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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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七十話

「今日はその言葉をよく聞く日だな」


 俺は額の汗を拭いながらそう口にする。


「ま、気持ちはわかるけどね。

 自分でもあんな炎の中で生き残れるとは思ってなかっただろうから」


 即死系の魔法ですら死ななかった俺じゃあるまいし、ピニエール自身にとっても予想外の出来事だろう。

 最後の台詞からして、本人も自死する気でいたのは明白だしね。


「でも、やっぱりあのまま死なれたりしたら後味悪いからさ。

 そもそもが敵なわけだし、こっちの勝手で動いても文句を言われる筋合いは無いよな」

「しかし……あの状況でどうやって?」


 トリアンさんがそう尋ねると、それに合わせてピニエールが体を震わせながらも視線を微妙に俺の方へ向ける。彼も気になっているんだろう。

 自分自身が経験したんだから、何をされたのかは分かってるんじゃないかと思うけどね。確認の意味も込めた視線なのかも知れない。


「単純に、回復し続けただけですよ。

 彼の身体がダメージを受ける端から回復させていって、爆発の炎が無くなるのを待ったんです」


 俺は、ピニエールにも聞こえるように少し大きめの声でトリアンさんへとそう説明した。


『回復しただけ』と簡単に言葉にしたが、実際はちょっとした賭けだったり……まぁ、成功したのだから構わないだろう。

 結果良ければ全て良しってやつだ。

 その結果もピニエール自身がその身体をもって証明してくれているしね。


「結構大変だったぞ。爆炎から自分とトリアンさんを守りながら、あんたを回復させ続けるってのは。

 杖に仕込まれてた即死系魔法を受けた時より疲れた」


 俺はピニエールを指差しながら言葉を続ける。

 本当に、防壁と回復っていう二つの魔法を制御し続けるというのは、思いの外疲れる作業だったのだ。

 体力とか魔力とかそういうのではなく、精神的に。


「なぜそんなことを?」


 トリアンさんが疑問に思うのも当然だろう。

 敵であるはずのピニエールを、そんな苦労までして助ける必要があるのか。むしろ、そのまま自死させた方が楽で安全じゃないか。

 とまぁ、相応の理由が無ければ俺の行動は意味不明だからね。

 ただ……。


「なんとなく……ですかね」

「なんとなく?」

「そうです。なんとなくです」


 今回の行動に深い理由は無い。

 実際は、前世で医者の先生が話していた『敵だった相手が仲間になる』という展開にならないかとか、そんなことも頭の隅で考えたりはした。ただ、それを踏まえても『なんとなく、そうしてみたかったから』というのが正解だと思う。

 回復し続けるという方法を思い付いたから試してみたかったのか、ピニエールのことが気に入ったのか、単純に情報源として利用しようとしたのか……自分でもはっきりと答えは出せないが、結局のところ『気分でやった』というのがしっくりくる。


「ま、兎にも角にも流石にもう手はないだろ? 大人しく捕まって子供魔王達の情報源にでもなってもらうぞ」

「ばけ……もの……が……」


 そこでピニエールの意識が途絶えた。

 まぁ、気絶するのも当然だ。あの時俺は彼を回復させ続けていただけだからな。

 絶え間なく襲ってくる炎に身体を焼かれ、それでも死なずにただその場に立ってるなんて、下手すれば死んだほうがまだマシだったかも知れない。

 流石に可哀想なことしたかなとは思ってる。

 いや、ホント。


「ま、これでお前が俺にしたことはこれで全部ちゃらってことにしてくれ」


 俺は、白目を向いた状態のピニエールに対してそう言葉をかけた。

 もちろん聞こえてはいないだろうが、返答を期待していたわけでは無いので気にしない。

 一応、俺も殺されそうになった訳だし、これくらいなら許されるだろう。


「さて、これでこっちは片付いたっと。エルの方はどうなったかな」


 俺は、意識を上層へと向けながら探索魔法を発動する。

 俺を連れてきたアラファトとかいう奴がここを三十階層だと言っていたから、それが本当ならば転送前にいた十三階層との距離はそこまで遠くない。探索魔法で十分確認できるはずだ。


「ん? なんだ、この状況」


 十三階層を確認した俺はついそう呟いていた。予想通り探索魔法で上の状況が確認できたのだが……。

 俺が少し呆けていると、先の呟きに反応したトリアンさんから「どうかしたのか」と説明を求められた。


「いえ、俺と一緒に来た仲間達の状況を確認していたんですが、どうにもおかしなことになっているみたいで」

「どうやって確認したのかが気になるが、まずい状況なら助けに行った方が良いのではないか?」

「助けが必要って感じではないのですが……ちょっと待っててください」


 俺はそう言ってトリアンさんとの話を切り、エルへと思考を飛ばす。

 万が一戦闘中だった場合に、いきなり話しかけて邪魔しちゃ悪いと思ったから探索魔法で確認したのだが、あの状況なら思考で会話しても問題は無いだろう。


(エル、そっちの状況はなんだ? どうなってる)

(おお、ユウマかお主の方は終わったのかの?)

(ああ、終わってる。これからピニエールとやらを縛り上げてそっちに向かうつもりだったんだが、状況を確認しようと探索魔法を使ったらよくわからんことになってたからな)

(さっきの魔力はやはりお主か。ならば見ての通りじゃ、こちらも大した問題は起こっておらん)

(確かに問題は起こってないみたいだが……)


 現在、転移前の十三階層では戦闘が行わられている。

 俺を転移させ、元の場所に戻っていったアルファトがエル達と戦っているのだ。


 それ自体は予想通りではある。ピニエールが子供魔王を殺せとか言ってたからな。

 ただ、予想外だったのが、戦いがまだ終わっていなかったことともう一つ。


(なんでお前は見学してんだ?)


 そう、もう一つの予想外なものというのは、その戦いにエルが参加していなかったことだ。


 俺がアルファトを見逃した時、エルは俺がおもちゃを残したことを喜んでいた。

 敵をおもちゃと呼ぶのはどうかとも思うが、まぁ、そう言って喜んでいたんだ。

 だと言うのに、なぜエルはアルファトとの戦闘に参加していないのか。


 いや、厳密に言うとアルファトとの戦闘ではないな。

 アルファトは既にエルにとっ捕まっているんだから。


(そのグランドオーガはやっぱりアルファトが操ってたのか?)


 エル達、いや、子供魔王達か、彼女らが現在戦っているのは、十三階層に現れた場違いのグランドオーガだった。

 俺が、アルファトをトリアンさんと間違えて助けようとした時に居た、十三階層では出てこない筈の明らかにレベルの違う魔物。その魔物と、子供魔王、ジェレーナ、アリシオーネさんの三人が戦っている。


(そうらしいの。

 アルファトといったか? この小僧を妾が気絶させた途端に、一緒に来ておったこの魔物が暴れだしたのじゃ。操者がおらんようになったからじゃろうな)

(それでなんで子供魔王達だけで戦ってるんだよ)


 魔物を操ってたのがアルファトだったということは、襲われてると勘違いしたあの時の状況からみて想像がついたし、その操者であるアルファトが気絶したせいで操られてたグランドオーガが自由になってしまったというのも十分理解できる。

 しかし、それがなぜ、エルが戦闘に加わらずに見学している今の状態になるんだ?


(これは戦闘訓練というやつじゃ。ただの授業じゃな)


 流石に訓練で使う魔物じゃないだろ。

 子守はどうした……。


(それより、話をしておるくらいなら、さっさとこちらに戻ってこんか)

(はぁ、わかったよこれから戻る)


 とりあえずはエルが居るのだから万が一もないだろうが、実際に俺が戻ってこの目で見ていた方が安心できそうだ。


「トリアンさん、やはりあちらも助けが必要な状況ではないので心配はいりません。とにかく俺達は仲間がいる所まで戻りましょう」

「そうか。少年がどうやってそのことを知ったのかは気になるのだが、助けてもらっておいて不躾な真似はできんな。

 その者はどうするのだ?」


 トリアンさんが気絶しているピニエールを指差す。


「連れて行きますよ。とりあえず持ち物検査でもして、魔道具や魔具を持っていないか確認したら縄で縛りましょう」


 魔法が使える相手に、縄なんて然程意味を為さないとは思うが、何もしないってわけにもいかないしな。


 そうして、ピニエールを縛り上げてここでの用事を終える。

……というか、俺は無理やり連れて来られた訳であって、用事があってここに来たんじゃ無いんだけどな。

 まぁいいか。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「行く……というのは先程のあれでか?」

「そうですね。さっきのあれで移動します」


 そう言った俺のすぐそばに、黒い影が滲み出る。


「私は、先程これに飲み込まれて、気付いたら少年の背後に移動していた……これはなんだ?」


 なんだと聞いてはいるが、トリアンさんの表情からして既に予想はついてるんだろう。


「トリアンさんのご想像通り空間転移の魔法ですよ。正確には〈影転移(トランスファー)〉というらしいですけどね。最近覚えました」


 この魔法は、アルファトが俺を転移させようとした時に、手に持っていた魔具に描かれた魔法陣を見られたから手に入ったものだ。

 エルの説明通り、魔法陣さえ見られれば覚えるのは簡単だった。どういうものなのか、とか、どう使うのか、とか、その辺は勝手に理解できたし。

 これも魔法知識のおかげなのだろう。


 ちなみに、トリアンさんが言っている先程ってのは、ピニエールが纏魔法で攻撃してきた時のことだ。

 あの攻撃がトリアンさんを巻き込みかねないものだったので、俺の後ろに移動したのだが、その時にこの影転移魔法で転移させた。


「転移魔法……本当に存在していたのだな。

 この迷宮(ダンジョン)の各階層で使われているそれらしき移動方法を研究しても実現できなかったのだが」

「まぁ、この魔法と迷宮で使われているものとは完全に別物だと思いますけどね。似てはいますが」

「確かに、発現している事象がかなり違うからな」

「とにかく行きましょう。ここに入るだけでいいので」

「承知した」


 今発動している影転移魔法は、アルファトらが使っていた魔具に込められていた魔力の何十倍もの量を込めたので、移動にかかる時間は一瞬だ。

 ここに飛び込めば即目的地に着けるだろう。

 徐々に飲み込まれていく出来損ないの魔具とは違うのだ。


「トリアンさんはお先にどうぞ。俺はピニエールを運びますので」


 普通、こんな状況で自分の知らない魔法に飛び込んでいくのはかなり勇気のいる行動だと思う。

 一度経験しているとはいえ、その時は俺が直接トリアンさんを魔法に取り込んで強制的に影転移に飲み込まれただけだ。自分から入るとなると話が変わってくる。

 だというのに、トリアンさんは顔に期待の二文字を浮かべている。研究家を自称するだけあって、未知のものを体験する事が楽しみで仕方がないのだろう。


「ではお言葉に甘えさせてもらおう」


 そう言うと、トリアンさんはなんの躊躇いもなく影転移の中へと飛び込んでいった。

 本当になんの躊躇もなく。

 度胸があるのか、ただの研究馬鹿なのか、判断は難しいが現状では余計な手間が省けてありがたい。


 俺は影転移を再度発動し、ピニエールを抱えてトリアンさんを追って転移する。

 影転移を発動し直したのは同じ場所に出たらトリアンさんを下敷きにしかねないと思ったからだ。アルファト達が使ってたやつみたいにゆっくりとした転移じゃないからな。どうなるのか分からずに入ると——


「痛たたた……」


 出現場所で尻餅をつくことになる。

 俺は、お尻をさすりながら立ち上がるトリアンさんの横にピニエールを転がして、問題のグランドオーガへと視線を向けた。

 ちなみに、俺達が転移してきたのは、気絶したアルファトの上に座ってグランドオーガとの戦闘を眺めているエルの近くだ。戦闘している所の近くに出てトリアンさんが巻き込まれたりしたら面倒だし。


「で、どうなってるんだ?」

「今のところは特に問題なさそうじゃな。もう少しで倒せるじゃろ」


 確かに、エルの言う通りグランドオーガは既に瀕死で、ここからそう長いこと戦闘が続く感じではない。


「あれは……アリシオーネか?」


 尻をさすりさすりしながら俺達の近くへやってきたトリアンさんが、グランドオーガとの戦闘を見てそう口にする。今現在、子供魔王を守りながら戦っている自分の妹を見つけたのだろう。

 質問か独り言かは分からないが、一応、そうですよと答えておいた。

 状況が優勢だということが見て取れたからか、彼が戦闘に乱入したり、見学している俺達に文句を言ってきたりする事はなく、三人揃ってグランドオーガと彼女らの戦闘の見学を続ける。


 それから間も無くしてグランドオーガが地に膝をつき、そのまま前のめりに倒れたことで戦闘終了。ぱっと見では子供魔王ら三人に怪我はなさそうだ。


「お疲れ様」

「あ、ユウマさん、どこいってたの?」


 彼女らに近付いて声をかけたところ、一番に返答したのは子供魔王だった。アリシオーネさんに守られながら魔法で攻撃をしていた彼女が一番体力が残っていたのだろう。

 ちなみに、一番疲れてるのはジェレーナだった。先頭に立ってグランドオーガの周りを走り回りながら攻撃してたからな。そら疲れる。


「ちょっと、あそこにいる奴に転移魔法で連れ去られててな。この迷宮の三十階層に行ってた」

「トリアン兄様!」


 俺が子供魔王の言葉に答えるため、エルが下敷きにしてるアルファトを指差しながらそう言うと、そちらに視線を向けたアリシオーネが声を張って走りだした。

 まぁ、そっちにトリアンさんも居るからね。

 俺はジェレーナと子供魔王に回復魔法をかけ、彼女の後を追い、子供魔王達も後ろからついてきていた。


「兄様、ご無事で何よりです」

「アリシオーネ、心配をかけたな。お前も来ているとは思わなかった」

「案内役で来ていました」

「そうだったか。それで彼らは——」

「トリアンさん、とりあえず迷宮から出よう。ウチ疲れちゃった」

「これはっ、エルキール様、いらっしゃるとか気付きませんで申し訳ありません」


 子供魔王が声をかけたことで、彼女の存在に気付いたトリアンさんは慌てて頭を下げた。

 戦闘を見ていた時は、アリシオーネさんを心配して他のメンバーをあまり見ていなかったのだろう。


「いいよいいよ。とにかくウチもう疲れたから早く屋敷に戻りたい」


 子供魔王の言葉を受け、俺達は迷宮を出ることにした。

 彼女らが討伐したグランドオーガをマジックボックスに収納し、影転移で迷宮第一階層へと移動。

 最初は屋敷に直接戻るつもりだったのだが、影転移について軽く説明した際に、屋敷に転移すると言ったら、出入りを管理している者が混乱するから迷宮の一階層から戻って欲しいと頼まれ、言われた通りに迷宮の第一階層の外とつながっている出入り口前まで転移することになったのだ。


 そのまま迷宮から出て屋敷へと戻り、トリアンさんは一度着替えをしてくると言って自室へ向かい、アリシオーネさんは俺達を迷宮に行くときとは別の客間に案内してくれた後に、屋敷に戻ったことを両親に伝えるべくその場を後にした。子供魔王の護衛であるジェレーナはまたお隣の部屋だ。

 ちなみに、ピニエール達もこの部屋に寝転がされている。なにやら、魔法を使える者を拘束する魔道具があるらしく、それを持ってくるまでは俺達で監視しておいて欲しいそうだ。


 俺とエルと子供魔王の三人プラス下手人二人で、エリスマグナ家の面々が来るまでまったりと過ごしたのだった。

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