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父と娘





 何かの宿命か、因縁なのかもしれない。


 帝国の先代両陛下らが亡くなったセリガ城、そしてシャルロットとアロイスが逆行前に追い詰められて逃げ落ちたセリガ湖。



 ここに、こんな形で戻ってくることになるなんて…。





「…陛下、どうなさいますか」


 唖然と城を見上げていたシャルロットは、その声で我に帰った。



「仕方ない。国王を連れて来い」




 アロイスはシャルロットの肩を引き寄せる。


 吹き抜ける涼やかな風が二人の背中を押していた。




「決着の時だ」

「…そのようですね」









 傾斜な坂だったが、アロイスの支えがあってシャルロットも登ることができた。




 かつては言葉を失うほど立派だったと言われているセリガ城も、今ではそうとは思えない。


 


 恐らく長い間放置されて来たのだろう。



 火事で焼け焦げた跡が残り、真っ白な外壁は煤と灰に塗れている。

 壁はその役割を果たさず中が丸見えで、落ちたシャンデリアが焦げた絨毯の上に散らばっていた。

 中央階段は崩れ落ち、上階に行くことさえ叶わない。



 ……形式上とはいえ、アロイス様のご両親とご兄妹だった、両陛下と皇子たちはここで亡くなられた。




 今、アロイス様はどんな思いでこの城を見上げていらっしゃるのかしら。






「来ないで」



 汚れたその空間に、彼女はとても不釣り合いだった。




 


「連れて来ました」

 強引に引っ張って国王を連れてきたベアは、勢いのまま乱暴に放り出す。



 ドサッと地面に顔を付いた国王は、そうとは思えない身なりだった。脱走のためか簡易的なシャツとキャロットのみで、泥に塗れて薄汚い。


 手を拘束されていたスーザはむくりと上体を起こした。




「私の完璧な計画が台無しだ…。くそっ…。

あと少し…、もう少しのところだったのに……」



 しかし背中は丸くなり、覇気がなく、正気を失ったようにブツブツと何かを呟いていた。



「せっかく先代をこの地に葬ったというのに。あと一歩だったのに…」

「…どういうことですか」

「言葉の通りさ」




 先代を葬ったという言葉に違和感を覚えたシャルロットが問いかけると、代わりにベアから返事があった。



「先代両陛下らがここで焼き殺されたのは全部、こいつらの仕組んだことだ」


 

 ベアの言葉にシャルロットだけでなく騎士たちも動揺を隠せない。


「そんな…!」

「両陛下を殺害するなんて」

「両陛下らは逃げ遅れ、煙に道を阻まれたと聞いたが…」



 

 かつての皇室騎士団はアロイスによって一新されたため、当時の出来事を伝え聞いた者こそいてもこの場にいた者は一人もいない。



 それでもこれほど動揺するのだ。


 帝国の皇帝と皇后、そして皇子や皇女らを暗殺するなんて普通の感覚では考えられないこと。



 アロイス様は、どう思われているのかしら…。






 朧げだった国王の視線がビアンカに流れると、覚醒したようにカッと目を見開いた。



「ビアンカ!お前が陛下を誑かすのに失敗しなければ!」


 

 殺意さえ込められたような目を向けられても、ビアンカは冷たい目で父親を見つめていた。





 こんな時にまでそんな事を言っているなんて相当な馬鹿。


 今すぐ皇帝に殺されたって可笑しくない。




「全く…、その目、本当に母親そっくりだな!

使い物にならないこのろくでなしが!

お前の価値はその美貌にあるんだから、皇太子の時と同様、その体で皇帝を相手にすれば容易いだろう!」




 思い出したくない記憶を掘り返され、ビアンカは眉を顰めた。




 エスコートは下手、ダンスも我流なのに、皇太子だからと高圧的な態度で、それを周囲の誰一人として咎めやしなかった。



 ビアンカを見るなり美貌に釘付けで、複数の婚約者を引き連れておきながら、自身の何番目かの妻にならないかと耳打ちして来た。


 汚らわしいジジイのような男。





 あの夜は最悪だった。



 痛いと泣いても大声で恫喝してくるばかりで、自身の快楽のことしか考えていないクズ。

 目的のためとはいえ、あんな男に蹂躙されている事実が悔しくて、惨めで、涙が止まらなかった。



 火事の混乱の最中に一人隠し通路から逃げ出してきたが、外から鍵を閉めていたからあの男は逃げるに逃げられず燃えたのだろう。



 



「何とか言ったらどうなんだ!!この売女が!!」




 怒り立った父親から時折浴びせられる罵倒にはもう慣れた。


 目的のために、悲しみや哀れむ心は捨ててきた。





 そう、あんたを殺すためなら…。








「自分の子どもになんて事を言うのですか!」




 周囲はあんぐりと口を開けている。



 それはすぐ隣にいたアロイスも同じだった。






 ビアンカは己の目を疑った。


 国王に叱咤し、怒りで顔を真っ赤に染めているのは、自分が排斥しようとしたはずのシャルロットだった。





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