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エピローグ

 あれから、レキスターシャ公は、兵士達に、武装解除を伝え、速やかに解散させると共に、城下にいる民達にも同様に御触れを出した。


 兵士達も、戦争など望んていなかったので、内心ほっとしていることだろう。


 何人かの兵士は、俺に対し、敬意を込めて、「公を破るなど大したものだ」と称賛した。

 ちょっと照れる。


 領民は心の底から安堵し、その日は盛大な宴が開かれ、俺達も城下に行って、喜ぶ民を見ながら、喜びを分かち合ったのだった。


 その夜。


 俺達は、レキスターシャ公から晩餐に招待され、それを受けた。


「この度は、殿下並びに皆々様には、本当にご迷惑をおかけしました」


 レキスターシャ公が誠意のこもった謝罪を述べ、隣にいるアターシャ嬢もこれに続いた。


「皆様。全てはわたくしの罪です。皆様がいてくれなければ、わたくしはずっとあの男の言いなりになっておりましたわ。命を持って償う覚悟が御座います。ですので、どうか、どうかお父様には罪が及ぶことのないように、取り計らうことは可能でございましょうか?」


「・・・アターシャ。わしも同罪。いや、もっと罪が重いのだ。この上は陛下の御前でこの首、落とす覚悟だ」


「お父様!?」


 二人はお互いに庇いあっているが、この場合。やっぱり軍を動かしたレキスターシャ公の方が罪は重いだろう。

 いや、やはり二人とも・・・。


 だが、この二人も被害者なのだ。


 どうにか助けてあげたいが。


 アティが口を開く。


「二人の言い分は分かったわ。でも、これはお父様が決めることよ」


「なんとか、陛下に嘆願する所存」


「わたくしもです」


 アティはため息をつき、


「軍を動かしたことは広く知られてしまったわ。どんな罰が下されるかは、あたしにも分からない」


 二人は神妙な顔をして、お互い見つめ合う。


「そう、ですな」


 レキスターシャ公はそう頷いて、決意を込めた顔をする。


「皆様には多大なる感謝を。ささやかではございますが、食事を用意しております。どうぞおかけください」


 そう、勧められて、俺達は席につくと、レキスターシャ公は呼び鈴を鳴らす。

 すると、使用人が次々と旨そうな料理を運んで来た。


 これは、王宮で食べた物と遜色ないほどの料理だ。

 全然ささやかじゃない。


 そういえば、俺達は虚偽の塔から真っ直ぐこちらに向かったので、最近は保存食ばかりでまともな料理を食べていなかった。


 料理を見ただけで腹が鳴る。


 それは皆も同じようで、女性陣は恥ずかしそうに下を向いた。


 食事は進み、食後のデザートを食べたあたりで、アティが手紙をレキスターシャ公に差し出した。


「殿下、これは?」


「お父様へあたしからの手紙。最近出してなかったから近況報告をね。王宮に行くのならついでに渡してきて」


「御意」


 レキスターシャ公は恭しく手紙を受け取った。


 おそらくはそれだけじゃなく、二人の罪を軽くして欲しいという嘆願書だろう。


 それをなんとなく理解してはいるだろうが、「近況報告」と言われてしまえば受け取らざるを得ない。

 アティ。考えたな。


 どんな沙汰が下されるかは分からないが、どうか、二人に未来ある結末を迎えて欲しい。

 元凶である男はもういないのだから。


 ※一応、ここではレオダスが倒したことになっていますが、結末は読者様にお任せします。


「それで、殿下達はこれならどちらへ?」


 レキスターシャ公はこれからの俺達を行動を尋ねる。


 と言ってもな。

 この騒動を収める為に全力を注いでいたから、これからの行動といってもまったく決めていない。


「あ、それなんだけど。あたし、ちょっと気になることがあって」


「なんだステラ?」


 ステラがちょこんと手を上げた。


「ちょっとね。思いついたことがあって。この間不発に終わったダンジョンに行ってみたいんだ」


「あの薬草ダンジョン?」


 アティがうんざりとして、顔を(しか)めた。


「うん。思いついたことがあってさ」


 ステラがこう言うんだ。

 何かあるんだろう。


「お話の通り、俺達はダンジョン攻略に向かいます」


「そうか。お前達なら問題あるまい」


 レキスターシャ公は大きく頷いた。


「時にレオダス」


「はい?」


 居住まいを正す。


「ぬしの家系なのだが、本当に平民なのか?」


 ああそれ。


 しかし困ったな。


「本当にただの平民なんですが。家も貴族街でもない王都のわりと隅っこの方に構えてますし。父も祖父も平民です。そこより前は、分からないですが」


「うむ。そうなのか。あの時の技、あんなものは見たことも聞いたこともない。何か特殊な家なのかと思ったのだが」


「あー、あれは祖父に教わったもので」


「その者は?」


「もういません」


 レキスターシャ公は神妙な顔を作り、


「そうか。すまない」


「いえ」


「では、父親は?」


 どうしても俺の家のことが知りたいのか、じー様の死を聞いた後でも踏み込んでくる。


「行方不明です」


「それは、どういうことだ?」


「俺が12くらいの時ですかね。「もう一人で生きていけるな?」と言って出て行きました。あ、母親は俺が小さい頃に亡くなっています」


 先を越して言っておくとレキスターシャ公は「う、うむ」と、何度も気まずく頷いた。


「では、質問を変えよう。あの技は本当に今まで忘れていたのか?」


 うーん。

 踏み込んでくるなぁ。


 どうしても気になるらしい。


 といっても、な。


「それが、本当にあの時突然思い出したんですよ。唐突に」


「突然?」


「はい」


(そんなことがありうるのか? わしという強敵と戦うことで、集中力が高まり、無意識に勝ちうる方法を探し当てた、ということか)


 なんか、一人で頷いてるね。


「いや、しつこく聞いて済まなかった」


「いえ」


 気がつけば、皆こっち見てる。


 どうやら皆も知りたかったらしい。


 尋問じみた質問は終わり、晩餐はこれにて終了となった。





 夜が明けると、なんとレキスターシャ公とアターシャ嬢は、挨拶もそこそこに、すぐに馬車を用意して、そのまま王都に向かってしまった。


 早い。


 いや、こういうのは早い方がいいか。


 こうなると、俺たちとしてもここに留まる意味もないので、いわゆる薬草ダンジョンに向けて出立したのだった。


*********


 レキスターシャは王都に来ると、直さま、国王への謁見を願った。


 国王もそれに応じ、アターシャと共に謁見。


 レキスターシャは既に覚悟を決めているので、堂々としたものだが、アターシャは流石に顔色が悪い。


「さて、二人とも、顔を上げろ」


 国王にそう言われ、二人はゆっくりと顔を上げる。


 国王は椅子に頬杖をつき、半眼で二人を睨んだ。


 それだけで、アターシャは縮みあがってしまいそうだ。


「まったくお前達は。レキスターシャ、娘に言われたから軍を動かすとは何事だ? 知らせを聞いた俺がどれ程肝を冷やしたか、お前に分かるか?」


「・・・面目次第もございません」


 ここで、ずっと怯えていたアターシャが声を発した。


「陛下。全てはわたくしのせいです。お父様を責めないでください!」


「これ、アターシャ」


「いいえ、お父様。陛下、どうか罪はわたくし一人に。お父様をお許しください」


 アターシャは胸に手を当て、健気に訴えると、レキスターシャも「いえ、全ては自分の不徳の致すところ」と、必死に声を荒げる。


 国王は呆れてため息をつく。


「ああ、ああ。分かった分かった。どちらも同じ罰を与えてやるので覚悟しろ」


 二人は真っ青になる。


 同じ刑。


 それが意味するところはつまり、


「裁きを申し渡す。レキスターシャは公爵の地位を剥奪。レキスターシャ領の辺境にて、二人で暮らせ。当然監視付きだ。以上」


「「・・・は? ・・・」」


 二人はぽかんと口を開けた。


「そ、それだけでございますか?」


「それだけだ」


「い、いえ。それは余りにも!」


「なんだ。もっと刑を軽くしろというのか? それこそ余りにも図々しいというものだろう」


「い、いえ。逆です。軽すぎまする」


 国王は嘆息し、


「これはただの恩情ではないぞ。レキスターシャ領は、魔族生息域にも、隣国にも近く、我が国の防波堤だ。そこを治める人間がどうしても必要なのだ」


「そ、それは別の者を」


「勿論置く。だが、有事の際、兵を的確に動かせる人間はすぐに用意できん。兵からの信頼が厚く、指示を出せる人間はな」


「それは・・・確かにそうでしょうが」


 話を聞いていたアターシャは、決意を込めて発言した。


「それならば、わたくしにはもっと重い罰を。全ての原因はわたくしにあるのですから」


「・・・アターシャ」


 レキスターシャはきつく口を結んだ。


 確かにそうとも言えるのだが、だからといって自分はのうのうと生き残り、娘を死なせるという選択肢は自分にはない。


「それ、父親の心が透けて見えるぞアターシャ。ここでお前に死なれては、この男がどう動くか分からん」


 アターシャはやるせない顔でレキスターシャの顔を覗き、レキスターシャも慈愛を込めて見つめ返した。


「しかし、それではあまりにも」


 レキスターシャは、万一二人が暴れた時のことを考えて、国王の傍に控えている騎士団長に目を向けた。


 なんとなくその視線の意味を察した騎士団長は、そっと国王に耳打ちする。


「セリシオの兄を投獄し、二人を監視付きとはいえ、外に出すのはいかがなものかと」


 国王は面倒くさそうに、


「あいつも機を見て開放するぞ? それにだ、恩情を与えてやったのにそれを裏切ったんだから、そっちの方が俺には不愉快だ」


「はっ」


 騎士団長はレキスターシャを見て、軽くウインクする。


 師弟でもある二人の間には、これくらいのユーモアはあってもいいだろう。


「後のことは別の人間に任せる準備があるぞ。そら、行った行った」


 この件はこれで終わりとばかりに、国王は手を振る。


 二人は目頭を熱くしながら立ち上がり、一礼をすると、この場を去ろうとし、レキスターシャはふと、振り返る。


「陛下。アティシア殿下は素晴らしい女性に成長なされましたな」


「おお、そうだろうそうだろう」


 レキスターシャに負けない親馬鹿は、アティシアの名前を出すと破顔した。


「どうも、レオダスと言う若者を好いている様子。この先が楽しみですな」


「むっ、うーむ。そうだな。あいつなら任せられるが、うーむ」


 レキスターシャは国王の複雑な親心を察し、人のことは言えんなと苦笑した。


「時に、あの若者は何者なのでしょうな? 強いだけではなく、あの精神力、覇気と呼べる気迫を感じたのですが」


 それを聞き、国王は口角を上げる。


「ふふっ、あいつと戦ったか。面白い男だろう?」


「もしや・・・陛下はあの者の素性を知っているのですか?」


「知りたいか?」


「是非に」


「あいつはなー」


 国王はたっぷりと間を開けてから口を開いた。





「なんと! まさかあの若者が」


「俺も先々代の王から若い頃に聞いた。それで興味を持ってな」


「では彼は、あるいは勇者よりも貴重な人材ということに」


「ふっ、この先どうなるかはあいつ次第だがな」


「いや、貴重な話を聞けました」


 国王は満足そうに頷いた。


「そういえば陛下。エリック王子はどちらにいらっしゃいますか? 久々に御顔を見れればと思いまして」


 これまで楽しそうに話していた国王の顔が曇り、レキスターシャはしまったと口を結んだ。


「アールバニア領で未だ療養中だ。中々体調が回復しないらしい」


「そ、それは失礼をば」


「よい。俺もそろそろ顔を見せに行かんとな」


 国王は暗い顔でそう言った。


*********


「あたしー、ここにいい思い出ないんだけどー」


 アティは、面倒くさそうに文句を言う。


 俺達は、いわゆる薬草ダンジョンへとやって来た。


 ステラがどうしてもと言うから来たわけだが、ここはハズレダンジョンだ。


 俺としてもいい思い出はない。


「まあまあ、ちょっと思いついたことがあってさ」


「何よそれ? いい加減教えなさいよ」


「外れたらハズイじゃん? そんな面倒そうにしないでよ。モンスターもまだ住み着いていないみたいだし、楽でしょ?」


 確かに、この間攻略したばかりだから、まだモンスターはリポップしておらずサクサク進むが。


 ステラを不審に思いながらも、俺達は最深部までやって来た。


 そこには、重厚な作りのわりに中身はただの薬草が入っていた宝箱がポツンとあるだけである。


「で? ステラ、いい加減教えろよ」


「うん。ちょっとねー、あたしも虚偽の塔を攻略して、疑い深くなってさ。この宝箱に薬草だけっていうのはあまりにショボいよね」


「確かにそうだが、実際には」


「思い出してよレオダス。虚偽の塔だって、ハズレと思ったけど、実際には宝が隠されていたわけじゃん?」


 もしや?


「このダンジョンにも何かあると?」


「ま、思いつきだけどね」


 ステラの話を聞き、俺達はにわかに期待を膨らませた。


 ニヤッと笑ったステラは、宝箱に近づくと。


「そもそも、この宝箱。大きさのわりに底が浅いと思ったんだよね、っと」


 ステラは女性とは思えない腕力で、宝箱を持ち上げると、ガサガサ振ってみる。


 すると、カタカタと、音がした。


「おっ」


「ねえねえ、まさか!!」


 アティが喜んでステラに寄っていき、俺達も続く。


 これは、まさかまさかの!


「レオダス。ちょっとこの箱の端っこに剣で切れ目を入れてみてよ」


「わ、分かった」


 俺はドラゴンスラッシュでギーコギーコと切れ目を入れ、指をかけると、なんと底が開く。


「やっぱり、二重底だ!!」


 ステラはパチンと指を鳴らす。


 完全に底板は塞がれていたが、まさかの二重底。


 俺も鼓動を抑えられず、蓋となっている底を開けると、そこには。


「羊皮紙と、鍵?」


 そこには立った二つの物があった。


 鍵はちょっと先端が尖っているものの、特に代わり映えのないただの鍵。

 では、この羊皮紙には?


『これより東、連峰がそびえ立つ地にて、光を捧げよ』

ご愛読ありがとうございました。


これにて追跡編を終了します。

充電期間を経て、再び再開しますので、よろしくお願いします。


さく・らうめ

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