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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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七十一話

 俺達が出されたお茶を飲み干した頃、客間に使用人が入ってきて準備ができたので付いてきて欲しいとの旨を告げる。

 どうやら、迷宮(ダンジョン)に入る前に案内された応接間へと移動するようだ。ジェレーナもついてきている。


「皆さま、お待たせして申し訳ございませんでした」

「大丈夫。お茶も美味しかったし、むしろ休憩できてウチは助かった」


 使用人に連れられるまま応接間に入ると、そこには既にマルクルさん含めエリスマグナ家が勢揃いしていた。

 本来ならば、『魔王を待たせたうえ足を運ばせるなんて失礼だ』なんて言われてもおかしくはないが、エリスマグナ家と魔族王国は対等な関係な上に当主である彼が足が悪いので仕方のないことなのだろう。

 子供魔王も全く気にしていないようだし。


 俺達はマルクルさんに勧められるままソファーへと腰を下ろす。

 それを見届けた彼は多少間を空けてゆっくりと口を開く。


「まずは、息子をお連れいただいたことに感謝を。大体のことは息子と娘から聞いております。危ないところを助けていただいたとのことでなんとお礼を言えば良いか」

「あまり気にしなくていいよ。トリアンさんを迎えに行くって言い出したのはこっちだし、誰かが怪我したってことでもないしね。無事に済んでよかったよ」


 というか、子供魔王は言わないがどちらかというとトリアンさんの方が俺達の事情に巻き込まれた形だしな。


「一応、あの人らはウチらに預けてもらいたいんだけど大丈夫?」


 彼女の言うあの人らというのは、もちろんピニエール達のことだ。

 彼らは現在この屋敷の一室に幽閉されている。俺達を案内した使用人と共に客間に来ていた者が両手と首に枷を付けたうえでどこかに連れて行っていた。

 重要な情報源な訳だし、子供魔王としても彼らの身柄は譲れないところだろう。


「問題ありません。しかし、あの者らがどのようにしてあの迷宮に入り込んでいたのか、その辺りを聞き出してから引き渡すということでもよろしいでしょうか」


 まぁ、自分たちの面子にも関わることだからな、完全にノータッチというのは難しいか。


「それについては妾に思うところがある」


 そう言って会話に参加したのは俺の隣に座っているエルだった。


「思うところ、ですか?」

「うむ。妾達を襲撃した者の片方、おかしな格好をしておらん方の男じゃが、その者は多分白眼族と多種族との混血じゃ」

「白眼の血を引く者ですか……」

「迷宮に入り込めたのはあやつがおったからじゃろうな」


 迷宮の周りに張られていた結界は、アリシオーネさん曰く『白眼族からの許可を得られてない者を識別する特殊な結界』ということなので、混血とはいえ白眼族の血を持つアルファトを含めた二人が通り抜けられてもおかしくはない。

 俺達が、ジェレーナさんと共に行ったことで何の問題もなく結界を通り抜けられたのと同様の流れということだな。


「結界の見直しが必要かもしれませんね……」

「それも妾達で開発し直す魔法があれば解決するかもしれんぞ」


 エルが言っている魔法というのは、これからエリスマグナ家と共同で効果の改善をしようとしている〈監視防衛(かんしぼうえい)〉の魔法のことだろう。

 確かに、あれには敵対勢力を感知する仕組みが組み込まれているからな。通過条件が『白眼族からの許可』という少し曖昧な内容になっている現在の結界よりは勝手が良くなるかも知れない。


「そうでした! 新しい魔法ですね! 研究はいつから始めますか?」


 マルクルさんは、監視防衛の話が出た途端に、目の色を変えて声の音量を一段階上げた。ピニエールの事とかは一瞬で脳内から吹き飛んだらしい。

 本来ならその態度を止めなければならないはずの他の家族達もエルに期待の目を向けている。

 ジェレーナさん以外は。


「事態の確認が先です父上」


 額に手を当ててため気をつきつつ父を嗜めるジェレーナさん。

 彼女の言葉で我に返ったマルクルさんが、こほんとひとつ咳をして話を続ける。


「失礼しました。襲撃者の二人組についてですが、やはり一度当家でも取り調べてから引き渡しをしたいと考えているですが、それでもよろしいでしょうか」

「そうだね。それを駄目とは言え無いと思う。それでいいよ」


 駄目とは言えない……多分これは頭にジェレーナがと付くんだろうな。もしくは他の教育係か。

 まだ子供である彼女に、そういった政治的な判断を完璧にしろというのは流石に酷というものだ。

 他の大人達ならなんと答えるか、そういう考えでものを言えるだけでもたいしたものだと褒めてやるべきである。


 ピニエール達のことといえば、俺も一つ気になっていることがあったな。


「俺からも一つ聞きたいことがあるんですがお聞きしても?」

「はい、構いません」

「さっきそちらの使用人の方が彼らに付けていた手枷と首枷は何ですか?」

「おお、それは妾も気になっておった。魔法を使う者を拘束するための物じゃと言っておったが」


 ピニエール達が連れて行かれる時に付けられていた枷、魔法を使う者を拘束できるというのであれば是非とも手にいてておきたい。

 今後もボスとやらからちょっかいを受けるのであれば必要になるだろうしな。


魔封枷(まふうかせ)をご存知ないのですか?」


 俺達の言葉を聞いたマルクルさんが疑問の声を上げる。表情を見ても俺達を馬鹿にするような意図は一切感じられない。本当に魔封枷とやらを知らないことが意外で、それほど有名な物なのだろう。

 だが、名前を聞いても俺が思い出すことはない。神様がくれたこの世界の知識にはない物ということだ。そうなると俺が知っているはずがない。

 エルの方にも軽く視線を向けるが、彼女も首を横に振るのみ。やはり知らない物らしい。


「父上、先程の話が真実であればそちらにおられる方は大魔王様と勇者殿でありましょう? 御二方が活動されていた五百年前はあの魔道具は作られていません。となれば、ご存知ないのも当然かと思います」


 互いに首を傾げてしまった俺達のフォローをしてくれたのは、マルクルさんとアレイナさんが座っているソファーの後ろに立つトリアンさんだった。

 彼の言葉通りなら俺たちがいた時代には存在していない物だったらしい。

 であれば、エルが知らないのも、俺の知識にないのも、どちらも納得である。俺の知識は新しい情報を更新してくれていないらしいからな。


「なるほど、これは大変失礼を致しました。あれは古い技術ですので御二方が知らぬものとは考えが及びませんでした」

「父上は考古学に関しては疎いですからな。私が説明致しましょう」


 そこからは父親のマルクルさんに代わってトリアンさんが説明してくれた。

 魔封枷という魔道具は、それを付けた者の魔力操作を妨害する為の物らしい。

 手枷により体内の魔力操作を妨害し、首枷によって魔法言語の発動を阻止する。そうすることで、魔法の発動や魔術の行使、精霊への呼びかけを阻止する仕組みなんだそうだ。


「それは便利な物ができたものじゃな。妾の頃は魔封香(まふうこう)を使って思考を阻害する他なかったのじゃが」

「魔封枷はそこそこ値がはる魔道具故、小さな村などでは魔封香が使われることがあります。しかし、魔封枷の方が流通しております。

 高価と言ってもそれを買うだけで財政を傾ける程のものではありませんからな。国や領地といった単位ではもちろん、普通の街でも大体は所持しておるはずです」


 そう言ってトリアンさんは説明を終える。


「トリアンさんは人族の事情に詳しいのですね」


 俺がそう口にしたのは、トリアンさんの言う『国や領地』と言う表現がなんとなく人族のそれを指しているように聞こえたからだ。


「私は人族に友人がおりますからな。それなりに知識を持っておるのです」


 人族の友人というのはなかなか驚かされる言葉だった。

 魔族と戦争していた俺達の時代とはかなり変わってきているんだな。


「息子は迷宮に関する知識を得る為なら多少の無茶なら形容する性格ですので。それが我が領地に得をもたらすこともあり、好きにやらせております」

「迷宮の研究に人種の垣根などありません」


 本当にこの人は迷宮の研究が好きなんだろう。普段はエリスマグナという領地を統べる家の次期当主としての威厳を感じるが、こと迷宮の話となると途端に子供のような顔を見せる。

 まぁ、魔法に関する話の時も同じ反応のようだが、それはマルクルさん達両親も同じだし。


「魔封枷については理解できました。それほど流通している物ならそのうち入手する機会もあるでしょうし、ちょっとだけ探してみます。話を脱線してしまい申し訳ない」

「いえ、それでは迷宮内でのことの詳細をお聞きしたいのですが」


 マルクルさんの言葉に答え、子供魔王が説明を始める。

 迷宮内で果物狩りをしていたことから始まり、カウ狩りの話、アルファトが現れたこと、転移させられたこと、転移先でピニエールに襲われたことなどを順に説明する。

 転移させられたあとのことは俺とトリアンさんが話し、トリアンさんはピニエール達に捕われた時のことを話していく。

 時折マルクルさんからの質問にも答えながら細かく説明を続け、気付くと既に窓の外は暗くなっていた。


「大体のことはわかりました。改めてお礼を言わせてください。息子を助けていただき本当にありがとうございました」

「ありがとうございます」


 説明を終えたところでマルクルさんアレイナさんの二人が頭を下げる。


「お礼なんていらないよ。寧ろ、ウチらの問題に巻き込んじゃって、こっちが謝らなきゃ。ごめんなさい」


 そう言って、今度は子供魔王が頭を下げる。

 それを受けてアリスマグナ家の面々が慌て、両者共に『こちらこそこちらこそ』と始めてしまい、エルが止めるまでそれは続いた。


「それでは、カンシボウエイ魔法の件については明日からということで」

「そうじゃな、今から始めてもロクに進めることもできんじゃろ」


 俺達はそうして会話を締め、応接間を後にした。

 現在は、客間から応接間まで案内してくれた使用人に連れられ、俺達は来客用の寝室へと向かっている。

 マルクルさんが最後に言っていた通り、監視防衛魔法の改善は明日から。今日はこのままこの屋敷に泊めてもらう予定だ。


 ちなみに、魔法の開発に役立てない俺は明日以降この街の観光をすることになっている。

 役立たずなくせに遊んでていいのだろうか。と考えないわけではないが、俺が言い出したことじゃなく、エリスマグナ家の人からの提案なんだし構わないだろう。


 そうして、用意された客室に着いた俺達は部屋に入って布団へと潜る。

 客室は二人一部屋で使うものを二部屋。

 割り振りは普通に、俺とエル、子供魔王とジェレーナというもので、その割り振りでいいと子供魔王が伝えた時はマルクルさんがなかなか面白い顔をしていた。

 そら、元魔王と元勇者を同部屋にって言われたらそんな顔にもなる。


 そんなことを考えながら、俺は眠りについたのだった。

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