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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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五十九話

「ここがエリスマグナ屋敷か」

「懐かしいの。五百年経ってもここは変わっておらんようじゃ」

「街中は結構変わっていますよ。父は『外観は昔を思い出させ、中に入れば時の流れを感じられる趣深い場所だ』とよく言っていました」

「そういえば、ジェレーナの父親って何してた人なんだ?」

「私の父も親衛隊務めでした。勿論、先代の頃の親衛隊ですが。父は親衛隊の隊長を任されており——」


 俺とエル、ジェレーナ、子供魔王ことエルキールの合わせて四人は、今日の目的地である迷宮管理街(ダンジョンかんりがい)のエリスマグナ屋敷の近くまで来ていた。


 ジェレーナと子供魔王が荷造りを終え、俺とエルが新魔法〈監視防衛(かんしぼうえい)〉を完成させた後、再度城門前に集合してから俺とエルの飛翔魔法で魔王城を飛び立ったのが今朝方。

 子供魔王達に負担が掛からぬよう、あまりスピードを出さないように気を付け、途中で休憩など挟みながらも飛び続けた結果、現在は太陽が頭上に昇りきっている。


「さて、ちょうど昼飯時だし、早速街に行って飯にするか」

「うち、エリスマグナでご飯食べるの初めて」

「あの街の名物はやはり迷宮料理ですね」

「迷宮を管理してあるわけじゃから当然じゃな」

「特に、果実などは迷宮から採れたての物が供給されているので、王国で食べる物とは鮮度が違います」


 エルキール魔族王国とエリスマグナ屋敷との距離は馬車で一日半かかるくらいにはある。それも、荷を運ぶとなると最短でも三日はかかってしまうらしいので、ここと王国とで食物の鮮度が違うのも当然だろう。


「ならデザートには果物を出してもらうとして、とりあえずさっさと街に入ってしまおう」

「こっちにはエルキールがおるんじゃ。街に入るための申請などすぐに済むじゃろうしな」

「何もしなくてもうちがいれば通してくれるよ」

「顔パスってやつか。さすが魔王」


 警備体制はどうなって……などと思いつつも、俺たちにとってはまどろっこしい手続きなんぞがなくなるのであれば嬉しい限りなので口には出さず、意気揚々と街の出入り口へと向かった。


……が、警備兵に捕まった。


「当然です。ここは我が魔族王国の経済の要なのですから。いくら魔王様と名乗ったところで、証明する物も無くては簡単に通してはもらえるはずがありません」

「ジェレーナ、それがわかっていたなら捕まる前に教えおいてくれ」


 俺達は四人仲良く檻の中に入っている。

 街の入り口の門の前でエルキールが『魔王だから通して』と言って素通りしようとしたところで警備をしていた者に捕まり、説明をしようと俺が前に出たのだが、人族であることから話を信用してもらえず、一緒に連行されてしまった。エルとジェレーナが何もせずについてきたのは、ジェレーナは結果がなんとなくわかっていたからで、エルは子供魔王が街に入ろうとし始めた時点でジェレーナから聞かされていたのだろう。


「これもエルキール様の経験と思いましたので。手続きの重要さを学び、慎重に行動することの大切さを身につけていただきたく」

「それにしたって本当に捕まることはないだろ。どうするんだよ」

「問題ありません。ちゃんと許可書をお渡ししたでしょう? あれを見せればすぐに出してもらえるはずです」


 檻と言っても牢屋に入れられたわけではなく、どちらかといえばここは留置所だな。取り調べの担当者が来るまでの間留置されているわけだ。

 その担当者が来たら、昨日受け取った許可書を見せて説明すればいいってことだろう。


「そうか、あの許可書を出せばよかったのか」

「私も、ユウマさんが許可書を出して騒ぎが収まり、私がエルキール様に手続きの話などをするつもりだったのですが、まさかユウマさんが許可書を出さないとは思いませんでした」

「思いつかなかったんだ。あれは迷宮に入るためのものだって認識しかなかったしな」

「どちらにしても、ユウマさんが出したのでは信用されなかったかも知れませんね。最近は人族が迷宮物資を得ようとあの手この手で入り込もうとしているという話を聞いたことがあります」


 人族だってだけで信用されなかったのはそういうことだったのか。


「あまり良いことではないのですけどね。現在の魔族王国は人族との共存をメインに発展して来ていますので」

「仕方なかろう。人族がなんども侵入しようとしておったのだとすれば、その人族を信用するというのはそう簡単ではあるまい」

「それはそうだな。差別だなんだって話になりかねんことではあるが……簡単に信用するのもどうかとも思わんでもないし」


 現に、子供魔王の顔パスで入ろうとした時は警備体制の甘さを心の中で指摘していたのだから、警備がしっかりしていることを批判はできないな。


「それに、別段、危害を加えられたってわけでもないからな」

「許可書は私が出しましょう。親衛隊に所属していると証明できる物も持っていますので、ちゃんと信用してもらえるはずです」


「それには及ばん。ここはついでにこの街の警備がしっかり行われているかも確認しておこうではないか」


 丸く収まりそうな雰囲気をぶち壊す。

 流石は魔王。


「どれ、まずは結界の強度じゃな」


 そう言うと、俺が止める暇もなくエルが留置所の壁に向かって黒炎の弾を放つ。

 炎弾は壁に接触した途端に弾け、轟音とともに壁を吹き飛ばしてしまった。


「何やってるんだよ。俺が防壁張ってなかったら子供魔王もジェレーナも怪我してたぞ」

「お主が張り損ねるわけがなかろう」

「そう言う問題じゃ——」


「貴様ら! 何をしている!」


 俺の言葉は、外に現れた警備兵達によって遮られてしまった。

 俺達が留置されていた場所は、街の出入り口近くに用意されていた場所で、外壁にくっついたような形に建てられていた。エルが破壊したのはその外壁側。つまり、街の外に向けて穴を開けたので、住人への被害などはないはずだし、多分、探索魔法か何かで人がいないことを確認した上での行動だろう。

 しかし、出入り口の近くということは近くに警備兵がいるということで、つまりは警備兵が集まって来るのも早いということ。


「すごいな。結構な人数が出て来たぞ」


 集まった人数は大体十人程だろうか。街の出入り口にいた警備兵だけの人数ではない。


「王国魔族の者が派遣されておると言っておったからの、其奴らも来ておるのじゃろう。

 ジェレーナ、お主は騒動に紛れて責任者の所へ行け。そして、この件は緊急時の対応についてのテストじゃと伝えるのじゃ。エルキールを連れて行けば話しもつけやすいじゃろ。その間、妾達は多少暴れる」

「え、あ、はい……ですが」

「安心せい。これはこの街の警備体制の確認じゃ。大きな怪我人は出さん。はよ行け」

「わ、わかりました。エルキール様、参りましょう」


 ジェレーナはエルの説得に押されるようにこの場を離れていった。状況に頭がついていっていない状態で判断が甘くなっているのだろう。


「流石に後で怒られるぞこれは」

「良いではないか。これもこの街のため、ひいては魔族王国のためになるはずじゃ」


 一応、エルなりに元々自分の国だった場所のことを考えての行動なのだろう。

 確かに、経済の要とまで言っていた場所なのだから、警備が手薄ではまずいだろうしな。


「それに、この場を管理しておるエリスマグナ家、白眼(はくがん)族の者達じゃが、奴らの戦い方は面白い。妾も一度手合わせしてみたかったからの」

「……まさか、そっちがメインじゃないだろうな」

「……そんなはずがなかろう」


 なんだその間は。

 この魔王様、魔族王国のためとか言いながら、実は自分の願望えを叶えるために行動してるだけじゃないか?


「貴様ら、人族ごときがここで騒動を起こしてただで済むと思うな!」

「おとなしくしろ!」


 こうしている間にも続々と兵達が集まって来ている。

 ジェレーナ達は無事に目的の所へ着けただろうか。


「おとなしくしろと言われて止まるような侵入者がおるのか? 少なくとも妾は止まらんがの」


 エルは片手を兵達に向け、〈雷槍(らいそう)〉の魔法を発動する。それも、ただの雷槍ではなく黒い雷の槍、普通の雷槍に闇属性を加えた〈黒雷槍(こくらいそう)〉というエルの独自技だ。


「この雷槍は受けた者の精神にもダメージを与える。気を強く持たんと意識を持っていかれてしまうからの。気合いを入れるのじゃぞ」


 エルの周りに現れた黒い雷槍は、エルが腕を薙ぐのと同時に射出され、兵達を蹂躙していく。

 黒雷槍に触れた者は、殆どがその場で気絶し崩れ落ちる。殺傷力を抑えるためか、雷としての力は殆どなく、エルのいう精神へのダメージという部分に重点が置かれたものになっているようだ。

 とはいえ、黒雷槍を受けた者は倒れていき、一部耐え抜いた者もいたものの、黒雷槍を避けた者を含めてもその場の半数が戦闘不能に陥ってしまう。


「なんじゃ、不甲斐ないの。これでは遊びにもならんではないか。白眼族を連れてこい」

「貴様! 我々は誇り高き王国魔族団第四番隊に所属する魔族団隊員だ。おかしな魔術を使われたくらいで屈しは——」

「まて、アレクトラ」

「しかし、副隊長!」

「さっきの攻撃は詠唱がなかった。あれは魔術ではなく魔法だ。

 それに、あいつの魔力はおかしい。感じられる魔力量と使った魔法に必要になるはずの魔力量とが矛盾してる。なんらかの方法で魔力を隠蔽しているんだ。俺達では対処しきれんかも知れない。お前は待機所に戻って隊長を呼んでこい」

「それほどの……わかりました」

「あと、そっちのお前、お前はエリスマグナ家に連絡してこい」

「は、はい」


 四番隊の副隊長とやらに諭されたアレクトラと呼ばれた男と、指名された雷槍を避けきっていた男が走り去っていく。命令通りに隊長とエリスマグナ家の者を呼びに行くのだろう。


「その間はお主が相手をしてくれるのじゃな?」

「俺なんかじゃ不服だろうけど遊び相手くらいにはなれる」

「期待させてもらうかの」


 再び黒雷槍を発動するエルに対し、覚悟を決めた顔で切っ先を向ける副隊長さん。


「お主名前はなんというんじゃ?」

「俺は王国魔族団第四番隊副隊長のリクレーンだ」

「リクレーンじゃな、ではゆくぞ」


 再度射出される黒雷槍。


「そっちは名乗ってくれないの……かっ!」


 しかし、雷槍はリクレーンの剣によって切り消された。


「ほう、雷を切るか。それは魔道具じゃな」

対魔剣(たいまけん)っていうんだ。迷宮産の一級品だぜ?」

「面白い」


 三度(みたび)エルの腕が振るわれるが、今回発動した魔法は雷槍ではなく炎。エルの十八番である黒炎の魔法だ。


「炎でも関係ねぇ!」


 しかし、これもまた対魔剣によって切り裂かれてしまう。


「ではこれはどうじゃ」


 次にエルが発動した魔法は〈岩石弾(アースバレット)〉だった。

 しかし、これまた普通の岩石弾ではない。大量の魔力を込めることで高度が尋常ではないくらいに高められている。岩石というよりも鋼鉄と呼ぶべき代物だろう。


「これは切れまい」


 そんな鋼鉄弾(アイアンバレット)とでも呼ぶべき代物となっている岩石弾がリクレーンに向けて発射される。

 いや、リクレーンに向けてではなく、正しくは構えている彼の剣に向けて放たれたのだが。一応、大きな怪我人は出さないようにと気を使ってのことだろう。


「なんであれ、魔法で作られた物なら切り裂け——」


 リクレーンは雷や炎と同様に岩石弾に剣を振り下ろす。

 が、岩石弾を両断することはできなかった。


「くそっ、切れねぇ! なんだこれはっ!」

「込めた魔力が違うのじゃ。そう簡単に切れるわけがなかろう」


 正確に言えば切ることはできているのだ。

 彼の剣『対魔剣』はその名の通り対魔の剣。魔素を切り裂き魔法を無効化するというものなのだが、エルの魔法に込められた魔力が多すぎて魔法の元である魔素を消し切れず、徐々に徐々に魔法を切っていくという、弾と剣の鍔迫り合いのような状態になってしまっている。

 そして、完全に消し切れないとどうなるのか。


「その魔法、お主の筋力では抑え切れまい」


 魔法を消し切れなかったことで弾と剣が能力で競り合うとなると、魔法の推進力だけがリクレーンを襲うこととなる。

 結果、彼は地面に(わだち)を残しながらジリジリと後ろへと押し込まれていく。


「なんて力押しの魔法だっ!」

「戦いの場では力もまた美学じゃ」

「く……っらぁ!」


 だんだんと圧されていたリクレーンだったが、剣の向きを逸らし岩石弾の軌道を上へと変えることで凌ぎ切る。


「この剣で切れない魔法なんて初めてだ」

「恵まれた環境に育ったのじゃな」

「言ってくれるじゃねぇか。三度も先手を譲ったんだ、今度はこっちから行かせてもらうぜ」


 会話をしながら息を整えたリクレーンが、地を蹴り、エルへと急接近する。


「遠距離魔法は使わせねぇ!」

「近距離なら勝てるとでも言いたいのかの」


 エルもまた応戦するように腰の細剣を引き抜いてリクレーンへと突進していく。

 二人が衝突し、辺りに無数の剣戟の音が響き渡る。


「なんでそんな細い剣で受けられるんだよ!」

「魔法で強化しておるからじゃ」

「その魔法を切る剣なんだけど……っな!」

「おっと、確かに剣術ではお主の方が上じゃな」


 右へ左へと繰り出されるリクレーンの剣戟を細身の剣で去なすように反らし続けるエル。


「魔法を切れる剣といっても一瞬でかき消せる魔力量には限度がある。それは先に実証してやったじゃろ」

「てことはなんだ、一瞬で消せない量の魔法を纏い続けてるってのか? っとらぁ! くそっ、当たらねぇ!」

「消えそうになる度に更新しての」


 エルがやっていることは至って簡単。

 物の耐久度を上げる魔法である〈物質保護(オブジェクトコーティング)〉を大量の魔力を込めて発動することで対魔剣の攻撃を受けているのだ。

 しかも、ただ受けるだけでなく、受け流すことで剣と剣の接触を最小限にして魔法の持続率を上げ、切れそうになったら剣戟の合間に魔法を更新している。


「バケモノじゃねぇか!」

「この程度でバケモノ呼ばわりされるのは心外じゃな。ユウマならばそもそも更新の必要もないくらいじゃぞ」

「ユウマってのはもう一人の人族か? なんだよ、バケモノが二体かよ」


 俺は何もしてないだろ。

 にしてもあの剣、エルにとっては天敵みたいな剣だな。

 本体が魔力体であるエルがあの剣に切られれば、魔力体が消されて、再び魔力体を作り出すまでの隙ができてしまう。

 大丈夫だとは思うけど、あまり長時間は戦わせたくないな。エルの魔力体が消えたら次は俺が戦うことになるわけだし。


「リクレーンさん! 大丈夫ですか!?」


 俺がそんなことを考えていると、街の出入り口の方から女性が一人こちらに向かって走ってきた。

 彼女の声を聞いたリクレールは、唐突にエルとの距離を開ける。

 女性は、リクレールが飛び退くことでできたエルと彼の間へと長い髪をたなびかせながら入り込む。


「遅くなりました」

「いや、呼びたててしまって申し訳ない」


 片腕に小盾、もう一方に剣を構えてリクレールと彼の仲間を守るように立つ女性。


「この街を傷つけることは私が許しません!」


 エルに剣先を突きつけ……。


「やっと来おったか。待っておったぞ白眼族!」



 ()()()()()()でエルを睨みつける。

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