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賢者サイド 侵略開始

 ここで最後の一手を加えるとしましょう。


 レオダス達は死に、もう私の邪魔をする者は、王国のみ。


 最初は私を捕えなければそれでよいと考えていましたが、ここまでくれば、更に行動を起こしてもいいでしょう。


 消し去ってしまいましょうか。

 王国をね。


「ああ、愛しい人よ。都で話を聞きました。未だに、レキスターシャ領の前には多くの兵士達が私を捕えようと、兵を集めているのです」


「まあ、まだいますの? 何度もお父様に言っているというのに・・・」


 アターシャは、憂いを秘めた目で、私の話を聞いています。


 そうです。

 その調子で私の話に聞き入りなさい。


「私はいずれ、捕まってしまうのでしょうか?」


「そんな! そんなことは絶対にさせません!」


「捕らわれた後は、おそらくは処刑されるでしょうね」


 アターシャは、それが解っているのかいないのか、顔を真っ青にさせます。


「させません。無実の罪で処刑など間違っています」


「ですが、彼らは私の言い分を聞き入れようとはしません」


 アターシャは私の話を聞きながら、口をキュっと結びます。


 何かを考えているようですね。


 その考え、私が誘導してやりましょうか。


「私が思うに、もう王国が存在している限り、私の処刑は免れないでしょうね」


「・・・王国が、在る限り」


「王国など、無くなってしまえばいいのに。そうすれば、私達は永久に結ばれるでしょうがね」


「王国が無くなれば、永久に・・・」


 フフ、いいですよ。それでいいですよ。


 私は美しい顔をアターシャの顔に近づけました。


 アターシャは顔を赤らめます。

 クックック、初心な女ですよ。

 そのままそっと頬に手を当てて、


「アターシャ。私達の愛を成就させたいとは思いませんか?」


 アターシャは勿論、頷きました。


*********


「お父様!!」


 アターシャはレキスターシャの執務室のドアを勢いよく開き、レキスターシャに詰め寄った。


「アターシャ。ノックもせずに、どうした。淑女らしからぬ振る舞いだぞ」


「今はそんなことは些事ですわ!」


 レキスターシャは渋面を作った。


 これまでも何度かこういうことはあった。


 いや、これまではなかったのだ。

 そう、あの悪魔が来るまでは。


「お父様。未だに、領の外にはセリシオ様を捕えようとしている兵がいるとのこと。何故彼らを帰さないのですか?」


「それは、仕方のないことだろう。セリシオは大罪人だ。それを捕えようとするのは彼らの責務なのだから」


「いいえ、いいえ、セリシオ様は無実ですわ」


 レキスターシャは更に顔を渋くする。


 この話はもう何度もしてきたのだ。


 そして、当然平行線である。


 だが、今回は今まで以上にアターシャは荒ぶっていた。


 レキスターシャは警戒心を強めて、宥めるように努める。


「落ち着きなさいアターシャ」


「落ち着けません。お父様。これ以上彼らを好きにさせるのは好ましくありません」


「仕方あるまいよ。これは王国の意思なのだ」


「では、王国を滅ぼすべきです」


 レキスターシャは目を最大まで広げた。


 遂に、遂にこの言葉が出てしまったか。


 これまでは本来の性格もあって、そんなことは決して口にしなかったのだが。


「・・・あの男に何か言われたか?」


 ブンブンと、首を横に振る。


「関係ありません。わたくし達の愛を邪魔するというのなら、王国は敵です」


 レキスターシャは小さく深呼吸をして、ゆっくりと語り掛ける。


「滅多なことをいうものではない。そんなことが出来るはずもあるまい」


「出来ます。お父様なら、レキスターシャの軍事力を持ってすれば、王国を打倒することも出来ますわ!」


「馬鹿なことを・・・」


 アターシャは本気だ。


 本気でレキスターシャの力ならば、それが可能だと思っている。


 だが、そんなに簡単に事は運ばないだろう。


 運ばせるつもりもないが。


「出来ん。陛下に弓引くことなど、出来るはずがない」


「お父様は、わたくしと陛下とどちらが大事なのですか?」


「それは・・・」


 陛下だ。


 当然、すぐにそう答えるべきなのだ。


 だが、レキスターシャには出来ない。


 本来であれば、すぐに口から出なければならない言葉が出てこない。


 逆に、アターシャはすぐに自分だと言ってくれると思っていたのだろう。


 苦悶の表情を浮かべるレキスターシャを見つめ、ショックを隠せないでいた。


「・・・もう、結構ですわ」


「何?」


 ふらりと、アターシャは顔を下に向ける。


「お父様には頼りません。わたくしは家を出ます」


「な、何を言っているのだ!?」


 レキスターシャは椅子から立ち上がった。


「出ます。ここにいてもわたくしとセリシオ様は結ばれません!」


 レキスターシャはアターシャの傍に寄り、肩を掴もうとするが、アターシャは一歩引いて、それを拒否した。


 それに傷つけられたレキスターシャだったが、悲しみながらもアターシャを見つめる。


「出て行って、どうしようというのだ? これまでこの公宮で暮らしてきたお前が、生きていけるはずがないだろう」


「出来ます。セリシオ様がいれば」


「馬鹿な。金はどうする? セリシオだってここを出れば金など好きに出来ぬのだぞ?」


「いいえ、そんなものが無くとも生きてはいけますわ。愛があれば」


 滅茶苦茶だ。

 愛で全てを解決できれば、世界はもっと平和なはずである。


 完全に恋に盲目になっている。


 まさかここまで猪突猛進とは。


「もし、それが叶わないのであれば、わたくしはこの命を捨てます」


「な、なんだと!?」


 レキスターシャは仰天した。


 あまりにも行動が突飛過ぎる。


 だが、アターシャの目は純真なままだ。


 本気だ。

 ここで止めなければ、本気で彼女は自らの命を絶つつもりだ。


 レキスターシャは冷たい汗を垂らし、身体を震わせた。


「お父様。もう一度聞きますわ。わたくしと陛下と、どちらを取りますの?」


「う、ううううう」

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