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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
一章 勇者の誕生
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七話

「お……女の子……?」

「ユウマ! 気を抜いてはいけません。あの見た目でも魔王には違いないのですよ」


 魔王の予想外な姿に呆けていた俺にローランからの叱咤が飛ぶ。


「なんじゃ、勇者は妾の事を知らなんだか」


「いや、まさか17〜8の女の子だとは思わなかったから」

「ユウマさん、魔族は寿命が長いのです。ああ見えてユウマさんの倍以上生きているはずですよ。下手すれば100歳ってことも……」


「失礼な! 妾はまだ20歳じゃ!」


 正直、それでもまだ前世の俺の歳からしたら4分の1くらいだ。

 こちらに来てから感覚が身体に準じて若返ったとはいえ、完全に孫の年齢。成人年齢が15歳となっているこっちの世界で言ったら曾孫(ひまご)でもおかしくない。


「まぁ、よい。そんな事よりも、勇者よ。お主、妾と手を組まんか?」

「手を組む? 引き抜きのお誘いか?」

「そうじゃ、先の探索魔法を使ったのはお主じゃろ? あの魔法にはかなりの魔力が込められておった。お主のような強い戦士が妾の仲間になれば妾の魔王軍は何者にも負けぬ、最強の軍隊となろう! さすれば妾の野望にも近づくというもの!」

「馬鹿な! 勇者殿がそのような世迷言に惑わされる訳が……!」


『雑魚は黙っておれ』


「ぐ……っ」


 魔王が睨み付けただけでレオンの表情が歪む。

 スキルなのか魔法なのかはわからないが、何かしらの能力で威圧されたらしく、レオン程ではないが他のメンバーも冷や汗をかいている。

 俺に影響がないのは魔力値のおかげか、身体能力の高さか、それとも精神力が高いからか……

 何にしても、ここまで罠も無く敵もおらずで進めたのは「魔王の力に相当な自信があるから」というのが正解だったようだ。

 魔王と戦闘するのは俺がメインの方がいいかもしれない。

 この戦いが終わった後に恐れられたりしないようにサポートに徹したかったけど、ここで負けてしまったら元も子もないし。


「それで、俺を引き抜いて叶えたい野望ってなんだ?」

「それはじゃな……」

「それは?」


「この世界から人間を消し去ることじゃ!」


「なに!?」

「人間なんぞ、この世界に必要ないのじゃ! 殲滅し、消し去ってくれる!」

「随分と物騒な話だな。それだと俺も殲滅対象になってしまうが」

「無論、協力してくれるのなら殺したりせん。数人ならば共に残してやってもよい」


 これもよくある展開ってやつなのか?

 昔やったテレビゲームで似たようなのがあったな。

 にしても、人間を殲滅か……。


「魔王」

「なんじゃ」

「悪いけど、その誘いは受けられない」

「何故じゃ」

「何故って……」

「勇者殿がそんな世迷言を受けるはずないと言ったはずだ!」


 いや、単純に「皆に尊敬されてチヤホヤされて悠々自適」みたいな生活ができなそうだからなんだが。

 せっかく念願の異世界転生で敵側に回るというのもなんだかって感じだし。


「……ふん、仕方あるまい。ならば力尽くで引き入れてやろう!」


 魔王が静かに()を閉じ、次に目を見開くと瞳が更に赤みを増し、全身からドス黒いオーラのようなものが溢れ出る。

 オーラにあてられたのか、パーティーの面々が額に脂汗を浮かべている。

 やっぱ俺が前に出るしかなさそうだな。


「ローランさん、私が前に出ます。ローランさんとレオンさんは後衛を守りながら援護をお願いします」

「しかし勇者殿!」

「わかりました」

「団長!」

「我々では太刀打ちできそうにない。ユウマの邪魔にならないよう援護に回りましょう」

「……承知しました」


 配置を入れ替え魔王と対峙する。


「そういえば、名前を聞いてなかったな」

「おっと、そうじゃったの。妾の名はエルフェルタ・リンド。リンド魔族王国の魔王じゃ!」

「俺の名前はヤシオユウマ、ユウマが名前でヤシオが苗字だ。勇者をやっている」

「では、いこうかの」

「お手柔らかに頼むよ」

「そうじゃのー、じゃあこれからいくかの」


 エルフェルタが掌を掲げると、そこに黒炎が生まれ次第に大きくなっていく。


「ほれ、まずは小手調べじゃ」

「小手調べって……大人が一人呑み込まれる大きさじゃないか」

「あれ程の魔力を持っておるのだ、この程度は耐えて貰わんとな。ほれ」


 ぽいっと放り投げられた炎の球体がゆっくりとこちらへ向かってくる。

 黒い炎という異様さと大きさの割には簡単に避けられそうだ。

 本当にただの小手調べってこと……。


「ちゃんと守らんと。爆ぜるぞ、それは」

「なにっ!? ……くそっ! 〈防壁(プロテクション)〉」


 パーティーメンバーごとドーム状の防壁で囲うと同時に視界が黒く塗りつぶされる。


「おー、ちゃんと守れたの」

「いやまぁ……そうだな……」

「ではその壁がどれ程耐えられるか試してみるとしようかの」


 そう言うと、再び掌を掲げ黒炎を生み出す。

 しかし、今度は大きくならず細い棒状に変化し槍を象る。


「貫通せんように気を付けるんじゃな」


 エルフェルタが黒炎の槍を放つと、球体とは違い猛スピードで迫り、防壁とせめぎ合う。


「頑丈じゃなー。追加してやろうかの」


 楽しそうな声を上げながら二本目、三本目と黒炎の槍を放つ。


「ほれほれ、頑張らんと。仲間を守れんぞー」


 槍の数が十本を超えた頃から視界が黒炎で遮られよく見えなくなっていたが、壁越しに伝わる振動が二十を数えたあたりで追撃がやんだ。


「ふぅ、本当に頑丈な壁じゃの」

「……そう、だな」

「くはは、この程度で疲れておるのか。妾が消費した魔力はまだ一割程度といったところだぞ? そんなんで仲間供を守りきれるかの」

「い、一割……?」


 あれだけの攻撃で一割か……。


「お主はあとどのくらい魔力が残っておるか……」

「よ……」

「ん?」


「弱すぎないか?」


「「「「「え?」」」」」


 エルフェルタだけではなく背後の仲間の方からも声があがった。


「今のだけで一割くらい魔力消費してしまったんだろ?」

「なんじゃと!?」

「俺まだ魔力を消費したって感覚すらないぞ」

「強がりを言うな! 妾にも鑑定魔法は使えるのだぞ、実力差がわかってしまっては面白くないと使っておらんだけだ!」

「そうか、鑑定すれば良かったのか。あまり意識したことなかったからなぁ」


 味方の実力を確認するのには結構使っていたが、脅威になる相手が居なかったせいか敵を鑑定するという意識があまりなかった。

 魔王が偽物って可能性もあったわけだし、ちょっと迂闊だったかな。


「ユウマさん、鑑定魔法が使えるのですか!?」


 あ、そういえば魔法局や騎士団達に鑑定が使えることを話してなかった。

 一応警戒しないととか考えて伏せてたのが、そのまま言い出す機会が無かったってだけなんだけど。


「実は使えたんですよ。皆さんスキルなんかは既に調べているようでしたし、お話しするのを忘れていました。申し訳ありません」

「い、いえ、構いませんが……」


 鑑定魔法を使える人間はかなり珍しいみたいだし、ちゃんと伝えていれば戦略に組み込めただろうからな。

 いやほんと申し訳ない。


「それはさておき、鑑定してみるか?」

「……ぬ」

「おい、エルフェルタ。鑑定してみるかって」

「見えぬのだ! 先程から鑑定魔法を使っておるが、何故かお主のステータスは見えん! なんじゃお主は、魔法拒絶(マジックプロテクション)でも使っておるのか!?」


 使ってない使ってない。

 どういう事だ? 鑑定するのに何か制限でもあるんだろうか。今まで何度か使ってステータスが見られなかった事なんて無かったのに。

 こういう時こそインプットされた魔法知識とやらが役立って欲しいんだが、解説してくれる様子はない。


「なんかの制限があるのか知らんが、鑑定出来ないというなら仕方ない。実戦で示すしかないな。今度はこちらから攻撃させて貰うからちゃんと防げよ」


 エルフェルタが黒炎を使っていたので、こちらも火炎魔法を使用する。


——〈猛火(もうか)


 対象を含めた周囲一帯を焼き尽くす範囲魔法だ。ある程度燃焼範囲を指定でき、込める魔力に応じて威力も上がるらしい。

 実力を示す事も考慮して少し多めに魔力を込めて発動させた。


「ま、まて。これはちょっと強すぎんか!?」


 先程の俺と同様に防壁を張って耐えるエルフェルタから焦ったような声が漏れる。


「大丈夫だろ。死にはしないと思うぞ。たぶん」

「貴様! 初めは少し手加減するものじゃろうが!」

「……してるんだがなぁ」

「これでか!」

「とりあえず、死なない程度に弱って貰うか」

「悪魔め!」

「魔王に言われたくないな」


 エルフェルタの張っている防壁が徐々に薄くなって行く。


「心配するな。一応、回復魔法も使えるから」

「そういう問題じゃなかろっ——」


 最後まで言葉を出しきる前に、パリンッという音と共に防壁が砕け、エルフェルタが炎に包まれる。

 床に伏したところで魔法が解除され、炎から解放されたエルフェルタが露わになる。

 炎に焼かれたというのにたいした外傷は見られず、火傷で瀕死というよりも魔力が尽きて動けないといった感じだ。

 服が一切燃えていないのをみると、魔力かなんかでコーティングしたんだろう。


「おい、大丈夫か?」

「貴様……化け物か?」

「しがない勇者だ。さて、こんな状況でなんだが、交渉しようじゃないか」

「交渉だと?」

「所謂、降伏勧告だな。明らかな実力差があることがわかったんだ。人間を根絶やしになんてこと諦めて降伏しないか?」

「あり得ん。妾は人間供を残らず殲滅してやらねば気がすまん」

「ここで死んだら元も子もないんじゃないか?」

「死なんよ」

「なに?」

「妾は死なん。一度死してもいずれ蘇る。そういうものなのだ魔王というのは。貴様に敵わずとも、貴様の寿命が尽きるのをまてば良いのだ」

「それは……」


「その通りなのですユウマさん」


 しばらく黙って戦況を見守っていたジェレールがエルフェルタの言葉を肯定する。


「ですから、封印するしかないのですよ」

「封印?」

「はい。しかし、魔王を封印するためにはその強大な魔力を消費させ、魔力抵抗を落とさねばなりませんでした」


 弱らせて捕まえようってことか。

 そんなゲームあったな。


「まさか、ユウマさん一人で魔王の魔力を使い切らせる事が出来るとは思いませんでしたが、この状態ならば封印できます」

「人間め、姑息な真似をしおる!」

「封印の儀の準備はできております。ユウマさん、魔王を魔力で抑えておいてください」

「降伏する気はなさそうだし……仕方ない。わかりました。封印にかかる時間は——」

「すぐですよ」


 ジェレールが俺と魔王の間にナイフを投げると、床に魔法陣が浮かび上がる。

 魔法局の人とはいえ、こういう物理的な攻撃方法も持ってるんだな。

 近接で身を守る程度なのかと思ってた。訓練の時も牽制やなんかは全部魔法使ってたし。

 それにしても……。


「ジェレールさん、この魔法陣の動力源が私になってるみたいなんですが」

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