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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
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七十九話

「なあ、今魔族って言ったか?」


 俺は出口へと向けていた足を止めて尋ねる。

 さっきの話が聞き間違いじゃないとすれば、この人達の領地を魔族に襲われたということになるが、それにしては焦燥感というか必死さみたいなものが足りないように思えた。

 もちろん、俺を眠らせてここまで連れてくるような強硬手段といえる手を使うほどには焦っているのだろうけど、一度断られただけで諦めているあたり、ちょっとあっさりしすぎている。……ような気がする。

 いや、はっきり言うと、最近魔族関係のゴタゴタに巻き込まれることが多かったから反応してしまったってのはある。

 あるが……。


(エル、聞いてたか?)

(うむ。ボスとやらの影が見えるようじゃな)

(だよな)


 やっぱりエルもそう考えるよな。

 ここのところ、旧魔族派とかいう奴らの被害に立て続けで遭遇している。

 ピニエール達の行動とはちょっと方向性が異なるが、ただ襲われたということではないというように思える回りくどいやり方は、部下に自爆用の魔法陣を付けていたり、話す相手がいるかも分からないのに会話用の魔法陣を仕込んでいたりと、用意周到なボスとやらのイメージとは合っているように感じる。

 ただの襲撃ではなく乗っ取りと言っている以上、なんらかの策略があるのではないかと思えたのだ。


「自分の領地が魔族に襲われたってのに随分悠長じゃないか」

「貴様、メリシネオル様に向かって何て口の聞き方をっ!」

「セリアラナ、やめなさいと言っているでしょう。

 失礼しました。しかし、こちらの話に横入りするのはあまりよろしい事ではないと思いますよ」

「申し訳ない。ちょっと気になる話だったからついね。

 それで、領地を襲ったのが魔族だって話は?」

「襲われたわけではありません」


 メリシネオルさんが言うには、魔族に領地を乗っ取られたというのは、領地を魔族に占領されたということではなく、領主の立場を魔族の傀儡に掻っ攫われたという意味らしい。

 やはりなんか回りくどい。


「それで乗っ取りってことか」

「はい。ことの始まりは前領主である私の父が亡くなった時からでした」


 今から約五年前、彼女の父親である前領主が年齢による病で亡くなり、新しい領主として、彼女の兄、フォンダーク家の長男が家督を継ぐこととなったんだそうだ。

 しかし、家督の引き継ぎ中に次期領主だった長男がその当時に行われていた戦争にて死亡。それを受けて領内はかなりの混乱状態になり、戦争は継続困難として降伏する羽目になったという。

 敗戦とはいえ、完全な敗北ではなく降伏という形を取ったことで相手の領地と協定を結ぶことができ、領地自体を奪われることは回避したが、代わりに多額の賠償金を支払うことになってしまったらしい。


 そこに出てきたのが彼女の大叔父の娘の息子、つまり、メリシネオルさんからするとはとことか再従弟(さいじゅうてい)と呼ばれる位置にあたるモルドアル・パラドイアという人物だった。このモルドアルが家名を変え、モルドアル・ケレイナ・フォンダークとなり、現在のフォンダーク家当主で、ケレイナ領の領主だ。

 当初は直系であるメリシネオルさんがいるのに遠縁の者が家督を継ぐことに反対する声も多く、年齢的にもモルドアルの方が年下ということもあり領地内の貴族達からメリシネオルさんを領主にという動きがあったんだとか。


「しかし、その当時すでに亡くなっていた彼の父親がパラドイア領の当主の兄弟だったこともあり、侯爵家であるパラドイア家から多額の支援金をお貸しいただけるということになるや反対派の声は少なくなりました」


 領主が亡くなり、次期当主すらも失ったことによって混乱しているうえ、敗戦による多額の賠償金を課せられることになったケレイナ領は、モルドアルを迎え入れ、パラドイア家の支援を受けることでなんとか領地を立て直すことができたそうだ。


「その後、四年の歳月をかけて支援金を返済し、その頃にはモルドアルも領主として貴族や民に認められる存在となっていました。私も、前領主の娘として彼の下で必死に働いてきたと自負しています。しかし……」


 支援金を払い終えた後の領地運営は尽く失敗していったらしい。

 まず、税金を引き下げることで領民を増やそうとした直後に大量の魔物による襲撃を受けて、なんとか治めたものの街の守護をする兵に少なくない被害を受けた。

 ならば戦力を整えようと冒険者ギルドへの支援を進め、魔物への対策として冒険者を誘致したら、街の農地の植物に感染する病が流行り食糧が不足。

 これでは領民が生活できないと、領主の持つ財産の殆どを売り渡してまで周囲の領地から食料を買い込み、植物の病が収束するまで耐えていたら、今度は人に対する病が流行りだし、領民や兵士達が倒れていったという。


「このままでは領地の復興どころか、滅んでしまうと頭を悩ませていたのですが、モルドアルが恐ろしい政策を行使すると言いだしたのです」


 現領主であるモルドアルが持ち出したのは、領民の売買だった。

 領主一家すらも金を使い尽くし、領地内にまともに税を払える者がいない。こうなったら、領民を奴隷として売って口減らしと資金集めをするしかない。そう言って他の領地に声をかけ始めたんだそうだ。


「確かに、あの状況では他の方法が出てくる余裕も無く、モルドアルとしても、苦渋の決断だったのだと思います。しかし、私はケレイナを守る領主の血族として領民を売るなんてことを承知することはできませんでした」


 そこで、なんとかならないかと考えた時に出てきたのが、もう一度何処かからお金を借りれないかというもの。

 普通ならば、領民を売るなんて過激な考えよりも先に出てきそうなものだが、つい一年前まで支援金の返済に追われていた者達にとって、その決断は何よりも恐ろしいものだった。

 前の返済に関しては、戦での被害が少なかったことから領地自体にまだ返済のあてがあり、到達点が見えた状態での返済だったのだが、今回は領民からの税金も無く、被害を出している病への対策すらままならない。そんな状況でまた借金生活に戻ることが耐えられなかったのだろう。


「それに、そんな状況でお金を貸してもらえる相手にもあてがなく……。そこでモルアドルに再びパラドイア家から借入ができないかと聞きに行こうとしたのです」


 以前、モルアドルを領主にすることで受けられた支援。今回もそれに頼れないか。

 他の領の領主や貴族はまだしも、パラドイア領の領主になら、既に支援金をしっかり返済したという実績がある。状況は違えど、多少の支援はしてもらえるのではないか。


「モルアドルとしても、そのことを考えなかったはずはありませんから、何かしらパラドイア家に借入を頼めない事情はあるのだろうことは察することはできました。しかし、その理由を聞いてから考えても遅くはないと考えたのです。領民を奴隷にするよりも、いい方法があるのではないかと……」


 そんな藁をも掴む思いのメリシネオルさんに、当時騎士爵を得ており、数少ないモルドアルの領主就任後も残ったメリシネオル派だったセリアラナがついて行き、モルアドルの元へと向かったのだが、領主の館で待っている時に周囲を警戒していたセリアラナに届いたのはモルドアルの側近の言葉だった。


「メリシネオル様の護衛としてついて行った私は何故か領主館に入ることを許されず、屋形の周囲を見回っていた。その際に、裏庭に面した部屋で奴の……カルドナの声が聞こえてきたのだ」


 モルアドルの側近であるカルドナは、何者かと会話をしていた様子だったそうだ。


「カルドナは魔道具を使って話していたようで、相手はその場にいなかった。それ故、相手の声ははっきりとは聞こえなかったのだが、カルドナの『既に物は外に出した』とか『作戦をもう間も無く開始する』という言葉は所々聞こえたのだ」


 初めは、既に領民の受け渡し準備が整ってしまったのかと戦慄したそうだ。

 このままでは資金提供など打診している暇はないと、主人であるメリシネオル様に伝えねばと急いでその場を後にしようとした時。


「その後に聞こえてきた言葉は簡単には信じられなかった」


 彼女を引き止めたのはカルドナの最後の言葉だった。


「相手の者に対して嬉しそうな声で『作戦が完了すれば、ケレイナ領は我々魔族の物になりますね』と、そう言ったんだ。私は耳を疑った。しばらくの間その場で心を手放してしまった程だ」


 そうして、放心したセリアラナだったが、彼女がその場に立ち尽くしているうちに誰かとの会話を終えたカルドナの言葉で、放り出していた心を無理矢理掴みなおしたらしい。


「奴は会話を終えた後にため息をつくように『邪魔なメリシネオルは早めに処分しなくては』と言ったのだ。このままではメリシネオル様が危ないと思い、早急に伝えたいことがあるからと言って無理に屋敷内に入り、メリシネオル様を連れ出して領地を逃げ出し、領地を奪還せんとするメリシネオル様と戦力を集めている」


 説明を終え、強く握った拳を自分の太腿にグッと押しつけるセリアラナ。余程悔しい思いをしているのだろう。

 なんか、俺を喧嘩に巻き込んだ人達のリーダーだってことで多少色眼鏡で見ていたけど、ちゃんと敬称を付けて呼んであげようかな、とか思ってしまう。まぁ、俺がメリシネオルさんに話しかけた時の態度とか最悪だったし、このまま敬称なしでいくけど。


「それで、相手はそのカルドナって奴だけなのか? そいつを雇ってるモルアドルってのも十分怪しいんだが、話を聞く限りではそんな風に考えてる感じじゃないよな」

「メリシネオル様を領地から逃した後も、領民の売り渡しの状況を確認するために領内にいる同僚や仲間から情報を探っているが、どうやらモルドアル様は本当に何も関わっていないらしい。

 確かに、魔族にいいように動かされているのは情けないと思うが、モルアドル様がその魔族と共に悪事を働いているという情報はない。

 農地や民達に蔓延した病に関してはカルドナが関わっているのは確実だが、しかし、モルドアル様は本気で領地の復興に力を入れ、領民を売ることに関して日々思い悩み、だいぶ憔悴せれている様子だと言っていた」

「そうか……」


 それだけだと演技の可能性も捨てきれないと思うが……話に聞いただけで判断できることでもないか。

 傀儡ではあるが黒幕ではないってことだな。

 セリアラナの言葉をそのまま信じるわけにはいかないが、考えているだけではどしようもない。


 さて、こうなるとちょっと気になるよな。


(なあエル)

(良いのではないか?)

(まだ何も言ってないぞ)

(其奴らを助けてやるのじゃろ? どうせ暇なんじゃから良いじゃろ)


 ふむ、なんか俺の考えがめっちゃ読まれてるけど、それは今に始まったことではないから気にするだけ無駄だな。


(そっちはどうだ?)

(結界の設置か? それなら、今日中に転移先の処理が終わりそうじゃから明日には準備ができると言っておったぞ)

(なら、こっちのことに関わっても途中でエルも参加できるな)


 それなら毎日のように『自分だけ楽しそうなことしとるんじゃない』とか言われなくてすみそうだな。

 よし。協力してみるか。

 いざとなったら転移で消えよう。

 というか、セリアラナから『ここまで話したんだから協力しろよ』という感じの圧力がこもった視線を感じるし。

 魔族が関わってて人の領地にちょっかい出してるって時点で、相手が旧魔族派である可能性が……いや、話からしてもボス自体が関わっている可能性が高いと思う。俺達をつけねらってる奴を見つけ出すヒントくらいにはなるかも知れない。


「さっきの返事は取り消そう。微力ながら俺もその領地奪還を手伝う」


 俺がそう言うと、メリシネオルさんが目を剥いて驚いていた。

 元々話を断ってる者が魔族が関わってると知ってから掌返しで手伝うと言ったんだから驚くのも当然だろう。

 戦争から五百年経っているとはいえ、いまだに魔族は恐ろしいものだというイメージは人々の中から抜けていないようだしね。

 実際に、寿命が長い種族が多い魔族の中には魔法を使いこなす者が多いはずだから、寿命が短く魔法に関する知識が衰退している今の人間にとっては驚異であるはずだ。


 でもまぁ、それでも俺とエルだけなら負けるような相手ではないと思う。

 なんたって、俺もエルもその魔法が衰退してない側だし、五百年前の時点でも強い部類なんだからな。

 問題は、他の人達を守りながら動かなくちゃいけないってことくらいだ。


(いっそのこと、俺だけでその魔族を排除してもいいけど……)

(それではつまらんじゃろ)


 だろうな。

 エルならそう言うだろう。


(なら、このままメリシネオルさんのやり方に従って動いてみるか)

(妾の方でやることが済んだら、お主が妾も紹介し、そのまま合流すれば良かろう)

(いや、それは難しいだろ。この人達が現状で魔族を信用するとは思えないぞ)

(それもそうじゃな……)


 エルも参戦できて、尚且つ、俺らで相手を排除するだけではない終わらせ方か。ちょっと難しいな。


(とりあえず、流れに任せてみよう。エルには裏で動いてもらったほうがいい感じになるかも知れない)

(仕方ない。動けるようになったらすぐ呼ぶのじゃぞ)

(わかった。ただ、万が一にもケレイナ領の市民に被害が出そうな状況になったりしたら俺が強行で解決するからな)

(そんなことは当然わかっておる)


 エルだって、元は一国の主なのだから、そのくらいの分別はあるだろう。

 話を聞く限りだと市民への被害が出そうな状況ではないから、それなら楽しくいきたいってだけなのだから。


「で、俺はこの後どうすればいいんだ?」


 驚いて言葉が出ない様子のメリシネオルさんの横で、満足そうな笑みを浮かべているセリアラナに尋ねてみる。


「我々は数日後に、他の領地で仲間を集めている者達と合流することになっている。それまではこの拠点で待機してもらいたい。もし、君がいた魔族の国に行かなくてはいけない用事があるなら早めに済ませてくれ。ただし、ここから出る時は一緒に誰かつけることになるが」


 まぁ、この場所が分からなくするようにわざわざ俺を眠らせようとしたくらいだからな。監視くらいは付けるか。

 といっても、俺はあそこに戻る理由はないな。

 少なくとも、ここにいる人達の誰かを一緒に連れて行けるような所に用事はない。子供魔王達には一応挨拶しておきたいから、一度転移で抜け出すことにはなると思うけど。


「今日はこのままこの拠点で休んでくれ。部屋を用意する」


 そう言ってセリアラナが部下らしき男性に声をかけ、彼は部屋の外へと出て行った。言葉通り部屋を準備させるのだろう。

 少し待ったところで、先の男性が戻ってきて用意された部屋へと案内された。

 案内された部屋も地下に作られたものらしく、窓の無い舗装された土壁の部屋だった。置かれた寝床は貧相で、ボロっちい。さっきまで寝かされてた木箱の上よりはいいけど。


「俺はヨハンってんだ。何かあったら俺を呼んでくれ」


 案内してくれた男性はそう言って出て行った。

 窓が無いせいで今が何時なのか分からないが、流石にまだ眠くは無いし、この部屋じゃやることもないな。

……一旦エルのところに戻るか。


 ということで、後で戻ろうと思っていた魔族王国へと転移で戻ることにした。

 用意されたベッドに、マジックボックスから出した適当な物を詰めて寝ているように偽装し、俺は拠点とやらを後にする。

 まぁ、これでバレたとしても別にいいだろ。なんてことを考えながら。

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