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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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七十五話

「まぁいいや。とっとと契約しちゃおう」

「そうっすね、そのほうが俺も安心できるっす」

「アリシオーネさん、外部の者が奴隷契約する際の契約書の書類、もう一度用意してもらってもいいですか? 流石に二人ともってのはまずいでしょうか」

「いえ、この者も王国へ送りますから、同じで構わないと思います。今準備させますね」

「よろしくお願いします」


 アリシオーネさんが見張りの人に声をかけると、見張りが俺に手招きする。

 そのまま案内される形で、俺はピニエールの時に契約書を書いた所と同じ部屋へと移動した。

 机には先と同じ書類が置いてあり、それに署名すればアルファトの奴隷契約もできるようになる。


八潮雄馬(やしおゆうま)っと。これでいいか?」

「はい。確認しました」


 これまたピニエールの時と同様に契約書の文字が光る。これで書類については問題ないだろう。

 その後、アルファトが捕らえられている牢へと戻ったら既に契約の準備が終わっているところまで同じ流れだった。

 アリシオーネさんの手際の良さに驚かされる。


「よし、これでいいな。

 アリシオーネさん、これで二人とも契約を完了したわけですし、アルファトもピニエールと一緒に尋問してしまってはどうですか?」


 奴隷契約を完了し、俺はアリシオーネさんにそう提案してみた。

 今回の襲撃のように、どちらかだけが知っている情報というのもあるかも知れないと考えると、いっそのこと同時に話を聞いたほうが手っ取り早いように思える。

 口裏合わせをしないようにと俺が命じておけば、そういった面での心配はなくなるわけだしね。


「あ、そういえば、襲撃はまだあるのか?」

「来たのは何人っすか?」

「一人だったな」

「捕まえたんすか?」

「いや、自害したみたいだ」

「だとすると微妙っすね。一応、こういう場合は二人一組で動くはずっすけど、先に動いた方が自爆したってことは、もう片方は報告に戻ってる可能性もあるっす」

「なるほど……」


 結界の効果は確認できているわけだし、もう一人が来ても大丈夫だとは思うけど、敵が来るかどうかわからない状態が続くってのもなぁ。


「ちなみに、襲撃者が来そうなところは分かったりしないか?」

「次に来るとしたら、確実に転移板を使うと思うっす。転移先ならいくつかの設置場所はわかるっすよ」


 転移板? ああ、あの転移魔法を使うための魔法陣が書かれた板か。

 子供魔王の時もそうだったけど、この街にもしっかり設置されているらしい。やっぱり、内部に協力者が潜り込んでると色々やられるね。


「じゃあ、ピニエールと一緒にそのあたりを話しておいて。尋問室で聞かれると思うから」

「わかったっす」


 俺はアルファトの牢を後にし、一度ピニエールのところで報告と協力を改めて命じ、下の魔法陣室へと戻った。


 魔法陣室で俺が聞いたことを簡単に報告したところ、結界がうまく作動していることが確認されたため、追加の襲撃者についてはとりあえず様子見し、転移先の撤去を優先するという話になった。

 撤去にあたって俺達も手伝おうかと申し出てはみたが、流石に自分達の仕事だからと丁寧にお断りされた。

 子供魔王は魔族団と一緒に撤去作業に加わるらしい。


 そうなると俺達はやることがなくなってしまうわけだが、エリスマグナ家のご好意で再度迷宮に入る許可を貰えた。

 流石に果実の採取はやめてねとやんわり忠告されたが、前回、人数分ギリギリまで採らせてもらった上にその場で食べる分は別に採っていいというサービスまでしてもらったのだから当然だろう。


 ちなみに、迷宮に行くのは俺とエルの二人だけ。

 他の面々は転移先の撤去作業をするというのもあるが、そもそも俺達だけの方が攻略が早いので、この方が都合が良かったのだ。

 正直言って、これ以上この街に滞在してもやることがない。

 他の人達が転移先の撤去等をしている間に、さっさと素材を集めて、迷宮探索を終わらせてしまおうってわけだ。元々目的は迷宮なんだから。これがメイン。

 それで、全部済んだら適当に街の見学をして帰る予定だ。


「で、素材ってのはどこで取れるんだ?」


 現在俺達がいるのは迷宮の第十三階層。俺がアルファトに強制転移させられて、子供魔王達がグランドオーガと戦闘していた階層だ。


「鉱石が取れる二十五階層にある」

「欲しい素材って鉱石なのか?」

「うむ。ダンジョンクリスタルといってな、迷宮でしか採れない透き通った灰色の石じゃ。

 他の素材はエリスマグナ家が持っておったからの、そちらを融通してもらうことにした。この迷宮に無い可能性もある素材もあったからの、運が良かったといったところじゃな」


 一応、この迷宮は全攻略する予定なので、その時に見つかれば採っていくつもりらしい。

 結界のための魔道具は既に一個作ってるわけだから、素材自体は揃ってると……今迷宮に来てるの完全に暇つぶしじゃないか。


「ま、いいや。さっさと行こう」

「そうじゃな。迷宮の踏破は封印前でもしたことがない。楽しみじゃの」


 俺に同意を求めないでほしい。そこまで戦闘狂な思考はしてないんでな。

 迷宮を探索すること自体は楽しみだけど。



 それから二、三時間後、俺達は七十九階層にある最終階層前の転移場所まで来ていた。


「本当にすぐだったな」

「数日はかかると思っておたのじゃがな。たかだか数時間で辿り着けてしまうとは」


 そういや、俺達だけなら二日程で攻略できるとか言ってたな。

 それがまさかの数時間だっていうんだから、肩透かしもいいとこって感じか。

 これ、上の人たちが転移先の処理とか終わらせる前に帰ることにならないか?


「で、ここに入れば迷宮主の階層か」

「そうじゃな。転移してすぐ主との戦闘ということはまずない。こういった転送系の迷宮の場合は、主がおる部屋の前に地上への転移装置が設置されておるのが通常じゃ。

 この迷宮も、そのようになっているという情報は確認しておる」

「その情報とやらに迷宮主についてはなかったのか?」

「無かったの。四十五階層あたりより下の階層については何が採れるかという情報すら無かった。せいぜいが全何階層あるのかというものと、階層ごとの曖昧な特徴くらいじゃの」


 そもそも、この迷宮に入れる人を制限しているうえに、その中でもこの階層まで来られる人となるとかなり少なくなるからな。情報がないのも仕方ないだろう。


「じゃ、行ってみるか」

「何がおるかの」


 俺達は、せっかくの迷宮ってことで、階層を超えた探索魔法は使わずにここまで来ている。先がわかってしまっては興醒めだからな。

 実際、今まで見たことがなかった魔物が出てきた時なんかはなかなか面白かった。

 スライムなんて、前世で読んだ小説で出てきたやつよりよっぽど強かったぞ。


 ここでも、次の階層を探索魔法で確認せずにいく。

 迷宮を駄目にしてしまう可能性があるなら別だが、そうでないとわかっているならこのまま進んだほうが面白い。


 そうして転移した先には、大きな扉が佇んでいた。


「なんだ、最終階層は主の部屋だけか」

「みたいじゃな。つまらんの」

「ま、ここを探索(サーチ)の魔法で確認して帰ろう」


 エルが言っていた通り、主の部屋への扉の近くに次の転移の扉があった。これが地上に戻るための転移装置なんだろう。


「じゃ、探索っと……お」

「ほう、これはまた……」

「初めて見たな」


 俺の探索魔法に引っかかった魔物はドラゴンだった。

 正確には、グリーンドラゴンという風系の魔法を使ってくるドラゴンだ。


「竜種の中では中の下といったところの魔物じゃな。

 ドラゴンか……戦ってみたかったの」

「そうはいかんだろ」

「わかっておる」


 ここで主を倒してしまってはこの迷宮の機能が停止してしまう。

 この街は迷宮ありきで存在している所なのだから、もしこの迷宮が使い物にならなくなったら大変なことになる。

 俺達の勝手で、そんなことをするわけにはいかないのはエルだって理解しているはずだから、戦ってみたかったというのは叶わないとわかっていて発した言葉なのだろう。


「そういえば、屋敷にある鎧もドラゴンの鱗を使ってるって言ってたな」

「そうじゃ、あれの素材はグリーンドラゴンじゃぞ」

「やっぱりか。緑色だったからな」

「ここにおる者よりはサイズが小さいドラゴンじゃったがな。子供の頃に狩ったものじゃから、今考えれば然程強くもなかったのじゃろう」

「と言っても、わざわざ鎧にまでしているんだから思い入れがあるんじゃないか?」

「いや、あれは記念じゃなんじゃと家臣がやったのじゃ。その後にもドラゴンは数回討伐しておるからの、さして思い入れはない」


 なんつう子供時代だよ。


「さて、帰るとするかの」

「そうだな」


 こうして、エリスマグナの迷宮探索は一日もかからずに終わりを告げて俺達は帰宅し、流石に、数時間では他の人達の作業は終わっておらず、結局俺達も転移先の処理を手伝うことになった。


 翌日、ピニエール達がわかるだけの転移先については撤去を完了し、彼らへの尋問も終えたとのことで、俺達はエリスマグナを出ることにした。

 結局、追加の襲撃者は来ず、念のため数日は様子見で滞在しようかと提案したのだが、結界があるから大丈夫だとエリスマグナ家の人達に断られてしまったので、エルキール魔族王国へと帰ることにしたのだ。

 このままいて、また何かの騒動に巻き込んだりしても嫌だしね。


「魔王様、エル様、この度は誠にありがとうございました。エリスマグナ家当主としてお礼申し上げます」

「ウチは殆ど何もしてないけどね」

「妾もたいしたことはしておらんな」

「いえ、魔王様は敵が操っていたグランドオーガを討伐なさったとのことですし、エル様には新しい結界をいただきました。何も言わずに済ませるわけにはいきません」

「あれはエルさんがやってればすぐに終わるやつだったみたいだけどね。実際、一日もかからずに迷宮を踏破しちゃってるし」


 アルファトが操っていたグランドオーガは、三十階層の階層主だったのを転移で連れて行っていたらしい。俺達が改めて迷宮に入った時には、ピニエールと戦闘した部屋にいて、エルが一人で軽々と倒していた。

 ちなみに、アルファトが操っていた方のグランドオーガの素材は子供魔王にあげることになっていて、再度迷宮に入った時のものは、倒した他の魔物と共に殆どをエリスマグナ家にプレゼントしてある。子供魔王へのプレゼント用の魔道具作成に使う素材を貰ったお礼だ。

 結局、ダンジョンクリスタル以外の素材は迷宮内では入手できなかったからな。


「ま、今回は俺達が巻き込んだようなもんだからな。結界の件とトリアンさんを助けたことでおあいこでいいんじゃないか? その方が今後の付き合いもやりやすいだろ」

「そうですね。では、今後ともよろしくお願いします」

「うん。よろしくね。また来るようにするから」


 その後、俺もかなりお礼を言われたが、既にトリアンさんの件は相殺するって決めたんだからってことで押し切っておいた。

 どうせこっちでもお礼合戦になると思ったので先手を打っておいたのだ。

 俺ってば策士である。


(何を言っておる)

(言ってない。考えてただけだ)


 そんなこんなで、子供魔王と捕虜二名を含めた俺達一行はエリスマグナを後にした。


「なかなか楽しかったな」

「もう少し観光できる場所があれば良かったのじゃがな」

「迷宮をたった一日で攻略していながらそんな感想が出るのなんて、エルさんとユウマさんくらいだと思うけどね」

(わたくし)は使えるべき神にお会いできてとても幸せです!」

「うるさいなこいつ」

「ユウマさん、下手したらこの人ウチの国戻っても引渡しできないんじゃない?」

「まぁ、絶対にできないってわけでもないみたいだが、そっちに受け渡してまた迷惑かけても悪いしな。情報だけ話させたらこっちで面倒みるさ」


 こいつらを受け渡したせいで、ボスとやらの手先がエルキール魔族王国に資格が攻め込んでくるようなことがあったら寝覚悪いしな。

 ピニエール達の話を聞く限り、相手の一番の狙いは俺に移ってるらしいし、変な火種を置いて行ったりしなきゃそこまで迷惑をかけることはないだろう。


「王国まではどう行くっすか? 馬車は断ってたみたいっすけど」


 エリスマグナを出る際にマルクルさんから馬車の貸し出しを申し出られたのだが、お断りさせてもらったのだ。来る時だってここまで飛んで来たわけだし、もっと楽な移動方を貰ったからな。


「帰りの手段はアルファトがくれたんじゃないか。ほら、これで帰るんだよ」


 そう言って、俺は〈影転移(トランスファー)〉を発動し、目の前に転移の影を出現させる。


「え、いや……ああ、やっぱりバケモンだったっすんねー」


 自爆の魔法陣を解除した時にも言われた言葉だが、あの時は苦笑気味で言っていたのに対し、今回は完全に思考を放棄した感じで言われた。

 まぁ、自分達が使ってた裏技的なアイテムの力を使われた上に、それが自分から貰ったものだと言われたのだから、自分が使った道具を見たために使えるようになったのだと想像できたのだろう。

 俺だって、機能を全く知らないはずの物を、目の前で使ったってだけでそのアイテムすら無しに再現されたらあんな顔になるような気がする。


「神よ……」


 こっちの恍惚とした表情の奴には共感できないけど。


「その魔法、王国まで行けるの?」

「凄まじいですね」

「魔力の消費半端ないみたいだけどな」


 距離が遠いからかちょっと疲れを感じる。


「さ、行った行った」


 俺は、子供魔王をジェレーナに預け、影へ入るように促す。

 そして、二人が完全に転移したのを確認した所でエルに魔力体を解除してもらい、ピニエールとアルファトと一緒に転移し、魔族王国へと戻ったのだった。

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