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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
五章 勇者と魔王と新魔族王国
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五十四話

(エル、どうやらこっちは当たりだったみたいだぞ)

(おお、そうか。では妾もそちらに向かおう)

(そうだな……じゃあ、俺が時間を稼いでおくから、その間に魔王の救出を頼めるか?)

(ふむ、五番隊の奴は既に遊んでやったことがあったな。今回はユウマに譲ってやるとするか)

(そらどうも。頼んだぞ)

(良かろう。任せるのじゃ)


 さてと。

 これでまぁ、子供魔王については大丈夫だろう。

 俺の時間稼ぎが成功すればだが……。


 エルが来るまで約一分ってところだな。

 今のところ相手が転移魔法を使おうとしている様子はない。この森に来ることができているんだからここから、他の場所に飛べないというのは考えにくいし、やっぱり再使用までに時間がかかるのだろうか。

 なんにしてもこちらにとっては都合がいいことだが……いや、使えないと決めつけてかかるのは危険か。なんらかの理由で温存してるだけで、使おうと思えば使えるって可能性も無くもないからな。

 となると……。


「なるべく相手を刺激しないように動く必要があるな……」


 しかしなぁ、五番隊の隊長にはちょっとばかし面が割れてるんだよなぁ。脅しみたいなこともしちゃったし、顔を合わせただけで警戒されそうな気もする。


「どうしたもんかな。あの様子じゃ、このままほっといたら子供魔王に危害を加えられないとも限らないし」


 労力を割いてわざわざ攫った以上は命に関わるようなことをすることはないだろうとはいえ、口喧嘩の末に暴力を振るわれる可能性は捨てきれない。


「前に会った時はそんなことする感じには見えなかったけど、あいつらの現状が現状なだけに油断はできない。

 相手の状況がわからないから、幻惑魔法を使っても違和感でバレる可能性もあるしなぁ」


 いっそ眠らせてしまうか? でも、空間転移の魔道具以外にどんな魔道具を持ってるかわからないのが気掛かりになる。


「まいったな。魔法じゃ無理そうだ」


 こうなったら一か八か直接出てみるしかないかな。


「まぁ、一分だけ稼げばいいんだ。どうにかなるだろ」


 俺は覚悟を決めて話し声のする方へと向かう。


「我々は先代の魔王様に恩によりあなた方に協力しているのであって、魔族王国自体に協力しているのではない。ましてや、国に仕えているだけの軍の者などに指図されるいわれなどない。我々が無条件で力を貸すのは先代のご息女であるエルキール様とエルキール様が認めた者だけだ」

「その条件というのが国の許可を取れというものじゃないか。必要なものが変わらんだろう」

「エルキール様に害をなす者などに協力などするか。

 とにかく、エルキール様の指示を受けているというのが嘘であったのであればこれ以上協力はできん。エルキール様を魔族の国までお送りする」

「うちを攫いたかったらちゃんと手続きをとってからにしてよね」

「国の責任者をさらう手続きなんて聞いたこともない!」


 近づくにつれて彼らの話し声が聞き取りやすくなっていくんだが、内容がもう訳がわからないことになってるな。特に子供魔王であろう声の主が、興奮しているゆえなのか、故意に相手を混乱させようとしているのか、言っていることがめちゃくちゃだ。

 俺は話の内容をなんとなく聞きながらも更に距離を縮めていく。


 彼らの姿を完全に目視できるようになった頃には五番隊の隊長であるヴァイリス・ガドルトであろう声の主と案内人との会話は完全にヒートアップしていた。


「貴様が案内人としての役目を果たさんというのであればこちらにも考えがある! エルキールに危害を加える気などなかったが、これ以上我々に逆らうのであればこいつの腕を落とす! その程度であれば死ぬことはないからな!」

「魔法も使えぬ小童が大層な口を聞くものだ。エルキール様に傷の一つでもつけてみろ。貴様らなど森の養分にしてくれる」

「舐めるな! 忠誠を誓ってはいなかったとはいえ、俺は王国魔族団の隊長を務めていたんだぞ! 案内人などに遅れをとるか!」

「相手の実力をはかることもできん小僧が我らエルフに敵うはずがない」

「ならばその実力とやらを見せてみろ!」


 いや、もう、まさに一触即発という感じだ。

 俺は慌てて彼らの前に飛び出した。


「おい、まてまて、なにを戦い始めようとしてんだ。子供魔王が怪我をしたらどうする」

「どちら様ですか?」

「き、貴様は……何故ここにいるんだ! この場所が貴様にわかるはずがない!」

「数日ぶりだな五番隊隊長さん。そっちのエルフの人は案内人とやらで、そこのちっこいのが問題のエルキールっていう魔王か。あとの一人は……ああ、ヴァイリスの部下かな? 城から逃げ出したのを見られたっていう」

「いかにも、私は案内人だ。あなたがどちら様かお答え願いたい」

「失礼。俺はユウマ、冒険者だ。ちょっとわけあってそっちの角紅瞳(つのあかめ)族の男を追ってきていた」


 その場にいたのは意外にもたったの四人だった。

 てっきり、ヴァイリスがもう少し部下を連れていると思ったのだが……急なこととはいえ、連れているのがたったの一人とは。

 彼の部下もまたヴァイリスと同じ角紅瞳族のようだ。赤い目と頭に生えた一本の角。彼らの呼び方を真似るのであれば一角(いっかく)の角紅瞳族ってことになる。

 そして、緑のフードを被ったエルフである案内人と、エルキールであろう少女。少女の容姿は少しエルに似ている。瞳は真紅に彩られ、肌も人と変わらない。エルと違う部分といえば耳がエルフのように尖っていることと、髪の色が金色であることか。

 あと、五百年前は付け角までして魔王であることを強調していたエルとは違い、どちらかというと姫成分多めな服装をしている。


「で、さっきまでの話を聞く限りだと案内人のあんたはヴァイリス側ってわけではなさそうだけど」

「そのとおりだ。我々案内人はエルキール様を慕っているのであって、たとえエルキール様と同国の者であってもエルキール様に反する者につくことなどありえない」

「そうか、じゃあ話し相手は隊長さん達だけってことだな」

「俺はお前に話などない。人族が我々魔族の事情に口を出すな」

「そうもいかないんだよ。一度あんた達のお仲間から襲撃受けてるし、聞きたいこともあるからな」

「知らんな。こちらが話すことなどない」

「そう言うなって。話し合いができないなら、力ずくでお前らを縛り上げてから話を聞くってことになるけど、それはあんたらも望んでないだろ?」


 実際は、エルキールの救出を頼まれている状況だから、実力行使っていう彼女を巻き込む可能性のある対応はあまりできないんだけどね。


「話し合いで決着がつくならそれに越したことはないはずだ。少しばかり時間をくれないか」

「ふん、話し合いも何も、今の俺達はエルキールを連れ去るのが目的だ。貴様とは何も関係がない」

「じゃあ、俺を襲った奴らの情報はどうだ? あいつらは俺と関係があるだろ? あんたらとも関係があると思うんだがな」

「話す訳がないだろ」


 そらそうだ。

 話し合いで決着をつけるには手札が少なすぎる。相手に提示するものがなければ提案すらできない。

 だが今はそれでも問題ないのだ。


「じゃあ、その襲った奴らの隊長とやらが転移魔法で消えたんだが、その話は? あの声だけの奴はどこにいる」

「……」

「だんまりか。答える気はないってことだな」

「当然だ」


 転移魔法について触ってみても、彼がその魔法を使う様子はない。反応から見ても、忘れてるとかそういうわけではないんだな。

 声だけのあいつが使った時は、ちょっとした足止めをしていたとはいえ俺達の目の前で簡単に使用ていた。そのことから考えても、使用したら俺が邪魔しても簡単に阻止できるものではないはず。少なくともそういう自信があるくらいの代物なはずだ。

 突然の俺の登場で忘れてたわけでもなく、現状だと使えないってものでもない。それでも使わないってことは今は使えないと考えて良さそうだな。

 今日の運勢はそう悪くないようだ。


「じゃあ、もちろんあんたらの拠点の場所なんかも答えてはもらえないんだろうな」

「……当たり前だ」

「じゃあ、その子供魔王をこっちによこしてはくれないか?」

「馬鹿なことを言うな! さっきから『じゃあじゃあ』とふざけたことばかり言いやがって! 俺達の答えはわかりきってるだろ! どういうつもりだ!」

「どういうつもりもなにも、俺はちゃんと言ったろ。話し合いで解決するならそれに越したことはないって。それに……」


 俺がそう言うのと同時に俺の背後からガサガサと物音が聞こえてくる。


「少しばかり時間をくれとも言った。

 エル、助けられたか?」

「うむ、問題ない」


 背後から出てきたのは肩に子供魔王を担いだエルだ。

 俺がヴァイリスと話している間に彼らの背後についたエルは隙をうかがって待機していたのだが、先程彼が怒りを爆発させ、部下の意識も彼に向いたところで子供魔王を救出したのだ。


「かなりの早業だったな。いきなり子供魔王が消えたせいで案内人の人なんか固まっちまってるぞ」

「程よく緊張して案外面白い仕事じゃった」

「こっちは話す内容がなくなりそうでひやひやしてたよ。さて、じゃあ実力行使といきますか」

「こやつには聞きたいことがあるしの」


 俺は、腰に下げた剣を引き抜いて呆然としているヴァイリスに切っ先を向ける。


「……っは! ま、まて、まってくれ、話し合いで解決しよう。それに越したことはないって言ってただろう」

「そうだな。まぁいいけど、俺は今お前達の命っていうなかなか強めのカードを手に入れたぞ。そっちは何を出すんだ?」

「い、いのち……」

「そらそうだろ。俺達はお前らの仲間らしき奴から命狙われたんだ。お前は信じなかったみたいだけど、そいつは俺が元勇者だってことを信じててな、自分達につかないエル諸共ってな」

「それは俺のせいじゃない!」

「俺からしたら関係ないな。文句はあいつに言ってくれ」

「ならさっき貴様が聞いてきたことを全部話す!」

「全部?」

「全部……いや、その声の主ってのは多分俺達のボスなんだが、あの人の居場所については無理だが、それ以外は全て話す!」


 あの声の主がボスってことはそいつが今回の黒幕ってことなのか、それともただ単にこいつらの上司ってだけで更に上がいるのか、何にしても……。


「正直、そこが一番知りたい情報なんだがな」

「ボスの居場所は俺も知らないんだ。話したことはあるが、会ったことはないし、顔を見たこともない。多くの拠点を持ってそこを転々としているだとか、どこかに隠れ住んでるとか、色々話には聞くが実際のところはわからない」


 影のボスか。

 話したことがあるのに会ったことがないってのは、あの隊長さんとやらを操った時と同じような状況で話したってことか?

 まぁ、ボスとやらの正体がわからないとしても、こいつらが使ってる魔法の正体を知るには現状だとこいつらから話を聞くしかないからな。


「仕方ない。命は奪わないでやろう。今回は聞いたことには全て答えてもらうからな」

「わかった」


 前回逃した時のように答えたくないことは答えないってのは無しだ。

 答えられるものには、ヴァイリス自身が言ったように全部答えてもらう。ある程度の嘘はエルが見抜いてくれるだろうし。


「ま、このままここで話してもあの隊長さんみたいにお前も転移させられかねないから、子供魔王を家に返すついでにお前達も王国に戻ってもらうぞ」

「わかった」

「そんじゃ、まずは捜索隊と合流しとくか。子供魔王を取り戻したことを伝えないといけないからな」

「そうじゃな」

「そういや、捜索隊には俺達のことはなんて言ったんだ?」

「ガルドフに頼まれて捜索を手伝っておると正直に伝えてある」


 ま、それで信じてなかったとしても実際にエルキールを助けたんだから大丈夫だろう。


「さて、行く前にお前達には気絶してもらう」

「気絶!?」

「途中で気が変わりましたって言われても面倒だからな。眠らせてもいいんだけど、少しくらい争った形跡があったほうが面倒がなくていいだろ」

「ふ、ふざけるな! 先程から話を聞いていれば勝手なことばかり言いやがって! 隊長が降伏するっていうなら俺は従う。体調が敵わないなら俺がどうにかできる相手じゃないのはわかる。しかし、降伏した相手にまで攻撃しようってのか!」


 いきなり騒ぎ出したのはずっと黙り込んでいたヴァイリスの部下らしき男だ。


「黙れ、カカリトス」

「しかし隊長!」

「従うしかない」


 部下らしき男はカカリトスというらしい。

 というか、俺が悪者みたいなやりとりするのやめてもらえますかね。

 まぁいいや。


「そうだ、気絶させる前に聞いておきたいんだが、お前らのボスってなんて名前なんだ? 流石に名前も知らないってことはないだろ」

「名前くらいならわかる」


 じゃなきゃ面倒だもんな。


「ボスの名前はジェレール・リドガルド様という。我々魔族をあるべき姿に返してくださるお方だ」


 ジェレール・リドガルドか。

 ジェレーナと一文字違いで紛らわしいな。

 リドガルドと合わせてジェレガルドとでも呼ぶか。


……ん? ジェレール?

 なんか聞き覚えのある名前だな……。

 前に同じ名前の人と会ったことがあるような……。


 ジェレール……んー……ジェレール……。


 なんか魔法使う人で……。


「……あ」

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