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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
五章 勇者と魔王と新魔族王国
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五十話

「それじゃあ、お腹も満たされたところであんたらの現状について説明して起きたいんだが、そっちの代表は副隊長さんてことでいいか?」

「構わない。隊長亡き今、私がこの隊の責任者だ」


 隊長亡き? ああ、あの連れて行かれた魔族の男性が隊長で、その隊長さんがいないから死んだと思ってるのか。


「あんたらの隊長さんは生きてるよ」

「ではなぜここにいない」

「連れて行かれたんだ。なんかよくわからないやつにな」

「妾達が知らん空間移動の魔法か魔術で連れて行かれてしもうた。行き先はお主らの方がわかっておるじゃろ」

「あんた達が俺達を襲ってきた後に起こったことを順番に説明するよ」


 俺は彼らが襲ってきた後のいざこざを簡単に説明していく。

 全員をエルが気絶させたこと、隊長らしき男と話していたらいきなり気絶して変な声で話し始めたこと、空間移動でその場から消えたこと、直後に他の全員が自爆しそうになったこと、などなど。

 仲間に見捨てられて自爆させられそうになっていたなんて、普通に聞いたら俺達が騙そうとしてるとしか思えない内容なのだが、彼らは思いの外すんなり受け止め、特に疑問や疑いの声などは上がらなかった。声だけのあいつに心当たりがあるんだろう。


「ま、こんなとこだな。信じなくてもいいが……って言ってももう普通に信じてくれてるみたいだけど」

「あの魔導バカが……だからあんな奴のいうことは信じない方がいいと隊長に散々忠告していたのに」

「隊長は人が良すぎるんですよ」

「仲間を疑うなんてできない人だからな」

「この前も騙されて……」

「ああ、俺も見たぜ。街でよ……」


 呆れたように頭を手で覆う副隊長に続き、他の魔族達も口々に隊長談義に花を咲かせ始める。

 慕われてるんだか、馬鹿にされてるんだかよくわからない隊長さんなんだな。


「現状に関してはここまでだ。ここからは今後のことについて話すぞ」


 いつまでも、大して知りもしない隊長さんの話を聞いていても仕方がないので話題を切り替える。


「いいか、あんた達は明日エルキール魔族王国へと引き渡す。情報を言えだとか、罪を償えだとかってのを俺達がやるつもりはないからその点については安心してくれていい。

 ただし、お前さんらを運ぶ方法がちょっと特殊だから、念のために移動の際には眠っててもらう」

「眠ってる?」

「そうだ。と言っても、魔法で眠らせるから今のは許可を求めたものじゃないけど、一応伝えとこうと思ってな」


 飛翔魔法で飛んでくとか説明してもどうせ明日は騒ぐだろうから、なら最初から黙らせとこうってことで彼らには移動中は夢の中に居てもらうことにした。今日みたいに睡眠魔法で眠らせときゃ楽だからな。

 俺自身まだ飛翔魔法で人を運べるようになって間もないんだ。空中で暴れ回られるわけにはいかない。


「そんなとこだ。何か質問はあるか?」

「……特にない」

「そうか。じゃあ、俺たちはもう寝るからな。この檻はかなり頑丈に作ってあるから魔物に襲われたりする心配はない。あんた達は結構寝てたから寝ろって言われてもそう寝られないだろうけど、まぁ、適当に体を休めといてくれ」


 そう言って俺は檻から離れ、自分達の分の寝床を作っていく。昨日と同じ土の部屋だ。


「ユウマ、あやつらに(くだん)の魔法使いについて聞いておかなくてよかったのか?」

「あーそうだなー……っと完成。あいつらに聞いたところで答えるとも思えないし、さっき話した通りどうせあっちから接触してくるだろうからいいんじゃないか?」


 土の家と寝床が完成し、俺はベットに使う藁などを取り出しながらエルの言葉に答える。


「そもそも、初めて見る魔法について知りたいと言ったって、あの魔法使いに会えたからってわかるかどうかも怪しい気がしてきてるんだ。よく考えたら、あれ結構おかしいんだよな。空間魔法に精神を乗っ取ってた魔法、こちらの状況を監視していた魔法、それに二十人前後の者を自爆させる程の魔法の行使って、明らかに魔力使いすぎだろ?」

「そうじゃな、特に空間魔法については大きな魔力を使ったはずじゃ」

「なんか裏がありそうだと思わないか?」

「あの魔法使いの力ではないと?」

「それはわからないけど、もしかしたら魔道具を使ってるんじゃないかな。街で聞いたんだけど、迷宮で稀に再現不能なくらい高度な技術で作られた魔道具が発見されることがあるらしいじゃないか」

「うむ、妾も聞いたことがあるの。一部の迷宮で見つかる宝箱に入っとるという話じゃったかの」


 ごく一部の迷宮内でごく稀に現れるという宝箱。

 出現理由も、出現原理も何一つとして分かっていないという謎に包まれた物なのだが、そこで入手した物の殆どは国宝になる程の強力な力を持っているという。

 何を切っても刃こぼれのしない剣や、発動すると強力な防御魔法を自動で展開し続ける水晶、誰が使っても必ず目標を打ち抜けるという弓、この他にもいくつか見つかっており、どこで見つかったとしても、大体がその迷宮を管理している国に回収されているらしい。回収と言っても、一生遊んで暮らせる程の対価が払われているわけだが。

 そのため、一度宝箱が見つかった迷宮には多くの冒険者が集まり、彼らは日々一攫千金を夢見て迷宮に潜っていくのだとか。

 そんなお宝の中で今回の件に関係していそうな物を一つだけ知っている。


「どうやら、その魔道具の中に『対の首飾り』ってのがあるらしいんだ。二つセットになっている首飾りで、互いの首飾りを通して通信ができるアイテムなんだとさ。そんでもって、大昔に盗まれてから行方が分からなくなってるって話だ」

「それをあやつが持っておると?」

「それならこっちの状況を理解していたことにも説明がつく。こっちの話を聞いていたってだけだからな。これなら魔法は使わないし、国宝級にまでなる魔道具なら魔力の消費が少なくてもおかしくはない」

「なるほどの。確かに筋は通っておるな」

「それに、そんな魔道具を使っていたと考えれば隊長だけ回収した理由にも納得できる。平気で仲間を爆弾扱いするような奴だとしても、そんな魔道具なら空間魔法なんて珍しいものまで使ってでも回収したいだろ」

「首飾りはあの隊長が持っておったというわっけじゃな」

「となると空間魔法についてもあいつ自身が使ったものか怪しいもんだな」


 とはいえ、これほどの魔道具をいくつも持ってるってなったらそれはそれで問題なんだけど。


「ま、もし魔道具を使ってたとしたらあの声のやつのことを聞いても無駄だろ。なんとなく、あいつが嫌われている風ではあったから、あいつ自身のことなら話してくれるかもしれないけど」

「魔道具が置いてあるような奴らの拠点の話なんぞはせんじゃろうからな」

「そういうこと」


 まぁ、これは完全に俺の憶測による推論だから確実とは言えないんだけど、もしあの声だけのやつが魔法を使ってたんだとしても、やつの居場所までは教えてくれないだろうからな。


「万が一あいつらが拠点について話すような連中だったとしたら王国に引き渡した後に話してくれるだろ。ジェレーナあたりから聞けばいいさ。とにかく今日はもう寝よう」


 初めての飛翔魔法でちょっと精神的に疲れてしまったので、正直早く寝たい。


「そうじゃな。あまり関わらんと決めたんじゃから、あの魔法についてもついで程度に考えておくべきかの」

「そうそう。じゃ、おやすみ」

「うむ」


 俺は準備したベットへと潜り込み、エルは魔力体を解除して俺の中へと戻っていく。そうして俺達は眠りについた。



 翌朝、陽の光で目を覚ました俺は身支度を整えて外に出る。

 朝食は昨日のスープの残りだ。パンはもうなくなっちゃったしな。


「また買い足しとかないとな」

「敵に情けなどかけるからだ」


 俺の独り言に答える声があった。

 エルはまだ寝てるし、そもそもこの声は檻の方から聞こえている。


「副隊長さんか、寝てないのか?」

「いや、順に見張りを立てていただけだ」


 どうやら、普通に野営をするのと同様に数人ずつ見張りを立てて交代で寝ていたらしい。


「頑丈に作ったから大丈夫だって言ったろ」

「敵の言葉を鵜呑みにするわけにはいかんからな」

「それはそれは。お真面目なことで。朝食ができたら声かけるから、そしたらみんなを起こしてくれ」

「ふん、朝食まで用意しているとは。呆れたお人好しだ」

「昨日の残りのスープだけどな」


 憎まれ口を叩くわりには昨日の夕飯もしっかり完食してたじゃないか。


「そういや、あんたら全員昨日の飯食ってたな。旧魔族派は人族嫌いだってのに。『人族が作った物を食べるくらいなら死んだほうがマシだ』とか言いそうなもんだがな」

「我々は隊長についているだけだからな。旧魔族派だろうと魔王派だろうと関係ない。人族との関係がどうなろうとも隊長と共に戦うだけだ」


 やっぱ慕われてんのか? あの隊長さん。そんなに人を引き付けるようなやつには見えなかったけどな。


「まぁ、いいや。そろそろスープがあったまるぞ。俺はエルを起こしてくるから副隊長さんは他の隊員を起こしておいてくれよ」


 流石に人目がある場所でエルの魔力体を出すわけにもいかないので、俺は一度土のドームの中に戻る。


(エル、いつまで寝てるんだ)

(ん……もう朝かの)

(とっくにな。朝食ができたから起きろ)

(うむ)


 エルが魔力体を出し、二人で外に出ると、檻の方からも話し声が聞こえ始めていた。


「みんな起きたか? 昨日の残りだが、スープを用意したから食べてくれ。準備ができたら出発するからな」


 まぁ、みんなには寝てもらうだけだけど。態々起こしておいてなんだが。


 そうして、全員朝食を済ませ、各自出発の準備を始める。

 寝床の藁などを回収し、ドームを崩した頃には全員の準備が整っていた。


「じゃ、檻を開けるけど逃げようとか考えるなよ。寝かせてからでもいいけど、一応、人道的な対応を心がけているからな。おかしな行動をして俺の善意を無駄にしないように」


 檻の一部を大地操作(アースコントロール)で開き、魔族達を外へと誘導し、全員が出たことを確認してから檻も崩してしまう。


「よーし、準備はできたな。じゃあ悪いけど少しの間眠っててくれ」


 起きたばかりで悪いが、全員に睡眠魔法をかけて眠らせてしまう。


「側から見たらとても人道的には思えんの」

「仕方ないだろ。俺が魔法をミスって怪我させないためなんだから。

 そうだ、一応全員に清掃(クリーン)の魔法を使っとくか。少しは不快感が減って起きた時に文句が出にくくなるだろ」


 予防策ってのは無駄になるくらいに講じといた方がいいからな。

 俺は魔族達に清掃魔法を使って綺麗にしていく。


「よしこれでいいな。じゃあ行くか」


 準備が整ったところで俺達は飛翔魔法でその場を後にした。




「飛翔魔法にもだいぶ慣れてきたな。これならもう少しスピードを上げても良さそうだ」


 しばらく飛んでいるうちにだいぶ飛翔魔法の扱いがわかってきた。

 最初は他の者を落とさないように飛ぶのに精一杯だったが、今は多少のコントロールなら難なくできるようになっている。


「いや、やめておけ。お主は良くても、他の者達は落ちたらひとたまりもないんじゃからな」

「そうか。今度一人で飛ぶ時の楽しみにでもしておくかな」

「その時は妾とスピード勝負でもしようではないか。妾の国では時折速さを競う催し物を開催したりもしておったぞ」

「それは面白そうだな」


 魔法を使ったレース大会か。盛り上がりそうだ。


「まぁ、訓練の一環という側面が強かったのじゃがな。飛翔魔法は魔法制御を覚えるのにもってこいじゃからな。正に体で覚えるというやつじゃ」

「確かに、ミスると普通に怪我するからな」

「新入り同士で競わせて魔法制御を学ばせ、次に上官同士が競うところを見せることで目標となる者を目に焼き付けさせる。そんな感じじゃった。とはいえ、皆楽しんでおったがの」


 訓練なんて楽しんでやった方が効率もいいってもんだろう。

 同期と競い、先輩の勇姿を見て憧れを抱く。そして楽しみながらも力をつけていくとなれば理想的な訓練と言えそうだ。


「俺もこの世界に来た頃は魔法を使うことが楽しくて訓練が苦じゃなかったもんな」

「そういうもんじゃ。こちらの世界に生まれた者でも、お主ほどの感動はなかろうが、初めて魔法を使った時ははしゃぐからの」


 なんというか、俺がこの世界に来なければ魔族は人族に勝利していたんだろうな。勇者を人柱にするような連中よりはしっかりと部下を育ててたりするし。

 いや、人側もどうしようもなかったのかもしれないけどさ。


「そう気にすることもなかろう。戦争とはそういうものじゃからな」

「いや、そこまで気にしてるわけではないんだけどな。単純に前世の時に持ってた魔族の印象と違うなぁって思うだけだ」


 前世で読んだ小説では魔族は絶対悪として描かれ、倒すのが当然という風にされていた。

 しかし、こと現実になってしまうとやはり魔族には魔族の考えを持って生きているんだと実感する。

 いやまぁ、当然っちゃ当然な話なんだけど。


「この世界にも物語というものはある。神話の話やおとぎ話なんぞがの。そこに出てくる悪者というのは総じて悪そのものじゃ。それが魔族か、人族か、その他か、様々違いはあってもの」

「そんなもんか」

「そんなもんじゃ」

「まぁ、敵ってのははっきりしていた方が物語の流れがわかりやすいしな……ん?」


 エルと他愛もない話をしながら飛んでいると、不意に俺達の向かう先の道をこちらに向かって走ってくる集団が見える。

 今飛んでいるのは昨日の野営地を出て数時間程進んだところで、俺達の進行方向から来るということは、つまり魔族の国の方から来ているということだ。魔族の関係者なのは間違いないだろう。

 と言っても、こっちは飛んでいるわけだから道を走る相手なんて気にしなくてもいいのだが……。


「おい、あれもしかしてジェレーナじゃないか?」

「ふむ、まだ遠いからはっきりとはわからんが、服装はあやつに似ておるな」


 こちらに向かって走ってきている数台の荷馬車の前を行く一台の馬車。その御者台に座っている人影がなんとなくジェレーナに似ているように見える。


「俺達が捕虜を王国まで運ぶって話だったと思うんだけど、態々迎えにきてくれたのか?」

「うーむ、どうにも急いでおるように見えるのじゃが……どうにも嫌な予感がするの」


 確かに、ただ迎えに来ただけって様子じゃなさそうだな。とにかく俺たちと合流しないとって雰囲気が感じられる。


「また厄介事か?」

「可能性は高そうじゃな。とにかく下に降りんか? もう少しで合流しそうじゃぞ」

「そうだな」


 俺達はそのまま下へと降り、道の端で集団がつくのを待つことにした。

 そして待つこと数分、空を飛ばずとも目視できる距離まで集団が近づき、そしてその集団の先頭にいたのはやはりジェレーナだった。

 あちらも俺達に気づいたのか、徐々にスピードを落としながら近づいてくる。


「エル様! お会いできて良かったです。問題はございませんでしたか?」

「うむ、特にないが。どうかしたのか?」

「それが……」


 俺達の元についた途端に馬車から飛び降りて片膝をつくジェレーナ。例のごとく俺の名前は出て来ないが、まぁいいか。

 エルの問いに対して言い淀むジェレーナ。伝えて良いものかどうか悩んでいるようだ。


「よい、お主らに都合の悪いことであるのなら聞かなかったことにしてやる。話してみよ」

「いや、普通は都合の悪いことなら言わなくていいっていう場面じゃないか?」

「気になるからの」

「おいおい……」


 なんて魔王様だ。

 部下の育成頑張ってたんだなぁとか感傷的になってた先程の俺の気持ちを返して欲しい。


「いえ、そうおっしゃってくださるのであればお話しします」

「うむ」


 不安要素がなくなったとでも言うかのように顔の陰りを取り去ったジェレーナが口を開く。

 なんかかなり嫌な予感がする。



「エルキール様が何者かに攫われました」



 そう言ったジェレーナの口元が微かに笑っていたのは俺の気のせいだろうか。

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