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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
七章 勇者と魔王とレジスタンス
78/154

七十七話

 何故こんなことに……。

 見知らぬ部屋に、見知らぬ人達。

 俺は何故ここにいるんだ。


(お主の自業自得じゃろうが)


 俺はどこで間違ったんだ。


(じゃからお主の——)


 ことの始まりは魔族王国の冒険者ギルドでのことだ。


(無視するでない!)


 俺は、ギルドの入り口で投げ飛ばされた人に巻き込まれた。


(なんじゃ? 声が届かなくなったか?)


 うるさい。


(なんじゃと!?)


 巻き込まれても無傷だった俺は、厄介事に巻き込まれないように軽い謝罪を受け入れてギルドにお金を預けに行ったんだ。


(うるさいとはどういうことじゃ! おい! ユウ——)


 彼女から声をかけられたのはその後のことだった……。



——————



「君、さっきの喧嘩に巻き込まれた人だろう?」


 ギルドの受付にミスリル硬貨について驚かれたりしつつも、無事にお金をあずけ終え、事前の予定通り依頼を受けようと掲示板の前で物色していた時、俺は背後から声をかけられた。

 振り向くと、人族の女性が、先の騒動で俺の方に飛ばされてきた男性と、その男性を投げ飛ばした本人であるもう一人の女性を伴って立っていた。

 彼女達は、この国では人族が珍しいということや、先ほど騒動を起こしていたとういこともあるが、それを差し引いても、ギルドにいる他の者達の目を惹きつけている。

 それもそのはず。彼女らの格好はまるで騎士のようで、冒険者達が好んで使用する動きやすい装備に反して、三人揃って甲冑を着込んでいるのだから。

 冒険者が跋扈するこの冒険者ギルドで揃ってそんな格好をしていては、目立たない方が無理というものだ。


「そうだけどなんか用か? 謝罪は受けたし、特に怒ってもいないぞ」


 このギルドに来てすぐ、扉を開けようとした途端に吹き飛んできた彼女の後ろにいる男性に俺は巻き込まれた。

 その際に発せられた『一昨日来い』という言葉のせいで、俺が何かしてギルドへの出入りを拒否されたのか? などと思ったのだが、そんなことはなく、この男性が投げ飛ばした女性と喧嘩し、胸ぐらを掴もうと伸ばした右手を掴まれて投げ飛ばされたんだとか。その際に女性が男性に対して発したのが、その言葉だったのだ。

 俺に向けた言葉ではないことに多少安堵し、ギルドから慌てた様子で出てきた投げ飛ばした本人と、投げ飛ばされた男性の両人から謝罪の言葉を受けたので快く受け入れ、何事もなく事は治った。


 はずだ。


「いや、彼らは私のパーティーメンバーでね、一応リーダーをしている私が謝罪しないわけにもいかないと思ったんだ」


 俺はもう終わった事だと考えているのだが、相手はそうもいかないらしい。

 まぁ、こういういざこざってのは遺恨を残すと後になって大ごとになることもあるみたいだし、軽く済ませるのではなく『正式に謝罪をした』という形式的な結果が欲しいのだろう。

 都合がいいことに、今俺達がいるのは冒険者ギルドの中だ。謝罪を受けたというのを証明してくれる人の目は多くある。

 最初に問題が起きたのはギルド内だったので、誰かが投げ飛ばされて、巻き込まれた人がいるという出来事を見ていた者は多いが、その後投げた女性が俺の方に来てしまったから、謝罪して事が済んだところを見ている者は少ない。


「なるほど。なら、謝罪は受け入れる。俺からこの件について文句を言うつもりはないから心配しないでくれ」


 これで、公の場で謝罪を受け入れて、今後も文句はいいわないという意思は伝えられたはずだ。

 現に、ギルドの受付さんや、周りにいる冒険者達が、これ以上問題は起こらなそうだと安堵した表情をしている。一部冒険者が物足りなそうな顔をしているのは見なかったことにしよう。そんなに喧嘩が見たかったのだろうか? 元気があってよろしいことで。


 そんなわけで、俺は謝罪を正式に受け入れたのだが、どうやら彼女はそれで納得できないようで、首を左右に振りながら俺の『謝罪を受け入れる』という言葉を否定する。


「そうもいかない。一度食事を奢らせてもらえないか? 言葉だけで済ませるのでは誠意に欠けるだろう」


 どうやら、本当に冒険者ではないらしい。

 普通、冒険者なら謝罪を受けたらそれで終わりだ。謝罪が足りないと謝る側が言い出すことなんてまずない。

 そんなことを言い出したら、相手によっては際限がなくなることもあることを知っているからだ。

 基本的にその日暮らしの根無草である冒険者に対して、『謝罪』という大義名分を与えた上で何かを渡そうとしたりしたらどこまで搾り取られるかわかったものではない。

 通常、それを言い出すのは謝罪を受ける側で、あまりに過ぎた要求をするようなら周りが止めるだろうが、今回は謝罪する側の言葉なので、どこまで要求されたとしても誰も止めることはできないだろう。

 もちろん、食事をと明言しているのだからそれ以上を求めたりしたら止めるものが出てくる可能性はあるが、それだって、被害者側が食事じゃダメだから金をなんて言い出したとしても、加害者側が詫びに何かと言ってしまっている以上は止めづらくなってしまう。


 ただ、それでもこちらが断ったりしたら、逆に『影で何か報復を?』などと勘ぐられる可能性が無いでもない。

 こちらとしても少し断り辛い提案であるのも事実。

 擦り傷の一つも負っていない者としては過剰な謝罪になるのだが……。


「わかった。今日は都合が悪いから後日でということなら」

「そうか、受けてもらえるとこちらとしても気が軽くなる。明日はどうだろうか、明日の夕刻頃にまたこのギルドで待ち合わせしよう」


 明日か。

 ピニエール達の尋問はまだ終わらないだろうけど、結界の方がどうなるか……。

 明確な時間ではなく曖昧な表現にしてこちらに気を使って貰ってはいるようだが、結局は子供魔王や魔族団の人達次第だし。

 と、考えていたら脳内でエルが声をかけてきた。


(城には妾が残ろう。食事にはお主が行けば良い)

(いいのか?)

(この者達のことだ、どうせ堅苦しい食事になるじゃろう。食事が美味ければ改めて食べに行くだけじゃ)


 確かに、見た目からして冒険者じゃないメンバーからして、気楽な食事にはならなそうだ。

 わざわざ謝罪のために食事をと言い出すくらいお堅いみたいだし。


「明日だと、彼女は予定があるから俺一人になるけどいいか?」

「ご迷惑をお掛けしたのは彼だけだったな?」

「はい」

「では、こちらとしても問題はありません。明日の夕刻頃にこちらで」

「わかった」


 先頭にいた女性が背後の男性に確認し、改めて大まかな時間を告げる。どうやら、本当に形だけの謝罪ということのようだ。

 迷惑をかけた俺以外なら、側から見たらパーティーメンバーに見えるはずのエルにはご飯を奢らなくていいと考えているらしい。

 まぁ、その方が分かりやすくていいけどね。

 というか、三人のエルに対する視線があまり好意的でない気がするのは気のせいか? 最初からエルと食事をするつもりはないのかも知れない。

 魔族の国に来るくらいだから、魔族への偏見とかはないと思うんだけど。


 彼女らとの話を終えた俺達は、依頼が貼ってある掲示板へと視線を戻して、いくつかの依頼書を剥がして受付へと向かい、そのまま依頼を済ませる為にギルドを後にした。

 受けた依頼は街の外で確認された狼型の魔物らしき影についての調査や、特定の薬草を採取してきて欲しいといったもので、どれも俺とエルが受ければ半日もかからず終えられそうなものばかりだ。

 パパッと終わらせて街の外の散歩もするつもりでいる。


 久々の冒険者らしいお仕事にちょっとワクワクしながら外壁の門へと向かう。


「本当に良かったのですか? あの男が連れていたの、あれ魔族でしょう?」

「私達の喧嘩に巻き込まれるくらい警戒心も低いみたいだし、あまり実力も期待できそうにないし」

「この国に来た以上、殆どの者が魔族や他種族と一緒にいることは初めからわかっていたことだ。明日来るのは彼一人だけのようだし、問題はないだろう。

 それに、あれに巻き込まれたのに彼は擦り傷一つ負っていなかった。実力もあるはず。もしくは幸運の持ち主か……何にしても、この街に来てすぐに同胞と出会えたのはこちらとしても運がいい」

「俺達の喧嘩に巻き込まれたって時点で運は良くなさそうですが、馬鹿力女もたまには役に立つんですね」

「そうやってあんたが喧嘩売ってきたからあんなことになったんでしょ? それとも何? また投げられたいの? 録に力もないくせに」

「いい加減にしないか。ここに来る前に、騒ぎを起こすなとあれほど言っただろうに。二人とも宿を取ったら規律というものを叩き込み直してやろう」

「「申し訳ありません」」


 といった彼らの会話は、俺達の耳には届いていなかった。

 聞いていたとしてもそこまで気にしなかっただろうけど。


 その日は、存分に冒険者活動と散歩を堪能してギルドに依頼達成の報告をした後に、俺達は城へと戻った。結局、結界の設置場所はまだ決まっていないとのことで、予定通り明日は俺一人で食事に行くことにし、用意されたベッドへと潜る。

 魔族の国の食事って、また虫食みたいなのじゃないといいけど。などと考えながら眠りについたためか、その晩は変な味の物を食べる夢を見た。



 翌日、ベッドから出て身支度をすませ、朝食の際に今日の予定を聞いていた。

 結界の設置場所は決まったが現在はその場所の準備中で、数日中には設置をお願いしたいとのことだったので、今日の食事にエルも連れてってもいいかと聞いてみたが、帰ってきた言葉は『念のため城にいて欲しい』というもの。

 どうやら、ピニエール達に確認した転移の魔具の転移先の設置場所に、撤去済みの場所以外にもある事が判明したようだ。これからまた撤去作業をしなくてはいけないので、もしできれば城にいてもらえないだろうかと頼み込まれてしまった。

 元より食事に行くのは俺だけのつもりだったので、こちらとしては問題はない。

 エルも子供魔王を気に掛けているので残っていることに不満はないようだ。


 そういうことで、食事には予定通り俺一人で行くことになったのだが、予定は夕刻。まだ朝食を食べている時間なので間がかなりある。

 なので、今日は予定までの時間を城の散策で潰すことにした。

 時間があると言っても、城から出ないで欲しいとお願いされているし、それくらいしかやることが無かったのだ。


 部外者が入ってはいけない場所もあるだろうと、案内人を付けてもらっての城内散策はなかなか楽しめた。

 武器庫や、宝物庫などの『これ入っちゃいいけない場所じゃないの?』と思える場所まで案内されたのだが、どうやら俺達が入れないのは子供魔王含む階級の高い人達の個人的な部屋くらいらしい。

 本当に殆どの部屋が出入り自由で、使用人達の自室まで案内されそうになった時はこちらから辞退した程だ。


 そうして、時間を潰し、日が傾き始めた頃に俺は冒険者ギルドへと赴く。

 ギルドは仕事を終えた冒険者達で溢れており、その中から目的の人を探すなんて至難の業だと思ったのだが、先日の三人組との再開は殊の外あっさりと果たすことができた。昨日と同様に、三人とも重装備でギルドに併設された酒場の席に座っていたからだ。

 普通に目立つ。


「では、店を予約しているので行きましょう」


 やはり三人の中では一番先頭に出てくる女性、彼女がこのメンバーのリーダー的な存在なのだろう。

 彼女に案内されたのは、少々裏道に入った場所にある店だった。

 知る人ぞ知る名店といった店なのだろうか。


(ちょっと、外見がアレだけど……いや、ご飯は美味しいのかも知れないし)


 ついそう考えてしまう程に、店は寂れていた。

 店の看板は傾き、店頭に飾られている植木は枯れかかっている。店の中から他の客がいる気配も感じられない。

 しかし、案内してくれたのはとても真面目そうな格好をした三人だし、おかしな店なはずがない。

 もしかしたら、魔族などの人族以外が多いこの街で珍しく人族向けの料理を出すのかも知れない。それなら、客が少なくても納得だし、味が悪いとは限らないだろう。

 そう自分に言い聞かせ、『いや、この人達この街に詳しそうじゃないし、そこまで珍しい店を知ってるか?』という考えをねじ伏せる。

 せっかくきたのだから希望を捨ててはいけない。

 

 俺が悶々と考えを巡らせている間にも、彼女らは店員に予約をしていることを告げて店の中へと入って行ってしまい、俺も仕方なく後に続く。


 店内は、店の外観に反して非常に整っていた。壊れた椅子やテーブルがあるわけでもなく、床には埃の一つも落ちていない。他の店と比べて秀でているというわけではないが、店の外を見た後だとその格差でよほど良い店に見えてくる。

 もしかしたら、それを狙っているのかもなんて考えながらも、店員に個室へと案内された。

 部屋には丸テーブルが一つと、その周りには椅子が四脚。部屋の内装自体は他の場所とあまり変わらず、綺麗ながらもシンプルなもの。

 先を歩いていた三人が奥から席につき、俺は必然的に出入り口の近くの席に座ることになる。すぐに部屋から出られるようにして、あまり警戒させないようにという配慮なのだろう。

 気持ちよく食事を楽しんでもらいたいという空気を感じられる。


「では、改めて自己紹介をしておこう」


 全員が席につき、店員に食事を持ってきて欲しいと告げた後に、リーダーらしき女性がそう話し出した。


「私の名前はセリアラナという。今は訳あって冒険者をして各地を回っているところだ。この二人は私のぶ……仲間で、こっちがゴルダン、こちらはマリエルだ」

「ゴルダンだ、よろしく」

「マリエルよ。昨日はごめんなさい」

「いえ、大した怪我も無かったし、その場で謝罪も受けてるし、昨日も言った通り問題ないよ。俺の名前はユウマ。同じく冒険者だ」


 互いに挨拶を済ませると同時に、料理が運ばれてきた。

 見た感じ、手抜き料理というわけでもなさそうなのに、提供がすごく速い。これは本当に名店なのかも知れない。


「では、謝罪の気持ちを込めて乾杯とさせてもらおう。乾杯」

「「「乾杯」」」


 俺は、料理と共に運ばれて来たエールを掲げ、中身を喉に流す。

 安酒を取り扱っている冒険者向けの飲み屋とは違い、喉越しよく爽やかな香りが鼻腔をくすぐるエールは、やはりここが非常にレベルの高い店なのだと確信させるものだった。ついついジョッキを傾け、中身を飲み干してしまう。


「いい飲みっぷりだ」


 そう言って、セリアラナは追加のエールを注文してくれたのだった。

少し長くなってしまったので一旦切りました。

中途半端になってしまって申し訳ありません。

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