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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
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七十八話

 セリアラナに食事をご馳走になっていた俺は、エールだけでなく料理の方も追加で注文してもらっていた。

 最初は相手の懐事情を多少気にしながらだったのだが、料理を口にしてすぐに遠慮を捨てた。この店の料理が思っていたよりも美味しかったのだ。

 甘めの香りのソースがかかった赤色のサラダに、青色で少し口にするのを躊躇わせる色のスープ、牛肉に似た見た目のステーキと、どれも見た目は微妙だが味はなかなかのもの。

 サラダは多少苦味のある野菜に果物がベースになっているらしいソースが良く合っていたし、スープは味付けに塩と胡椒しか使っていないようなのに中に浮いている肉ととてもマッチしている。

 ステーキは店員にきいたところミノタウロスの肉らしい。そういえば何体か狩ったのがそのままだったな、などと考えながら野性味のある肉を丁寧に整えられたソースでいただく。


 笑顔を顔に貼り付けた様子で追加のエールを注文しているセリアラナを横目に、黙々と食べ続けた。

 いつまでまってもセリアラナ達が話しかけてこないのだから仕方がない。

 会話が無ければ、飲むか食べるかで口を動かすほかないのだから。


(おい、ユウマ、お主今何を食べておる)


 俺が食事に舌鼓を打っていると、突然エルから念話が届いた。


(何って、ミノタウロスのステーキだけど)


 実際は、そのステーキを摘みに、四杯目のエールを煽っているところだが、食べている物と言われればステーキだろう。

 遠慮なく飲み食いさせてもらっている。


 ちょっと、セリアラナの顔色が良くないが、お財布の方がきついようなら俺も出すつもりだし。

 そう考えてみると、彼女達が全然食事や酒に手をつけていないな。

 もしかして、彼女達が食べる分のお金を食い潰してしまったのだろうか。

 ある程度は支払う意思があることをしっかり伝えた方がいいかも知れない。


(ふむ、その店は良いところだったようじゃの。そのうち妾も行くとしよう。しかしな……お主今薬を盛られておるぞ)

(え?)


 ただ店の評価が聞きたくて話しかけて来たのかと思って答えていたのだが、エルは俺が口にしている物の中に何らかの薬物が混入していることを感じて連絡してきたらしい。

 エルの本体は俺の中に封印されているわけだし、その入れ物に何かあったことを感じられても不思議はないが……誰が薬を盛ったって言うんだ?


 いや、わかりきってるか。

 ここに連れてきたのはセリアラナ達なんだから、これもセリアラナの仕業なんだろう。


(ステータスが高いからか、全然気づかなかった)

(妾も今になるまで全く気づかんかったのじゃがな、だいぶ大量に飲まされておるようじゃ。食事か飲み物に入れらておるのじゃろう)


 大量にか……てことは、途中から彼女らの顔色が悪くなってきていたのは、遠慮なくエールを頼みまくったからではなくて、いくら経っても薬が効かないからだったんだな。

 お金の心配じゃなくて良かった。


(うーん、この人達の目的がわからない。昨日会ったばかりの俺に薬を盛って何がしたいんだ? 毒殺して身ぐるみを剥がそうって感じか?)

(いや、その薬は睡眠薬の類のようじゃな。既に身体が除去してしまっておるから詳しくはわからんが)

(なら、このまま寝たふりをしてどう出るか見てみるか)


 目的がわからないなら、企みに乗ってみればいい。


(捕まえて聞き出せばよかろう)

(店の中で暴れるのもな。

 薬入れてたのも店に頼んでのことだとは思うけど)


 その後も、エルは反対したのだが、俺は寝たふりをすることに決めた。

 エルに言った通り店の中で云々というのはもちろん、わざわざ睡眠薬を選んだのだから殺す気はないであろうこと、そして、眠らされて連れ去られるってのが小説っぽくて面白そうという緊張感のない理由からだ。

 エルが反対している理由も『妾が動けんのにお主だけ面白そうなことをするな』というものなのだから文句を言われる筋合いはない。

 結界の設置やらが済んだら合流していいからと言ったら、渋々ながら納得してくれた。


 そうと決まれば、さっそく狸寝入りしましょうか。


「あれ、なんか、眠く……」


 俺はそう言って机に突っ伏した。


(なんじゃその大根役者っぷりは)

(そう言われてもな、演技なんてしたことないし。……実際に寝てみるか。〈睡眠(スリープ)〉)

(おいやめてお——)


 演技を完璧なものにするために俺は自分自身に睡眠魔法をかけ、そのまま深い眠りへと落ちていった。

 この魔法って、自分にかけても効くんだな。とか考えながら。



(……ろ、……きろ、起きろ! ユウマ!)


 微睡の中にエルの声が降ってくる。


(ん、ここは?)

(ようやく起きたか)


(なにが……ああ、寝かされたたんだった。俺に)


 こうして俺は、自分にかけられた魔法のせいで見知らぬ場所で見知らぬ人達に囲まれることになったのだった。



——————


(ふむ、流石に睡眠魔法はやりすぎだったか)

(じゃから最初からお主の自業自得じゃと言っておるじゃろうが! 散々無視しおって!)

(わかったわかった。謝るから。悪かったよ。

 で、ここはどこだ?)


 視線だけで周囲を見た感じ、ここはそこそこ広めの部屋のようだ。壁は石でできており、窓はない。地下室だろうか。

 と言っても、地下牢か何かに閉じ込められたというわけでもなさそうだ。

 別に手足を拘束されているわけでもないし、鉄格子で周りを囲まれてもいない。それに、離れたところにある階段上の扉は普通の木製で、特別な鍵がつけられている様子もないから、出ようと思えばすぐにここから出られると思う。


 見知らぬ人に囲まれているとは言ったが、別に本当に周囲を固められているわけではなく、単純に、そこそこの広さにそこその人数がいるから、木箱で作られた即席の寝台で寝かされていた俺の周りに人がいるってだけだ。

 その周りにいる人達も、誰一人として手足に枷はないし、そもそも、捕まってお先真っ暗みたいな顔でもない。むしろやる気満々って感じだろうか。


(本当に、どこだここは。この人達なに?)

(まったく。

 そこはレジスタンスの隠れ家なんじゃそうじゃぞ。そして、その者らはレジスタンスのメンバーじゃそうじゃ)

(レジスタンス?)


 エルは、俺が眠っている間も、自分の本体が体内に封印されていることを利用して情報を集めてくれていたらしい。

 流石に、子供魔王の方にある魔力体を消して、新たに魔力体を出すわけにはいかないので、音を聞いているだけだったそうだが。


 その情報収集の結果によると、どうやら俺にご飯を奢ってくれていた彼女達は、レジスタンスを自称する組織の幹部みたいな位置合いの人達で、俺は眠らせた後に馬車でここまで運ばれて来たんだそうだ。

 眠らせた犯人は俺だけど。


 ここにいる人達は俺の前であまり重要なことを話さないように気を付けていたらしく、国の名前は誰も口にしなかったみたいだが、目的は何と無く察せたという。

 どうやら、俺をさらったのはレジスタンスの仲間集めの一環だったみだいだ。


(随分と強引な仲間集めだな。こんなことで仲間になる奴がいるのか?)

(どうじゃろうな……薬で思考能力を落として洗脳でもするつもりではないか?)

(だとしたら完全な犯罪者だな)

(レジスタンスなんぞを名乗っておるくらいじゃ、犯罪者とも紙一重じゃろ)


 大量の睡眠薬も効かなかったのだから、その薬とやらがあっても俺には効かないだろうけど、本当にそんな手でくるのだとしたら随分と汚い連中のようだ。

 なんか、あまり面白い展開ではないかも知れない。


(帰ろうかな……)


 俺がそう考えたのと同時に、この部屋の唯一の扉を開く者がいた。

 見覚えのある鎧に、見覚えのある顔、それらが三つ。

 俺を攫った三人組だ。


 だが、その後に続いて入って来た顔は知らないものだった。


「彼は起きましたか?」


 俺の知らない顔が、俺の方を見てそう言った。


「はい、意識はまだはっきりしてないみたいですが、起きたようです」


 扉から入って来たのとは別の知らない顔が俺を覗き込み、俺が目を覚ましていることを告げる。

 狸寝入りを続ける気だったわけではないが、さっさと起きて、とりあえず状況説明も含めて話を聞いてみるか。

 興味のない話だったら転移で帰ろう。

 そして、あまりに下らない話だったら力尽くで脱出しよう。


 そう決めた俺は身体を起こした。


「おっと、にいちゃん、まだ寝てた方がいい。あんた相当薬を飲んだらしいじゃねえか」


 先程顔を覗き込んできた男性が、俺の肩に手をかけながら背中にも手を添える。

 この物凄く厳つい顔の人、もしかして医者なのか? 命を狩る側にしか見えないんだけど。


「大丈夫。薬はもう抜けてる。というか、盛った側の人間に心配されるとは思わなかったぞ」

「そらそうだな。説明はメリシネオル様がしてくれる。本当に大丈夫か?」

「ああ、問題ない」


 眠ってたの薬のせいじゃないしね。


「で、そのメリシネオル様ってのは、流れ的にさっき入ってきたセリアラナ達の後ろについて来たあの人か?」

「はい。私がメリシネオル、メリシネオル・ケレイナ・ファオンダークと申します。手荒な歓迎となってしまい申し訳ありません」


 俺の質問に対して、他の者、いつの間にか俺の前まで来ていた知らない女性が答える。

 メリシネオル・ケレイナ・ファオンダーク、名前からして十中八九貴族だろう。

 それがレジスタンスとはまた、随分とややこしいことで。


「その手荒だったってのは実害もないし構わないんだけど、俺は何の用でここに連れて来られたんだ? あなたが説明してくれるってことだったが」

「フォンダークの名を知らんのか? 言葉使いに気をつけなさい」


 メリシネオルへの問い掛けだったはずが、今度は、セリアラナが前に出て来て答える。

 いや、答えにはなってなかったけど。


「残念ながら知らない。長いこと世間とは離れた所にいたんでね。

 それに、謝るのか偉ぶるのかはっきりしてくれないか? 謝罪を受けた後すぐだってのに加害者側らしい人を敬えってのか?」

「う、いや、失礼した。この辺りでフォンダークの名を知らぬ者がいるとは思わなくてな」


 今度は問いかけた本人が答えてくれる。


「知っていようといまいと関係ありません。言葉に気を付けなくてはならないのは、セリアラナあなたですよ」


 そして、メリシネオルさんからも注意が飛ぶ。

 彼女はあまり悪い人ではなさそうだ。

 人攫いの親玉っぽいけど。


「それで、用件は?」


 相手の良し悪しを判断するためにも話を聞いてみないことにはどうしようもないので、ひとまず用件の内容を話してもらえる様に促す。

 セリアラナが下がり、メリシネオルさんが口を開いた。


「現在、私達の故郷の領地が何者かの乗っ取りを受けております」


 しかし、彼女の口から出て来たのは、俺の質問に対する答えではなく自分達の現状説明だった。

 予め彼女らがレジスタンスを名乗っていることは知っていたが、どうやらただのレジスタンスではないらしい。

 領地の乗っ取りか……普通に考えたら他の貴族に権力闘争で負けてって感じだろうけど、それなら『何者かに乗っ取られてる』なんて言い方はしないだろう。

 つまりは、その現状こそが用件ってことなんだろうな。


 レジスタンスを名乗ってるって時点で想像はついてたけど。


「その奪還が用件ですか?」

「はい。おっしゃる通り、我々は領地の奪還を計画しております。そのためには戦力と人数が必要ですので、力を貸してもらえる方を集めているのです。

 話の内容が内容だけに外で話すわけにもいきませんし、この者達を率いている私が直接お話しするのが筋だと考え、ここにお招きしました。

 拠点となる場所を知られるわけにはいかず、手荒な形になってしまったこと、改めてお詫びいたします」


 いやぁ、お詫びって言われてもですねぇ、なにか目に見える物でですねぇ……阿呆っぽいからやめよう。


 にしても、領地の奪還か。

 別段、俺が手伝う様な内容でもないな。


「残念だけど……」

「そう、ですか」

「こんなやり方で連れてくる様な人達を信用しろって方が無理があると思うよ」


 居場所を知られたくないのはわかるけど、協力者を集おうって時にやることではない。

 そもそも、そんなやり方を続けてたんじゃ念願の領地奪還を終えた後もうまくいきそうにない。相手だって、『こんなやり方で人を集める様な者に領主は相応しくない』とか言ってくるんじゃないか?


「お詫びは受け取る。今回の事で敵に回ったり情報を売ったりするつもりはない。

 というか、そのメリシネオルさんの領地……名前からしてフォンダーク領か? そこの——」

「我々の領地はフォンダーク領ではない。ケレイナ領だ」


 メリシネオルさんの後ろからセリアラナの訂正が入った。


「そう、ならそのケレイナ領という領地が何処にあるのかも知らないし、その領地を乗っ取ってる人達がどんな奴等なのかも知らない。そっちに肩入れする理由はないから、そこは心配しなくていい。

 ただ、こっちに肩入れする理由もないってだけだからな」

「……わかりました。

 ゴルダン、元の街に送って差し上げてください」

「承知しました」


 特に食い下がることもなく、俺は帰してもらえることになった。

 普通に帰えれるなら、転移も力づくもなしでいいか。


 彼女らも、こんな方法で招いた相手が協力してくれはしないと考えてはいたんだろう。それでも実行に移したってことは、それほど深刻な事態なのか……まぁ、考えても仕方がない。俺は魔族王国に帰って、このことは忘れよう。

 そう考えながら出口へと向かっていると、後ろでセリアラナがメリシネオルさんに謝罪しているのが聞こえてくる。


「申し訳ありませんでした」

「いえ、長く説得している余裕がないのも確かです。仕方がありません。この様な方法でも共に戦って頂ける方を探すため、数をこなすほかありませんね」

「しかし、やはりあの街では成果も薄いかと。下手するとあの者に情報が行きかねません」

「そうですね……」


 あの街ってのは魔族王国のことだろうな。確かに、せっかくなら他の領地で勧誘した方が良さそうだ。魔族に頼んでも、人族の領地争いに巻き込まれたくないって人の方が多いだろうし。

 多少距離はあるが、デーヴァンなら人族も多いから集めるのは楽になりそうなもんだけどなぁ。


「もちろん、他の場所での協力者探しも続けますが、あそこにいる人間は強い方が多いですから、短時間で戦力を揃えるために諦めるわけにはいきません」


 どうやら、人が多くて実力にばらつきがある場所と、少ないけど実力者が多い場所に分けて勧誘してるみたいだな。

 実力者が多い方で仲間が増えた方がいいから、本人がここにいるんだろう。


「それに、やはり協力者には魔族に慣れている方が望ましいでしょう?」


 ん?

 なんか不穏な台詞が出てきたな。

 この後に続く言葉が安易に想像できるんだけど……。



「領地を乗っ取っているのは魔族なのですから」



……やっぱり。

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