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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
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九十六話

 ケレイナが魔族の国との交流を決めてから後はかなりスムーズに進んだ。

 デーヴァンとの話し合いこそ日数がかかったが、なんとか同意を受けられ、どうやったのかデーヴァンの領主からメリシネオルさんを次期領主として認める旨まで引き出すことに成功していた。仲裁役としてその場にいたゴドリスが言うは、メリシネオルさんの力というより、モルドアルさんが頑張った結果らしい。


 魔族側との話し合いに関してはさらスムーズに終えることができた。

 俺が転移魔法でメリシネオルさんたちを子供魔王の元へと送り、双方の協議のものとで盟約が結ばれることとなり、魔族側はエリスマグナから物資の提供を約束し、今後の協力関係について締結。

 ケレイナ側もまた物資に対する支払いを約束し、協力関係に関しても問題なく進められていった。


「これで一応は解決って感じか」

「出てってすぐに戻ってきたのには驚いたけど、うちとしては結構嬉しい話だったよ。旧魔族派の情報はなかなか入ってこないから目が増えるのはありがたいって団長たちも言ってた」


 俺たちは、話し合いを終えて子供魔王たちと別れの挨拶をしているところだ。

 ケレイナ組も帰りの準備をしている。といっても、魔族の国には馬車で来る必要がなかったから持ち物も少ないし、準備の必要はほとんどないんだけど。

 準備の名目で時間を作って、各自の交流の場を設けた感じだ。


「エル様がくださった結界がありますので、後手に回るということはあまり多くないとは思いますが、外部に協力者がいるというのは心強いですね」

「ジェレーナは、警備が楽になったってすごく喜んでたよね」

「直属親衛隊としては、魔王様に敵対する者をすぐに捕捉できるのはありがたいです」


 ここにいるのは子供魔王とジェレーナだけだ。

 他の団長たちは、ケレイナの人達との友好を深めんと会話に花を咲かせている。


「にしても、魔人を使うなんてね。うちとしては怖いもの知らずだなとしか思えないよ」


 今回のことの顛末は、子供魔王にだけ予め伝えてある。

 一応、信用できる相手以外は話さないでほしいとは言ってあるが、この場で話題にするということは親衛隊には伝えてあるということだろう。


「適当にあげる名としては便利じゃろう?」

「普通は怖くて利用する相手とは見ないんだけどなぁ。エルさんとユウマさんだから使える手だよ」

「俺としては、魔人ってのを詳しく知らないってだけだけどな。人族じゃ詳しくは伝わってないみたいだし」


 俺の知識は五百年前の人間のものが基準になってるからな。


「ま、何かあったらまた協力するよ。今回のことも借りにしておくね。結界のこともあるし返せる宛がないけどさ」

「別に気にしなくてもいいんだけどな。まぁ、また何かあったらここに来るさ」


 そんな話をしているうちに、メリシネオルさんたちの準備が整ったらしい。


「じゃ、またな」

「うん。またね」


 俺は、ケレイナ組を連れて転移魔法でその場を後にした。



 これ以降はメリシネオルさんとケレイナの人たちの頑張り次第だろう。

 メリシネオルさんは領主として認められるために地盤を固め、他の貴族にも根回しをしていくらしい。それらが済んだらモルドアルさんは貴族位が剥奪され、その後は今回のことの尻拭いとして、平民として領主館で働くそうだ。領地が豊かになったら、館を出て畑を耕しながら余生を過ごすと言っていた。

 ゴドリスは今回の件で魔族の国にある冒険者ギルドとの繋がりができたから、そこに話を通してケレイナに来てくれる冒険者を募集するつもりらしい。

 しばらくは領地の復興、人が増えたら領地の開拓と、冒険者にも多くの仕事が回ってくるから職を失って食いっぱぐれなくて済むので、それを目当てに冒険者が来てくれる見込みだそうだ。


 旧魔族派でこちらに捕まっていたカルドナが殺害された件については、今後も調査を続けていくとの確約をもらった。これに関してはメリシネオルさんとモルドアルさんそしてゴドリスの連名でもらっているので、万が一メリシネオルさんが領主になれなくても反故にされることはないだろう。

 まぁ、犯人はほぼ確実に旧魔族派だろうけどな。自爆は防ぐことができたのだが、あちらは転移魔法を使えるから簡単に忍び込めたことだろう。転移魔法を使われたのだとすれば侵入の形跡も残っていないはずだから、ケレイナでの調査が進む可能性はかなり低い。


「ここでやるべき事は済んだ。そろそろこの領地を出ようと思う」

「そうじゃの、これ以上は妾たちが関わることではなかろう」

「冒険の旅に出る」

(わたくし)は神とともに!」

「うるさいっす」


 俺たちは復興の手伝いに出ていたピニエールとアルファトを回収し、領主館へと来ていた。メリシネオルさんたちに出立の挨拶をするためだ。


「ユウマさんたちにはとてもお世話になりました。この御恩はいずれお返しします」

「そう堅くならなくてもいいけど……まぁ、何かあったときには頼らせてもらうよ。それまでにしっかり領主になってこの領地を復興しておいてくれ」

「はい。必ず」

「勇者様のため、そして愚策を繰り返してしまった愚か者として、必ずこの領地を立派な領地にする手助けをして参ります」

「頑張れよ。じゃあな」


 そうして、俺たちは領主館を後にし、ギルドに寄ってゴドリスとも軽い挨拶を交わした後にケレイナ領を出た。


 俺たちの次の目的地はデーヴァンだ。

 メリシネオルさんたちを送った際にデーヴァンの冒険者ギルドに顔を出してマリアナに土産を渡したりはしたが、もう結構の間離れてたからな。一度戻って、体を休ませたら今度こそ旅に出ようと思う。


 まぁ、デーヴァンまでは転移魔法ですぐに戻れちゃうんだけど。

 俺が発動した影転移の魔法に全員が入った事で、俺たちは完全にケレイナから離れたのだった。



——————

《???》


「例の領地で魔人が出たというのは調べがついたのか?」

「いえ、情報はほとんど得られておりません」


 とあるぼろ家の地下に作られた隠れ家にて、ボスと呼ばれる男が報告を聞いていた。

 隣に立つのはボスが唯一信用する黒曜肌(こくようき)族の男、彼の右腕といえる男である。


「カルドナの口封じはしましたので、今後こちらの情報が漏れることはありませんが、魔人については芳しくないです」

「元々、カルドナがあそこの一番の情報源だったからな。殺すのは早まったか?」


 カルドナはケレイナで最も長く活動していた者だった。

 他にも数名の魔族を侵入させてはいたが、今回の件で国が動くのは目に見えているため、人員を全て撤退させている。情報源がほとんど残っていないのだ。


「彼女は既に魔王の存在を知ってしまいましたし、今後利用できるとは思えません。始末できる時にしておかなければ、我々について辿られる危険性がりましたので」

「わかっている。しかし、情報が少なすぎる」


 彼はボスの指示により、数日前に起こった事件の調査をしていた。

 カルドナという情報源を失ったため、ボスが最も信用している人物として彼を動かしたのだ。

 自分の居場所を唯一知っている者なのであまり大っぴらに動かしたくないのだが、状況的にそう言ってもいられない。

 自分たちが計画し、何年もかけて実行に移したその企みは、とある人物によりことごとく妨害され、しまいには見知らぬ魔人によってめちゃくちゃにされてしまっている。

 だというのに、情報を集められるほどの手練れがすぐに用意できるほど多くはないのだ。力のある者は他の任務にあててしまっている。今は、自分の右腕たる男を動かす他ない。


「なぜ魔人が我々の邪魔をする。求められた物の一つはしっかり渡したというのに」

「ボス、それがどうもおかしいのです」

「おかしい?」

「あの場に現れた魔人ですが、我々に接触してきたどの魔人とも特徴が合いません」

「どういう事だ?」

「あの領地にいた人族に聞き込みをしたのですが——」


 黒曜肌族の男は、かの地で起こった騒動について調べてきた内容を語る。

 街を襲った魔物の群れが討伐された件でボスは顔をしかめ、貴族街の襲撃が尽く失敗に終わったことに怒りを見せるが、魔人が現れたところでふと疑問を受けべたような表情になり、その魔人の容姿の話になると表情から怒りが消える。


「たしかに、その魔人はこちらに接触してきた者のではないな。その特徴に当てはまる者は見ていない。魔人である事は間違いなさそうだが」

「それに、魔人が使ったという魔法が気になります」

「山を一つ消し飛ばすほどの魔法か。確かに、魔人の元の力ならばそれは可能だろうが……」

「魔神が封印されて力を失っている魔人にそこまでの力があるとはとても思えません。もしいたとしてもそれは魔人の中でも一握りの存在でしょう」


 遥か昔、神々の時代に猛威を奮った魔神、魔王や魔人を統べる真の魔の王といえるその存在は、神々の手によって捕らえられ封印された。

 その時代の魔王は魔神を力の象徴として崇めていたと言われているが、魔人にとっての魔神はその域を遥かに超える。真実は定かではないが、魔神が魔人を生み出したとされる伝承が存在するほどに、魔神と魔人の関係は深い。

 魔人は魔神の力を持って己の力とする。

 つまり、魔神が封印されている今、魔人の力は大きく制限されているはずなのだ。


「そんな奴が我々の計画を邪魔したと? 何を考えているんだ」

「実際に現場を見ましたが、確かに魔法による地形の破壊がありました。あれほどの力があるのであれば、我々に接触してこずとも自分たちで目的を果たせるでしょう」

「つまり、計画を邪魔した魔人と、我々に接触してきた魔人は無関係だと?」

「そう考えるのが自然ではないかと」


 ボスと呼ばれる男にとって、この部下は非常に頼りになる存在だ。しかし、それを抜きにしても今回のことは疑問点が多い。

 彼らの目的のものは渡したが、それは今回の計画の最初の段階で一部だけ成功していたからどうにか手に入れられただけだ。もちろん、それを渡したのは計画の後なのだから、よく考えてみれば『目的のものが手に入ったから邪魔した』のではなく『目的のものと無関係に邪魔した』ということになる。


「計画がダメになったせいで冷静さを欠いていた。確かにこれはおかしいな。お前が言うように、奴らとは無関係と見る方がしっくりくる」

「それはそれで驚異ではありますが」


 どこの誰とも知れぬ者が自分たちの計画を邪魔したというのは、相手が誰だかわかっている場合よりも対処がしづらいものだ。

 それも、その者が強大な力を持っているとなれば尚更である。


「いや、今回の場合は我々の邪魔をしたとも限らん。少なくとも、目的の片方は魔人の出現によって邪魔されたのだからな。我々は計画自体が完全にダメになったが、魔人側も半分は失敗している。つまり、あちらが仲違いしているだけという可能性は捨てきれないわけだ」

「……左様ですな」


 今回、魔人から依頼されたのは物と人だった。

 物はどうにか手に入れられたが、人に関しては魔人の出現によって計画が狂い達成できていない。


「しかも、アレは勇者たちの元にいるらしいではないか。もう手出しすることはできないだろう。魔人たちはあの道具だけで満足したようだし、もとより我々には関係のないものだから狙う意味もないが」

「危険を犯すだけ無駄となりましょうな」


「もし、あの魔人が我々の邪魔をすることを目的としていないのであれば、それは敵対している相手はあの魔人たちということになる。十分な注意は必要だろうが、同じ魔人同士、我々よりもあちらに関係していると考えた方が筋が通る」


 ボスと呼ばれる男は、どうせ仲間割れか何かに巻き込まれたのだろう、と言って今回のことについて考えるのをやめたようだ。

 黒曜肌族の男はそんなボスの姿に胸の内でため息をついた。邪魔をされたのは事実だというのに楽観視しすぎだろうと。


「それよりも、次の計画だ。今度のは魔人とは関係ないものだったろう? これで例の魔人が出たこなければ奴らの仲間割れで決まりだ」

「準備は進んでおります。例の物も間も無く入手できるかと。準備が済み次第ご報告します」

「今度こそ、人族共に地獄を見せてろう!」


 そう言ったボスの笑い声が隠れ家の中に響き渡る。

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