九十三話
ミイナを連れて広間へと戻ると、既に説明を終えたメリシネオルさんとエルが待っていた。
「ってことで、俺たちと一緒に行動することになったミイナだ。ミイナ、彼女がエル、他の二人はまだ戻ってきてないからまた後で紹介する」
「……よろしく」
「うむ、よろしく頼むぞ。ユウマ、此奴は妾たちのパーティーメンバーになるということで良いのか?」
「あー、それは考えてなかったな。今のところミイナは冒険者じゃないからな、どうなんだろ」
俺もエルも、もちろんピニエールたちも、誰も彼もが根無草。
デーヴァンで保護した少女ヤウメルの時もそうだったが、基本的に児童を保護したり養ったりするのにいい環境とはいえないのが俺たちの現状だ。
ヤウメルはギルドに押しつけ……もとい、任せることができたから良かったものの、ミイナの場合はそうもいかない。事情が事情だし、守るって約束しちゃったからなぁ。
「ふむ。ミイナよ、ちとお主に鑑定魔法を使ってみても良いか?」
「? いいよ?」
「よし。では<鑑定>っと……うむ、やはりな」
ミイナに魔法をかけ、何故か納得したように頷くエル。
「どうした? 何がやはりなんだ?」
「ユウマ、お主も鑑定してみるといい。ミイナはなかなか良い魔法の素質を持っておるぞ」
「魔法の素質か。ミイナ、いいか?」
「大丈夫」
「じゃ、<鑑定>」
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体力:68
魔力:350
筋力:35
防御:22
状態:通常
スキル:[付与の心得]
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「おお、なるほど。確かに魔法を使う素質はありそうだな。魔力が普通の大人の三倍くらいあるぞ」
一般的な市民の魔力の量はだいたい100前後、高ランクの冒険者で1,000から2,000くらいだったはずだ。まぁ、五百年前の一般的だから今もそうかはわからないけど。
とはいえ、この数値はなかなか高いと言っていいだろう。
他の数値は年相応だな。
「それに、スキルも持ってるな。名前的に、使う魔法の補助をしてくれる感じのスキルか? 戦闘スキルっぽくはないな」
「そういえば、お主の鑑定はスキルも見えておったな。今の妾では能力を見るのが精一杯じゃからスキルは見えんかったの」
「そうなのか? ミイナは付与の心得ってスキルを持ってるらしい。付与っていうくらいだから能力の底上げとかそういうことができる魔法系統ってことだと思うが。俺達の頃は補助魔法って呼んでたやつじゃないかな。レイナが補助系の魔法が得意だったはずだ」
時代で呼び方が変わるものというのは多いが、まさかスキルに反映されるとは思わなかったな。
「補助系の魔法か、悪くないの。パーティーに一人居ると色々楽になる魔法じゃな」
「レイナの場合は攻撃魔法も使ってたから、そっちも無理ってことはないだろうな。魔力も高いみたいだし、素質ありって言っていいだろ」
五百年前のパーティーメンバーには鑑定を使わなかったけど、もし使ってたらレイナに[補助の心得]とかってスキルが付いてたのかもしれない。
「これなら冒険者登録をしても問題ないじゃろ。パーティーメンバーとして連れて行くので良いのではないか?」
「そうだなー、ミイナはどうしたい? 冒険者になってみるか?」
「……うん。そうする。その方が旅が面白そう」
ただ付いてくるより、自分も参加しての旅の方が面白いというのは確かにあるだろう。
それに、冒険者として一緒にいる方が自然にミイナを鍛えてあげられる。それがそのまま彼女の安全に繋がってくるはずだ。
「じゃあ、後で冒険者登録をしようか。ついでにピニエールたちも登録してしまおう、一応、今回の騒動の立役者のうちに入るわけだからな」
「確かに、妾が冒険者だというのに、共におったあやつらがそうではないというのはちと変か」
「その辺り、事情を知ってるここのギルド長ならうまくやってくれるだろ」
「では、妾はそろそろ彼奴らと合流するとするかの。街に戻る頃じゃろう」
そういや、エルは今魔人を追ってることになってるんだったな。
「じゃあ、俺たちは領主館に戻ってる。後で合流しよう」
そのまま俺とミイナはメリシネオルさんと共に領主館へ、エルは隠れて街を出てピニエールたちの元へと向かった。
道中で、奴隷にされかけた人たちとのやりとりをメリシネオルさんから聞いたところ、説得は予定通り進んだらしい。
説得ではやはり、モルドアルさんが許せないという意見が少なくなかったようだが、魔人に操られていたことや、街を救ってくれたエルへの感謝を込めて魔族の国との交流を進めることになり、その場合に領主の処刑はあまり外聞が良くないということなどを説明。
そこにエル本人が、魔族の国が人間との融和を本気で考えていると話して、そのうえでやはり自分たちが救った者を処刑してしまうのは印象が良くないだろう。と二重で説得することでなんとか納得してもらえたそうだ。
「領地の貴族たちは今、この地の再建を目標に纏まっています。皆が私を支持してくださり、豊かな領地を取り戻そうと奮起してくださっています。モルドアルに嵌められてしまった方々もそれに賛同してくださいました。なので、私はなんとしてでも領主の座を国王に認めてもらわねばなりません」
「認められない可能性があるってことか?」
「ええ。モルドアルが領主でなくなれば私が唯一の領主候補になるはずですが、他の者を任命されてしまう可能性は捨てきれません。
ここ数年問題が多かったことに加えて魔人の襲撃があった領地ですので、進んでこの領地を管理したいと言い出す貴族は多くないとは思いますが」
「何か手はあるのか?」
「いえ、あまり。なにぶん功績がありませんので。今回のレジスタンス結成による領地の防衛を全面的に推していくつもりですが、それも見方を変えれば『前領主の娘が反乱を起こした』とも取ることもできますし……」
せっかく領地を救ったというのに難しいものだ。
ちなみに、メリシネオルさんがモルドアルさんを呼び捨てにしているのは、自分が彼に代わって領主になるんだと他の人たちに伝えるためらしい。
そんな細かいところまで考えているというのだから、領主になるというのも大変なんだなと思わされる。
「なんかあったら手伝うよ」
「ありがとうございます。しかし、こればかりは勇者の名を使うわけにはいきません。私が認められることに意味がありますから」
まぁ、メリシネオルさんの声掛けで目標に向かって頑張ってるのに、そのメリシネオルさん本人が大昔の勇者とやらの力で領主になりましたってんじゃ、付いてくる人たちも混乱するか。
「つきました。では、私はモルドアルのところに行きます。ユウマさんたちには客室を用意させていますのでそちらでごゆっくりなさってください」
俺たちはその場で彼女と別れ、使用人に案内されて客室とやらへ行き、お言葉通りまったりと過ごす。
その間にミイナから色々話を聞かせてもらった。
殆どが他愛もない世間話程度だったが、一つだけ気になることがあった。
「教国への切り札がなくなった?」
「そう。だから、私はもう王国から見た価値はあまりない」
「なんでまた」
「ユウマの魔力を保存した魔道具が多分壊れてる。ちゃんと確認してないからはっきりとは言えないけど、私の家はほとんど形が残ってないくらいに壊されたって聞いた」
「ああ、なるほど」
貴族街への襲撃で唯一被害を受けたミイナの家だが、この襲撃に使われたのは奴らが部下たちにも使っていた自爆の魔法陣だ。
自爆したのが、家の中か、すぐ側だったのかはわからないが、あの自爆魔法は結構な威力の魔法なのだ。家が一件倒壊していてもおかしくはない。
「うちはあまり大きな家ではなかった。多分、魔道具を置いてあった部屋も駄目になってる」
「それで、教国への切り札だった魔道具ももう駄目だろうってことか」
「そう。でも、元々ほとんど飾りみたいになってる物だったから、国王様ももう忘れてたかも」
「少なくとも、随分昔の段階で貴族たちには忘れ去られたものだったわけだしな。王族でも知ってる者が居なくなっててもおかしくはなさそうだ」
実際、今回のことで王国が動くとすれば、それは単純に魔人に対する調査のためだろう。
勇者の魔力のことを公にしたところで信じる人自体がもうさほど残っていないと言っていたし、仮にも勇者のパーティーメンバーの家系で、教国の秘密を握ってるとはいえ、確かに価値を感じはしなそうだ。
「だから、私は旅を楽しむことにした。ご先祖様の言い伝えもちゃんと伝えたし、ユウマは好きにしていいって言ったから、私はやりたいことを好きにやっていい」
「そうだな。楽しく生きていいと思うぞ。その言い伝えを残す切っ掛けになった張本人が言うのもなんだけど」
そんな話をしながら、執事が用意してくれたお茶を飲み茶菓子を食べ、俺たちはエルの帰りを待った。
しばらく話していたら、外が少し騒がしくなる。
何かあったのかと顔を上げると、ちょうど執事が部屋へと入ってきた。
「ユウマ様ミイナ様、先程エル様がお戻りになりました。仲間だというお二人と共にユウマ様の所在を問われております。このお部屋へご案内してもよろしいですか?」
「ありがとう。その二人も多分問題ないから案内してくれていい」
「承知しました」
俺が雇ってるわけでもないのに、対応が丁寧で優秀な執事さんだ。
「ユウマ戻ったぞ。まったく、街中で色々捕まってな。なかなか動けんで困らされたわ」
「一応、この街を救った三人組だからな。魔族の印象が良くなってるようでなによりだろ」
「して、神よ、そちらがエル様の仰っていた少女ですか?」
疲れたとソファーへと座り込むエルに適当な返答を返していると、ピニエールがミイナを見ながらそう問うてきた。
「そうだ。ミイナという。これから俺とエルのパーティーメンバーとして共に行動することになってる。変なことするなよ?」
「神に認められた者なのです! 私がおかしなことをするはずがありません!」
「もう、その発言がおかしいっす。ミイナちゃん驚いてるじゃないっすか」
とりあえず、本人としてはおかしなことをするつもりはないと聞けただけでもよしとしよう。
とはいえ、こいつの場合は普通がおかしいから気を付けないといけないな。
「それでだ、ピニエールとアルファトは今後も俺たちについてくるつもりなんだろ? 契約も解除しなかったわけだし」
「私は神と共にあります。死せるその日まで」
「お前の俺信仰が悪化していってるのが目に見えて、俺はとても不安です。ちょっと怖いわ」
「ピニエールはこんなんっすけど、俺たちも旧魔族派に狙われる立場っすからね。ユウマさんについていった方が安全なのはミイナちゃんと同じっす」
「そうだな」
種族や成り行きこそ違えど、ミイナと彼らの状況は似通っている。
何やら旧魔族派に狙われているらしいミイナに、指令をこなせずこちらに寝返ったピニエールとアルファト。どちらも今後旧魔族派に狙われるのだろう。
「ということで、エルからもう聞いてるかとは思うが、ミイナと一緒にお前たちにも冒険者登録をしてもらおうと思う。それで、暫くは俺たちとパーティーを組む」
「暫くってのはどのくらいっすか?」
「決めてないけど、ずっとってこともないだろ。お前たちはお前たちでやりたいこととか出てくるかもしれないし」
流石に、犯罪者として契約魔法で縛ったばかりで自由にさせるつもりはないが、いつか彼らの望んだ行動をとらせてやる日が来るかもしれない。
その時にはパーティーではなくなる可能性もあるだろう。
「そもそも、今回みたいに裏で活躍してくれた方がいい場面もあるだろうから」
「普段はパーティーとして動いて、必要な時に他の行動もするということかの?」
「臨機応変にってやつだな」
あり方としては、パーティーというより色々なパーティーが集まって作るクランの方が近いかも知れない。
冒険者ギルドで、そんなシステムがあるというのは聞き及んでいる。
今後もし他にメンバーが増えたら、クランとして登録するのもありかも知れない。
「てことで、この後は冒険者ギルドに行くつもりだ」
「うむ」
「承知しました」
「了解っす」
「っと、その前にミイナの家の確認だな。もしかしたら例の魔道具が残ってるかも知れないし」
まぁ、それがあったとして今更意味はないかも知れないが、それ以外の物もついでに……いやむしろそれ以外の物の方を目的にして探す形になるんじゃないだろうか。
ミイナとしては、長年住んできた家だ。両親がいないことはこれまでの話の流れでわかるが、思い出の品とかあるかも知れないし、そういう物が見つかれば彼女も嬉しいだろう。
被害についての責任を取るとは言ったものの、流石に思い出の品をどうにかすることはできないから、完全に無くなっていないことを祈るばかりだ。
「……うん。ありがとう」
俺の考えを知ってか否か、そういうミイナに少し笑みを見た気がした。
「それじゃ行くか」
この後の予定を決めた俺たちは、揃って領主館を後に——
「その前に少し休憩させい。妾は疲れたぞ」
——する前に再びまったりすることになるのだった。




