デート⑤
そこから暫く抱き合っていたけれど――――
「ご、ご、ごめんなさい!もう大丈夫だから!」
泣きついてしまった事に多少なりとも恥ずかしく思ってしまうもので、イブから離れて赤らんだ顔を隠すように両手で覆った。
『それは残念。可愛かったのにな。』
「もう…からかわないで…。」
『ふっ…いつもやられてばかりだからな。仕返しだ。』
その割には意地悪さなんて微塵もなく、優しい顔で、それも甘い声で言うのだから狡い。
「私は貴方のように狡くはないわ。」
『狡い…?』
コテンと首を傾げる彼にときめいてしまう私はもう手遅れね。
「無自覚って怖いわ。」
『?』
「そういう所よ。」
『どこだ?』
終始彼は不思議そうにしていたけれど、私はそんな彼を可愛いと思っているので、放置する事にした。
私と彼は花畑の中心部の広場に行き、噴水の近くにあったベンチに腰掛けた。
「ここはいつから用意していたの?」
『そうだな…シアに会った日に異空間を作り、その日から黒憐花を少しずつこの空間に集めていた。』
イブは懐かしむように花畑を見ていた。
「そ、そんなに前から?」
私と出会ったのは約2000年程前。そんな前からずっとここを?
「大変だったでしょう?」
『大変だったかは兎も角、時間がかかったのは事実だ。黒憐花は何故か増殖の魔法が効かないからな。』
「ええ、本当に不思議よね。魔法耐性がついていたとしても私達ですらかけられないだなんて。」
『まぁ、その分やりがいはあった。こんなに待たせてしまったけどな。』
眉を下げてそう言ったイブ。
「待たせていただなんて!こんな素敵なプレゼントなら何千年でも待つわよ。」
彼は待たせていたというけれど、これ程のプレゼントがもらえるならいくらでも待ってみせる。
というより、そんなに時間をかけて私にプレゼントを用意してくれていたという事が嬉しかった。
『ふっ…じゃあ、その何千年後にもまたとびきりのをプレゼントしよう。その時にも一緒に居てくれるんだろう?』
「当たり前でしょう?一生、永遠に、貴方の傍にいるわ。」
何か告白みたいになってしまったわね。
『俺もだ。』
イブはそう言って笑った後に、ピアスを見た。
『ピアス、つけてくれるか?』
「ええ!勿論。」
今は彼の手にあるピアスが差し出され、私はピアスを受け取った。
『シアのもあるんだろう?』
「あるわ、イブと一緒につけようと思っていたからまだつけていないけれど。」
イブとお揃い…。
どうしよう、とても嬉しいわ。
『そうか。なら、シアのピアスは俺がつけよう。』
「ええ!じゃあイブ、耳を出…!」
出してと続く筈だった言葉が、途中途切れてしまったのは、絶対彼のせい。
「………」
私の心臓は止まっていないかしら?
『シア?』
やめてほしい。
というか、近い。イブの顔が兎に角近い。髪を耳にかける動作なんか色気がありすぎて、見惚れてしまった。
「………不安だわ。」
『不安?何がだ?』
コテンと首を傾げる彼に更に不安が募った。
これから学校に通う事になるけれど、こんなイブを連れて行ったら雌豚の格好の餌だわ。
それに、彼は基本人間に興味がないから雌豚からの視線に気付かないのよね。
いえ、気づいているけれど、気にしていない。の方が正しいかしら。
そんな彼も私に向く視線だけは注意深く監視しているのだから可愛いのよね。
兎に角、こんな彼を見たら雌豚共はターゲットにして捕食しにかかってくるわ。なんとしてもイブを守らなきゃ。
『……シア?』
いえ、彼は邪神だし守る必要はないのだけれどそういう問題ではなく…兎に角!雌豚共から守るのよ私!
『シア。』
サワサワ
「え?」
いつの間にか私の手はイブの頭の上にあり、何故かイブの頭を撫でていた。
「えっ、あっ、ち、違うの!」
何しているのよ私の手!!
『撫でたいなら好きなだけ撫でるといい。』
は、恥ずかしい。
無意識に彼の頭を撫でるなんて。
けれど、彼は笑うだけなのだし、特に気にすることはないかしら。
少し乱れてしまった髪を整えて、私はピアスを手にイブの耳にそっとつけた。
クルンとイブは反対の耳もだしてくれた。
その時にも髪を耳にかける動作をして、胸がときめいてしまったけれど必死にポーカーフェイスを意識して何とか付け終えた。
「似合ってるわ。」
『ありがとうシア。大切にする。』
そう言って嬉しそうにしてくれるイブを見て、喜んでくれたようでよかったと安心した。
『次はシアだな。』
「ええ、お願い。」
私は異空間から自分用のピアスを取りだしてイブに手渡した。
『付けるぞ。』
耳をイブに近づけて、待機していると耳にイブの手が触れた。
ピクッ
『悪い、くすぐったかったか?』
「へ、平気よ。」
少し驚いてしまったけど、反対の耳も付け終わり、私の両耳にはきちんと黒憐花をモチーフとしたピアスがつけられていた。
『綺麗だ。よく似合ってる。』
「ありがとうイブ。」
お互いに顔が近くて意識してしまうと、心臓が高鳴る。
イブもそう思ったのか、微かに笑うと顔が急激に近づき唇にそっと触れる感触がした。
その日はとても幸せでいっぱいな日だった。