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褒美

過去回想シーンで性的描写あります。

苦手な方はスルーしてください。





「ふう〜…」

 ベッドに横になるとどっと疲れが押し寄せた。

 温室で殺されかけたことも、狩猟祭で狙われたのも、全てはバジリオ侯爵の策略。そのバジリオ侯爵もきっと近いうちこの世からいなくなる。



「疲れたか?」

 いつの間にかうとうとしていたようで、シャルロットは近づく気配に気付かなかった。

「いえ…」

 寝巻きから覗く厚い胸板が誘惑し、すぐそばにいるだけで熱気を感じる。これが昼間だったら到底耐えられなかった。


 横からぎゅうと抱きしめられ、シャルロットは固まってしまった。感じる体温が熱い。

 耳に掛かる吐息が余計な邪念を引き起こした。

「良く耐えたな」

「…アロイス様がいてくださったからですわ」

 逃げ腰になっていたわたくしに、逃げることを許さなかった。まるで大丈夫だと包み込むように、立ち向かえと鼓舞するように。


「証人を探してくださったのですね。本当にありがとうございます」

「無実の罪を被せようとしたのだ。厄介払いは当然のこと。

だが…褒美が欲しい」

「ご褒美、ですか?」


 シャルロットを覗き込んだアロイスは若干口角を上げていた。聞き返したシャルロットの膝に頭を乗せる。普段は見下ろされているアロイスに下から見上げられ、心拍数が一気に急増した。

 長い指がシャルロットの頬を撫でる。まるで宝物だと言われているように丁寧で繊細な手付きに、気恥ずかしさから頬が紅潮していた。


「私は…前世と違い、そなたを守れているだろうか」

「っ…はい。アロイス様は十分過ぎるほどわたくしのためにしてくださってますわ!」

 “前世と違い”。その言葉と切なげな声色をされてはただ頷くことなどできず、シャルロットは頬にあったアロイスの手を両手で握り締めていた。


「…そなたには救われてばかりだな」


 闇に紛れてしまいそうな青色の目が自分だけを見つめている。ただそれだけで、アロイスの気分は高揚した。

 邪な感情が本能を掻き立てる。それをギリギリのところで理性が働いた。前世のように私の思いだけで体を奪うことはしない。大事にすると誓ったのだ…。




♢♢♢


 それは、シャルロットがラングストン帝国に嫁いだ日の夜のことだった。


 それまで深い口付けをしていたアロイスが、シャルロットの口内から舌を抜き出し、体を起こす。続いてシャルロットの胸に置いた骨張った手を掴む、小さく柔い手を無言で見つめた。

「あ……も、申し訳ありません…」

 パッと手を離したシャルロットは、硬く目を閉じて顔を逸らした。年頃の異性にこのように胸を鷲掴みにされた経験がなく、拒絶するように手を止めてしまっていた。

 初めて晒す体。触れられる胸。とろけるような口付け。強引で勝手なリード。初めてのことだらけで、体が異様に強張っている。けれどそれで、陛下の機嫌を損ねるような真似をしていい理由にはならない。

 私は公国を守るための、───公国が襲われないための生贄として、ここへ参ったのだから。


「…公国の公女ともあろうものが、経験もないのか?」

「……授業として…言葉では習いました」

 女に生まれたときから生じる義務。いつかは子を身篭もらなければならない。こういうことをすることは、知っていたけれど。


「ハハッ、そうか。純血の身を俺に捧げる気分はどうだ」

「…身に余る光栄にございます」

 突然、シンと静まり返った。何事かと思い、アロイスを覗き見る。エメラルドの瞳は不愉快極まりないと言いたげにジッと、シャルロットを見つめていた。

「っ申し訳ありません陛下。わたくしが何か粗相をいたしましたか…?」


 皇帝陛下という立場の者に向けられた芝居がかった言葉。自分自身を見てもらえなかった気がして、アロイスは無性に腹が立った。

「………ああ、最悪な気分だ」

 何がお気に召さなかったのかしら……っ。震える手でシーツを握りしめる。

「へ、陛下っ…。どうかお許しください…」

「………いいだろう」

 シャルロットはびくびくしながら顔を上げた。ニヤリと意地悪く笑ったアロイスは、さながら悪魔のようだった。


「バルコニーに出ろ」


 まさか、本気なはずがない。宝石のような瞳が月の光で輝いている。悪魔の微笑みとはこれほど恐ろしいのに、惹かれてしまうほど美しいものなのだと、その時初めて知った。

「し、しかしっ…」

 一矢纏わぬ姿のシャルロットは、胸を手で押さえながら口を噤んだ。

「従わぬのならこの場でお前を殺そう」

 美しい。けれどこの方は、──狂っている。

 先ほど、初めてアロイスと顔を合わせた時、玉座に腰掛けていただけのアロイスの前には人が寝ていた。血塗れたカーペットの上に寝転んでいたのは、帝国の大臣たちだった。


 その光景を帝国に来て早々目の当たりにしていたシャルロットは、生唾を飲み込んだ。意を決して立ち上がり、バルコニーの扉を開ける。見える限りどの部屋の窓も施錠され、階下の庭には人影はなかった。





 陶器のような滑らかな白い肌に、月光に照らされたラベンダーの髪が良く映えた。他の者よりは細いがふくよかな体は、シルエットだけで溜息が溢れるほどだった。長い髪が風に舞い、まるで今地上に舞い降りた天使のよう。

「…ああ…。いい眺めだ」

 声がして振り返ったシャルロットは、愕然とした。アロイスが右手に持っていたのは、短剣だった。


「へ、陛下…」

 天使が青ざめ、戦慄している。本当に、良い眺めだ…。

 一歩近寄ると、シャルロットは一歩後退る。アロイスはそれが面白くて、わざとゆっくりと距離を詰めた。やがてシャルロットの腰がトンと手すりにぶつかる。

「あっ…」

 その下は庭園だった。落ちたらひとたまりも無い、潰れてしまいそうな高さ。ヒュオオと肌寒い風が体を突き抜け、シャルロットの足がガクガクと震え出した。

「何をそんなに震えているのだ」

 背後に気を取られていたシャルロットのすぐそばでアロイスの声が聞こえた。振り向いたシャルロットの首に短剣が当てがわれる。すぐ前までやって来ていたアロイスは、唇を震わせ瞬きも忘れたシャルロットの顔が面白くて、目を細めた。



「い、え…。何も…」

「そうか?」

 短剣の刃を首に食い込ませる。

「っう…」

 シャルロットの美しい顔が歪む。浅黒く光る血が首を伝い、真白い肌を滑った。口元が引き寄せられるようにアロイスはその血を舐めとっていた。

「っ…」

 舌の感触、熱い吐息、口付ける唇、その全てに酔いしれてしまいそう。視界に光る恐怖と、五感で伝わるこそばゆい快楽が、シャルロットを板挟みにしていた。


「舌を出せ」

 言われた通りに出した舌を、アロイスの舌が絡め取る。血の味がしたけれど、もう怖いのかどうかも分からない。アロイスがシャルロットの膨らみに手を掛けても、今度はぴくりと肩が震えただけで、シャルロットは抵抗しなかった。

 溶けてしまいそうなキスの合間に、胸から感じる刺激が襲い掛かる。先端を摘まれ、弾かれ、シャルロットの体はアロイスに寄り掛かってしまいそうだった。それを支えているのが唇だったが、長く続く口付けで息が苦しくなったシャルロットは顔を晒してしまった。


「っはあ、はあ…」

 とんと厚い胸板にぶつかる。酸欠で頭が上手く回らない…。アロイスはシャルロットの髪をひと撫ですると、腰に手を回し、空いた手でシャルロットの下腹部を弄んだ。カランと短剣が地面に落ちる。

「っ…お、お待ちください…!」

 叫び出しそうなところを、唇を噤んで堪える。痛い…!

「もう濡れてるのか」

 揶揄うような言葉の後、アロイスはシャルロットの胸元に顔を埋めた。先端を舌で転がされ、舐め回され、それは下腹部に感じる違和感を惑わすほどだった。


 あ、足…っ。シャルロットは今にも崩れ落ちそうだった。腰から震えが止まらないのに、アロイスはそれを分かっていて、上も下も攻めてくる。足の力が抜けそう…。

「その足で自力で立てなくなったら本番だ」

「っ……!」

 そう耳元で囁いて、自分は楽しそうに嗤っている。…なんて酷いお方。この見惚れてしまうほどの美しい顔で女を惑わし、手のひらで転がして弄んできたに違いないわ…。



「んっ………ぁ……」

 手の甲で口元を抑えても声が隠せない。どうしよう…。…気持ち良い、かも…。痛みはまだ残っていたものの、それ以上の感覚が込み上げて全身を甘く痺れさせた。服の裾を無意識にきつく握り締めていた手にまで力が入らなくなってくる。

 額をアロイスの胸に預けなんとか耐えていたシャルロットの足がついにガクンと落ちてしまう。唇を持て余したアロイスが耳を食べてきたせいだった。


 足に抱きつくように座り込んだシャルロットを見下ろし、怪しく笑う。

「立て。俺の体は全く楽しませてもらってないぞ」

「…はあ、はあ、はあ…はい…」


 気力のないシャルロットは、そう返事をしてもなかなか動き出せなかった。易々と抱き上げたアロイスは、シャルロットを手すりに座らせ、足を持ち上げた。

「ッキャ…!」

 上半身が庭園に傾き、シャルロットは咄嗟にアロイスの首に両腕を回していた。一瞬目を見開いたアロイスだったが、不敵な笑みを浮かべると、シャルロットの柔らかな唇にキスをした。

「落ちても助けない。しっかりと掴まっておくことだな」

 シャルロットはぼんやりした顔で息を整えていた。その間にアロイスの手が太腿と腰を掴む。



「………初めては痛いと聞く」

「…陛下?」

 見上げようとしたシャルロットの唇を、アロイスは強引に奪う。何度もチュッチュと音を立て啄んでいるうちに、熱く固い何かを下腹部に感じた。



「だが受け入れろ。これがお前の定めだ」

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 先ほどとは非にならない痛みだった。まるで誤魔化すようにシャルロットの口内に舌が入ってくる。食いしばっていた歯を緩ませ、奥で縮こまっていたシャルロットの舌を誘い出した。

「っはあ、うゔっ…痛い…」

 唇が離れた束の間そう口にしてから、ハッとした。痛いなんて、陛下の御前で口にしたら…!



「…弱い女だな」

 シャルロットは潤んだ目を瞬かせた。その意図は分からない。けれどあまりにも穏やかな声色だった。今陛下はどんなお顔をされているのかしら…。シャルロットがアロイスを見上げる前に、途端に腰が打ち付けられた。

「っん…!」

 圧迫されるような痛みで声を上げてしまいそうだった。しかし陛下の寝室のある宮を中心に、庭園の両側にも宮がある。声を聞かれてしまうのは恥ずかしく、また声をきっかけに気付かれ、見られでもしたら、とても生きていけそうにない。

 それに気付いたアロイスは、シャルロットにキスをして舌を入れた。口内に響く嬌声が、一層アロイスを興奮させた。



♢♢♢





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