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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
五章 勇者と魔王と新魔族王国
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五十七話

 子供魔王との城内散歩を終え、夕食も済ませて、俺達は子供魔王の自室にお呼ばれしていた。

 夕食の間もエルと楽しくお話ししていたせいでお付きの人に注意されていた子供魔王だったが、どうやら話し足りなかったらしい。

 子供魔王の自室は、一言で表すならば『お姫様のお部屋』といった感じのものだった。

 部屋の中央に置かれた大きなベッドには豪奢なカーテンがかけられているし、入って右手に置かれた真っ白なソファーと低めの白色テーブルには紅茶と菓子が用意されているし、バルコニーでは手入れの行き届いたプランターに咲いた花々が風に揺られていた。

 これで天井からシャンデリアでもぶら下がってれば、テーマパークにあるお姫様の城の一室だ。


「なんていうか、城の中がことごとく魔王らしくないよな」

「女系魔王の城でよくある光景じゃな。ここが特別というわけでもない」

「俺はエルがいた場所を見てるから」

「妾の場合は強さを押し出す必要があったが(ゆえ)じゃな。それに、妾個人としてもあの方が好きじゃったしの。かっこよかったじゃろ」

「うちはこっちの方がいい。エルさんのお城の絵を見たことあるけど、ちょっと怖かった」

「力で選ばれた魔王じゃったからな。恐怖もまた必要だったってことじゃ。それにかっこいいしの」


 かっこいいからって二回言ったよ。本当に気に入ってたんだな。

 しかし俺も、単純に魔王の城ってどんなのかと問われたら恐怖政治臭がするエルの考え方で飾られた恐ろしさ重視の城をイメージするし、しっくりくる。

 人との友好を望んでいたのならこっちの方がいいってのは、なんとなくわかるけどね。


 そんな感じで、まるで友人同士の会話のような取り留めの無い話をしたり、時にエルが子供魔王に魔法や精霊魔法について教えたりしているうちに夜も更けてゆき、今夜は城に泊めてもらうことになった。

 あてがわれた客室は子供魔王の自室程とは言わないもののかなり豪華なもので、部屋の真ん中に置かれたベッドは、子供魔王の使ってる物と比べても、大きさが一回り小さく、カーテン等の飾りを外してあるというだけだ。質としては子供魔王が使っているものと殆ど違いがない。

 置いてあるベッドは一つだけだったが。


「なんか、デーヴァンの宿でも同じようなことされたけど、ここの連中がやると意味合いが変わってくるだろ。俺達がどんな関係だと思ってるんだか」

「それがわからんが故の対応なのではないかの」

「わからないからって……俺達の関係がか? それなら無難に別の部屋を用意しておけばいいだけだろうに」

「そこは興味からのことじゃろうな」


 俺達がそんな関係ならよし、そうでなければ文句を言われるだろうからその時は別の部屋にってことか。


「魔王相手に随分と体を張ったもんだな」

「さすがに相手は選んでおるじゃろ。妾達のエルキールへの対応を見てのことじゃろうしな」

「子供魔王への態度が現魔族達への考え方だと?」

「少なくとも、友好的かどうかの判断材料にはしておるじゃろうな」


 まぁ、俺達は積極的に彼らと敵対するつもりはないし、結論として間違ってはいないけど……これはどうすっかなぁ。

 実際、他に部屋を一つ用意してもらったところで、エルが休む時は魔力体を解除するだけだから無駄になってしまう。それがわかっているだけに、頼むのが何となく心苦しいというか何というか……。


「このままでよかろう。あやつらがどう考えようが妾達にさほどの影響はない」

「それはそうだが、元魔王と元勇者がなぁ」

「それこそ、あやつらの中ですら疑う者もおろうというものじゃ。五百年前の魔王じゃとか、勇者じゃとか、そうそう信じられるものではないじゃろうしの。当時の妾達を知る者などおらんのじゃから尚更じゃ」


 俺なんか姿形もまともに言い伝えられてなかったしな。

 未だに、あの広場にあった銅像を思い出すと少し涙が出てくる。


「まぁ、それならいいか。もう眠いし」

「そうじゃな、そろそろ床に就くとするか」


 そう言ってエルは魔力体を解除し、俺は布団に潜る。


「それにしても、子供魔王は若くして親を亡くしているってのに結構頑張ってたな」

『周りの者の助けが大きいんじゃろうがな、それに、母親も魔王だったわけじゃから、いつか復活するしの』


 ああ、そうか復活するのか……復活……復活!?


「え? 復活すんの!?」

『それはそうじゃろ。ボロボロにやられておった妾になぜわざわざ封印なんぞを施したのか忘れておるようじゃな』


 そういやそうだ。

 あの時、『自分はいつか蘇る』とか言ってたエルに対してジェレールが『だから封印するしかない』って……それで、俺がエルの消耗役として戦わされたんだった。


「そうか、復活するのか……」

『いつ頃になるかはわからんがな。エルキールの方が先に滅ぶやも知れん』

「でも、エルキールも魔王なんだから復活するだろ?」

『魔王でも魂まで滅んでしまえば復活はできん』

「魂が滅ぶってどういうことだ?」

『代表的なのは寿命による死じゃな。あれは殆どの場合復活できなくなる。故に、寿命が尽きる前に自死によって復活が可能な状態にする魔王も少なくない。復活の際に若返るからの』


 蘇りのために自ら死を選ぶってなんか怖いな。

 ちょっと魔王っぽい感じはするけど。


『しかし、復活時期は選べんからな、魔王としての権能を奪われる可能性も考えると、寿命を全うして次世代につなぐ方が建設的と言えるじゃろうな』

「魔王の権能……また俺の知識にない言葉が出てきたな」

『その話はおいおいな』

「まぁ、いいや。もう寝よう。おやすみ」

『うむ』


 そうしてなんと無く気になることを残しながらも、俺は眠りについた。



 そして翌日。

 俺達は子供魔王と共に朝食を済ませ、ジェレーナによる勧誘を丁重にお断りし、せっかくきたのだからとエルキール魔族王国観光に出ていた。


「にしても、エルを教育係にとはね」


 ジェレーナから受けた勧誘というのはエルに子供魔王の教育係になってもらえないかというものだった。

 エルが教えてから子供魔王の魔法習得力が格段に上がったらしい。

 昨夜別れてから今朝までの間に飛翔魔法の他に探索魔法を使えるようになっていた。


「あやつは妾が教えんでも成長するじゃろ。精霊魔法に関しては妾はちと専門外じゃしな」

「きっかけはできたわけだし、後は子供魔王次第ってことでいいだろ」


 そもそも、一応は現代のことにはあまり干渉しないというのが俺達のスタンスだ。現状、守れてるとは言い難いスタンスではあるが、だからといってわざわざ破る必要もないだろう。

 まぁ、おかしな話ではあったが、既に断ったことに関して考えていても仕方ない。


「そんなことより魔族王国観光だな。

 やっぱり、デーヴァンとは売っているものが結構違うな」

「そうじゃな。特に迷宮(ダンジョン)から出た物の内容があちらとは大きく違うようじゃの」

「そういや近くに迷宮があるんだったな。結構大きい迷宮なんだろ?」

「全八十階層の準巨大迷宮(じゅんきょだいダンジョン)じゃ」


 準巨大迷宮とは、階層数が五十階層から九十九階層からなる迷宮のことを指す。

 百階層を超えるものは巨大迷宮と呼ばれ、腕試しや、お宝探しの場として人気があるらしいが、準巨大迷宮もまた巨大迷宮に次いで人気のある場所だ。


「そうなると冒険者を呼び寄せる餌としては最適なんだろうけど……」

「魔族管理じゃからな、人族の冒険者はあまり入れておらんじゃろ」

「だよな。そこから取れる物がデーヴァンとの取引とかで使われているんだろうし」

魔核(まかく)なんぞは輸出しておるじゃろうな。デーヴァンの街でも街灯なんぞといった魔道具を見たからの」


 魔道具の作成には、迷宮に出現する魔物から落ちる魔核が必要となる。作る際だけではなく、街灯などの無人で稼働する必要のある魔道具に関しては、動かす際にも魔核が必要になるのだ。バッテリーのようなものだな。

 つまり、デーヴァンは夜に光が欲しければ魔核を輸入するしかないわけだが、遠くの街から持ってくるくらいなら数日で着く距離のエルキール魔族王国から購入したほうが早いし、運搬費用などを考えてもそちらの方が安上がりだ。

 現状はエルキール魔族王国から魔核を買っていると考えて間違いないだろう。


「だけど、デーヴァンでも多少とはいえ魔核が手に入るようになったからな」

「多少価格を下げることにはなるじゃろうし、他の物も輸出を増やすことにもなるじゃろう。

 迷宮の規模が違いすぎるからそこまでの影響はないじゃろうがな」

「せっかくだから行ってみるか? エルがいれば許可がでないってことはないだろ」

「うむ、それも良いかも知れんな。当時も話だけは聞いておったが直接入ったことはなかったしの」


 デーヴァンで見つかった迷宮は全十五階層の小さめのものだったし、出てきた魔物がゴブリンやコボルト、強いのでもゴーレムやミノタウロスだけだったので、あまり迷宮を探索したという達成感のようなものがなかった。

 大きな迷宮ならまだ見たことがない魔物にも多く出会えるだろう。


「半層より上の場所でマンリザードが出るようじゃな」

「ようじゃって、エルはどんな魔物が出現するか把握していないのか?」

「迷宮主の正体と数体の階層主についてだけじゃな」

「ならなんでマンリザードのことを知ってるんだ?」

「そこらでマンリザードの素材を使った物を売っているじゃろ。ここまで普及しておるということは持ち帰りが容易な層でマンリザードが出てくるということじゃ。安全圏が四十五階層と言っておったから、二十から三十階層あたりで出るのじゃろう」

「なるほど」


 マンリザードというのはトカゲの見た目で人型をした魔物だ。全身が鱗で覆われていて、防具などの素材として使われる。ちなみに、人型ではなく大きなトカゲの見た目をしたリザードという魔物や、見た目がトカゲよりもドラゴンに近い見た目でヒト型のリザードマン族という種族もいる。

 リザードマン族は魔物では無く、ちゃんと意思疎通ができる種族だ。五百年前の大戦では中立の立場を表明していた者達で、噂では現代も独自の文化であまり他の種族とは関わらずに生活しているらしい。


「マンリザードについてはわかった。持ち帰りやすいところで出てくるから取扱店が多いのだろうってことだな。てことはつまりだ……上層あたりでカウ種が出るってことか?」


 俺達が観光を始めてからしばらく経つが、街道で店を開いている多くの屋台が見覚えのある串焼きを売っていたのだ。

 そして、その肉の正体がカウの肉だというではないか。


「そう考えるのが自然じゃな。高級食材であるキングカウではなく、スモールカウじゃろうがの」

「それでもカウ種は高く売れるって話だったろ」

「スモールはどうかの、今はわからんが妾の時代ではスモールボアよりは多少高い程度じゃったぞ。現に、デーヴァンで売っておった串焼きがここからの輸出品じゃと考えれば、輸入した物をあの値段で売れるのじゃから買取価格は知れておるじゃろ」


 ああ、デーヴァンで売ってた迷宮産の肉を使った串焼きってここから輸入した肉を使ってたのか。どうりで見覚えがあるわけだ。デーヴァンで見てたんだな。


「妾達の時代のものは違ったはずじゃがな。今はそうしておるじゃろう」

「まぁ、正直値段はどうでもいいんだ。カウ種ってのは美味いんだろ? ただ塩をかけただけの串焼きがかなり美味いんだから間違いないよな?」

「そうじゃな。カウ種は美味い。妾も封印される前はよく食べたものじゃが、あれはいくらでもいける美味さじゃぞ」


 よし、カウ狩りに行こう。

 先日、捕虜に食べさせるためにキングボアを使ってしまって、できれば食料を補充しておきたいと思ってたところだしタイミングもいい。

 何より、カウ肉のステーキが食べてみたい。串焼きは結構しっかり中まで火が通っていて、これはこれで美味しいのだが、やはり焼き加減がレアのステーキを是非とも食べたいところだ。


「迷宮に行くなら明日だな。すぐにでも行きたいところだけど、準備とかしないといけないし」

「ジェレーナに頼んでみるかの」

「そうだな。俺達より詳しいだろうから必要なものを用意してもらおう。ジェレーナがわからなかったとしても、城の誰かに聞いてくれるだろ」

「入るのに許諾も貰わんといかんじゃろうしな」

「そういやそうか」

「まぁ、聞いてみて損はないじゃろ。早速城に戻って準備じゃな」


 明日の迷宮探索のため、俺達は観光を早々に切り上げて城へ戻った。

 城に着き、執事さんにジェレーナに会えるよう話を通してもらい、昨夜用意してもらった客室でしばらく待っているとジェレーナが客室へと顔を出す。


「私に御用だと伺いましたが」

「実は、明日近くの迷宮に行こうと思ってるんだけど、準備するものとか聞いておきたくて」

「そうですか。それは、お声かけしてもらってよかったです。あそこは許可書を持っていない者は入れませんので」


 エルの思っていた通りだな。


「準備に関しては用意させましょう。迷宮探索許可書は隊長に言えば出してもらえると思いますので話してきます。少々お待ちいただいてもよろしいですか?」

「うむ、妾達が無理を言っておるのじゃ、無理なら無理で良いからの」

「エルキール様をお助けいただいたということもありますし、その程度のことでしたら大丈夫だと思います」

「さすがに必要な品の支払いとかは俺達がするからちゃんと請求してくれ。あと、あまりに高価な物はなしで頼む」

「わかりました。では、失礼します」


 そう言ってジェレーナは部屋を出て行った。


「人助けはしておくものだな」

「そこまで恩義を感じられるようなことはしておらんがな」

「まぁ、ヴァイリスは戦わずに降参してたからな。でも、エルは子供魔王を助けたじゃないか」

「あれはあやつらが油断しすぎておったからの」


「うちの話?」


「うおっ」


 俺達の会話に唐突に割り込んで来た少女の声。

 子供魔王ことカルアナ・エルキールだ。


「うちを助けてくれた時の話でしょ?」

「そうじゃ、妾達は大したことはしておらんのにやけに恩を感じられておるなとな」

「いいんじゃないかな、うちが助かったのは事実だし」

「ま、それはそうなんだろうけどな。で、お前はなんでここにいるんだ? 魔王は暇なのか?」


 子供とはいえ一国の王だろ?


「うん、暇」


 一国の王だよな?


「いえ、暇ではありません」


 王とは思えぬエルキールの言葉を否定したのは、いつの間にか戻って来ていたジェレーナだった。

 片手に許可書と思われる紙を持ち、軽く腕を組んで子供魔王に呆れの視線を送っている。


「早かったな。許可はもらえたのか?」

「はい。許可書も用意しました」

「それはよかった」

「ただし、許可を出すにあたって隊長から条件を出されました」


 条件? 何か仕事でも頼まれるのか?

 子供魔王救出に対して変に恩を感じられて許可が出るよりも、何かを対価として許可してもらった方がこちらとしても気が楽だから構わないけど。


「条件は私の同行」


 なんだ、そんなことか。

 頼みごとでは無く監視役の同行指示ってことね。


「と、エルキール様の同行です」


 ああ、エルキールの同行ね。

 子供魔王も一緒に連れていけと。

 迷宮に。



……はい?

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