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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
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八十一話

「ユウマさん!」


 俺が目の前の皿に頭を抱えていると、扉を勢いよく開けて酔っぱらった男性が部屋に飛び込んできた。

 彼は確か昨日ヨハンって名乗ってた人だな。何かあったら声をかけろって言ってた。


「ユウマさんも食べてるか!? 流石は勇者の名を受けた人だな! お裾分けしてもらったボア肉めっちゃ美味しいぞ!」

「喜んでもらえて良かったよ」


 やっぱりエルがなんかしたのか。

 ボア肉? エルは俺のマジックボックスから物を出すことができないはずだから、どっかで狩ってきたんだろうけど、何処で……。


(おい、エル)

(…………)


 わからないことは本人に確認すればいいと思ったのだが反応がない。

 これで、エルも忙しいのかも知れないと考えるのはお人好しが過ぎるだろう。

 無視する気だな。


(入れ替わってたのはバレてないみたいだから文句は言わない。話を合わせられなくなるから何をしたのかだけ教えてくれ)

(……場所を特定しようと思って探索魔法を使ったんじゃが、近くにスモールボアがおってな。現状の改善になればと数体狩っておいたのじゃ)

(狩っておいたって……そもそも、この部屋からどうやって出たんだ? 誰とも話さずにってのは無理じゃないか?)

(妾の身体は魔力で作られておるからな。ちょっとした隙間があれば出られる)

(そんなこと聞いてないぞ)

(言っておらんからの。今まで必要な状況も無かったし、そもそも、妾もそれができることに気付いたのは数日前じゃ)


 まぁ、便利な能力だからいいけど、やるならやるで事前に言っておいて欲しいものだ。


(しかし、おかげでそこが何処だか分かったぞ)


 エルがこの拠点から抜け出した結果、この場所がエルキール魔族王国の目と鼻の先にあることがわかったらしい。

 魔族王国を出て、デーヴァンに向かう回り道の途中を少し外れた場所にある元迷宮(ダンジョン)跡地だったそうだ。

 わかったところで、俺の知っている場所じゃないから外に転移することはできないんだけど。


(ま、こっちは適当に話を合わせとく)

(そうじゃな、よろしく頼む)


 さて、完全に酔っぱらってるヨハンさんはご機嫌で一人語りしながらも、もうそのまま寝ちゃいそうな感じだし、これじゃ組織として機能しなくなるんじゃないか? 流石にここにいる全員が酒に酔ってるってわけではないだろうけど。

 少なくとも、俺の監視役のはずのヨハンさんはメリシネオルかセリアラナあたりに怒られそうだから酔いを覚ましておいてあげよう。

 ヨハンさんを部屋の前の椅子に座らせて解毒魔法をかける。魔法をかけた時点で眠ってしまったが、昨夜は俺の部屋の見張りで遅くまで仕事していたのだから仕方ないだろう。

 そのまま彼を放置して、俺はこのアジト内を散策してみることにした。


 聞こえてくる宴会の声は止む気配がなく、それどころか、足を進めるごとに耳に届く声量が増していく。

 多分、酒盛りは俺が向かっている先で行われているんだろう。


「そこまで珍しくもないスモールボアを差し入れただけでこの騒ぎって……普段はどんな生活してるんだか」


 通路で何度か見回りらしき人達とすれ違が、彼らに部屋を出ていることを咎められることはなかった。

 何をどうやったら、監視されている状況からここまで信用されることになるんだ。


 俺が最初に向かったのは、昨日ここに連れてこられた際に寝かされたいた大部屋だ。

 最初から外に出たりしたら流石に怪しまれるだろうしな。


「エルが勝手に外に出てたんだから今更ではあるけど」


 そのまま部屋の扉に手をかけ、劣化からか少し重くなったそれを押し開ける。ギギギという音が大部屋内に響き、何人かは俺の入室に気付いたようだ。

 全員が気付かなかったのは、扉の音より宴会の声の方が大きかったからだ。

 部屋の中は、レジスタンスのメンバー達が、笑いながら木で作られたジョッキを打ち鳴らして乾杯していたり、樽の上で手を握り合い腕相撲をしていたりと、かなり自由に楽しんでいる様子だった。

 中でも盛り上がっているのは部屋の中央。メリシネオルさんが木箱の上に立って弁舌を振るっている……。


「え!? なんであの人も飲んでんの!?」


 ヨハンさんが怒られるかもと思っていたのに、その怒るはずの上司が既に酔っぱらってたよ。


「あ! ユウマさん!」


 俺の声が届いたのか、メリシネオルさんの顔がこちらに向いた。


「ユウマさんもこっちにきて飲みましょう!」


 木箱から降りた彼女に部屋の中央へと連れられていく。


「皆さん! 昨日我々の仲間になったユウマさんです! この人がいれば今回の領地奪還は達成間違い無いでしょう!」

『うおぉぉぉ!』

「共に我らの故郷を取り戻しましょう!」


 メリシネオルさんも、他の人も、ものすごく気分が高揚している。ノリノリってやつだ。

 まるでこの後すぐに領地の奪還に向かうかのようで、なんだか不安になる。


「領地奪還に向けて乾杯!」

『乾杯!』


 そんな俺の不安に関係なく、メリシネオルさんの乾杯の音頭で皆が更にジョッキを傾けていく。


「ユウマさんはこっちです!」


 メリシネオルさんが、その場に座ってそう言う。こっちだと誘導するようなことを言っているが、本当にその場で座り込んだだけだ。一切動いていない。

 大丈夫かこの酔っ払い。


「部下から聞きましたよ、部屋にいたはずのユウマさんが突然洞窟の前に現れて、大量のスモールボアを運んできたらしいじゃないですか! 食糧の備蓄を減らさずにお腹いっぱい食べられるのはユウマさんのおかげです!」


 彼女はその後このレジスタンスの現状について長々と語ってくれた。酔っ払い特有の『同じ話を繰り返す現象』が発動して理解するのに手間取ったが、要約すると、彼女らはお金はあるのだが物資の買い付けが難しいんだそうだ。

 いまだケレイナ領地内にいる協力者から資金の支援は受けてはいるものの、大量の食糧を購入して運び出すと自領の魔族に見つかる可能性が上がってしまう。特に、近くにあるのは魔族の国だ。カルドナと繋がっている者がどこにいてもおかしくない。

 危険な橋は渡れないから、最低限の食料を運んで、後は命に直結する飲み水を優先しているんだそうだ。

 この話を聞いたときは、セリアラナ達の行動で既にバレてるんじゃないかと思ったが、本人達はちゃんと冒険者に変装できているつもりらしいので触れないでおいた。もしカルドナの手下とかがいたら、どうせ手遅れだろうからね。


 ちなみに、食料が不足してるのになぜ酒が大量にあるかというのも聞いてみたが、単純に飲む機会が無かっただけらしい。

 ここに(ひそ)むようになった当初に、人を集めるのに利用できるかもしれないからと酒類を多目に仕入れていたのが、出番を迎えることなく倉庫の肥やしになっていたとか。


(それにしても、スモールボアでさえ狩に行けないような力量なのか。数人はそこそこ強そうな見た目なのにな。護衛かなんかでここからあまり離れられないのかな?)


 まぁ、今まではその数人の人達が狩りをして食料の調達をしていたんだろうけど。

 にしても、こんな貧弱な戦力で領地奪還とか言ってたのか。無謀にも程があるぞ。


「メリシネオルさんは、領地を取り返したら領主になるのか?」

「はい。多分そうなります。ただ、正式に領主になるには国王の認可が必要なので、取り戻してすぐにというわけにはいかないのですけど」

「そうか」


 領主になる覚悟はしているのか。

 でも、被害を減らそうと考えている俺からすると、現領主のモルドアルの首を取ってってのは回避したいところだ。幸いなことに、話を聞いた限りでは彼女達の中でもモルドアル本人の評価は悪く無かったわけだし、可能な限り生かしておきたい。

 ただ、もし本当にモルドアルがいい奴だったとしても、領民を売ろうとした領主なんて領民達が許さないだろうから、助けても結局は処刑されて終わりとかもありそうだ。どうしたものか考えておかないとな。


 俺がメリシネオルさんの相手をしている間にも酒盛りは続き、杯を傾けていた人が見張りをしていた人達と交代してからも終わることはなかった。流石に酔っ払ったまま見張りに行くわけにはいかないようで、ちゃんと部屋を出る前に解毒魔術を使っていたから、この隙を狙って襲撃を受けるという心配はなさそうだ。

 部屋の中が静かになったのは全員が酔い潰れて眠りについた頃だった。


「はぁ、なんか色々と面倒だな」

(なんじゃ? 早々に諦めるのか?)

「いや、そういうわけじゃないけど……政治に関わるのは嫌だし、どうにかうまくまとめられないかと思うんだよ」

(こういうものを綺麗に終わらせるのはまず無理じゃろう)

「それはそうなんだろうどね。でも、可能な限りそうするって決めた限りは解決策を考えないとさ」

(何も考えずにおったら戒めを定めた意味がないからの)

「だよな」


 宴会を終えた俺は、眠ってしまった人達に布をかけ、メリシネオルさんを放置するわけにはいかなかったので見張りの人に部屋へと運んでもらい、そのまま部屋へと戻っていた。

 食糧を振る舞ったおかげか、俺の部屋の見張りはいなくなったようだ。

 勝手に出られるなら見張りの意味がないと考えたのかもしれないけど。

 まぁ、おかげで、エルとの会話で声を出していても、ぶつぶつと独り言を吐く寂しい奴だと思われなくて済むからありがたいけどさ。脳内会話よりも、声に出した方が話している実感があっていいと思ってのことだから、これが聞かれでもしたら『寂しい奴』扱いを否定できない。


「結界の方はうまくいったのか?」

(うむ、問題ない。発動した途端に反応があって対処に追われたがな)


 どうやら、国の中に旧魔族派がまだ潜伏していたらしい。

 性能を確認できて一石二鳥だったと言っていた。


「また動き出すときに連絡するよ」

(わかった)


 味方と合流するのが数日後って話だったから、早ければ明日か明後日くらいには動き出すだろう。

 そう考えながら、俺はエルとの会話を切って布団に潜り込んだ。



——————

《???》


「まったく、魔人の奴らは人使いが荒い」

「仕方ありません。そう言う契約ですから」


 側から見るととても人が住んでいるようには見えない一件のぼろ家。そこの地下にその男は隠れ潜んでいた。


「わかってはいるが、あの愚か者供は自分の力で何もできんくせに注文ばかりが多いからな」


 ジェレール・リドガルド、部下達から『ボス』と呼ばれる旧魔族派のトップの男だ。

 彼は、葡萄酒を片手に揺らしながら、ため息共に愚痴をこぼしていた。


「奴らの目的がイマイチわからないというのも気持ちが悪いですね」


 ボスと共にいるのは黒曜肌(こくようき)族の男で、ボスの居場所を唯一把握し、彼のためだけに動く()()の右腕である。

 種族の名の通り黒く硬く高い防御力を誇る肌を持ち、細身にうつるその体躯には低級の魔物であれば素手で打ち倒せるほどの強さを兼ね備えている。更には、敵組織への潜入などの任務を行うこともできる非常に優秀な部下で、ボスからも重宝されている旧魔族派の幹部だ。

 隠れ家を転々とする慎重派のボスが部下達に命令する際の窓口も担っている。

 ちなみに、ユウマ達が魔族王国に向かう途中で襲ってきた盗賊を装った集団の団長である角紅瞳族の男を乗っ取った際も、ボスではなく彼が会話していた。なので、実は、ユウマ達はまだボスと会話したことがなかったりするのだが、彼らがそれをそれを知る由はない。


「奴らの目的などろくなものではないだろう。我の目的の邪魔にさえならなければそれでいい」


 ボスはそう言ってグラスの葡萄酒を一気に煽った。

 黒曜肌族の男は、そこその値のはる葡萄酒を味わうことなく飲み干すボスの行動に文句を言うこともなく、おかわりを注いでいく。


「奴らの目的はどうでもいいが、我の望むものを手に入れるまではせいぜい利用させてもらう。それまでは従順な振りを続けなくてはな」

「部下達にもボスの正体は知られていないのです。魔人達にもそう情報が流れることはないでしょう。あまり目立つ動きはしない方がいいとは思いますが、ある程度は好きに動けます」

「愚か者供の愚策に邪魔されんようにだけは気をつけなくてはいかんな」

「左様でございますね」


 ボスが、再び空にしたグラスを机に置き、何度目かのため息をつく。


「それにしても、勇者か……」

「本物かどうか証明するものがあるわけではありませんが、魔王エルフェルタと共にいることや、送り込んだ資格が立て続けに返り討ちにされていることから考えても、間違いはないでしょう」

「面倒なことだ。魔人供は勇者の魔力なんぞをどうするつもりなんだか」

「打ち倒せてしまえば楽なのですが、並の魔族では難しいでしょうな」


 ボスのものが移ったのか、黒曜肌族の男もまた軽いため息をついていた。


「お前がいっても無理か?」

「……魔王エルフェルタを赤子のようにあしらったという伝承が真であれば、難しいでしょうな」


 勝てないと明言しないのは自信ゆえか、意地ゆえか。

 ボスとしてはその答えに多少の心強さを感じながらも苦笑が漏れる。


「そうか……とにかく、今はかの領地だ。うまくいっているのだな」

「問題はないかと」

「我の望みを叶えるのにアレは必要だ。しくじることのないように。使い捨て供はいくら失っても構わん」

「承知しております」


 黒曜肌族の男の言葉を聞き、満足したのか、手を振って彼を退出させる。

 彼はこれから作戦の詰めのために動くのだろう。

 部屋に一人残ったボスは、グラスを持ったところで中身が空になっていることを思い出した。せめて注がせてから退出させるんだったと後悔しながら、自分で酒瓶を傾ける。


 彼の言った『使い捨て』にどこまでの者達が含まれるのか、それを知る者は少ない。

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