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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
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八十話

 俺は、レジスタンスのアジトで適当な偽装を済ませて影転移(トランスファー)を使って魔族王国へと戻った。

 転移先はこの国に来てから何度か使わせてもらっている城の一室。予めエルに確認したらここにいると言っていたのでここに移動したのだ。


「よ、ただいま」

「うむ。それで、今後はどうするのじゃ?」


 戻って早々そう尋ねられた。

 挨拶くらいもうちょっとちゃんと返してくれてもと思わんこともないが、気持ちもなんとなくわかる。イベント好きのエルが、今回はお預けをくらいそうな状況だからな。


「どうって言われても、特に決めてないけど」

「はぁ……そうじゃろうな。さっきもそう言っておったしの」


 俺の答えに肩を落とすエル。

 しかし、俺も全く考えていないってことではないんだぞ。


「とりあえず、エルは遊撃みたいな位置で行けばいいと思うんだがどうだ?」

「遊撃じゃと?」


 俺の考えは非常に単純だ。

 レジスタンスに紹介できないのなら一人で動けばいいんじゃない? と、それだけ。

 別に、わざわざ彼らと合流する必要はないだろう。エルは、単独で行動して好きなように状況に参加すればいいと思うんだよ。

 今回はその方がやりやすいであろう理由もある。


「考えたんだが、今回も迷宮の時みたいに枷を付けようと思ってるんだ」

「ほう」


 エリスマグナの迷宮に行った際、俺達だけだと簡単に攻略できてしまうからという理由で、エルが子供魔王の子守役という足枷になるものを受け入れた。まぁ、子守を引き受けた理由はそれだけだったわけではないが。

 とにかく、今回もそんな感じで条件を設けようということだ。

 実際、俺達が二人揃って動くのが過剰火力であることは目に見えている。魔族に対抗するための戦力という点でいえば俺一人でも十分なんだから。

 敵をちゃんと見たわけではないけど、今までの経緯からしてもほぼほぼ言い切っていいだろう。


「今回の条件は『人的被害を可能な限りなくす』というものにしようと思う」

「それは当然のことじゃろ」

「そうなんだけど、敵側の被害も減らそうと思ってるんだよ」

「……なるほどの」


 今回の領地奪還は言うなれば内戦。

 敵も味方もどっちも領地の人間という、あまりにも不毛な戦いのように俺の目には映る。

 もちろん、これが無駄な戦いだなどとは言わない。魔族が何かしら企てているみたいだから、何もしないでいるわけにはいかないだろう。


 しかし、そこに俺達のような過剰な戦力が参加するのなら、いっそのこと敵味方区別なく人的被害を最小に抑えようと考えてたとしても文句を言われることは無いのではないか。

 そして、これを目標とした場合に、自由に動ける存在というのはかなり有用になる。

 時に味方として味方を助け、時に敵として敵を助ける。そうすることで被害を抑えられるってわけだ。


「それに、魔族が絡んでるとなると、種族によっては俺が探索系の魔法を使えない可能性がある」

「可能性ではなく、確実に使えんじゃろうな、領地には冒険者もおるじゃろうし」

「うっ……まぁそういうことで、個別で動ける存在は有用だってことだ。エルの探索魔法だと領地全体を確認するってわけにもいかないだろ? 個別で動いてカルドナの居場所を探したりしてもらいたい」

「ま、迷宮では十分暴れたしの、今回は裏役に徹するとするか」


 迷宮の階層主はほぼ一人で戦ってたからな。


「てことで、俺は一旦戻って、朝方に子供魔王達に挨拶しに来るよ」


 本当なら、この後挨拶に行こうと思ってたんだけど……窓の外が真っ暗なので無理だ。

 夕飯時に眠らされて連れていかれた割にはあまり時間が経っていなかったらしい。エルのいる場所だけじゃなくて時間も聞いておくんだった。


「しかし、拠点ってのは案外近くにあるのかも知れないな」

「そこでも探索魔法を使うわけにいかんじゃろうからな、場所はわからんか」

「移動中は寝てたからな」


 影転移の魔法は、既知の場所や人物、魔力などを起点にして転移する魔法だ。そのため、転移先を知らなかったり、見知った相手がいなかったりした場合には使用できない。

 今回の場合はその逆。転移先にはセリアラナ達に連れていかれたので知っているから転移できるが、その周囲に関しての情報が全くないのであの拠点がどこにあるのかはわからないという、なんか謎な状況になっている。

 ちなみに、旧魔族派が使っている魔具が魔力を起点にしたタイプだ。


「じゃあ、戻るよ。また明日連絡する」

「わかった。ちゃんと連絡するのじゃぞ」


 なんかエルが心配している感じになっているが、心配なのは俺ではなく、自分が今回の騒動に参加できなくなることだろうな。と、そんなことを考えながら俺はレジスタンス達の拠点へと戻った。



 下手な偽装がバレることなく無事に拠点へと戻り、そのまま布団で眠りについた翌日。

 昨日言われた通り、俺のやることは待機だけらしい。

 外に出る際は誰か一人お供を付けなくてはいけないのも昨日言われた通りで、流石に『子供魔王に挨拶しに行くからついてきて』とは言えず、部屋にいると言ってエルに連絡をとった。


(なんか、部屋の前に見張りがいるっぽいんだよ)

(それはそうじゃろうな。お主はまだ完全に信用されたわけではないだろうしの)

(どうやって出るか……)


 転移で移動するのだから物音で気付かれるってことはないだろうが、少しでも部屋の中を覗かれたら俺がいなくなっているとすぐにバレるだろう。

 流石に寝床の偽装だけで騙し切れるとは思えない。


(面倒だな。俺も魔力体を作れたら簡単なんだが)

(ふむ、魔力体か……ちと待っておれ)


 そう言ってエルからの連絡が途絶える。

 何か方法があるんだろうか。魔力体は既存の魔法ではないし、俺には使えそうにないんだが。


 とか考えていたら俺の隣にエルの魔力体が現れた。


「ふむ、思ったよりも酷い場所じゃな」

「こっちに来ちゃって良かったのか?」

「向こうではまだ妾が呼ばれる状況ではなさそうじゃからな。問題はなかろう」

「ならいいけど、何しに来たんだ? 何か策があるんだろ?」


 部屋の前にいる見張りに気付かれないように小声で尋ねる。


「ユウマは偽装魔法は使えたな」

「ああ、使えるけど。あれは見た目は変わらないだろ?」

「魔族にはあれの上位魔法がある……いや、あった、と言うべきなのかも知れんが……ともかく、今はどうか知らぬがそう言う魔法が存在しておったのは事実じゃ」

偽装(ディスガイズ)の上位魔法ね」


 俺の知識にないということは、人族の間では知られていなかった類のものなのだろう。


「上位と言っていいかは微妙なところじゃがな。偽装するという点以外はほぼ別物の魔法じゃしの」

「どんな魔法なんだ?」

「対象の姿を変更する魔法じゃ。声も変わるぞ」


 この状況で出してくるんだからそういうものだよな。


「便利そうだな」

「ただし、他の者に触れられただけで解除されるがな」

「めちゃくちゃ不便じゃないか」


 触れられただけで解除って、殆ど使い物にならなくないか?


「作りかけじゃったからの。製作者が途中で飽きたんじゃ」

「飽きたって……」

「じゃが、この状況ならば使えるじゃろ」

「それもそうか」


 俺はただ子供魔王達に挨拶しに行くだけだから、そんなに時間はかからないし、その間の身代わりくらいなら使えるだろう。


「ではゆくぞ〈姿偽装(ディスガイズマスク)〉!」


 エルが魔法を発動すると彼女の姿が一瞬ブレ、次の瞬間には目の前に俺がいた。


「どうじゃ? よくできておるじゃろう」

「俺の見た目と声でその話し方されると違和感しかないな」

「お主のことを詳しく知る者があるわけでもないのじゃし問題はなかろう。そもそも、どうしてもという時以外に他の者と話す気はないしの」


 まぁ、話さなければバレることもないか。


「じゃあ、俺は現魔王城に戻る。後であっちで呼ぶから、その時にもう一度入れ替わろう」

「わかった。妾は寝たふりでもしておくとするかの」


 そう言って布団に潜るエルを尻目に俺は魔族王国の城へと転移する。


 転移先の部屋に着くと同時に部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。


「エル様、如何なさいましたか?」


 戸を叩いていたのはジェレーナだったようだ。どうやら、使用人がエルを起こしに部屋を訪れたのに返事がなかったため、何かあったのかも知れないと彼女を呼んだらしい。

 俺は、軽く返事をして部屋の扉を開けた。


「ごめん、エルは外に出てるんだ。エルキール達に用事があるんだけど予定を開けられないだろうか」

「そうでしたか。魔王様に確認します。本日は結界の設置とそれまでの警護をお願いしたかったのですが難しいでしょうか?」

「いや、エルもすぐに戻る予定だから大丈夫だと思う」


 挨拶が終わったら入れ替わるしね。

 ジェレーナが確認してくれたところ、子供魔王達にはこの後すぐに会えることになった。魔族団の団長も数名が会ってくれるそうだ。本当にただの挨拶のつもりだったのだが、エルが何かしている事と、俺がわざわざ子供魔王に会えないかと聞いたせいで大事に取られたっぽい。

 まぁ、今までは用があっても適当に近くにいる人に要件を伝えたり、次にあったときでいいかと後回しにしたりしてたから仕方ないか。


 ジェレーナに連れられて、用意された会議室のおような部屋へと通される。

 その部屋にはすでに子供魔王や他の団長さん達が待機していた。


「ユウマさん、用があるってどうしたの?」

「いや、大した事じゃないんだよ。野暮用でこの国を出ることになったから挨拶をしておこうと思って」

「もう出られるのですか!?」


 俺の言葉に大声で返したのは子供魔王の後ろに立っていた男性だった。確か、宰相だかなんだかだったかな。


「そうだな、俺はこの後すぐに出ることになると思う。エルも予定が済んだらこっちに来ることになってる。お世話になったし、挨拶しておこうと思って時間をもらったんだけど、なんか大事になったみたいで申し訳ない」

「いえ、そんなことは……」


 声を荒げたことで子供魔王達から非難するような視線を浴びて、宰相はすごすごと引っ込んだ。


「野暮用っていうのが済んだら戻ってくるの?」

「いや、多分デーヴァンに戻るんじゃないかな。結構開けてるし、あっちの人にも顔を出しとかないとだから」


 別に、絶対デーヴァンに行かなきゃいけないってわけでもないんだけど、せっかくマリアナへのお土産とか用意したしね。


「またそのうち来るよ。エルも気になるだろうし」

「わかった。じゃあ、今日の予定はどうする?」


 これは、さっきジェレーナが言っていたのと同じ質問だろう。護衛と結界の設置だったか。


「それは、エルを呼ぶから、直接聞いてくれるか?」


 そう言って、俺はエルへと思考先を変える。


(ってことだ。こっちに戻れそうか?)

(問題ない)


 答えと同時に俺の背後から光が漏れ出す。


「今戻った。話は聞いておる。護衛も結界の設置も請け負おう」


 周りで見ていた団長達からは、エルが突然あらわれたことと、今までの話を聞いていたと言って出て早々に返事をしたことに驚いていたようだが、子供魔王もジェレーナも俺の中にエルがいる事は知っているので大きな騒ぎにはならなかった。

 目を見開く彼らを見た時はそういう事はちゃんと伝えておいて欲しいと思ったが、よく考えたら、エルという実質自分達よりも立場が上の者の秘密事なんて、そう簡単に話していいものか判断できないだろうな。


「じゃあ、俺はもう出るよ。エルキールもジェレーナもまたな」

「うん、また」


 手を挙げて答える子供魔王と、背後で軽く会釈するジェレーナを確認した後に部屋を出て、俺はその足で城を後にした。

 転移のための影へと潜ったのは更に外壁から出た後だ。さっきの反応から考えて、転移魔法が使えるなんて知られたら更に混乱を振りまくことになりそうだからな。これでも元勇者だ、他人への配慮はちゃんとする。まぁ、そこらへんのことは子供魔王が話すかも知れないけどね。


 これでしばらくは魔族王国とはお別れになりそうだ。

 せっかく仲良くなったんだし、またそのうち遊びに来よう。


 影から出て、レジスタンスのアジトに戻った俺を迎えたのは、何かを食べ終わった跡がある大量の皿と、他の部屋から聞こえる宴会のような騒ぎ声だった。


……おい、エル。誰とも話さずに寝たふりをしてるんじゃなかったのか?

 絶対なんかしただろ。

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