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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
八章 勇者と魔王と魔術学校
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九十八話

「臨時教師?」


 魔術学校って、確かこの街の魔術局に併設されてる施設だったはず。

 魔術を学んだり研究したりする場所だとかなんとか。


「はい。今、魔術学校の教師が少々足りなくなっていまして、今日はそのことについて相談しにここに来ていたのですよ」

「教師が大量に辞めでもしたのか?」


 どんな職場でも、従業員が急に辞めたり、他の店舗や部署に移動したり、それらが偶然重なったりで人手不足になるというのはままあることだ。

 そのために臨時で働き手を雇ってその場を凌ぐというのもまた無い話ではない。


「人手不足はどちらかというと生徒が増えたからですね。確かに教師が一人辞めてしまったのが重なったのもありますけど」

「ああ、生徒の増加か」


 これもまたよくある話だ。

 需要と供給の需要の方が急に増えてしまい、供給側の手が足りなくなっているということだろう。


「最近、初心者の冒険者が増えましてね、前々から冒険者の初心者講習にはうちの職員も講師として参加していたのですが、学校の方の生徒も増えたことで手が回らなくなってしまっていまして。ここに来たのは、講師の派遣について回数を減らせないかという相談のためだったんです」

「ただ、うちもギルド職員が数人辞めたばかりで人手が減るのはまずいのよ。それで、もしユウマ達が良ければ学校のほうを手伝ってもらえると助かるのだけど」


 随分と人手不足になる原因が重なったもんだな。

 生徒の増加に、冒険者の増加、それに教師の辞職と、ギルド職員の辞職か。それは手が回らないというのもわかる。


「それで俺達に講師をね」

「頼めませんか? 当然、報酬はお支払いします」


 まぁ、内容的には受けてもいいけど……。


「ミイナ、どうする?」

「私が決めるの?」

「ああ、一応、俺達は旅をするって言ったからな。臨時とはいえ教師の仕事を受けたらすぐに街を出るってわけにはいかなくなるだろ? だから意見を聞いておきたいと思ったんだけどどうだろう」


 ミイナを迎える際に目的を聞かれた俺は、彼女に旅をすることだと答えた。それを彼女は楽しそうだと言っていたし、実際に結構楽しみにしていた節がある。

 元々、旅の準備やらなんやらでしばらくこの街にとどまるつもりではいたが、依頼でとなると話が変わってしまう。ミイナの意見を聞かずに決めるわけにはいかないだろう。


「私はそれでもいい。学校も面白そう」

「もし良ければミイナさんも学校に通ってみませんか? 生徒が増えている今なら、短期間の入学でも馴染みやすいと思いますよ」

「うん、面白そう」

「ミイナがいいなら受けるか。エルもいいか?」

「うむ。妾も魔術学校とやらに多少興味はあったからの。臨時であれば教師をやってみるのも良かろう」


 そうして俺とエルはローランからの依頼を受けた。


「ピニエール達は冒険者として依頼をやっててくれるか? ランクも上げておいてほしいしな」

「畏りました!」

「俺は学校なんて行っても楽しめそうにないっすし、そっちの方がありがたいっす」


 アルファトは勉強が嫌いなタイプなのだろうか。

 前世の学生時代に『勉強が好きな奴の方が希少なんだ』と祖父に言われたのを思い出すな。

 その後に続けて言われた『だが、歳をとると勉強したい奴の方が増えてくる』というのは、本当に自分が歳をとるまで理解できなかったものだ。

 アルファトが主に使う戦法が自分の種族の力によるものだからというのもあるかも知れないな。魔術をメイン武器にしていない者からしたら、魔術を学ぶ場所なんて興味をひかれるものではないのだろう。


「じゃあ、二人ともよろしくな。

 さっきマリアナが言っていた借家を提供できるってのは?」

「魔術学校の教師の多くは魔術局の職員でもありますので、職員向けの家や宿舎を貸し出ししてるんです。数人で使うことを前提としたものもあるので、そちらをユウマさん達に貸し出すことができますよ。そこそこの質のものが、普通に借りるよりは安く借りられます」

「そこそこね」

「ファムルの親戚の宿を超えるとは言わないけど、同等くらいにはいい場所だったはずよ。何より、魔術局の近くだから臨時教師をやるうえで便利ね」


 質がいいならそこを借りようか。以前泊まった宿と同じくらいなら悪くない。

 探す手間も省けるしね。


「食事は別ですが、その家のすぐ近くに食事を出す店があります。店員さんに伝えておけば多少のサービスが受けられますよ。味も保証します」

「近くに食事を出す店ねぇ……」


 結局、依頼を受けることにした俺達は、宿になる家に今夜から泊まることになり、ローランが魔術局に戻るついでで案内してもらうことになった。

 冒険者ギルドから歩いて数分、魔術局にほど近いその家は、すぐそこに見覚えのある食事処がある。


「あれって……」

「ローランの行きつけの店じゃな」


 見覚えがあって当然だ。

 ローランと初めて会った時に案内された店なんだから。


「そういや、あの時も『味は保証する』とかって言ってたな」

「今回と同じじゃな、まだあそこのサラとかいう店員に恋慕しておるようじゃの」


 店の名前は波風(なみかぜ)亭、俺達はローランが店員のサラさん目当てで通ってるのではと睨んでいる。

 あの時は魔術局の職員もよく利用してる的なことも言っていたが、俺達が借りる家と同様にこの辺りに魔術局の職員が住む宿舎やら借家やらが多くあるんだろう。

 実際、味も悪くなかったしな。


「それでは、ユウマさんとエルさんは明日から臨時職員として来ていただくということで大丈夫ですか?」

「ああ」

「それで良いぞ」

「ミイナさんに関してはこちらで手続きをしておきます。明日、お二人と一緒に魔術学校まで来てください。説明などは全てそちらで行いますので」

「わかった」


 その後、明日の時間なんかを話してから、ローランは『手続きしないとなので』と言って魔術局へと戻っていった。



 当面の宿になる家は、仕組みとしては『家』というより『アパート』と呼ぶのがしっくりくる造りをしていた。この世界にアパートやそれに近い概念がないから一緒くたに家と称されているのだろう。

 三部屋ある家が二軒くっ付いていると言えばいいだろうか。それが数軒集まってできているのがこの辺りの『魔術局職員用の宿舎群』といった感じなんだろう。似たような造りの家が見て取れる。


「とりあえず、この家はまるまる使っていいそうだ。片方はピニエールとアルファトで使ってくれ。エルは寝床が必要ないし、部屋数的にミイナは俺達と同じ家でいいと思う」

「神よ、私も神と共に……」

「却下だ。お前と一緒じゃうるさそうだしな。何より、俺達とミイナは明日から学校に行くけど、お前達は冒険者として活動するんだから別の方が都合がいいだろ」


 ピニエールと同じ家で暮らすなんて、可能な限り避けたい事態だと言える。

 多分、俺じゃなくてもそうする。


「ひとまず、今後の予定はさっき話した感じでいこうと思ってる。俺とエルは魔術学校の臨時講師、ミイナは生徒、ピニエールとアルファトは冒険者として仕事をしてランクを上げてもらう」

「俺達がランクを上げるってのはいいっすけど、なんか意味あるっすか?」

「冒険者ランクを上げると色んな利点があるらしい。俺達にとってはそこまで意味のあるものではないけど、パーティー内に高ランクの冒険者がいた方がいい場合ってのもあるかも知れないだろ? そういう時に二人の冒険者としてのランクが上がってれば役に立つんじゃないかと思うんだよ」

「ユウマ様はランクを上げないのですか? 意味がないとはいえ、何かあった時用というのであればユウマ様のランクも上げておいた方が良いかと思うのですが」


 うーん、ピニエールの言うことももっともなんだけど……。


「元々ランク上げに興味があるわけではないからなぁ。ピニエール達のは、やることがないならついでに頼もうかって程度だし。何もしないで待っててってのもアレだろ?」

「それはちょっと落ち着かないっす」

「だろ? だからってんじゃないけど、どうせこの依頼が終わったら旅に出るわけだし、いくらかの資金は必要になるからそっちを頼みたいって思ったんだ。そんで、冒険者としてお金を稼ぐなら、ついでにランクも上げとけば今後役に立つかも知れないと、まぁ、その程度だ」


 実際に高ランクである必要に迫られる状況というのはそう多くないとは思う。

 世の中の冒険者達は自分のランクに合った仕事をして、そういう生活をしてるわけだからな。俺達もそういう風にやってれば、高ランクである必要ってのはそうくることはないだろう。


「だから、無理にランクを上げてきてって言ってるわけじゃない。適当に依頼を受けて順当に上げてきてくれればそれでいい」

「了解っす」


「じゃあ、各自部屋を整えたら昼飯にしよう。その後は、俺達も今日くらいは冒険者として活動しとくか」

「依頼を受けるんすか?」

「いや、前に見つけた迷宮(ダンジョン)に行ってみる。ミイナは迷宮は初めてだろ?」

「うん。行ったことない」

「初心者用としてもいい場所みたいだし、せっかくミイナも冒険者になったんだ。一度迷宮に行ってみよう」


 正直、エルが元々冒険者嫌いだし、冒険者としての活動ってものに積極的に関わっていこうという気はない。俺も冒険者に憧れてたりはしたけど、実際に冒険者登録をして何か特別なことがあったってわけでもなかったし。

 でも、ミイナはケレイナから出たことすらないうえに新米冒険者だ。色々と冒険者っぽいことをやらせてあげたい。

 旅はお預けになっちゃったしな。


「エルもそれでいいか?」

「うむ、良いのではないか? ただ、その前にやらねばならんことがあるじゃろ」

「やらなきゃいけないこと?」


 何かあっただろうか。

 食料なんかは俺のマジックボックスの中に大量に収まってるし、大概のことは魔法で済ませられるから必要な魔道具や魔具なんかも特にない。


「装備じゃ装備。ミイナはその格好では門番に心配されるぞ?」

「ああ、そうか」


 そういば、俺達も最初そんな感じだったな。

 冒険者ギルドのファムルに言われて、それっぽく見える今の装備を買ったんだ。


「じゃあ、昼飯を済ませたらまず冒険者ギルドに行こうか。適当な素材を売って防具を買う資金にしよう。その後で俺達の装備を買った店でミイナの装備を買おう」


 多分、今の手持ちでも買えないことはないけど念のため。


「ケレイナでエルが倒した魔物の素材を売ればそこそこいい値段になるだろ」

「ああ、ブラックギガマンティスとファイトモンキーっすね。あれ貰ってきてたんすか?」

「食用にできる肉以外は、素材としては貰うには高価すぎるって言われてな。復興資金にでもしたらいいって言ったんだけど、報酬も払えてないのに仕留めた獲物までもらえるかってゴドリスが押し付けてきた」

「妾達には使い道もないしの、売ってしまって良かろう」


 確か、ブラックギガマンティスは両手の鎌、ファイトモンキーは毛皮が一番高く売れるって話だったはず。

 ファイトモンキーに関しては、肉は食用、肝臓やらの内臓と眼球は薬になるというので、これだけは置いてきた。貰ったのは武具なんかに使える骨や毛皮だ。


「これらでミイナ用の武具を作ってもらうってのもいいかもな」

「ブラックメガマンティスの素材は良いかも知れんの。変異種の素材は魔法や魔術と相性がいい。杖にするのも良いし、護身用のナイフにしても魔法の発動媒体として使えるじゃろ」


 色を名前に冠してる魔物は魔法を使うってことだったからな。それの素材ってことになれば、魔法や魔術と相性のいい武器や防具が作れるとしてもおかしくはない。

 前に討伐したブラックミノタウロスは土系の魔法を使ってきてたっけか。


「ブラックメガマンティスはどんな魔法を使ってきたんだ? それによって相性とかあるんだろ?」


 俺の中にあるこの世界の知識によると、火系統の魔法を使う魔物の素材が火属性に関する能力が上がったりとかそういうのは良くある話なんだそうだ。

 なので、ブラックメガマンティスがどんな魔法を使ってきたかがわかれば、自ずと相性のいい属性みたいなものもわかってくる。

 まぁ、それに当てはまらないものも沢山あるみたいだけどな。ドラゴンなんかは当てはまらない魔物の典型らしい。


「あれはどうじゃったかの? 攻撃は受けんかったからの」

「ブラックメガマンティスは鎌に魔力を乗せて、離れた獲物に斬撃を飛ばすみたいなのが得意だったはずっす。人族の地域ではまず出ない魔物っすし、魔族側でもそうそう見ないやつっすからね、情報が少ないっす」

「それでしたら無属性系統の可能性が高いですね。私の纏魔法とはあまり相性が良くないです」


 ピニエールの纏魔法って魔法を纏うやつだよな?

 相性とかなさそうだけど。


「無属性系は生活魔法と呼ばれるものや、身体強化系が多いのです。故に、攻撃魔法を纏うのを主目的とした纏魔法ではあまり有効に使えません」


 そう言って、ピニエールは身体強化の魔法を使って見せてくれた。

 確かに、強化するための魔法を纏ったところで効果はあまり変わらず、無駄に魔力消費が多くなるだけか。


「でも、それならミイナの武器としては良さそうだな。補助系の魔法とは相性が良さそうだ」

「魔術用の杖、作るの?」


 俺達が素材について話していたところで、ミイナが不思議そうに問うてくる。


「いらないか?」

「杖は高いから」

「高い? 杖が?」


 俺の記憶ではそこまで高いものではなかったと思うんだが。

 俺と一緒に魔王城まで行った魔法局の面々も普通に装備してたはずだ。


「素材の問題じゃろうな。魔法や魔術と相性のいい杖の素材はどうしても希少になるものじゃ。メインは魔物由来の素材じゃが、戦闘力という面で平均が低下した現代では討伐数も減っておろう」

「なら、今回は大丈夫だな。素材はこっちで用意できるわけだし。てことだミイナ。杖はいらないか?」

「んーん、欲しい」


 金銭的に問題がないとわかり、ミイナも納得したようだ。

 別に、高いとしても遠慮することはないんだけどな。お金なら稼げばいいだけだし。


 そうして今後の予定を決めた俺達は、今日から泊まることになる家の中で荷物中を整えてから昼食へ向かった。

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