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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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六十一話

「エルキール様!?」


 街の中からやってきた魔族団第四番隊団長らしき女性に肩車されている子供魔王を見て最初に口を開いたのはアリシオーネだった。

 魔力不足になっていることも、俺達と争っていたことも、すべてを忘れたかのような驚愕の顔で子供魔王を見ている。

 次いで反応したのがリクレーンだった。

 隊長らしき女性と子供魔王に困惑しながら話し出した。


「隊長、なんで……それに、争いをやめろってのは……」


 増援が来たかと思ったら何故か魔王を連れてて、しかもなぜか剣を下ろせと言われる。それは混乱することだろう。

 でも、それで敵が目の前にいるのに目を離しちゃうのはまずいと思うよ。

 それほど子供魔王登場に驚いたのか、それとも一緒に来た隊長と呼ばれる人を信用し、俺達がまだ何かしようとしたら彼女がなんとかしてくれると考えてるのだろうか。

 その両方かもな。


「説明は後だ。魔王様の御前だぞ」


 隊長と呼ばれた女性は子供魔王を肩から下ろしながら、リクレーンを嗜めるようにそう言った。


「失礼しました。エルキール様、本日はお日柄も良く? えっと、魔王様におかれましては? お元気そうで何よりで——」


 隊長の言葉を受けその場に片膝をつくリクレーンが、『結婚式か何かか?』と問いたくなるような言葉を並べ始める。

 魔族の挨拶ってこういう感じなんだろうか。


「お前は敬語なんぞ使えんのだから言葉を無理に出そうとせんでいい」

「すんません」


 違った。リクレーンが変なだけだった。


「とにかく、喧嘩はここまでだ。私はこの方達を待機所にお連れする。お前もついてこい」

「え? 待機所に連れてくんですか? 取り調べ塔じゃなくて?」


 状況に頭がついていかないのか、発する言葉の全てにクエスチョンマークが付くリクレーン。

 てか、取り調べ専用の塔があるのか、なんか怖いな。


「この方達はエルキール様のお連れだ。先日、魔王城に賊が入ったことを受け、我々魔族団がこの街をしかと守れているのかを確認する為、極秘で進めていた抜き打ち演習にご協力していただいた。後でちゃんと評価をもらうからな、だらしない評価だった時は覚悟しとけよリクレーン」

「そんな、言っといてくれれば……」

「それでは抜き打ちにならんだろ。

 アリシオーネさん、よろしければ白眼の方にもご同席願いたいのですが」

「わかりました。私が伺います」

「アリシオーネさん久しぶり! 顔色悪いけど大丈夫?」

「エルキール様、お久しぶりです。ただの魔力切れですので問題ありません」

「倒れてる奴らはお前らが救護部屋に連れて行け。全員鍛え直しだな」


 リクレーン達に守られていた者達と隊長達を連れてきた者達は、隊長の言葉に肩を落としながらも気絶して倒れてる者達を担いで街の中へと向かって行く。

 まぁ、皆んな完全に巻き込まれただけだし、しかも、今立ってる人達はエルの黒雷槍に耐えるか避けるか出来てた人達なわけだからお手柔らかにしてあげてほしいところだ。


「では参りましょう。エルフェルタ様、ユウマさん」

「え!? エルフェルタ様!? それにエルフェルタ様と一緒にいてユウマってもしかして……」

「その前に、エルさんかユウマさんのどっちかこの壁直せない? このままだと、うち怒られる」


 隊長の言葉に驚き目を見開いたアリシオーネと、黒炎で開けた壁の穴を指差しながら困った顔をしたエルキールに見つめられる俺とエル。


「ユウマ、直してやれ」

「穴を開けたのはエルだろ」

「お主がやった方が頑丈にできるじゃろ」

「いや、壁作るくらいなら変わらないんじゃないか? 全魔力を込めるってんじゃないんだから。まぁ、いいけどさ」


 最近野営とかで土の家を作ったりしてたから、壁の穴を埋めるくらいはどうってことないし。


「瓦礫の片付けとかはしないぞ」

「それは私の隊員達にやらせよう。ユウマさんは穴を修復するだけでいい」

「わかった」


 エルが開けた壁の穴を〈土の牢獄(アースプリズン)〉で埋め、そこに〈大地操作(アースコントロール)〉を使用して形を整える。

 あっという間に穴が空いていたとは思えない状態まで修復できた。

 お騒がせしたお詫びというわけではないが、おまけで土の牢獄使用時に込める魔力を少し多めにして頑丈にし、ついでに周辺の壁の崩れて弱くなっていたところも大地操作で補修しておく。ここまでやっておけば、後で文句を言われるようなことはないだろう。


「できたぞ」

「なかなか良い出来ではないか」

「だろ? 自分で言うのもなんだが、完璧な出来栄えだ」


 前世では日曜大工程度のことしかやっていなかったが、これが所謂、意外な特技ってやつなのかも知れない。


「うちのお城もユウマさんに直してもらおうかな。壊れちゃってるとことか結構あるし」

「それは専門の方に頼んでくれ」


 素人が他人の仕事を奪うような真似をしても、いい結果が生まれることは殆んど無い。大概は、揉め事になってごちゃごちゃな結果になり、互いに損をするだけだ。

 まぁ、揉め事になろうが確実に立場を確立できるのなら話は別かも知れないけど。

 なんにしても、そこまでしてやりたいことでは無いのは確かだからやる気はない。


「では私についてきてください」


 隊長さんが先頭に立ち街の中へと向かい、俺とエルと子供魔王、そしてリクレーンとアリシオーネが後に続く。

 先程までの騒ぎと、重要人物満載のこのメンバーにざわついている街へ入る列に並ぶ者達をスルーし、騒ぎの元と言ってもいいかもしれない街の外壁門を通り抜け、俺達はやっと正式な形でエリスマグナへと足を踏み入れた。


「ここがエリスマグナか」

「うちも来るの久しぶり」

「外見は昔から変わっておらんかったが、確かに中はだいぶ変わったようじゃ。変わらんのは屋敷ぐらいかの」


 エリスマグナ屋敷の街の中心にはその名前の通り大きな屋敷が建っている。

 あれが街の名にもなっているエリスマグナ屋敷だろう。

 遠目で正確には分からないが、三階建ての立派な屋敷だ。迷宮(ダンジョン)を管理しているところだというから無骨な感じをイメージしていたのだが、現物は全く異なる前世の海外旅行系の広告か何かで見るような優美な屋敷だった。ヴィクトリア・ハウスだかなんだかってやつだな。


「本当にあそこに迷宮があるのか?」

「迷宮の入り口はあの屋敷の裏にあるのじゃ。あの屋敷の役目は言うなれば管理塔じゃな。昔と変わらぬのであれば、屋敷の横に迷宮に続く道があって、そこをエリスマグナ家が管理しておる」

「その点は変わりありません。今まで問題が出ていない以上管理体制をあまり変えるべきではないと考える者が多く、昔からあまり変更されていないんだそうです。唯一変わったのが通行証を作った点でしょうか」

「通行証?」

「それについては後ほど説明します。今はウェルーニア様についていきましょう」


 ジェレーナに言われ俺達が他の人達を待たせてしまっていたことに気付く。

 先程まで俺達の後ろを歩いていたはずのアリシオーネさんとリクレーンさんも、俺達を追い抜いて隊長さん達と一緒にこちらを見ている。

 なんかちょっと恥ずかしい。


「ウェルーニアってのはさっき子供魔王を肩車していた人か?」


 俺は、他の人達を追いかけながらジェレーナに尋ねる。


「そうです。王国魔族団第四番隊の隊長を務めておられます」

「ということは一応見たことがあるはずなんだな」


 魔族団の隊長なら、この間の子供魔王との謁見の時にあの場所にいたはずだから、その時に見ていてもおかしくない。


「でも、あんな人見覚えがないんだよなぁ」

「妾もあの者を見た記憶はないの」

「いえ、あの場におられ……そうでした。ウェルーニア様は普段は目元を隠すタイプの鎧を身につけておられます。それで彼女自身を見た記憶が無いのでしょう」

「おお、そういえば全身を真っ赤な鎧で固めてる奴がおったな」

「ああ、結構かっこいい鎧だったから俺も覚えてるよ。まさか着てたのが女性だとは思わなかったけど」


 あの時の鎧、結構ゴツくてめちゃくちゃ重そうだったからな。俺の前世の感覚で考えると、中身は筋肉もりもりの男性って感じなんだが、この世界だと男女とかあんまり関係なく強い人がいるから結構驚かされる。

 種族によっては女性の方が力が強い場合もあるくらいだ。

 まぁ、前世でも強い女性はいたけど。


「今回は休憩されていたということもありましたが、魔王様がかなり急かされましたので鎧を付けずに駆けつけてくださいまして」

「それは悪いことをしたの」


「着いたぞ。エルフェルタ様、ユウマさん、ここが我々魔族団が使用している待機所です。狭いところですが、お入りください」


 ジェレーナの説明を聞いているうちに待機所とやらに着いたようだ。

 目の前にあるその建物はあまり豪勢なものではなかった。

 というか、どちらかと言えば質素と言った方がいいレベルの……なんていうか、広さ以外はほぼ民家だな。


「これが王国に使える者達が使う場所なのか?」

「ユウマさんの疑問はわかる。しかし、このエリスマグナではこれが当たり前なんだ」


 ウェルーニアさんが言うには、ここエリスマグナでは、この土地を管理しているエリスマグナ家の屋敷より豪華な建物を建てること自体が禁じられているそうだ。

 エリスマグナ屋敷より豪勢な飾り付けはもちろん、屋敷より階数の多い建物も禁止、それどころか高さで屋敷を越えることも駄目なんだとか。


「我々魔族団はエリスマグナ家にこの街を預けている身、そんな我らが使う場所をあまり飾り立てるわけにはいかん。

 それに、我ら魔族団は力こそ正義。自らの地位や力を見せつける必要のある王国内ではともかく、協力関係であるこの街で権力を誇示する必要はない」


 これはどちらかというと魔族ならではって感じがするな。

 人間の権力者だったら、協力関係だからこそ上下をはっきりさせるとか何とか言って、ここぞとばかりに豪奢な建物を建てることだろう。


「なるほどな、確かに、使い勝手は良さそうだ」


 待機所の中に入ってみると、利便性を重視して作られた場所だということがよくわかった。

 入ってすぐに武器や防具を仕舞う部屋が設置され、緊急時の出撃で武器だけでもすぐに手に取って出られるようになっているし、応接間と言えるような部屋にはソファーとテーブルくらいしか置いていない。

 ギルドや魔族王国の王城の応接間のように壁に剣や盾が飾られていたりもせず、それどころか花の一つも飾られていなかった。

 聞く所によると、この待機所の裏手はくんれんじよ訓練場になっていて、手が空いている者はそこで鍛錬しているんだそうだ。


「エルフェルタ様をこのような場所にお迎えするのは失礼かとは思いましたが、今回の件についてはエリスマグナ家に直接赴くと色々面倒がある可能性が捨てきれませんので」

「いや、妾もこのような場所は嫌いでは無い。これはこれで趣があるというものじゃ」


 俺は、ウェルーニアさんの言葉に少しだけ棘があったように感じたんだが、エルは気にしないらしい。

 そりゃまあ、いきなりこんな騒ぎを起こしたんだから怒ってるだろうな。俺達がこの街に来ること自体は聞いていただろうが、この街の守りを崩しに来るなんて聞いてるはずがないんだから。


「はぁ……それで、ジェレーナさん、説明はしていただけるんでしょうね。先程は魔王様から『後で説明するから早く来てくれ』と言われたので何も聞かずに出て行きましたが」

「それは——」

「妾が説明してやろう」


 ウェルーニアさんの問いに堂々と名乗りをあげるエル。

 というか、今回の件は完全にエルの独断なんだから、エルが説明してくれなきゃ困るけどな。


「今回のことの始まりは門番に妾達が捕まったことから始まる——」


 まるで物語を紡ぐ語り部のように始まったエルの説明は、所々エル自身の主観的な部分を含んでいたものの、結構ちゃんと詳細を伝える内容となっていた。


「——そこで、妾は、良い機会じゃからこの街の守りがしっかりできておるのか確かめることにしたのじゃ。そして——」


 牢の壁をぶち抜いた説明は非常にあっさりしたものだったが。

 いや、確かに最初からそんなようなことを言ってたけどさ。


「——と、そうしている所にお主らが来たというわけじゃ」

「……なるほど」

「じゃからな、白眼の娘。妾の目的はこの街の守りを見ることじゃった。約束通り説明はしたぞ」

「え?……あ、はい。そう、でしたか」


 突然、話を振られておどおどと返事を返すアリシオーネ。

 そうか、エルが率先して説明を始めたのは『攻撃を防いだら目的を話す』と言っていたあの約束を果たすためだったんだな。


「とにかく、事情はわかりました。我が隊への被害はそこまでひどくないようですし、現に今回のことでこの街を護るべき我々の力不足にも気付けたので、不要な騒ぎではなかったと言えなくもありません」

「いや、そんなことないだろ。頑張ってたぞみんな」

「では、ユウマさんはこの街を攻め入るのは難しいと思うか?」

「それは……」


 軽い気持ちで、エルと戦った人達のフォローを入れたつもりが、ウェルーニアの言葉によって逆効果になってしまった。

 実際、あの程度ならばこの街を制圧するのは難しくないだろう。

 こちらの動きが読める白眼の秘術は強力だが、避けようもなく、対魔剣でも防げない魔力量を込めた魔法を一つ唱えただけで攻略できると思う。


「まぁ、此奴を基準にするのはどうかとも思うがな。妾が気になったのはやはり結界じゃな」

「あ、あの結界もそう簡単に破れるものでは、その、ないの、ですが……」


 戦っていた時の力強さは何処へやらと言った感じで口を閉ざしていたアリシオーネも、結界のこととなると口を出さずにはいられないらしく、勇気を振り絞ってエルに否を叩きつける。

 ちょっと、尻すぼみになってたけど。


「そうじゃな、並の魔法では壊されんじゃろう。ましてや魔術が基本となった人族ならば尚更じゃな。しかし、魔族側に裏切りがあることを考えると、ちと心細い」

「でも、あの結界は父が、この街の結界魔法師の中でも最高峰の父が張ったもので……その、あれ以上となると、今度は屋敷周辺の結界が……」

「屋敷にも結界があるのか?」

「ユウマさんは人族だから詳細は教えられないが、この街には二重に結界が張られている。一つは街を囲む外壁に沿って張られているもので、もう一つがアリシオーネさんが言っていた屋敷周辺に張られているものだ。どちらもアリシオーネさんの父君が結界を張っている」


 それ、アリシオーネさんのお父さんが結界を張れなくなったらどうするんだ?


「父が張れなくなったら兄が引き継ぎます」


 俺の疑問が顔に出ていたのだろう。アリシオーネが説明してくれた。


「なんにしても、一つの魔法を使い続けておるというのは良いことではないの。

 引き継ぐ力というのは悪いものではない。しかし、停滞する技術は往々にして力を失っていくものじゃ」


 エルの言い分も尤もではある。


「だからといって、俺達がどうにかできることでもないだろ。結界魔法についてもっと研究した方が良くないか? くらいのアドバイスをするくらいのことしかできないし、それくらいのことなら当人達もわかってるだろうしな」


 自分達で理解していることを他人に指摘されると、どうにも嫌な気分になるものだ。

 具体的な解決策もなく口を出すことではない。


「そこでじゃ、妾にとっておきの策がある!」

「策……ですか?」


 仁王立ちで腕を組み、自信満々に宣言するエルに対し、恐々と聞き返すアリシオーネ。

 多分、無茶振りをされるのではとでも思ってるんじゃないかな。彼女からしたら、なんとなくの思いつきで自分の街の外壁を壊すような相手なわけだし。


「とっておきの策、それは……」


 エルは、言葉を溜めて自分を見る者達を見回すと……。



「新しい魔法を作る!」



 堂々と宣言した。


 当たり前で。

 難しい。

 無理難題を。

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