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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
六章 勇者と魔王と迷宮再び
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五十八話

「エルキール様の同行を受けていただければ、迷宮(ダンジョン)への許可を出すだけでなく、探索に必要な物を用意するための費用等を全て負担するとのことです」

「子供魔王って、一国の王様だよな? 魔王だよな?」

「はい」

「つい先日誘拐騒動があったばかりだろ」

「正直に申し上げますが、現状ではお二人のそばにいた方が安全なんです。

 転移魔法の件でやはり城内に転移先の魔具が仕掛けられていることがわかり、現在撤去作業をすすめているのですが、完全に取り除けてはおりません」

「その間、エルキールの護衛を妾達に任せてしまえば作業が早く終わらせられるじゃろうというわけじゃな」


 つまり、前の迷宮の時と同様、また子守ってことか。


「面倒だ。面倒だが——」

「ジェレーナ、これだけは聞いておきたいのじゃが、あの迷宮でカウ種は出るのか?」

「出ます。十階層から十二階層がカウ種のみが出現する階層になっています」

「となると断れんな」

「そうだな」


 人の三大欲求の一つとまで言われる食欲を満たすためだ、子守でもなんでもしようじゃないか。


「で、何日くらい守ってやればいいんだ?」

「四日もあれば大丈夫だそうです」

「四日か、だいたいでいいんだが、四日だとどのくらい進めるんだ?」

「往復ですと片道二日ですので、通常ですと三十階層あたりまででしょう。お二人でも護衛者を連れることを考えれば四十階層くらいまでかと」

「それなら、様子見で日数を伸ばすことはあってもそれより早く帰ることはなさそうだが、それでもいいか?」

「隊長からは最長でも十日で戻るようにと言われておりますので、それ以内でしたら問題ありません」


 魔王城から魔王が十日もいなくて大丈夫なのかよ。

 いや、真面目そうなガルドフが言うなら大丈夫なんだろうけど、それはそれでどうなんだ?


「ガドルフから色々学んでくるようにって言われたからね、うちも頑張るよ」


 子守じゃなかった。

 教育係だった。


「諦めてなかったのか……」

「いえ、そちらはついでです。せっかくならエルキール様の成長に役立てられればと」


 ついでって……今さっき子供魔王本人が親衛隊隊長に学んでこいと言われたって白状したばかりだけどな。


「妾は構わんぞ」

「いいのか? 多分エルの方が負担が大きいぞ?」


 子供魔王の教育係はエルがやることになるのだろうが、そうすると必然的に護衛の役目もエルの方が多く担当することになるはずだ。


「正直言うとな、もし妾が知っている階層主の情報が今も変わらぬとすれば、妾達二人では全階層を二日で踏破できてしまうじゃろうと思っておったんじゃ。妾達だけでいけば目的の大半がカウ狩りになると言ってもいいくらいじゃ」

「そんなに弱い魔物しかいないのか?」

「お主の力で強いと感じる魔物などそうおらん。手こずるとすれば、対策せねば倒せぬ幽体系の魔物や、竜種で最高峰の古竜くらいのものじゃろうな」

「なんだそれ、バケモノだな」

「お主は十分バケモノじゃからな」


 その割にはブラックミノタウロスに手こずった気がするんだが。


「あれはそもそも魔法で対処するものではないからの」

「まぁ、俺がバケモノだってことは自覚してるけどな。

 で、そんな状態じゃつまらないから教育係でも引き受けてやろうってことか?」

「一時的なものじゃしな」


 俺としてはエルが構わないなら文句はない。


「じゃあ、条件を飲むとするか」

「わかりました。ではこちらが許可書です。迷宮の入り口で提示していただきます」

「俺が持ってていいのか? 一緒に行くことになるならジェレーナが持っててもいいと思うんだが」

「ユウマさんのマジックボックスに保存してもらっていた方が確実ですので。

 それと、探索に必要なものは明日までに用意します。こちらもユウマさんのマジックボックスに頼らせていただければと考えているのですがいかがですか?」

「ああ、いいよ」

「ではそのように」


 その後、簡単な予定を話した後ジェレーナは子供魔王を連れて部屋から出て行った。


「結局、準備まで全部ジェレーナ達がやってくれるみたいだから、この後暇になったな」

「そうじゃな。観光の続きにでも行くかの」

「そうするか」


 俺達は再度、城を出てこの新しい魔族王国の観光に赴くことにした。



——————

《エルキール魔族王国近くの森》



 ユウマ達が魔族王国の観光をしている頃、王国近くの森に二つの影があった。


「まったく、旧世代の英雄などのために(わたくし)がわざわざ出向く必要があるのでしょうか」


 一つは、背中に生えた蝙蝠のような形の翼が特徴的な男。

 後ろに流した白髪のミディアムヘアのその男の瞳は深い藍色をし、片目にモノクルを付け、筋の通った高い鼻に、神と同様の白い髭は、さながら貴族のような見た目ながらも、服装が異様。

 全体的にカラフルだが暗めな配色の布地に包まれ、首元や手首には黒いラフカラー、道化師のようにも見えなくもない。

 しかし、ここまで暗い色合いで飾っていたのでは、子供が涙を流すことはあっても笑顔を見せることはないだろう。

 特に、片手に持つ髑髏を模した杖が彼の異様さを際立たせている。


「ボスの命令っすからね、しょうがないんじゃないっすか?」


 もう一つの影、黒い道化師の隣にいる男の姿は道化師と真逆で、姿形は人間に近い。

 違うのは額に三つ目の瞳を持っている点だ。

 人間と同様の場所に持つ二対の目は白に近い灰色をしているが、額にある第三の目は緑色に淡く光を放っている。

 服装や装備は人間の冒険者と殆ど変わらない。額を布が何かで隠してしまえば冒険者として人間の国に入ることもできるだろう。


「わかっていますよ。ボスのご指名とあればこの身を賭して命令を遂行しますとも。ボスに刃向かう愚か者を皆殺しにしてみせましょう」

「そこまでは言ってなかったっすけどね。標的を殺せば任務完了っす」

「ふむ、ではその標的の様子はどうです?」


 道化師がそう尋ねると、三つ目の男の肩に小鳥が降り立ち、男に対してなにやらピーピーと話しだす(・・・・)


「どうやら、明日ボスの言ってた奴と一緒にエリスマグナ屋敷の迷宮に行くみたいっすね」

「迷宮! すばらしい! 標的を殺すにはうってつけです! 王国内で処理するより遥かに!」


 道化師は手に持っている杖をくるくると回しながら両手を広げ、体全てを使い喜びを表していますと言わんばかりに声を張り上げる。


「でも、あそこは警備が厳重っすからね。どうやって入るんすか?」

「確か、あそこにも転移先が設置されていたはずです。それを使いましょう」

「あそこの転移板持ってきてないっすよ」


 三つ目の言葉を聞き、眉間をしかめる道化師。先程とは打って変わって、全身から負のオーラを吹き出し始める。


「なぜ、持ってきていないのですか?」

「あそこに行く予定はなかったっすからね。でも、迷宮に入るだけなら絶対に無理ってわけでもないっす」

「そうですか! では問題ありませんね!」


 パッとオーラを散らし、再び上機嫌で杖を弄び始めた道化師に、呆れたようなジト目の二つの目を向ける三つ目の男がため息をひとつつく。

 彼の「簡単に入れるわけじゃないっすけどね」という呟きは道化師には届かず、森の木々が奏でる静かな葉音に虚しく飲み込まれるのだった。



——————

《エルキール魔族王国 王城客室》


「いや、なかなか楽しいなこの国」

「妾の国とは全く異なる発展をしておるな」

「戦時とは違うってことだろうな」


 魔族王国の観光を一通り済ませて十分に満足した俺達は、昨日から貸してもらっている城の客室へと戻ってきていた。


「街の出店で普通に虫料理が売られてたのには驚かされたよ」

「あれは妾も驚いたの。そもそも、妾の国では出店など無かったというのもあるが、あれは酒場で食べる印象が強い食い物じゃったからな」

「もし俺が精神強化を貰ってなかったらあの場から逃げ出すところだった」


 本音を言うと、精神強化があっても結構キツいものがあったのだが。

 店頭に虫がわんさと積まれていれば誰でも……いや、この国の中で言えば俺が異端なんだったな。


「さて、もう寝るとするか。明日は結構早いらしいし」

「王国を出る前に荷物の受け取りなんぞに行くんじゃったな」

「そうそう。なんか、結構な量を用意してくれたみたいだからな」


 そんなことを言いながら、布団に入ってからも、眠気に耐えられなくなるまでボソボソと今日の魔族王国観光について話し続けた。

 こんな感覚は前世でも子供の頃以来だ。

 封印される前も新しい物事への感動はあったが、やはり魔族の国という前世では絶対にあり得ない場所への感動というのは別格なのだろう。

 俺は興奮を隠しきれぬ状態のまま眠りにつき、夢の中でも魔族王国の観光を続けた。



 翌日は、予定通り早朝に起き、出立準備のためジェレーナに連れられて城の玄関口に来ていた。


「エル様はいらっしゃらないのですか?」

「あいつはまだ寝てるよ。昨日は城下町を歩き回ったからな、疲れてるんだろ」


 無論、嘘だ。

 元魔王で、しかも動いてたのは魔力体なのだから、エルが疲れているはずがない。

 今はちょっと魔力体を出さずに秘密の作業をしているところだ。


(どうだ? 城を出る前にはいけそうか?)

『集中しておる、話しかけるな』

(すまんすまん)


 職人モードのエルはそっとしておくことにして、俺は俺で準備してもらった荷物の収納作業を始める。


「にしても、本当に大量に用意してくれたんだな」

「はい。宰相のフリアンク様がご自身でかなりの金額を出されたそうです」

「宰相って、子供魔王との謁見の時にいた人か?」

「あの時はガドルフ隊長の隣におられましたね。フリアンク・ダルカルカ様というお名前で、エルフェルタ様の育て親のような方です」


 あれは親というよりおじいちゃんだったけどな。子供魔王が一緒に行くからって自分の懐から金を出しちゃうあたりもおじいちゃんっぽいし。


「ちなみに、あの場におられた他の方々は各魔族団の団長達ですよ」

「へぇ」


 そういえば何人か周りにいたな。

 特に何も話したりしなかったからあまり覚えてないけど。


「でも魔族団は全部で六団あるって聞いてたけどな。あの時三人しかいなかった気がするんだが」


 第五のがとっ捕まってたのを差し引いても二人足りない。


「第六は誘拐騒ぎの収拾、第三はヴァイリスの尋問と警備強化に駆り出されていましたからね。あそこにいたのは第一、第二、第四の団長だけです」

「なるほどな。ほいっと、これで全部か?」

「はい。これで終わりです」


 ジェレーナと会話しながらも、『これ何人分?』と聞きたくなるような量の必要物資のマジックボックスへの収納を済ませる。


「じゃあ、俺はエルを起こしに行ってくる」

「私も魔王様をお迎えに行って来ます。ではまた後ほど」


 その場で彼女と別れて、俺は誰もいない客室へと戻る。


「できたぞユウマ」


 部屋に戻ると、なぜか部屋の中にあらかじめ魔力体を発動していたエルに迎えられた。


「お疲れ様。効果は大丈夫そうか?」

「妾を誰じゃと思っておる。とはいえ、まさか魔法の書き換えにここまで時間がかかるとは思わなかったの。最初から妾が新しく作ってしまった方が良かったかも知れん」

「悪いな、俺がそういうのできないせいで」

「構わん。にしても、お主の魔法知識とやらは本当に中途半端じゃの。まさか魔法の再構築もできんとは」

「効果が発動しないように構築を崩したり、形を変えたりすることはできるんだけどな」


 今朝起きてからずっとエルがやっていたのは魔法を再構築して新しい魔法に書き換えるという作業だ。

 俺にその才能がないのか、他に理由があるのかわからないが、自分ではできなかったのでエルに頼んで作業していてもらっていた。


「で、効果はどんな感じだ?」

「お主の要望通りにできたと思うぞ。なかなか面白い作業じゃった」

「なら、後は素材の確保と……それと、魔族団や親衛隊の頑張り次第だな」


 エルに力を借りて作っていた魔法は、俺が使っていた防壁魔法と封印の間にかけられていた二重封印、そして、これまた俺が使っている探索魔法を掛け合わせたものだ。

 一種の防御魔法なのだが、単純に攻撃を守るための防壁魔法ではない。

 防壁魔法の防御効果、二重封印の感知遮断効果、探索魔法の索敵効果、この全てを掛け合わせている。


「これがちゃんと完成すれば、この国の守りは万全とは行かないまでもかなり強化できるはずだ」

「今回の迷宮探索がうまく行ったら、エルキールへの褒美としてくれてやるということで良いのじゃったな」

「そうだな。干渉しすぎないとは言ったが、ここまで関わってしまうと何か起こったら寝覚めが悪いし、エルも気にはなるだろ?」

「妾の魔族王国の後継者でもあるエルキールのことだけではなく、この国の者達は、言ってしまえば妾の国の民達の子孫じゃからな。気にならんとは言えんの」

「なら決まりだ。これが完成したらエルキールにプレゼントする」


 といっても、これは魔法が完成したというだけで、まだプレゼントできる状態にはない。

 この魔法を魔道具にすることで初めてプレゼントとして完成する。

 迷宮探索の後に渡すのには先ほど言った建前もあるが、それ以前に魔道具にするための材料が迷宮内で採取できるという理由もある。今回の迷宮探索でついでに素材集めを済ませて、プレゼントとして完成させてしまおうというわけだ。


「それで、この魔法の名はなんとするのじゃ?」

「な? ああ、魔法の名前か?」

「そうじゃ、名前じゃ。新しい魔法なのじゃから名前は必要じゃろう」

「エルが組んでくれたんだし、エルが決めていいよ」

「そうはいかん。この魔法の原理を開発したのはお主じゃからな。お主が決めろ」


 俺はそういう名付けのセンスとかないんだよ。

 しかし、エルのこの感じ、俺が決めるまで許してもらえなさそうだな。


「そうだなぁ……」


 防御系の魔法で、範囲はかなり広域をカバーできるようにできているはずだ。

 都市防衛魔法? いや、防衛だけではないんだよなぁ。


「うーん、じゃあ、〈都市監視防衛〉ってのはどうだ?」

「トシカンシボウエイか、長いの」


 他の魔法と比べてもそんな長くないと思うんだが。


「なら〈監視防衛(かんしぼうえい)〉で」

「適当じゃな」

「得意じゃないんだ。やっぱりエルが考えてくれ」

「いや、それで良い。監視防衛魔法としよう」


 俺のこっぱずかしさをよそに新魔法の名前が決定してしまった。


 そうこうしながらも、準備を終えた俺達は迷宮へと向かうべく部屋を後にするのだった。

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