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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
一章 勇者の誕生
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八話

「はい。ただの封印術だと魔王の膨大な魔力を抑えきれません。そのため、魔王と同等もしくはそれを上回る魔力を動力とし、その者の体内に封印する必要があるのです」

「それが私だと」


 こりゃ、最初から人柱にするつもりだったな。

 ロスヴァールから渡されたペンダントに床の物と同じ魔法陣が出てるし、たぶんこれが魔法陣と繋ぐシステムになってるんだろう。

 ジェレールが鑑定魔法に動揺してたのはこのせいだったのか。このペンダントを鑑定しときゃすぐわかってただろうし。


「残念ながら、この魔法陣は一度発動してしまえば止めることはできません」


 ペンダントを見ていたのがこの状況の打開策を練っている様に写ったのか、ジェレールが念を押してくる。

 まぁ、脱出不可能なのは魔法陣が発動した時点で魔法知識から得た情報でわかっているんだが。


「参ったなぁー、魔王討伐が終わったら悠々自適な生活をおくろうと思ってたのに」

「ユウマさんの名は、自らの身を捧げて魔王から世界を救った英雄として語り継がれるでしょう」


 うわー……勝手なこと言ってるよ……。


「ほれ、妾の誘いに乗っとけばよかったものを」

「そうだなー」


 ジェレール以外のメンバーを見た感じだど、このことを知っていたのはジェレールとローランだけのようだ。

 レオンは口を開けて呆けてしまっているし、ケイナとレイナは手を握りしめて顔が青ざめてしまっている。

 ペンダントを用意したロスヴァールは確実に黒だろうし、下手すりゃ王もグルか。勇者召喚は王族の許可がいるようだったしね。

 これをどうにかできたら、とりあえずジェレールとローランは張っ倒してやろう。


 にしても、人の力で解除することのできない封印術。魔王の魔力はカラッポで役に立ちそうにない。

 どうしたもんかなぁ……。


 人の力じゃ無理……人知を超えた力……人知を……。

 そうだ! 俺神様と通信できるんだった!

 困った時の神頼みってね。


 能力を貰うという当初の目的とはちょっと違うが、その能力の代わりって言えばこの状態をどうにかしてくれるかもしれない。

 ダメで元々。試してみよう。


『あのー、神様はいらっしゃいますか?』

『ん? 誰じゃ? (わし)の番号を知っとる奴にこんな声の者はおったかのう?』

『番号って……』

『んん? おぉ! お主は転生だか召喚だかわからん珍妙な移動をした奴じゃのう。たしかオマケを後で考えるってことじゃったか、なんじゃ、決まったのか?』

『いえ、実は少々困った状態になってしまいまして。そのオマケの代わりに助けていただけないかと』

『困ったこと? んー? あー、こらまた厄介なもんに入っとるのー』

『はい、自分ではどうにもできそうにないんでこの魔法陣をどうにかしていただきたく』

『こりゃ儂でも結構時間かかりそうじゃの。お主の魔力はかなり高いからのう』


「そろそろ時間です。ヤシオユウマさん、申し訳ありません」

「ユウマ、貴方の犠牲を無駄にはしません」


 え? やばい。ジェレールとローランが綺麗に締めようとしてる。

 神様、間に合います?


『あー、これは間に合わんのう』

『マジすか……』


 つい敬語を忘れてしまった。


『まぁ、封印された後に解いてしまえば良いのだから待っているが良い。すぐに出してやるわい』

『なるほど! いや、少々焦ってしまいました。申し訳ありません』


「ジェレールさん、ローランさん、この封印が解けたらお礼に行きますからね。覚えておいてくださいよ」


 二人の顔が真っ青になり額から脂汗をダラダラとかき始めた。

 まぁ、封印から出るまではビビって過ごして貰おう。


 俺が二人に置き土産をプレゼントしたのが合図になったかのように、エルフェルタの身体の輪郭がボヤけ始る。

 徐々に徐々に全体がボヤけ、黒い霧のような状態に変化して行く。

 その霧がジェレールが投げたナイフを伝い、ペンダントへ導かれ、そのペンダントから俺の身体へと侵入して行く。

 おそらくこれが全て身体へ取り込まれたら封印が完了するのだろう。


『神様、よろしくお願いします』

『わかった。なるべ……急い……か……の……』


 神様の声が遠くなっていくと共に足元の魔法陣に飲み込まれて行く。

 霧となったエルフェルタが完全に身体へ取り込まれるのと同時に、俺は完全に魔法陣へと取り込まれた。



——————

《残された者達》


「団長……」

「こうするしかないんです。魔王は不死身なのですから」

「そうです。魔王をあのままにしておくことなどできないのです」

「局長さん……」



「いえ、そうではなく……」


「……ユウマ、怒ってた。魔王より何倍も強い。二人共、死ぬ?」



「「うっ……!」」



——————

《テオール王国王都 王城》



 執務室のような部屋に国王と、数人の貴族が集まっている。

 誰一人言葉を発さず、揃って不安で顔を曇らせている。

 その静寂へと駆け寄る足音が近付き、つぎに扉を叩く音が部屋へと響く。王に促され扉を(くぐ)った兵士が額の汗を拭い、手にした(ふみ)を読み上げる。


「魔王の封印が完了したとの報告がありました」

「そうか! やったか!」

「はい、現在は討伐隊とは別の隊が封印した魔法陣に対して更に封印を施し、他の者に触れられぬよう処置をしているとのことです」

「成功したのだな」


 緩やかに温まる場の空気に、王もまたどこかやりきれない気持ちを感じながらも安堵のため息をつく。


「ふぅ、勇者を犠牲にしてしまったことは心苦しいが、これでこの国に平和が訪れる」

「さようでございますな」

「それで、勇者以外の者は何人戻った?」

「全員帰還しております」

「なに!? どういうことだ」

「は! 報告によりますと、魔王の攻撃はことごとく勇者様に通じず、勇者様は一撃で魔王を倒したと。騎士団長のローラン様のお言葉をそのままお伝えしますと「まるで赤子をあしらうようであった」とのことです」

「それ程までの強さだったのか」

「勿体ない事をしたかもしれま——」


「また、勇者様はローラン様とジェレール様に「封印が解けたらお礼に行く」と言い残されたとの報告もあがっております」


 兵士のこの言葉で、温まっていた場の空気がサーッと冷え切り、王を含めその場の誰もが、今兵士が額に浮かべている汗は「良い報告を急いで持ってきた汗」ではなく「悪夢のような報告に浮かべた脂汗」なのだと理解する。


「あの魔王を赤子のようにあしらうような者が報復に来るというのか……」

「そんな……この国はどうなるのだ……」


 貴族の顔は先程よりも暗くなり、曇って行く。


「ハァ、勇者は魔王と共に封印されておるのだ。そうやすやすと破って来はすまい。それに、我々は勇者を犠牲にしてしまったのだ。恨まれて当然であろうよ。その時はこの王の首一つで収まってくれれば良いが……」

「ともかく、勇者様の功績を称え、末代まで伝えていく事でどうにか許して貰えるように勤める他ありませんか」

「だろうな」


 兵士が部屋を去ると、貴族達は急ぎ領地へ戻り、勇者の銅像や、勇姿を歌う歌を詩人に作らせ、王都では勇者パーティーを迎えるパレードが行われた。


 そのパレードは主役であるはずの勇者パーティーがこうべを垂れて進む様子から、後に「慈悲の祭」と呼ばれ語り継がれることとなる。



———————

《神様のお仕事》



「さてさて、さっさと封印を解いてしまおうかのう。にしてもこの封印は頑丈に作っておるのー。これは解封の精霊を呼び出してしまった方が早いかもしれん」

「かみさまー」

「チャーセではないか。どうした」

「ユウマの魔力が消えちゃったんだ!」

「おおそうか。あの者を連れて来たのはお主じゃったな。あの者は魔王と共に封印されてしもうてな。ちょうど良かった。チャーセよ、解封の精霊を探して来てくれんかのう」

「開封の精霊を?」

「あぁ、頼まれてくれるか」

「わかった! 探してくる!」

「そうか、なるべく急ぎで頼むぞ」

「りょーかーい」


「ふむ、これですぐに解いてやれるじゃろ」



「神様、なにを“開け”たいのかなー」



——————

《封印されし勇者》



『いやぁ、まいったまいった』

『まいったじゃなかろう。お主のせいでこんな場所に封印されてしまったではないか』

『仕方ないだろ? まさか自分が人柱にされるとは思ってなかったし』

『まったく、己が身に付ける物ぐらい調べておけ』

『はいはい。すまんかったな』

『そういえばお主、封印される前に何者かと会話しておらんかったか?』

『ローランとジェレールのこと?』

『いや、あの人間共ではなく、他の何者かと話しておらんかったかと聞いとるのじゃ』

『あれ? 聞こえてたの?』

『内容が聞こえたわけではない。お主の声と、別の者の声が話しておるのがもやもやと伝わって来たのだ。たぶん妾がお主の身体に封印されている途中だったからであろうな』

『なるほど、てことは今後は考えからなにから丸聞こえ?』

『どうじゃろうか、妾もこんな事は始めてじゃしの』

『そらそうか』

『で、あの声の主は誰じゃ』

『あぁ、あれは神様だよ』

『は?』

『いやだから神様。なんか世界を管理してるとかいう人よ』

『なぜお主が神と交信しとるんじゃ』

『色々あってね。あの時は神様にこの封印を解いてくれって頼んでたんだよ』

『おぉ! 神にか! ならすぐに封印は解けるな』

『そゆこと。まぁ、封印が解けた後のことはしっかり話し合わなきゃいかんだろうけどな』

『ふん、妾の目的は変わらん』

『俺もまぁこの件に関して文句くらい言ってやりたいけどな』

『ならばお主も魔王軍に入るか!』

『いや、文句言いたいのはこの件に関わった人達だけだし』

『ちっさい男じゃのー。憎し人間! 皆殺しだ! くらいの事を言えんのかの』

『極端すぎるだろそりゃ。もしかしてお前が人間を殲滅するとか言ってるのもたいした理由じゃないのか?』

『たわけた事を抜かすでない。軽い理由で軍など作らぬ』

『まぁ、普通はそうだよな』

『ふん。とにかく、封印が解けるまでの辛抱じゃな』

『それまでにしっかり話し合わなきゃな』

『妾の目的は変わらんがの』

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