表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
74/154

七十三話

「間違えました」


 部屋に入るなり俺のことを神と呼んだピニエール。

 両手を広げた格好で恍惚な笑みを浮かべたまま固まった彼を放置し、とりあえず部屋を出て、見張りの人に扉を閉めてもらった。


「なんですかあれ?」

「いえ、私にも何がなんだか……彼にはユウマさんに会わせろとしか言われておりませんでしたし、その時は言動に不審な点は何も……神だなんだというのも全く口にしていませんでした……」

「頭がおかしくなったわけではないのか……」


 アリシオーネさんの表情からして、ピニエールの言葉に混乱しているのは俺だけではないらしい。

 てっきり、爆風による火傷と再生との繰り返しのせいでおかしくなってしまったのかと思ったのだが、言動に不審な点がなかったのならその線は薄いだろうか。

 となると、なんらかの思惑があってということなのだろうが……。


「なんにしても、話を聞いてみないと始まらないって感じですかね」

「そうですね」


 俺は、ため息をつきつつも気合を入れて再び尋問室へと足を踏み入れた。

 どうやら、俺達が部屋の外で首を傾げている間に落ち着いたようで、ピニエールは静かに椅子に座ったままこちらへと顔を向けている。


「で、何がなんだって?」


 とりあえずは大丈夫そうだと判断し、ピニエールに話をさせてみる事にした。


(わたくし)、考えたのです」

「何を?」

「何故私がここにいるのか、ということをです」


 訳がわからん。

 話が飛び過ぎな感じがする。


「もっとわかりやすく話せないのか?」

「ですから、何故私がここにいるのか、それを意識を取り戻してからずっと考えていたのですよ」

「何故って……」

「はい。何故ここにいるのか、何故このような枷を嵌められているのか」

「そら、捕まったからだろ」

「その通り。では、何故捕らえられたのか。

 それは負けたからです。私があなたに敗北したから、捕らえられ、枷をつけ、ここにいるのです!」


 ピニエールの言葉はだんだんと語尾が強くなってきている。

 あー……神がなんだって話は意味不明だけど、やっぱ恨み言か何かなのかな?


「お前が捕まっていることと、俺を神って呼んだこととに何の関係があるんだ? 話が読めないぞ。お前の神って、あのボスとかいうやつじゃなかったのか?」


 もしかして、俺が入ってきた時にボスが助けに来たと勘違いした、とか?

 だとしたら間抜け感この上ない。


「あんな者、神ではありません。神の位に相応しくない!」


 おっと、ボスさん、一日足らずの間に降格させられちゃったよ。

 少しの時間の間に右腕が挿げ替えられたり、自分は位を落とされたりと、こいつの中のボスとやらは随分大変だな。


「あー……ボスが神じゃなくなったのはわかったが、そこからどう辿ったら俺が神って話になるんだ?」

「ボスは神ではなかったですが、私が神と見間違う程の力を持っていたのもまた事実。何故その力が通じなかったのか」

「そんな強く無かったしなあの杖は。即死系魔法を使って来たのは驚いたけど」

「そうなのです! あなたが全てにおいて上回っていたからあの程度の力では及ばなかったのです! 全ての結果から導き出される答は一つ! あなたこそ我が神にふさわしい!」

「ああ、そうなるのね。

 謹んで辞退させていただきます。じゃあな」


 こんな、頭がおかしくなってる奴と話しても時間の無駄なので、俺はさっさと退散させてもらうことにした。


「お待ちください!」

「……なんだよ。望み通り話は聞いてやったろ? 情報は他の人に話せばいい」

「私はあなたに忠誠を誓います!」

「いや、いらない」


 頭のおかしな奴からの忠誠とか、どちらかというと罰ゲームの類だろ。

 そもそも、そんなコロコロと主人を変えるような奴を信用できないし。

 忠誠なんてこいつにとって口だけで、他に良さげな人物を見つけたらまた新しい神に仕え始めると思う。

 他の奴の前で『神よ!』とかやってる場面が安易に浮かぶ。


「ご心配には及びません! 私、奴隷にでもなんでもなる覚悟がございます!」


 なんだこいつ、話が全然通じない。

 てか、奴隷? なんだそりゃ。


「奴隷ってなろうとしてなるもんじゃなくないか?」

「そうでもありません。自ら望んで奴隷になる者も少なくありません」


 いや、そんな馬鹿な。

 奴隷だろ?

 契約者に逆らえないとかそういうやつだろ?

 自分からなりたいなんて言う奴がいるわけがない。


「そんな奴が居るとは思えないけどな」

「いえ、ユウマさん。そういう人は本当にいるみたいですよ」

「え!?」


 ピニエールの言葉を肯定したのは、まさかのアリシオーネさんだった。


「本当ですか? 自分から進んで奴隷に?」

「この街に来る魔族団の方から聞いた話ですが、結構ある話なんだそうです。身売りの為に奴隷になることがあるんだとか」


 あー、借金とかそういうやつね。


「それは好き好んでってんじゃない」

「とにかく! 私は奴隷になってでもあなたに仕えましょう!」

「いや、それでもいらない」


 なんだって、態々そんな爆弾抱えなきゃいけないんだって話だろ。

 別に奴隷を欲したことなんてないし。


「ユウマさん、奴隷になるというのであればしておいても良いのではないですか?」


 アリシオーネさんまさかのお言葉第二弾だ。


「奴隷なんていりませんよ」

「それはそうかもしれませんが、この者についてはどちらにしても奴隷契約をすることが確定しています」

「はい?」

「そもそもの奴隷契約というのは……」


 アリシオーネさん曰く、奴隷契約をするのには奴隷紋(どれいもん)と呼ばれる魔法陣を体のどこかに刻み、それに契約者が魔力を通すことで契約が完了するものらしい。

 まぁ、想像通り、奴隷契約をしたものは、その契約者に逆らうことができず、特に敵対するという行為自体に制限がかけられるのだそうだ。


「契約者に対して攻撃を仕掛けたりすると、場合によっては死に至ります」

「おぉ……」


 アリシオーネさん、そんな淡々と言われると怖いよ。


「契約者に逆らえないことが尋問に役立つのは言うまでもないと思います」

「まぁ、確実に質問に答えますからね」

「はい。そして、奴隷契約は、相手の意思を無視して結ぶことも可能です。残念ながら、魔族や人族に関わらず、強制的に奴隷契約をされる者が少なからず居るというのが現状ですね」


 それはそうだろうな。

 そんなもんがあるなら、人攫いとかも普通に起こってそうだ。


「罪人に対して行う場合は、この強制の契約ができるというのは良い方向に働きますね。多くの罪人は強制で契約され、奴隷にされます。特に重罪の場合はほぼ確実に契約させられるはずです」

「なるほど」


 まぁ、確かに便利ではあるからな。

 あまり人道的とは言えないけど、そもそもが犯罪者だし。


「この場合の奴隷契約で気をつけなくてはいけないのが、契約を受ける相手です」

「受ける相手?」

「奴隷にした後に虚偽の証言をさせる事もできてしまいますから。信用出来る者に契約させる必要があるんですよ。エリスマグナの場合はエリスマグナ家当主が代々その役目を受け持っています」

「なるほど」

「ユウマさんなら任せられますし、どうせ強制契約させるなら、王国に戻るユウマさんかエル様に契約しておいて貰った方が手間がないです。

 自分から契約すると言っている以上、契約してしまえばいいと思いますよ」


 まぁ、ピニエール達を連れて帰るのも俺達がやることになるだろうし、その方が楽なのは確かかも。

 面倒になったら、魔族王国に戻ってから誰かに契約し直して貰えばいいし。


「契約の解除はできるんですよね?」

「できます」


 ならまぁいいか。


「じゃあ契約するか」

「ありがたき幸せ!」

「うるさい。

 アリシオーネさん、契約のための魔法陣を教えていただけますか?」

「こちらでやっておきましょう。外部の方が契約する場合は書類が必要になります。隣の部屋で契約書を書いてもらえますか?」

「わかりました」


 俺は尋問室のすぐ隣へと案内され、書類とやらに目を通してサインする。

 一応、本名を漢字で書いたけど、他の人に読めるだろうか。

 書類の内容は、アリシオーネさんの言った通り罪人の奴隷契約をするといったものだった。罪人の取り調べに出来るだけ協力する旨と、罪人の責任は契約者が持つことなどが書かれている。

 名前を書き終わった途端に文字が光っていたので、あの書類自体がなんらかの魔道具なんだろう。


「確認しました」


 書き終わった書類を見てそう兵士らしき人が部屋を後にする。書類の準備のためにわざわざ来てくれた魔族団の人だそうだ。

 俺はそのまま先程の尋問室へと戻る。


「終わりました」

「お手数をおかけしました。こちらの準備も整っています」


 アリシオーネの後ろには先程と変わらない格好でピニエールが待機している。


「契約はどうやればいいんですか」

「ここに魔法陣を書いてあります」


 彼女が指差す先はピニエールの右手。

 言われて目をやると、位置的に全体は見えないが、確かに、手の甲から反対側にかけて何かが書かれている。あれが奴隷紋と呼ばれる魔法陣なんだろう。


「奴隷紋は通常このように手に書くか、背中や首筋に書きます。背中や首筋の見えにくいところに書くのは奴隷である事を分かりにくくするため、犯罪者などの場合は奴隷である事を周知させるために手に書く場合が多いですね。

 ユウマさんは、この魔法陣に触れて魔力を流してください」


 先の説明で俺が奴隷契約に詳しくないと判断したんだろう、アリシオーネさんが丁寧に説明しながらやり方を教えてくれる。

 俺は、言われた通りピニエールの右手に指を置いて魔力を流していく。


(ああ、やられた)


 魔力を流し切る直前にそう思った。

 その時になって魔法陣の全容が見え、その魔法の内容を確認できたのだ。

 魔法の名前は<隷属契約(スレイブ)>というもので、契約相手を魔力的に拘束するという前世の感覚で言えばちょっと非人道的な魔法だ。これが魔術として魔法陣に落とし込まれている。

 この魔法を受けた者は契約者に逆えず、仮に逆らった場合には全身に痛みがはしる。その痛みは、逆らった場合の内容によって死に至るまで強いものにもなる。

 ここについては説明通りなのだが……。

 俺がやられたと思ったのは、契約解除の制約に関してだった。

 この契約を解除するには、契約者と奴隷自身の同意が必要なのだ。


(確かに契約の解除自体はできる訳だからな、嘘はついてない)


 俺は『契約の解除はできるか』ときいて、アリシオーネさんは『できる』と答えただけ。何一つ嘘は言っていない。

 俺の注意が足りなかったってだけの話だ。


(何かあったのかの? 随分と複雑な魔力を感じたのじゃが)


 俺がため息をつきながらも契約を完了した頃、エルが脳内で話しかけてきた。

 ピニエールに書かれていた奴隷紋は、契約が完了した時点で形が変わり、手の表裏にあったはずのものが手の甲に収まる程度まで縮小されていた。

 ピニエールは誇らしそうにその模様を眺めている。


(いや、ピニエールとの奴隷契約をしただけだ)

(それはまたおかしな状況になったものじゃな)


 俺は、魔法構築に集中していてこちらの状況を全く把握していなかったエルに、これまでの流れを説明した。


(それはいいように使われたの。確かに強制契約ができんわけではないが、魔力が多い者を隷属させようと思うと非常に苦労する。魔力の総量が多いお主ならまだしも、そこまで多くない者が契約しようと思えば契約時の素材を強化するしかないからの。素材を節約したかったのじゃろ)

(そうみたいだな)


 エルの言っていることは先程魔法陣を見た時点で把握している。

 魔力で縛りつける魔法である以上、魔力が多い者からは抵抗を受けてしまい契約自体がうまくいかない。

 故に、魔法陣を書く際に魔力保有量の多い素材を使う必要があるのだが、そんな素材が安いものではないことくらいは想像がつく。


(じゃが、契約の解除に関してはアリシオーネも把握しておらんかったかもしれん)

(どういうことだ?)

(奴隷にされた者が契約の破棄を望まぬ状況というのはそう多くないからの。奴隷契約の破棄ができん事例の方が少ないじゃろ。

 今回は、せっかく契約を望んでおるのじゃから素材の節約ができれば御の字という程度の感覚じゃったのではないかの)

(なるほど、それは確かにそうかも知れないな)


 そもそも、エリスマグナで奴隷契約をされる者の殆どが犯罪者なんだから、契約の破棄ができない方がおかしい。


(まぁ、そんなに困ることでもないから黙っとくか)

(そうしておくのが良かろう。ただ罪悪感を植え付けるだけになるかもしれん。こちらでマルクルにさりげなく伝えておく)


 そのエルの言葉を最後に、会話をやめてピニエールへと視線を戻す。


「で、話すんだろ?」

「もちろん! 私がする限りのことは全てお話し致しましょう!」

「アリシオーネさんはどうしますか?」

「私はエル様のところに戻ります」

「わかりました。俺もまた散歩に行きますかね。

 じゃあ、尋問にはちゃんと答えろよ」

「仰せのままに!」


 俺とじゃなきゃ話さないとか言ってくるかと思ったが、ピニエールは奴隷解約をしただけで満足したらしい。

 この感じからすると、自分が望まない限り契約が切れない事を知ってたなこいつ。


 俺はこの部屋に来て何度目かのため息をついて、アリシオーネさんと共に尋問室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ