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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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六十五話

「本当に迷宮(ダンジョン)なんだな」

「あの倉庫のような場所から繋がっていると思うとなかなか異様じゃな」


 倉庫の扉の先。

 そこは草原だった。

 建物に入って最初に目にするのが青々とした草花ってのは、確かにエルの言うように異様なものを感じる。

 俺達の後ろには、迷宮に入る時の物置小屋とは別の、小さな建物がポツンと建っている。今はその扉から子供魔王達が出てくるところだ。


「転移魔法かなんかか?」

「これは規模の大きい迷宮では良くある光景じゃな。外見とは全く違う場所に繋がっておるのじゃが、仕組みの解明はされておらん」

「そうですね。兄もこの件について色々仮説は立てておりましたが、結論は出ていないようでした」


 俺達がこれから狩りのついでで探しに行くアリシオーネさんのお兄さん。迷宮研究家(ダンジョンけんきゅうか)を名乗っているその人が結論を出せていないということは、未だに解明できていない事柄なのだろう。


「これが解明できて、しかも実用化なんてできたら尋常じゃない利益を生みそうだな」

「じゃろうな」


 正直、利益云々を抜きにしても手に入れておきたい技術だ。

 自分で使うってだけでも便利なんてもんじゃない。移動が一瞬で済むなんて、いろんな場所に旅行し放題じゃないか。

 異世界を堪能したいと思っている俺からしたら垂涎ものの魔法といえる。


 まぁ、旧魔族派のボスとやらは似たような魔法か魔術を使えるっぽいんだけどね。

 やっぱり、ボスとかってやつには是非ともお会いしたい。


(せめてあの空間転移の魔具が完全な状態で手に入ればなぁ)

(お主の魔法知識であれば使えるようになりそうじゃしの)

(知識に無い魔法だと普通に覚える必要があるんじゃないか?)

(そうでもなさそうじゃぞ。監視防衛の魔法を使ってみぃ)


 俺は、エルの言葉に『何を根拠に』と疑問を抱きつつも、子供魔王達が合流するまでの時間潰しにはなるだろうと足元の小さな範囲に対して監視防衛魔法を使ってみる。

 すると、俺の疑問を笑い飛ばすかのように足元には半円のドーム状に防壁魔法が出現した。


「は? なんでだ?」

「どうかしましたか?」


 アリシオーネに声を返され、自分が声に出してしまっていたことに気付く。


「いや、なんでもない」

「そう……ですか」


 突然声を上げてしまったことに頬が赤らむのを感じながらも適当にはぐらかし、魔法を解除してからエルとの脳内会話に戻る。


(なにをしておる)

(すまんすまん。でもさ、この魔法って俺が構築できなかったからってわざわざエルに構築してもらった魔法だろ? なんで構築もできないのに使うことができるんだ?)

(答えだけを簡潔に言えば『神が雑じゃから』じゃな)

(簡潔すぎて全くわからん)

(そうじゃの……そもそもこの考えは妾の想像でしかないのじゃが、すでに知っている物は使えても新しく作り出すことができないから、じゃろうな。

 ひとえに魔法構築と言っても作るのと使うのとでは全く違う。神のやつは作る方の知識を与えんかったのじゃろう)


 詳しく説明されてもよくわからなかった。

 魔法の新しい構築ができないって言われても、一応、魔法の形を変えたりとかはできるんだけどな。


(妾も、それができておったから監視防衛が使えるのではと思ったのじゃ。魔法の形状変化は魔法の使用の応用、魔法同士の組み合わせを覚える前の練習に使われておった。

 つまり、知らんはずじゃったものを説明を受けて使うことはできておるということじゃ。

 そこから先、魔法の掛け合わせによる新しい魔法構築や、完全な新魔法の構築はお主自身で学んでゆくしかないじゃろうな)

(うーん、うまく理解できないけど、完成品は使えるけど作るのは難しいって事はわかった)


 もとより、魔法知識なんて貰い物なのだから、自分でどうにかしないといけないと言われれば学んでいくだけの話だ。

 どうしてもって時はまたエルに頼めばいいわけだしな。

 それに、既に構築済みの空間転移については使えるだろうってことなのだから問題はない。


「みんな揃ったし、行こうユウマさん」


 そうこうしているうちに、後から入ってきていた子供魔王とジェレーナが合流し、探索メンバーが全員揃っていた。


「よし、じゃあカウ肉と迷宮の果実を採りに行くぞ!」

「存分に集めてやるのじゃ!」

「おー!」


「あの……兄の捜索は……」

「エルキール様まで……」


 アリシオーネさんとジェレーナの言葉は聞こえているがスルーしておく。

 お兄さんはあくまでついで。目的が違うのだから仕方ない。

 子供魔王は後で怒られそうだけど。


「地図によると果物が採れるのは五階層あたりみたいだな」

「そうですね、五階層から九階層までが森林階層となっていて、果物が採れます。基本的には五階層か六階層で採っています」

「五階層まではずっと草原地帯が続くと。出てくるのもゴブリンかコボルトだけみたいだな」

「それはつまらんな。さっさと進んでしまおう」


 エルの意見には俺も賛成だが。


「トリアンさんと入れ違いになっても面倒だしある程度散策した方が良くないか?」


 いくら目的が違うと言っても、完全に無視していくわけにもいかないしな。


「兄がここに入ったのは昨日のことだそうです。しばらくは戻ってこないでしょうから大丈夫だと思いますよ」

「心配であれば探索魔法を使えばよかろう。他の冒険者はおらんのじゃから、魔力を隠せておらんでも問題は無いじゃろう」


 結局、十階層くらいまでは魔物も大したことないので、俺が各階層で探索魔法で確認して進むことになった。

 探索魔法の使用を各階層ごとにしたのは念のため。

 デーヴァンにあった、暗がりの洞窟からなる迷宮で起こっていたミノタウロスの変異種への進化。万が一あんなことがここでも起こっていた場合に、自分達がいない階層で俺の魔法に反応して暴れだしたりしたら面倒なことになりかねないからだ。

 まぁ、念のためというか、子供魔王がついてきていることでちょっとばかり心配性気味になっているアリシオーネさんとジェレーナに対する配慮って感じだが。

 そうこうしながら俺達は歩を進めていく。


 その後、俺が使った探索魔法の魔力にアリシオーネさんが驚いてしまったり、子供魔王の戦闘訓練がしたいからとジェレーナに頼まれてわざとゴブリンの集団に遭遇してみたり、なんてことはあったものの、俺達は順調に階層を降りてゆき、第一の目的地点の森林地帯へと到着した。


「ここが森林地帯か」

「本当に木ばっかり!」

「エルキール様あまり離れてはいけません」

「大丈夫ですよ。ここもあまり強い魔物は出てきませんので」


 魔族王国の周りも木ばっかりだったと思うけど、なんてことは口には出さず、俺は周囲の確認を始めた。

 マルクルさんに借りた地図には、ここで出てくる魔物はウッドスネークとサプリングトレントという共に討伐ランクの低い魔物だけとなっている。

 蛇型の魔物であるウッドスネークは、木に擬態するために体表が樹皮のような模様をしている成人男性より少し大きいただの蛇だ。毒も持っていない。

 サプリングトレントは、道なしの森にいたムーヴウッドの親戚のような魔物であるトレントの苗木みたいな魔物だ。進化するとトレントになると言われている。

 ムーヴウッドとトレントの違いは攻撃の種類で、頭上にタネを飛ばす攻撃をしてくるムーヴウッドに対して、トレントは木の根や枝を四肢のように使って攻撃を仕掛けてくる。

 あと、顔があって鳴き声をあげるらしい。

 トレントという魔物は、中級に成り立て程度の冒険者だと苦戦してしまうくらいには討伐ランクがあるのだが、苗木であるサプリングトレントは大きさが然程ないこともあって弱い。


「魔王様の実力でしたら問題なく倒すことができると思います」


 ここまでの子供魔王の戦闘訓練の様子を見た感じで、子供魔王は思ったより力があることがわかった。

 エルの指導が良かったのか、魔法の実力がかなり上昇していて、攻撃魔法もかなり使えるようになったようだ。

 特に風系統の魔法が得意らしく、〈飛斬(ひざん)〉でゴブリンの頭を跳ね飛ばした時なんかはジェレーナもかなり喜んだ様子を見せたりしている。

 残念ながら風系統の精霊とは契約していなかったため、まだ風の精霊魔法は使えないのだが、風魔法が得意ならば風の精霊との契約も難しく無いだろうとエルが告げ、これまたジェレーナと子供魔王を喜ばせていた。


「探索魔法で見た感じでも特に問題はなさそうだし、果物狩りといこうか」

「うち、お店で食べた赤いやつがいい!」


 子供魔王が言っているのは、苺のような果物のことだろう。店で出てきたものは俺の記憶にある苺とは違い、リンゴほどの大きさをした不思議果実だった。


「食事処で出されるもので赤い果物となると、プルベリーでしょうか。あれは六階層で採れる物ですね」

「じゃあ、早く六階層に行こう!」

「まてまて、まずはこの階層で採れるものをある程度採ってからだ」


 早く早くと急かす子供魔王を制止し、俺達は果物狩りへ繰り出していく。

 そして、数時間をかけて五階層で採れる果実の全種入手に成功し、そのまま六階層でも子供魔王ご所望のプルベリーをはじめとした数種類の果実を集めることができた。

 特に、子供魔王とエルは、いくつかなら持ち帰り用と別にこの場で食べてもいいというアリシオーネさんの粋な計らいによって満面の笑みになっている。


「うちもう満足」

「妾もこのまま帰っても良いような気分じゃ」


 いや、満足しすぎだろ。


「じゃあ、カウ肉はいらないんだな」

「そうじゃ! カウ肉を忘れておった! 先に進まなくてはな!」

「うちはもういいかな」


「エルキール様、トリアンさんを屋敷にお連れするというエリスマグナ家からの依頼が終わっていませんよ」

「ごめんなさい。わかってます。うち、忘れてません」


 エルはカウ肉への執念から、子供魔王はジェレーナの眼光への恐怖から、この先へ向かう意欲を取り戻したようだ。

 何はともあれ俺達は森林階層を後にし、十階層目で再び現れる草原階層、地図には別名カウ種の階層と書かれている階層へと足を踏み入れた。



——————

《エリスマグナ屋敷の迷宮 三十階層》



「これで準備完了ですね!」

「そうっすね。準備したのほとんど俺っすけどね」

「よくやりました。あなたの能力は便利ですね!」

「戦いにはあまり向いて無いっすけどね」


 ユウマ達がカウ肉狩りに精を出しているその頃、同迷宮三十階層にある大広間に二つの影があった。

 彼ら、いや、三つ眼の方の男の活躍によって、ボスの指令である『標的の抹殺』、その計画準備が今完了したところだ。


「後はあなたが標的をここに転移させてくるだけですね!」


 準備どころか、計画の開始まで三つ眼の男の役目のようだ。


「標的との戦闘はピエニールさんお願いするっすよ。俺は戦えないっすからね」


 ピエニールと呼ばれたダークカラーの道化師の格好をした男は、一方の手に持った杖を楽しそうに回しながら、もう一方の手をひらひらとさせて雑に了承の意を示す。


「にしても、こいつはどうするんすか?」


 三つ眼の男が指差す先には、一人の男性が縄で拘束されて転がされている。


「白眼族は珍しいですからねぇ、ボスへの手土産にしましょう」

「いや、怒られるっすよ。エリスマグナ家と対立することになるっすし」


 ぐるぐる巻で放置されているその男性が、ユウマ達が迷宮探索のついでで探しているトリアン・エリスマグナ。つまり、エリスマグナ家の長男でアリシオーネの兄その人だった。


「あなたが見つかってしまったのが悪いのでしょう」

「それはまぁそうっすけど……能力使ってる時は近くの動きに弱くなるって言ってあったじゃないっすか」


 彼は、趣味の迷宮研究の最中、三つ眼の男が抹殺計画の準備をしているところに偶然遭遇、遠目から人族だと判断して声をかけてしまい、ピニエールの襲撃を受けて捕まり、今に至っている。

 襲撃時に気絶させられていたが、現在は意識を取り戻し、寝たふりをして様子を伺っている状態だった。


(この者達はなんなのだ? どうやら何者かの命を狙っているようだが、標的は私ではなさそうだ。それに、この者達を指揮しているボスと呼ばれる者……どうにかしてこの場から逃げ出さねば。父上に、いや、王国の者に伝えねばならん)


 彼の現状はただ体に縄を巻かれているだけ。

 ただそれだけなのだが、そのことが彼にとって更なる不安をもたらす結果となっている。

 自分を白眼族でエリスマグナ家の者であることを知っていながら、魔法や魔術に関する対策が一切されていない。つまり、自分が逃げ出そうとしても簡単に抑えられるという自信と余裕が相手にはあるということだ。


(ただの自信家か阿呆であれば良いのだが、そうではないだろうな。それに、あの三つ眼の男、あれはおかしい。なぜあのような者に手を貸している)


 彼は必死に状況を整理しながら突破口を見出そうとするも、なかなか良い策は思い浮かばない。


「じゃあ行ってくるっす」

「今回は失敗しないでくださいよ」

「わかってるっす。ちゃんと気を付けるっすよ。そんな難しい事でもないっすし」


 三つ眼の男はそう言うとスッと姿を消してしまった。


(消えた? あれは迷宮の入り口と同じ原理か? いや、それよりも、相手が一人になった。狙われている者には悪いが動くなら今が好機)


 この場に残ったもう一人、ピニエールと呼ばれていた男がトリアンを警戒する様子はない。


(エリスマグナ家がいつまでも結界魔法だけが能ではないことを思い知らせて見せよう)


「魔法の対策をしていなかったことを後悔するがいい! くらえ〈炎槍(フレイムランス)〉っ!」


 トリアンが放った魔法は、彼を縛り付けていた縄を焼きながら、目標であるピニエールへと突き進んでゆく。

 この場にユウマがいたら、『エルがよく使ってるやつの普通の炎版か、名前あったんだな』とでも感想を述べていただろう。

 何発も連続で出し続けるエルのものとは違い、トリアンが使用した炎槍は一発しか出せてはいないが、その一発だけで比べればエルが使う黒炎を形状変化させたものとの差は大きくない。

 油断しているピニエールを行動不能にするには十分な威力である。

 しかし——


「おや、起きていたのですか。困りました。あまり暴れられると計画に支障をきたし兼ねません」


 炎槍はピニエールを貫く直前にふっと掻き消えてしまった。


「なっ……今のは……どういうことだ!?」

「ボスの命令を遂行している(わたくし)の邪魔をしようというのですか? それはあまりよろしくない。よろしくありませんよ!」


 言葉とは裏腹に楽しそうな笑顔のピニエールが手に持った杖を頭上に掲げると、装飾の髑髏の瞳に嵌められた石の片方が光を発する。


「もうしばらく寝ていてください」


 彼が杖を振り下ろすと同時に、トリアンは黒い雷に貫かれて意識を手放す。


「まったく、ボスへの手土産に傷がついてしまいましたね。殺さないようにするのはなかなか手間がかかります」


 先程の三つ眼の男の忠告を聞く気が全くない道化師は、やれやれといった様子で再び杖を弄び始める。


「はやく来ないですかねぇ」


 そして、三十階層の広間には杖で地をリズミカルに叩く音と、彼の鼻歌のメロディのみが響き渡っていく。

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