いてあるのか? 俺の追放は話し合われているのか?」


「無論です。そうそう、この間、オフと言って骨休みしたことがありましたね」


「あ、ああ」


 一週間ほど前だったか。


 日頃の疲れを癒そうと、珍しくこいつが提案して、クエストには行かずにオフとなり、俺はぶらぶらと骨休みした。


 だが、それが今の会話と何の関係がある?


「実はね、あなたに嘘をついて、我々はクエストに行ったのですよ」


「なっ!?」


 俺だけ置いてクエストに行ったって?


 あいつらそんなこと一言も・・・。


「ど、どうしてだ? そんな必要があったのか?」


「実験ですよ。あなた抜きで戦えるか、ね」


 俺がいなくなることを念頭に置いて・・・。


 俺は縋るように尋ねる。


「そ、それで?」


「それで? 無論、なんの問題もありませんでしたよ。むしろスムーズだったと言えるでしょうね」


「・・・そ、そんな」


 そういえば、皆あの時、なんだか俺を見る目が生暖かかったような気がしていた。


 あの時は心にゆとりが出来たからだと思っていたが、俺以外、クエストに出たとなると、骨休みしたのは俺一人。


 そんな余裕は出たりしないだろう。


 つまり、こいつの言っていることは真実。


 あの微笑みは『もうお前要らないよ』と言う意味。


「証明は終わりました。再度言います。出て行きなさい、あなたは不要です」


「・・・・・・分かった」


 それが皆の総意だっていうのなら、是非もないだろう。


「荷物を、まとめてくる」


 こいつに呼ばれて街はずれまで来たが、宿に戻って荷物を取ってこよう。


 そう思ったのだが、


「それは無用です」


「なんだって?」


「そのまま去りなさい。あなたの物はパーティーの共同財産です。パーティーを離れるとなれば、持って行っていいものなどありませんよ」


「なっ! 着の身着のままで出て行けっていうのかよ!?」


「ええ」


「『ええ』って、もう夜だぞ。俺は何処に泊ればいい!?」


「知りませんよそんなもの。野宿でもすればいいでしょう?」


「・・・お前が散々嫌っていた野宿か? 『貴族の私がなんでこんなことを』とか言っていたあの野宿をか」


 こいつは余程のことがない限り野宿をしようとしなかった。


 そのおかげで旅の進行が遅れたことが何度もあったというのに、いけしゃあしゃあと。


 こいつの身勝手さ、無神経さは心底腹が立つ。


「・・・キャンプ道具も何もないんだぞ?」


「だから? あれらも共同財産ですよ。道具がなければこれからどう旅をすればいいのですか?」


「買えばいいだろう! 俺は今一文無しなんだぞ!!」


「全く、どこまでも図々しい人ですね」


 セリシオは舌打ちすると、懐から財布を取り出し、銀貨を一枚放った。


 危うく地面に落ちるところを俺は慌ててキャッチする。


 地面に落ちた金を拾うなどあってたまるか。

 俺にだってプライドがある。


 それが面白かったのか、セリシオは愉快気に笑った。


 ここでこいつを殴れば少しは気が晴れるだろう。


 だが、それが何になる?


 この現状が変わるとでもいうのか?


 俺は奥歯を嚙み、その衝動に耐えた。


「それがあればなんとか生きていけるでしょう。これは私の慈悲です。感謝しなさい」


 何が慈悲だ。


 その財布だって仲間の物だろうが。


 そういえば、いつも俺が預かっている財布をなんでこいつが持ってるんだ?

 ああ、俺がいなくなると考えて、俺の荷物から抜き取っていたのか。


 ・・・感謝しろ、か。


 こいつにはなくとも、他のみんなには・・・。


「皆に別れを告げたい。やっぱり一度戻る」


 そう言って宿に戻ろうとした俺の肩を、セリシオが掴んだ。


 その顔は今までの様な余裕たっぷりの態度ではなく、どこか焦っているように見える。


 なんだ?


「とことんまで愚かな人ですねあなたは。私の慈悲が解りませんか?」


「さっきから慈悲慈悲と五月蠅いな。何だっていうんだ?」


「皆、心優しい人達です。あなたを見れば心を痛めるでしょう」


 そうだろうか?


 俺を追放すると言っているのに、俺との別れを惜しんでくれるのだろうか?


 それは俺にとって嬉しいことか?


 俺は、皆に悲しんでほしいのか?


「それを見たいほど、あなたは心貧しいのですか? 送別会でもされたいのですか? 追放される分際で」


「お、俺は・・・」


「失せなさい。その顔、二度と見たくありません」


「・・・・・・・・・じゃあな」


 なんとかその言葉だけ振り絞り、俺は勇者パーティーから去った。


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