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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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六十話

「おお、あれがエリスマグナを管理してるっていう白眼(はくがん)族か。瞳が無いんだな」

「無いわけではない。名前の通り白い眼、つまり瞳も白いから見えておらんだけじゃ」

「それはまた随分と不思議な……普通、瞳の色が薄ければ白じゃなくて血液の赤色になるもんじゃないのか?」

「それはこのまま見ておればわかるじゃろ」


 見てればわかる?

 どういうことだ?


「アリシオーネさん、気を付けてくれ。あいつらどっちもバケモノらしい。女の方としかやってないが、対魔剣でも切れない魔法を使ってきやがる。しかも、その女が言うには男の方はもっと強いんだとよ」

「どちらもそんなに強い魔力は感じられないのですが……副隊長のリクレーンさんがそう言うのであれば何か仕掛けがあるのでしょう。手加減はしません!」


「挨拶は済んだかの?

 にしても、白眼族よ、この街の結界はちと弱すぎんか? ちょっと魔法を当てただけで壊れよったぞ」

「その結界はこの街随一の結界魔法使いである私の父が張っている物です。弱いはずがありません」

「これが随一と呼ばれる者が張った結界なんじゃな……魔法研究をしておった者達に、もう少し結界魔法について研究させておくべきじゃったか。国の要にある物がこの程度とは……」


 結界魔法か、俺の魔法知識には殆ど無いな。人族の方ではあまり流行らなかった魔法なんだろうか。


(というより、あの時代では結界魔法自体があまり使われておらんかった。戦の基本がお互いの領地の間で争う形じゃったからな。短期的な使い方をする防壁系統の魔法や、相手を封じ込める封印魔法の方が主力になっておったのじゃ)


 ちなみに、結界魔法と防壁系統の魔法との違いは、大まかに言ってしまえば持続性と効果範囲の二点だ。

 防壁魔法が一時的に周囲や対象を守るために使われるのに対して、結界魔法は継続的に街や国を守り続けるために使われる。

 俺の発案でエルが作ってくれた魔法〈監視防衛(かんしぼうえい)〉なんかは、防壁魔法をベースに使っているものの、結界魔法に近いかも知れない。

 結界魔法を使っていないのは、単純に俺の魔法知識に殆ど無かったからだ。さっきエルが結界魔法って名前を言うまで思い出してすらいなかった。


(もしかして、防壁魔法を使うより結界魔法にした方が良かったりするのか?)

(一概にそうとは言えん。防御力という面では防壁魔法の方が数段上じゃ。しかし、範囲を広げ過ぎるとその分防御力も落ちてしまうからの……魔核を使う際の効率で考えても……ふむ、これは、あとでまた組み替えて試してみるかの)


 俺達が脳内で子供魔王にプレゼントする予定の物の相談をしている間も、アリシオーネと呼ばれる白眼族の女性や四番隊の副隊長らしいリクレーンという男性は警戒するようにこちらを睨んでいる。

 あっちが二人になったことで、こっちも俺が参戦するかもしれないとか警戒してるのだろうか。


「あなたは私達白眼族について詳しいようですね。結界魔法を使うことも知っているようですし、そういえば、先程『待っていた』とも言ってましたが、どういうことですか?」

「いやなに、白眼族の者達とは昔ちと関わりがあったというだけのこと。先の発言は、妾はお主らと一度手合わせ願いたいと思っておったのでな」

「目的は白眼の人達ってことか、呼んで来させたのは失敗だったか?」

「いえ、呼んでいただいて良かったです。

 目的が私達との手合わせならば他の人達には手出ししないと考えていいのですか?」


 周りに倒れている者達に軽く目線をやりながらエルへと問いかけるアリシオーネ。


「そうじゃの。そもそも妾はそこに転がっておる者達に大した怪我は負わせておらん。ちと気絶はしておるがの」

「では、私が相手になりますので正々堂々と一対一で戦いましょう」


 一対一で戦いたいというのは、彼女が相当強く腕に自信があるのか、もしくは他の者を守るための申し出か……来たばかりでエルの実力が正確にわからない状況での提案なんだから後者だろう。

 結界魔法の使い手みたいなことを言っていたし、白眼族は他の人を守ることに重点を置くタイプなのか?

 アリシオーネさんって人がそういう性格なだけかも知れないけど。


「それは承諾できんの。妾は一人でも構わんが、お主は一人では力を存分に発揮できんではないか。せめてそっちの翡翠の坊主と二人で来ねば白眼の者と戦う意味がなかろう」


 翡翠の坊主というのは副隊長のリクレーンさんのことだ。

 俺は気付かなかったが、彼は翡翠族らしい。確かに目と髪が綺麗な緑色をしている。

……いや、翡翠色と言うべきか。


「本当に私達のことに詳しいんですね」

「俺はダークエルフと翡翠族のハーフだけどな」

「ほう、ハーフじゃったか。どうりで翡翠のわりに魔法を使ってこんわけじゃ。身体強化系が得意なダークエルフの方が強く出とるのじゃな」

「お前、本当に人族か? 魔族に詳し過ぎるだろ。いや、その目の色はもしかして紅瞳(あかめ)か? それならそのおかしな魔力にも一応の説明がつくが……何故人族と一緒にいる」

「妾は人族じゃと名乗った覚えはないがな。まぁ、質問の答えは妾を倒してから拷問でもして聞き出せば良い」


 拷問するならエルだけにしてくれ。俺は関係ないからな。

 ん? 良く考えたら、エルは負けて捕まったら魔力体を解除するだけでいいのか。

 てことは、拷問されるとすれば、対象は俺だけじゃん。

 勘弁してください。


「ま、そっちがそう言うなら遠慮なく俺もやらせてもらう。アリシオーネさん、攻撃は俺に任せてくれ」

「わかりました」

「いくぞ!」


 叫ぶと同時に地を蹴りアリシオーネの後ろから飛び出すリクレーン。その彼の背後に真緑の光が二つ浮かび上がる。

 アリシオーネが持つ白眼族特有の真っ白だった瞳が緑色に光を放ち始めたのだ。


「いくら紅瞳が魔法に長けた種族だっていっても、白眼の秘術はそう簡単に破れないだろ」

「それはお主の希望かの? 妾が勝算もなくお主らと遊んで白眼の者が来るまで待っておるわけがなかろう」

「強がりをぬかすな!」


 再びエルに攻め寄ったリクレーンが、その勢いを殺さぬまま対魔剣を振り下ろすが、エルはそれをひらりと避け、素早く彼の背後へと回り込む。

 そして、剣が空を切ったことでバランスを失ったリクレーンに今度はエルの細剣が襲いかかった。


「前に飛んでください!」


 完全に視覚からの攻撃だったが、背後に控えていたアリシオーネの言葉を聞き、リクレーンはエルの剣から逃れた。

 リクレーンは逃れざま、背後に向けて大麻剣を横一線に薙ぐ。しかし、エルは既にそこから離れ彼が飛び退いた先へと回り込んでいる。自分の背後、つまり飛んだ方向と逆の方に剣を向けてしまったリクレーンは、またもやエルの姿を見失い、エルは再度彼の背後をとる形となった。


「もう一度前に飛んで!」


 リクレーンの背後をとったエルが剣を振る直前、こちらも再びアリシオーネから言葉が飛ぶ。リクレーンはこの言葉に従い前方向へと飛び退いてエルの剣を回避する。


「左に剣を!」


 すると今度はエルが回り込んで攻撃する前にアリシオーネから指示が飛んだ。

 リクレーンは、その指示に従って()()()()自分の左側を剣で薙ぎ、その剣を()()()細剣で受ける。


「なんだ今の」


 今の指示は明らかにおかしい。

 リクレーンが剣を振った時、エルはその場所にいなかった。彼が剣を振った先にエルが移動したのだ。わざわざ剣を受けるために。

 おかしな話なのだが、側から見たらそうとしか見えなかった。

 多分、エルの移動先を先読みして攻撃の指示を出したのだろうが、それではまるで——


「予知や予言の(たぐい)ではない」


 俺の予想は、いつの間にか隣に戻ってきていたエルによって否定される。


「だけど、今のは完全にエルの行動を読んでの指示だったぞ」

「それがあの男が言っていた白眼の秘術じゃ」

「秘術?」

「うむ、あやつらの目は人の心を読む」

「読心術ってやつか!?」


 相手の心が読めるって……確かに、予知や予言ではないけどかなり強くないか?


「心を読むと言っても、簡単な行動予測くらいしかできん。先のは妾がやつの左側に移動しようとしていることを読んだという程度のもんじゃろう」

「いや、程度のって、それでも充分……」


「本当に、あなたは我々に詳しいのですね。確かに、私達白眼の秘術は他の者の心を読むというものです。人族は勿論ですが、魔族の中でも知っている者は少ないはずなのですが」


 エルによる解説が当人によってお墨付きをもらってしまった。


「その力を他に漏らさぬように指示を出したのは妾じゃからな。知らんはずがあるまい」

「あなたは魔族団関係者なのですか? いえ、こんなことをしているのですから、元が付くのでしょうが」

「元関係者か……まぁ、間違ってはおらんな」

「俺はお前さんのことなんか知らないけどな」

「お主では若すぎるからの。知らんのも無理はない」


 エルのことを知っていたとしたら、その人は五百歳を超えた寿命間近のご老人のはずだからな。

 いや、そんなことより。


「エル、大丈夫なのか? 心を読む奴が相手なんて、ちょっと分が悪いと思うんだが」


 攻撃しようにも相手の隙をつくことはできないしな。


「魔法で攻撃しようにも、他の奴らに被害が出る危険もあるし」


 一応、大きな怪我をさせないと言っている手前、黒雷槍で気絶してる者たちを巻き込むような魔法を使う訳にもいかないだろう。


「その魔法じゃがな、白眼は対抗魔法に特化しておる。攻撃系の魔法は苦手なのじゃが、防御系や妨害系の魔法であれば殆んどの属性で使用できるはずじゃ。あやつがちゃんと習得しておればじゃがな」

「当然使えますよ」

「それがまことじゃといいな。試してみようと思っておったところじゃ」


 そう言うと、エルはお得意の黒炎を発動させる。五番隊の隊長を脅す時に発動した、魔力がしっかり込められた本当の攻撃魔法だ。


「それは流石に不味くないか?」

「威力は落としてある。対抗魔法をしっかり習得しておるのじゃとすれば属性の複合も使える筈じゃから問題なかろう。

 念のために教えておいてやるが、この魔法は炎魔法に闇の属性を付与しておる。<水の守り(ウォータープロテクト)>あたりに光属性を付与させれば守れるじゃろう」


 後半はアリシオーネに向けられた言葉だ。

 リクレーンは、エルが発動した魔法に呆けてしまっていたが、彼女はエルを見つめ続けていた。


「……どうにもあなた方の考えが読めません。先ほどからおかしいとは思っていたのですが、殺意や悪意といった感情があなた方二人から感じられない。そちらの男性に至っては戦意すら感じません。

 発動したその魔法、相当な力が込められておりますが、それでも手加減されているのが分かりますし、対処法まで伝えてくる。

 あなた達は何が目的なのですか?」

「ふむ、そこまでは読めんか。昔会った奴は相手の目的などはある程度読めておったと思ったが……あれはあの者が特別心読(こころよ)みの力が強かったのか? それとも、あやつの状況を読む力が高かったのじゃろうか」

「なんの話ですか?」

「あ、いや、すまん。こちらの話じゃ。

 妾達の目的じゃったな。それはこの攻撃を防ぎ切ったら教えてやっても良い。対魔剣の小僧は使い物にならんようじゃし、お主が守りきるしかないの」

「白眼族の名にかけて皆を守り切り、目的を話してもらいます」

「やる気は買ってやる。ではゆくぞ」


 言葉と共に空に停滞していた黒炎がアリシオーネとリクレーンに襲い掛かる。


「<輝水の防壁シャインウォータープロテクトウォール>!」


 エルの黒炎魔法に対してアリシオーネが使ったのは、水の守りよりも範囲と防御力の高い水の防壁。それに光属性が含まれた光り輝く水の壁だ。水の守りを使わないのは、敵対している者の言葉を完全に信じはしないとう意志の現れってところか。

 いくら俺達に敵意がないと感じているとはいえ当然のことだ。俺でもそうしただろう。


 しかし——


「それはあまり良い選択ではないの」


 水の防壁は水の守りに対して効力は上がるが、その分消費魔力が多くなる。彼女は自分とリクレーンだけではなく、倒れている者達も守るために発動範囲を広げており、その分落ちる防御力を補うために更に消費魔力が上がっている筈なので尚更だ。

 俺みたいに無尽蔵に使える魔力があるのであれば別だが、そうでないのであれば黒炎を防ぎきれずに魔法が解けてしまう。


「妾の魔法と魔力量勝負をするなど、自殺も同然じゃな」

「いや、自殺させないでくれよ」

「仕方がない。ユウマ、いざとなったらお主が守れ」

「うちの魔王様はめちゃくちゃだな」


 そんな話をしている間も黒炎と防壁のせめぎ合いは続いているが、やはり防御側が押され始めていた。

 いくら対抗魔法と言っても、力がある程度拮抗しているか、完全に上回っているのでなければ打ち消すことはできない。しかも、闇の属性に対して反属性である光属性の反属性は、その闇属性。つまり、光属性の魔法に対する対抗魔法は闇属性の魔法なのだ。

 互いの属性が対抗する関係にあり、力が拮抗して初めて打ち消すことができる。反属性であればある程度弱くても対抗できる他の属性とは勝手が違ってくる。


「時間の問題じゃな」

「魔法は消せないのか?」

「消せんことはないがな、あやつは魔力消費を極力抑えようと防壁の範囲を狭めすぎておる。今の妾では、直前まで力を込めて、あの者の防壁が消えてすぐに消すなどといった器用な魔法操作はできん。お主が守れ」

「壊れる前に消してやれよ」

「あやつも最後まで抗いたいじゃろ」


 みんながみんなエルみたいに力比べが好きなわけではないと思うぞ、俺は。

 少なくとも俺があっち側だったらさっさと消して欲しいって思ってると思う。


「なめるなぁ!」


 俺がエルのちょっと戦闘狂寄りの発想に呆れていたその時、黒炎の向こう側、防壁の内側から男の声が響いた。

 さっきまでエルの魔法に放心していたリクレーンだ。

 放心状態から復帰した彼は、防壁の内側から己の愛剣である対魔剣を振るう。

 対魔剣は、アリシオーネが張っていた防壁諸共、エルの黒炎を切り裂き、霧散させる。


「あれも消せるのか、あの対魔剣とやらは本当に高性能じゃの」

「そんな剣を持っていながら相手の魔法に放心するのもどうかとは思うけどな」

「悪かったな、あんな魔力量の魔法を使われたのは隊長を相手にした時以来だったもんでな」


 そう言う彼の額はかなりの量の汗で濡れていた。

 あれは炎の熱でって感じじゃない。現に、アリシオーネは殆んど汗をかいてないし。

 放心していた理由は彼の言い訳以外のところにもにもありそうだ。


「俺に魔法は効かねぇ!」

「確かに、その剣は強力じゃな。しかし、使い手が案山子では意味がないぞ。ほれ、後ろを見てみよ」


 彼の後ろ、そこに立つ白眼をもつの女性、アリシオーネは胸を荒く上下させていた。

 白眼族の秘術とやらも既にに発動しておらず、なんとなく顔色も悪いように見える。


「魔力の使いすぎじゃな。それではもう戦えまい。お主がもう少し早く動いておれば良かったのじゃがな」

「ああ、そういや、あいつが切ってりゃ守るも何もなかったのか」

「私なら問題ありません。まだ魔力は残っています」


 多少ふらつきながらも剣と盾を構えるアリシオーネ。


「いや、それには及ばん。先ほど言ったじゃろ、あの攻撃を防ぎ切ったら目的を話すと。別に、お主のみで防がねば話さんとは言っておらん」

「観念して捕まろうってのか? こっちからしたら都合がいいが、そっちはまだ余裕そうに見えるぞ」

「そうではない。時間切れじゃというだけじゃ」


 エルがそう言うと同時に、街の出入り口から数人の人影がこちらに向かって来ていた。

 リクレーンと似た服装の者が数人、これは彼と同じ魔族団第四部隊の者達だろう。

 彼らの先頭を走っているのも同じような服装の女性だが、こちらは他より少し豪勢に見える。彼らの隊長だろうか。

 彼女が他と違っているのは服装だけではない。なぜか何者かを肩車しながら走って来ているのだ。


 なんと言うか……異様。

 うん、そう異様だ。

 さっきまで争いをしていたところに駆けつけてくる者が、なぜか肩車をしているというのは異様と言う他ない。

 しかも、その肩車されているのが——


「その戦い中心! これ以上はうちが怒るよ!」


 子供魔王なのだ。

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