勇者育成学校に向けて①
次の日
『セバス。聞きたい事がある。』
俺は城の執務室にセバスを呼び出していた。
「はっ!なんなりと。」
『今度シアと一緒に人間界の勇者育成学校に通うことになった。勇者選考にな。』
「な、なんと!それは一大事ですな。」
セバスは聞くやいなや、紙をどこかからか持ってきて何かを書き出した。
『して、聞きたいことがある。』
「はっ!なんなりと!」
『勇者育成学校に通う事で必要な知識があれば知りたい。』
セバスは人間界の事についてはこのkarulaにいる誰よりも詳しい。
「かしこまりました!」
それはセバスが魔神であるという事も一つの理由だろう。
「まずはこちらをご覧下さい。」
先程何かを書いていた紙を渡してきた。
『これは?』
「今後あの学校で過ごすのであれば知っておいて損は無いことでございます。」
『ほう?』
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1.階級制度
2.身分差別
3.実力主義
4.チーム制
5.試験
※その他身の上設定の見直し
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なるほど。確かに知っておく方が良さそうなものばかりだ。
流石セバスだな。
『あの短時間で大したものだな。』
「とんでもございません。字が乱れておりますので、お目汚しとなりましょう…」
『構わん。読めればなんでもよい。』
それに、乱れているといっても多少斜めになっていること以外は普通に綺麗な字だ。
「順に説明致します。まずは階級制度ですが、あの学校には階級というものがあり、その者の実力を数値化し生徒に順位を設けています。また、7つの階級に分かれておりSクラス~Fクラスまで順位に則り生徒が割り振られます。Sが最も順位が高いクラスでFが最も順位が低いクラスです。」
『ほう?優劣が丸分かりの制度だな。』
「はい。もし、女神様とイブログラディエス様が行かれるのでしたらこの制度はとても重要になるかと思われます。」
『だろうな。勇者選考の為に行くのだから、最低でもAクラスには入りたい所だ。』
勇者になりえる適合者は少なくともSクラスかAクラスのどちらかにはいるだろう。
「何をおっしゃいます。お二人であればトップを狙えましょう。Sクラス以外の選択肢はございません。」
とんでもない!と言いたげなセバス。
『突然現れたポッと出の奴がトップになればいい気分にはならない。トラブルになるだろう?なにより、俺達は勇者を選びに行くんだ。もし、適合者が俺達の力を前にしてやる気を喪失…なんて事になれば本末転倒もいいところだ。』
「…左様にございますね。申し訳ございません。浅慮でした。」
『いい。お前からしても良い気分ではないだろうしな。』
確かに、仕える主が人間界の、それも下位にいるとなれば良い気はしないだろう。
「とんでもございません。そのような私情を挟むなど言語道断。恥ずべき物言いでした。お許しを。」
『気にしていない。』
セバスは無表情だが、長い付き合いだ。今、彼がどう思っているのかが手に取るように分かる。
非常に、非常に落ち込んでいる。
セバスは以前、俺にタメ口で話したことがある。
原因は主に俺にある。
背後から話しかけた事、
その日出かけると言っていたのに帰りが思った以上に早かったのというのもあるし、その時セバスがメイドに叱っていたのだが、その様子がなんとも…俺以外の奴が見たら恐怖で顔が真っ青になるんじゃないだろうか?という程の迫力があった。
実際叱られていたメイドは顔が真っ青だった。
空気を読んで、『セバス』とは呼ばずに『セバス様』と呼んだのもある。
そのせいで、セバスは叱っていた勢いで俺に「何のようだ。」と振り返りざまに言った。
俺はこの時新鮮に感じた。あのセバスが俺に敬語を使わずに話してくれるとは!と感動もした。が、セバスはというと…
「た、た!大変申し訳ございません!!!イブログラディエス様とは知らずなんと無礼な物言いを!!」
と言って土下座をしようとするセバスを俺は全力で止めた。
魔法も使った。
抵抗されたが、セバスは魔神、俺は邪神。
俺が勝つので土下座は阻止した。
そんなに土下座したかったのかと若干引いたのは内緒だ。
その後のセバスは凄かった。
いつもは栄養バランスが!と気にするセバスだが、その日から暫く献立が俺の好物で埋め尽くされていたり、シアと出かける日が増えていたり、ケルベロスが城にいたり。
後半は?となるだろうが、これもセバスの善意だ。
俺が動物好きだから喜ぶと思って、ケルベロスをとっ捕まえて城に連れてきたらしい。
色々とツッコみたいことはあるが、善意だと分かっているので悪くもいえない。
何故そこでウルフとかウサギではなく、ケルベロスにしたかと聞けば、俺に愛でられるのだから最低でもケルベロス程の強者でなければならないという。
セバスの中の俺は一体なんなのだろうか。
そして、何故城に招いたのか。
あの時は驚いた。廊下が騒がしいので執務室から出てみればケルベロスが暴れていたのだ。
まぁ、俺を見てすぐに大人しくなり、撫でてやれば懐いたので今では庭で飼っている。
動物には何故か嫌われてしまう俺だが、魔物であれば問題がないようだと知れたのでまぁ、悪い事ばかりではなかった。
と、話が逸れてしまったな。
そんな事があった訳だが、今のセバスは土下座はしないものの今にも膝をついてしまいそうだった。
『セバス。』
「はっ!」
『俺は今日スクーレが食べたい気分だ。』
「……!!かしこまりました!そのように手配致します。」
『ああ。楽しみにしている。』
スクーレとは魚を使った料理の事だ。
どういった料理という訳ではなく、人間界でいう洋食?や和食?というのに近い。
ジャンルを言えばフルコースがでてくるので、何もこれが食べたいと言わずとも大まかに伝えればセバスが俺の好物を用意してくれる。