温もり
眠りについていたシャルロットは、頭を撫でる手の感触で目を覚ました。
薄らと目を開くと鍛えられた厚い胸板が目に入る。徐々に顔を上げていくと、エメラルドの双眸が静かにシャルロットを見つめていた。
「…アロイス様」
「起こしたか」
まだ正装のままのアロイスは首元を緩ませただけで、髪も整えられていた。
アロイスもまた欠伸をするほど眠いのに、ぎゅうとシャルロットを抱きしめて頭を撫でている。
…温かい。
シャルロットは擦り寄るように身を捩った。
「体調はどうだ?」
「最近は横になってばかりですから、随分楽ですよ」
シャルロットはお腹に手を当てる。
「早く会いたいな」
お腹にあるシャルロットの手に、アロイスの手が重なる。
「男の子だったら、アロイス様に似て頼もしいお方になるのでしょうね」
「女であればそなたのように美しいのだろうな」
またこんな会話ができることが嬉しくて、シャルロットは知らず知らずにっこりとしていた。
シャルロットの優しい表情にアロイスの口元も緩む。
「公務に戻っても、体調が悪い時は無理をせずに休むこと」
「ふふ、はい」
「室内に篭りきりはよくないが、暖かくなってきたとはいえ外に長い間出るのもだめだ」
「はい」
「それから…」
そこで言葉を止めたアロイスを不思議に思い振り向くと、寂しげな表情をしていた。
「…しばらく、忙しくなりそうだ」
帝国をしばらく不在にしていて溜まっていた公務と、終わったばかりの戦争の後処理で多忙を極めることは目に見えていた。
「朝食も共に摂ってやれない。夜も徹夜になるだろう」
仕方ない。
そう分かっていても、寂しいものがある。
「…わたくしも、公務なら…」
「そなたはダメだ。今は安静にしていろ」
額に口付けられる。
それは両頬、鼻先、そして唇にも落ちた。
「っ…」
アロイスの瞳は月明かりできらきらと光っていた。
近頃は王城にいてゆっくりできなかったからか、こんなに間近で見つめ合うのが久々な気がした。
吐息が唇を掠れる。
「…愛してる」
その目は、とても穏やかだった。
幸せそうに、満たされたように、けれどどこか、切なそうに。
「わたくしも愛しておりますわ」
そう言うと、ふっと目が細まり、再びぎゅうと抱きしめられて懐に収まった。
「シャルロット…」
物欲しそうに名を呼ばれるだけで、胸が苦しくなる。
「……帝都が復活したら、また祭りに行こう」
「今度は違う髪色も試してみたいですわ」
シャルロットはその時を思い出して懐かしく感じた。
「その頃には…この子も生まれて……一緒に…」
優しく頭を撫でる手つきに、シャルロットはまたうとうとしてしまう。
「…おやすみ、シャルロット」
再び唇が重なった時には、既に夢の中に落ちていた。