第044回『『あい』を失った女』の感想!
またも読んだことの無いジャンルです!
「今回はリポグラムですわ」
「リポグラム、難しそうですねぷるぷる」
作者:石河 翠
『あい』を失った女
https://ncode.syosetu.com/n7102en/
「リポグラムは要するに、
特定の文字を抜きにして、
小説を綴るっていうジャンルみたいね」
「日本語なら
特定のひらがなや漢字の特定の部首があるものを抜いて、
英語なら特定のアルファベットを含んだ単語を抜いて、
といったような形でつづられるんですよね」
「ええ、そうね、
考えてみると、
色々厄介そうで、
話を作るのに、
豊富な語彙が必要になりそうね」
『あい』を失った女は、
そんなリポグラムで作られた短編集になっていて、
それぞれ、別個の、時々連作になっていたりしながらも、
独特のペースで描かれている作品群ね。
「わたしは、
『うえ』から落ちる がスリリングで、
読んでいて楽しめたわ、スライムは?」
「えっとそうですねえ、
タイトルを覚えてないから、探し辛いですが、
月は『ゆめ』など見るはずもなく ですかね」
「どこかの幼い皇女かお姫様が、
蛮族のような国の主に輿入れする話ね、
どれも短くも情景が浮かぶように書かれていて、
リポグラムであることを忘れて没頭してしまうわね」
この手のものになると、
言葉を節約したほうが書きやすいような、
きがするのだけど、
どうして豊富な語彙で色んな言葉や、
事、モノ、出来事が描かれていて、
それで地雷はきちんと踏まないで、
話を作れるのは相当な緊張感を持って、
描かれていると思うわ。
「おかげで、お話を読む方も、
独特な緊張感を持って読むことになるから、
この作品群が持ってる魅力の一つは、
総じてある張りつめた空気ってところね」
「でも、本当はそんな雰囲気も、
感じない作りになっていたほうが、
読む方にもやさしいのでは?」
「それは、どうかしらね?
あらかじめリポグラムと明記されてるから読むのか、
それとも文章に引き込まれて読むのか?
その差と違いは分からないけれど、
読んでいて不思議な感覚に囚われたのは確かだわ」
欠落しているものを、
欠落していないように書くことは、
きっと気を配らなきゃ出来ないことだとは、
思うのだけど、逆に、豊富な語彙を引き出して、
危機を回避していく様は、
並大抵の筆では出来ないと思うのよね、
どれも確認するまでもなく出来あがってるし、
それぞれの世界観は独立していて、
地に足がついてるものね。
「作品によってはちょっと短かったかな?
というくらいで終わるから、
読んでいて心に入り込みやすいのが、
なんとなく面白いわね」
「どれも長すぎず、それでいて、
長い時間のことを描いてもいたりして、
特定の生き物に対する思い入れや、
物に対する愛着など、様々入り乱れて、
形作られていますよね」
「そうね、誰がその物語を語っているのか?
という謎をところどころで吹っかけてきて、
なんとなく、読者と一緒に楽しもうっていう、
姿勢が伺えたような気もするわ」
「何にしても、気になることの多い作品ですが、
サルシャ姫が特に気になったのは?」
「うーん、
ちょっと気になったのは、
どれもどこか透明感があって、
ガラスみたいな印象を受けたことかしら?
扱ってて壊れやすそうで、
手に馴染んだ丈夫さみたいのより、
描かれているのが繊細さが多かった気がするわ」
「そう簡単にサルシャ姫の手に馴染むような、
丈夫なしらものもないと思うのです」
「あらあら、でも、
無骨で強そうで、
ごつごつした、
土っぽい作品も、
興味が湧くじゃない?」
「テーマとしてはありかもしれませんけど、
でも確かに、あまり土っぽさの無い、
作品のほうが多かった気がします」
「そこらへんはやっぱり、
好みが分かれたところなのかしらね?
柔らかさは足りてるけど、
温かみよりかは透けている感覚がある、
これもリポグラムの影響なのかしら?」
なんともあやふやな感想が溢れますが、
どの作品も言葉選びが精巧で、
一種の壊れやすさが儚い良い作品群でした。
タイトルにもなっている、
『あい』を失った女 が、
後の短編にも少し影響を残してるような感覚で、
凍えそうな冬のインパクトが強いです。
では全部含めても、
文字数は 51,281文字と、
それぞれつい読み込みたくなる短編なので、
時間をたっぷりかけて読んでほしいところです。
ではではー!
まだ見ぬ物語が目白押しで、
どこかで封印されてしまいそうです、はい。




