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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
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八十六話

(ってことで、こっちはメリシネオルさんを連れてモルドアルに会うことになった。転移先の起点が欲しいから、誰かモルドアルがいる場所に行けるか?)


 メリシネオルさん達との話し合いを経て、彼女とセリアラナを現領主であるモルドアルに合わせることになったことをエルへと伝える。


(ふむ、では妾が行こう。ちと話したいこともあるのでな)

(わかった。そっちはどうなってる?)

(ちょうど今、アルファトが連絡に来ておってな。ここの守りはこやつに任せる。貴族街への襲撃はほぼ制圧できたそうじゃ)


 被害を減らすことができたという報告に、俺は胸を撫で下ろす。


(モルドアルのところに着いたら連絡をくれ)

(うむ、わかった)


 エルとの会話を切り、俺はメリシネオルさんとセリアラナへと視線を向ける。


「転移するのに準備が多少必要だから、それまでにそちらの準備を済ませてほしい」

「承知した。メリシネオル様、時間があるのであればこちらの防具を付けてください」


 セリアラナが指差す先にあるのは、胸当てや籠手といった部分部分を守る形の軽鎧だ。


「私はこのままの格好でいいと思うのですが」

「そうはいきません。魔物の対応では前線に出ない予定でしたので問題ありませんでしたが、これから向かう先は敵陣の中央。どのようなことが起こるか想像がつかないのです。首謀者を捕らえているとはいえ、彼らの話からすればまだ危険が完全に去ったわけではないようですし、メリシネオル様の身に何かあっては作戦の達成もままならなくなりますよ」

「確かに、警戒しておいて損はない」


 実際は、エルがモルドアルのいる場所へと向かうのだから危険などないだろうけど。

 念には念を、備えあればなんとやらだ。何かあってから後悔するのも馬鹿らしい。


「わかりました。ではそうしましょう」


 メリシネオルさんとしては、これから話し合いに出向こうというのに武装していては都合が悪いという考えがあるのだろう。しかし、配下であるセリアラナと、協力者の俺の言葉を無視するわけにもいかないと結論を出したのか、渋々ながらも首肯する。

 服を着替えるというわけではないが、流石に女性の身支度の場にいるわけにもいかないと、俺は一度部屋を出る。俺達が今いるのは村の村長の家だ。俺に貸し出してもらっていたあばら家は既に返却し、村に集まっている者達の状況が一番に集まるこちらへと移動している。


「ユウマさんは何者なのでしょう」


 部屋を出て彼女らの支度が済むまで待たせてもらおうと隣の部屋で待機していたところに、そんな言葉が聞こえてきた。

 声の主はメリシネオルさんだ。


「わかりません。ただの冒険者だと思い勧誘しておりますので」

「しかし、転移魔法ですよ? 普通の人間が使えるものではありません。実際に使っているところを見せられるまで信じられませんでした」


 村長の家とはいっても、俺が貸してもらっていたあばら家よりはマシといった程度で、あまりちゃんとしたものではない。そのためというか何というか、この家は壁が薄いのだろう。

 彼女らの会話が丸聞こえである。


「ユウマという名前、親が勇者様からとって付けたものなのだろうと考えていましたが、もしかすると……」

「そう考えたくなるのもわかります。流石に勇者本人だとは思えませんが、もしかすると直系の子孫なのかも知れませんね」


 メリシネオルさん残念、セリアラナが正解だ。


「直径の子孫が教国の教皇以外にというのは聞いたことがありませんが」

「あちらの国は、色々とキナ臭いところがあいりますからね。自分たちの正当性を守るために情報を隠していてもおかしくないでしょう」

「確かに、やりそうですね。できました、セリアラナ様」


 あちらの準備は完了したらしいが、どうにもおかしな話が聞こえてきたせいで、続きを聴きたくて仕方ない。

 俺の子孫ってなんだ。


(ユウマ、領主室への侵入が完了したぞ)


 そこに、タイミングを見計らったかのようなエルからの連絡が来る。


(しかし……)

(なんかあったのか?)


 連絡を受けて早々なにやら不穏な感じだな。


(いや、お主もやることやっておったのじゃなとな)


 全然不穏じゃなかった。

 てか、本当にタイミングを見計らってたなこいつ。


(俺はこっちにきてから子を残すようなことをしたことはない。

 そもそも、召喚されてからエルと対峙するまでたかだか一ヶ月だぞ。その間はほとんど訓練だったし……)

(訓練の合間に、体を癒すという名目でということじゃな)


 そんな出会いがあったなら良かったんだけどな。

 前世でも、今世でも、自分の子孫に恵まれる様子のない俺としては、偽物の子孫とか言われると、どうにも変な気分になる。

 俺の名前を利用しようって考え自体どうかと思うし、もし、それが悪どいことに使われているのなら最悪だ。


(冗談はさておき、こちらはいつ来ても大丈夫じゃぞ)

(……まったく。わかった、準備ができたら転移する)


 おかしなことで俺の名前を使われているならどうしてくれようか、などと考えているところでエルから切り替えの言葉が入る。まぁ、今はそんなことを気にするような状況じゃないし、後回しだな。


 エルとの会話を終えるのと同時に、俺が待機していた部屋の扉が叩かれ、部屋を出ると、メリシネオルさんが装備を着込んで待機していた。後ろにはセリアラナが控えている。


「準備ができました」

「こっちも準備できたみたいだ。すぐに行けるけど、このまま転移して大丈夫か?」

「構いません。急ぎましょう」


 今回の計画を実現させるには、レジスタンスに集められた人たちにも活躍してもらう必要がある。

 作戦を決行するかどうかの判断があまりに遅くなってしまっては、彼らの統率がとりづらくなって作戦に影響が出かねないので、できる限り早くことを進めたいのだろう。

 とはいえ、焦りが出過ぎてもまた作戦に影響が出かねないのだが……。


「わかった。じゃあ早速行こううか」


 俺は、彼女らの焦りに飲まれないよう平然を保ちつつ、エルのいる場所へと影転移(トランスファー)を発動させる。


「これは領主室の近くか、領主室その場に直接繋がってるから、転移後はすぐに現領主に会えるはずだ。一度落ち着いてから入った方がいい。特にセリアラナ、ちょっと緊張しすぎだぞ」

「し、仕方ないだろう。転移の魔法は既に見せてもらったが、実際に転移するのは初めてなのだからな」

「そんな大層なものじゃない。着地に気をつけさえすれば、あちらで無様を晒すこともないさ」


 この魔法が十分大層なものであるということは、俺だって理解しているが、そんなことで失敗したとなっては面白くないので、ちょっとだけ煽るような形で声をかける。


「わかっている。そんなことにはならない」

「なら、セリアラナから先に行ってくれ。メリシネオルさんは多分体制を崩すからな。支えてやった方がいい」

「そうしよう」


 煽りが効いたのか、顔を顰めながらもセリアラナから体の固さが消える。

 そして、その顔のまま影の中へと入っていった。


(セリアラナが行ったぞ)

(うむ、確認した)


 問題なくエルの元へと送られたことを確認し、俺は新たな影を作り出す。


「さっきの場所から少しずらした。これなら出た所でセリアラナとぶつかることもない」

「わかりました」


 一気に転移の影に飛び込んだセリアラナとは違い、メリシネオルさんは一度深呼吸してから影へと足を入れる。


「よし、これで二人とも行ったな」


 俺は、メリシネオルさんがちゃんと転移し終えたのを確認し、自分を転移させる。

 転移先では、メリシネオルさんがセリアラナに支えられる形で立ち上がった所だった。

 やっぱり、初めては転ぶよな。


「で、エル、ここは?」

「領主室の隣室じゃ。流石に領主室に直接というわけにはいかんじゃろ」

「そうか。じゃあ、ここからはメリシネオルさんの出番だな」

「はい。予定通りモルドアルを説得してみせます」


 転移による身なりの乱れを整え終えたメリシネオルさんが、気合の入った返答を口にする。

 そして、そのまま部屋を出て領主室へと向かった。


「失礼します」


 俺達はメリシネオルさんを先頭に、領主室へノックもなしに踏み込む。


「なんだいきなり……君は、メリシネオルか」


 そんな俺達を迎えたのは、ケレイナ領の現領主であるモルドアル本人だった。

 いや、ここに彼がいるってわかってたから隣の部屋に転移してきたんだけどね。


「モルドアル様、突然の訪問お詫びいたします。色々とお話ししたいことがあり、このような格好で参らせていただきました」

「確かに、貴族のする格好ではないな。今のこの領地の状況を考えればおかしなことでもないが。メリシネオル、君は魔物の討伐に行こうと言うんだな」


 白髪で、頭のてっぺんが禿げており、シワも多い。その顔を見ただけでも疲労が色濃く出ている六、七十代の男性。それがモルドアルの第一印象だ。

 目元には隈がくっきりと貼り付いており、ここしばらくは碌に睡眠を取れていないのが見て取れる。

 来ている服は豪勢なものなのにくたびれており、下手すると下級の商人よりもみすぼらしく見える。髭を剃る手間が惜しいのか、無精髭を生やしたままにしており、残された髪もあまり整えられていない。

 少しこけた頬が彼の年齢を上に見せている。話に聞いた限り、実際の年齢は五十歳半ばくらいだったはずだ。


「私も、もう魔物たちのもとに行って剣を振るっていた方が楽なように思えてくる。領地を守り、市民を守り、職務を全うしている実感も得られることだろう。

 メリシネオル、君の好きにしなさい。ただし、死なないように。後ろにいる者達を犠牲にしてでも生き残りなさい。私がこの領地の失態の責を負った後は、君がここを治めるのだからね」


 どうやら、彼は何か勘違いしているらしい。

 街から上がってきた魔物の大量発生の報告と、メリシネオルさんの武装した格好を見て、彼女が魔物の討伐に参加すると言いにきたものだと思っているようだ。

 多分、魔物が一掃されたという報告がまだ彼の元にきていないのだろう。


「モルドアル様、私がしたい話というのは魔物の大量発生についてではありません。いえ、それに関することもあるのですが、それだけではないのです。私が今までどこにいたのか、この領地の現状について、そして、この窮地を脱するための案についてお話ししたく参ったのです」

「そういえば、部下がメリシネオルの姿を最近見ていないと……カルドナが確認していたはずだが。それに、領地の現状と窮地を脱する案か……正直言っていることの意味がわらない」


 困惑の言葉を発する彼の顔は、言葉の内容にも関わらずどこか平然とした雰囲気を帯びていた。もう既に色々と諦めてしまっているのかも知れない。

 それでも、セリアラナさんの『窮地を脱する』という言葉を聞いた時は多少表情を変えていたところを見ると、完全に全てを諦めているというわけではなさそうだ。

 セリアラナさんもそれに気付いたのか、少し声に希望を乗せながら説明を続ける。


「そうですね、まずは私が今までどこにいて何をしていたのか、そこから説明する必要がありますね」


 その後、セリアラナさんは他の街や領地で仲間を集っていたこと、その原因となったカルドナの言葉、現在ここに至るまでにどのようなことをしてきたのか、それらを詳細に説明していった。


「——そして、ここにいるエルさんが今回の魔物の大量発生を退けてくださったそうです。これは、冒険者ギルドに行けば事実を確認できます。私も、現場を見ていたわけではありませんので、後ほど確認させるつもりです」

「……カルドナが、魔族? 魔物の大量発生も彼女の仕業だと?」

「はい。それは間違いないでしょう。今までの政策を邪魔していたのも彼女である可能性が高いです」


 説明を聞いたモルドアルは疑惑の目をエルへと向ける。


「そして、彼女がそれを解決したというのか?」

「そうです。確認はさせますが、私は嘘ではないと考えています」


 セリアラナさんの言葉を聞き、ため息をつくモルドアル。


「確かに、今までの政策がことごとく失敗に終わり、何者かの妨害を疑いもしたが、それが私の側近の仕業で、その正体が魔族となると……簡単には信じられん」

「だと思います。なので、ユウマさん」

「わかった」


 セリアラナさんの言葉を聞き、事前に打ち合わせしていた通り俺は一度レジスタンスが待機している村へと転移する。


「出番だいくぞ」


 そして、一人の女性を転移させて、再び領主室へと戻った。


「カルドナ……なのか? その姿は……?」


 俺が転移させてきたのは話の中心人物であるカルドナだ。今は、魔族王国で俺が分けてもらっていた魔法の使用を妨げる枷を付け、ロープで身動きできない状態にしている。

 魔法や魔術、魔道具の使用もできないため、彼女の見た目は魔族のものだ。


「私は、彼女を連れてこられたことで今回の話が嘘ではないと判断しました」

「確かに、カルドナが魔族であるというのは事実らしい。私は自らの懐に災厄の元凶を入り込ませていたのか……」


 モルドアルは、額に手を当て、奥歯を噛みしめるように言葉を漏らした。


「実行犯は彼女でしょうが、その後ろに何者かがいます」

「ボスなどと呼ばれているやつか……」

「そうです。カルドナが連絡をとっていた人物、エルさんやユウマさんの仲間が聞いたところによるとボスと呼ばれる者が組織する、旧魔族派と名乗る魔族王国の思想に敵対する勢力の者達が今回の元凶と言えるでしょう。彼女もまたその組織の一員だということです」

「魔族の内部争いに巻き込まれたということか……」

「そうとも言えんな」


 モルドアルの言葉に返したのはエルだった。


「どういう意味だ?」

「聞いた限りじゃと、此奴らは何か目的の物があってこの領地を引っ掻き回しておったようじゃからな、魔族のいざこざに関係なく、この街はいずれ標的になっておったじゃろう」

「その目的というのはなんだ?」

「それはわかっておらん。此奴も話す気はなさそうじゃからな。奴隷契約でもして話させればよかろう」


 目的の物が貴族街にあるらしいということはわかっているが、必要としている物の正体は知らない。


「問題は今後のことについてです。カルドナのことは、後でもいいでしょう」

「そう……だな。メリシネオル、君はこの窮地を脱する案があると言っていたな。聞かせてくれるか?」


 多少納得いかないという風ではあるが、モルドアルも今カルドナをどうこうしている場合ではないというのは理解しているのだろう。


「まず、今回の騒動を収めるために、モルドアル様には領主を辞していただきます」

「そうか」


 メリシネオルさんの言葉に一つの文句も言わず首肯するモルドアルに少し驚かされた。今回の説得での第一関門はこの件だと思っていたからだ。

 そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか、モルドアルはこちらを見て苦笑し言葉を続けた。


「領地の失策の責を負うのは領主の役目だ。それに、自分の側近が事を起こしていたとなれば、私の首で済めば安い物だろう」


 その言葉を聞いて、俺の驚きはさらに深まる。

 俺は、モルドアルが先の話で、メリシネオルさんに領主の座を任せるみたいなことを言っていたので、領主を辞めるというのは納得しはするだろうと考えていたので、さらっと了承したことに『結構あっさりしてたな』程度の驚きお覚えただけだったからだ。

 まさか死を覚悟してのこととは。


 実際、メリシネオルさん側にいた配下たちの言動から考えても、今回のことで領主が責任を取って処刑されるのは当然って感じなのはわかっていたが、本人からもその覚悟を見せられると驚かずにはいられない。前世の感覚からすると、ちょっと理解できない考え方だな。

 だけど、貴族としての覚悟みたいなものなのだろうというのは、なんとなく理解できる。

 ……彼を呼び捨てにするのはやめとこ。


「モルドアル様、今回の話ではあなたに責を負わせて処刑という形は取りません」


 俺が驚いている間に、モルドアルさんの言葉をメリシネオルさんが否定する。


「しかし、それでは民は納得すまい。既に、何人もの領民と貴族を奴隷とするために隔離している」

「そんな……」


 モルドアルさんの言葉で絶句するセリアラナさん。そういえば、アルファトの報告でそんな動きがあったって聞いてたのを伝えてなかったな。


「俺達は、今回の騒動にカルドナ達旧魔族派とは別の犯人を作り出そうと考えてる」


 セリアラナさんに説明してなかったのは俺のミスなので、この説明を肩代わりすることで詫びることにする。


「別の犯人とは?」

「人を洗脳する魔道具を利用して、この街を乗っ取ろうとした誰かだ。そいつは、領主を操り、領民や貴族を売り払おうとした。そして、手薄になったところで乗っ取ろうと考えてたわけだ」


 俺の案は、旧魔族派の連中がやろうとしていたことを少しだけ改変して、実在しない人物におっ被せてしまおうというものだ。

 領地を乗っ取るという目的はそのままに、市民に発表する内容では貴族街にある目的の物については隠す。カルドナがおまけだと言っていた領地の乗っ取りが主目的だということにするのだ。

 そして、犯人はそのために領主を洗脳。そのまま金のために貴族を奴隷として売り出す計画をたてた。市民も混ざっているのは目的が露見しないための目隠し。ということにする。

 これは、カルドナ達がやろうとしていたこととあまり変わりないから、話をする上で納得させるのも難しくないだろう。


「貴族にはどう話す。下級貴族ばかりとはいえ、その話では納得しない者も多いだろう」

「貴族には、貴族街で狙われていた物があるという点も説明する。そうすれば、目的のために貴族を捕らえていた、と納得できなくもない。これは、メリシネオルさんの説得力次第だな」


 多少無理がある内容ではあるが、実際に起こったことと違うのは領主が洗脳されていたか否かくらいなので、なんとでも言い訳できるだろう。そのために、モルドアルさんには領主を辞してもらうのだから。

 民を奴隷にしようとした責任よりも、洗脳されていた責任の方が、捉える側の印象が軽く済む可能性は高い。それも、領主とは別に恨みをぶつける相手がいるのであれば尚更だ。


「どうだろう、俺としてはいけると思ってるんだが」


 今の暗い現状から後ろ向きな結論を出されることのないよう、俺は勤めて明るく感じられるように決定を促す。


「それなんじゃがな、魔道具で洗脳というのはちと無理があるのではと思うんじゃ」


 俺の思惑を阻止したのは、なぜか、こちら側であるはずのエルだった。


「魔道具を使っていたとなると、それを見せろと言われかねんじゃろ? じゃが、そんなものを用意できはせん。となると、嘘がバレるのはないかの?」

「まぁ、そうだが……」


 事実を改変する上で唯一説明できない点、それが洗脳の魔道具だ。

 実物を用意できない以上、領主の洗脳を解くために壊したとか言って誤魔化すほかないと考えていたが、説得力を落とす要因になり得るのは確かだろう。


「そこでな、妾に名案がある」


 エルは、得意げに胸を逸らしながら言葉を続ける。


「犯人が人間じゃということにするから、魔道具なんて物が必要になるんじゃ」

「魔族ならいいてことか? それだとその後の計画に支障が出るんだが……」


 確かに、アルファトの能力から考えても、魔族なら今回の計画を実行できそうな種族がいるだろう。

 しかし、この後の俺の計画は、魔族に対する人々の印象は良くしておいた方が上手く行きやすいのだ。魔族が犯人というのは余りよろしくない。

 だからこそ、不安要因になりかねない魔道具の登場という流れなのだ。


「犯人は魔族ではない」

「いや、魔族だったけど」


 余りにもはっきりと言い切るものだから、ついつい意味のないボケを口にしてしまった。

 エルからの呆れたような視線が痛い。

 というか、部屋にいる人たち全員からの視線が痛い。


「ごめんって。で、犯人を人間にも魔族にもしないって言うなら、誰が犯人ってことにするんだ?」


 あまりの鋭い視線に謝罪しながら、話を続けてくれと促した。


「今回の騒動の犯人はな……」


 部屋にいる者達を一度見回し、エルはその犯人とやらを告げる。


魔人(まじん)じゃ!」

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