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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
五章 勇者と魔王と新魔族王国
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四十九話

 野営をすることにしたのはいいが、それに際して厄介になったのが捕まえた魔族達の扱いだった。

 ただ単に捕まえておくだけなら土の牢獄(アースプリズン)で土の牢屋でも作って入れておくだけなのでいいんだが……問題は食事だ。

 一人二人増えた程度ならまだしも、流石に二十人前後に食べさせる程の料理は用意していない。


「材料は……ないこともないか。キングボアがまだあったはずだよな」

「そういえば、残しておいたのをまだ食べておらんかったの」

「しかし、解体ができないんだよな」


 一応、やり方自体は記録媒体で確認しているが、せっかくのいい肉なんだからちゃんと処理して食べたかったんだけどなぁ。

 ジェレーナがいれば解体してくれただろうに。


「仕方ないから適当にやって丸焼きにでもしよう」

「ちと勿体無いが、そうするしかないかの。まぁ、キングボアならまた会うこともあるじゃろ」


 そもそも、このキングボアは魔術で無理矢理進化させられた少し質の悪いやつだし、いつか普通のキングボアと出会うこともあるだろうと考えるしかないか。

 それまでに解体ができるようになっておかなくちゃな。


 俺達はキングボアのちゃんとした解体を諦め、マジックボックスから取り出した巨体から、皮を剥いだり、内臓を切り取ったりといった基本的な下処理だけを済ませ、用意しておいた焚火の上で丸焼きにしていく。

 味付けは塩をふりかけるだけ。これだけでも十分美味しく食べられることはわかってるしな。


「パンは全員に配るくらいの余裕はあるし、あとはスープでも作るか」


 主菜が丸焼きにした肉だし、確か、野菜の買いだめはまだ結構あったはずなので、ここは少し軽めに野菜をメインにしたスープにでもしておこう。

 昨日の兎肉の余りで出汁を取って、市場で買った野菜を適当に切ってポイポイとぶち込めば、後は煮込むだけ。味の調整に塩を少しいれておこう。

 やっぱり、料理をするなら胡椒が欲しくなる。この世界だと胡椒は高級品だからなぁ。


「ま、無い物ねだりをしてもしょうがない。後は煮込んだら完成だからこのまま置いておこう。エル、ボア肉の方はどうだ?」

「もう少しかかるかの」


 丸焼きにするとは言ったものの、キングボアは大人の身長を優に超えるサイズなので、丸々そのまま焼いていたのでは火が通るまでに時間がかかり過ぎてしまう。

 だから、大雑把に切り分けてから焼いているのだが、それでもやはり中まで火を通すには時間がかかるようだ。


「完成するまで暇だし、今後の方針でも決めておくか」

「方針?」

「旧魔族派って奴らのこともあるしな。どうせエルキール魔族王国に着いたらその辺りの話をされるだろ」

「そうじゃろうな。此奴らのこともあるしの」


 エルの言う此奴らというのは、土の牢に入れてある魔族達のことだ。こいつらを連れていくということはジェレーナが伝えているわけだし、旧魔族派が接触してきたことも伝わっていると考えて間違いないだろう。


「例の五番隊隊長さんが現魔王のことを呼び捨てにしてただろ? 名前はわからないけど、旧魔族派を名乗ってたあいつもそうだった」

「五番隊隊長は旧魔族派じゃと?」

「そう考えるのが自然だな。そうなるとせっかく爆破を食らったように見せかけた意味もなさそうだ」

「ジェレーナが戻った時点で妾達の生存は伝わっておるじゃろうからな」

「もし、魔族王国で話がなかったとしても、巻き込まれることになりそうなんだよね」


 魔法知識の高い相手のことだ、何かしらの方法でこちらを監視している可能性は高い。

 部下の体に描いた魔法陣で意識を乗っ取るタイミングも結構良かったし、話していた内容も把握している風だった。こちらの状況がわかってないと出来ない芸当だ。

 今は念のために音声変換(ボイスコンバート)で会話の内容をわからないようにしているが、これだってどれだけ効果があるかわからない。


「始末しようとした俺達がまだ生きてるとなれば、また接触してくる可能性は低くなさそうだろ?」

「そうじゃな、人質や情報源として使えそうな者共も確保されてしまっておるわけじゃしの、接触は早そうじゃな」

「そうするとこっちは応戦するしかないわけだから……」

「成り行きで巻き込まれることになるというわけか」

「そういうこと」


 こればかりは、降りかかる火の粉は払うってスタンスでいる以上仕方がない。


「そうなった時に、ただ巻き込まれるだけよりも、ある程度方針を決めておいた方がいいと思うんだよ」

「なるほどの。それで、お主はどうすれば良いと考えておるんじゃ?」

「俺はエルの考えを聞いてからってところだな。一応、魔族関係のものみたいだし、余程のことがなければエルに付き合うよ」

「そうじゃのー、妾も特にこうしたいといったものはないんじゃが。魔族関係といっても、以前も話したように、妾達が今の者達のやり方に口を出すものではないじゃろ」

「まぁ、そうだよな。一応聞いておくけど、仮に手を貸すとしたら現魔族王国側か? それとも旧魔族派とかいうやつらの方か?」

「現状では王国側じゃな。ジェレーナとあの声だけの奴で比べてしまうとの。旧魔族派は言いなりにならない相手にはいきなり攻撃を仕掛けてくるような連中のようじゃし。

 しかしそれも、現段階では一方の言い分しか聞いておらんからの。なんとも言えんな」

「今の王国がどうなってるのかにもよるか」

「そうなるの。とはいえ、余程のことがない限り王国側に付くことになるんじゃないかの」


 今のところ旧魔族派とやらの印象最悪だもんな。俺達を排除するためなら仲間を犠牲にするのも厭わないって感じだったし。


「ただ、俺が知らない魔法を使ってたってのが気になるところではあるな」

「うむ、それは妾も気になるの。なるべく関わらんようにするにしても、その辺りは確認しておきたいところじゃ」

「だよな。あの空間移動のやつはデメリットがあるとしても知っておきたい」


 魔力消費が大きすぎるとかなら俺が使う分には問題ないだろうし。


「時代が変わって新しくできた魔法とかもあるんだろうな。

 そういうのを調べて回るのも面白そうだ」

「どうじゃろうな。魔術を使う者の方が多くなっておるようじゃしそこまで発展しておらんかも知れんぞ」


 そうなると余計にあの旧魔族派とかいうやつが知らない魔法を使っていたことが気になってくるな。


「ま、なるようになるか。とりあえず旧魔族派やら魔王派やらってのにはなるべく関わらないようにするってことで。肉もそろそろ焼けただろうから音声変換魔法を解いてあいつらを起こそう」


 捕まえた魔族達は全員睡眠魔法で眠っている。気絶しているだけだと、飛んでる最中に目を覚ましたりしたら大変なので、飛翔魔法を使う前に眠らせておいたのだ。

 肉とスープを火からおろし、魔族達を起こそうとしたところで問題が発生した。


「人数分の器がないぞ」

「そういえば用意しておらんかったの」

「どうしよう。流石にいくつかの器を使いまわせとは言えないよな」

「作ってしまえば良いのではないか?」

「作るって器をか?」

「材料はいくらでもあるじゃろ。見ておれ」


 そういうと、エルは徐に立ち上がって森の方へと向かっていく。

 木から削り出していこうってのか?


「この木が良さそうじゃな」


——〈炎飛斬(えんひざん)


 エルが魔法を放つと、炎の刃が木を切り倒す。炎の刃といっても、切ることが目的の魔法なので、対象を燃やし尽くすみたいなことはなく、切り口が焦げる程度だ。


「これなら切り口の処理もできて便利じゃぞ。お主も使ってみい。この木を輪切りにするのじゃ」

「おい、本当に木から器を作る気なのか?」

「そうじゃが?」

「いくら魔法を使っても大変だろ」

「ブラックミノタウロスと戦った時に言ったじゃろ。魔法というのは使い方次第じゃと。なにも石を飛ばすだけが特殊な使い方ではないぞ」

「器を作るのに最適な魔法の使い方があるってのか?」

「今から見せてやろう。木を輪切りにしてこちらに渡すのじゃ」

「わかった」


 俺は炎飛斬を使って木を切り、エルへと手渡す。


「魔法というのは変形させることができるのは知っておるじゃろ」

「エルの黒炎を槍にしたりしてたやつだろ?」

「そうじゃ。それを炎飛斬で使えばこういうこともできる」


 そう言ったエルの手の平に出てきたのは球状の炎飛斬だった。


「球にするのか?」

「これはあくまでも炎飛斬じゃからな。対象を切る魔法じゃ。よく見ればわかるのじゃが、この球は高速で回転しておる」

「電動ノコギリか!」

「電動ノコギリ? ああ、成る程、そういうものがあるんじゃな。こちらは球状じゃからちと違うが、原理は似ておるな」


 つい、前世にあった物で例えてしまったが、エルは俺の思考を読んで理解してくれたらしい。


「それを使って削り取っていくわけだな」

「うむ。便利なものじゃろ。実践してみせよう」


 俺が渡した輪切りの木に球状の炎飛斬をゆっくり近づけると、けたたましい音を立てて徐々に木が削られ、不格好ながらも器の役割を果たすには十分と言えるものが出来上がっていく。

 凹みの部分が出来上がった後は、周りの角を取っていく。ここまでくると器の役割を果たすには十分どころか、立派な器の完成だ。

 ただの飛斬ではなく炎飛斬を使ったことで削り跡にささくれなどがなく、完成度はなかなか高い。


「いやあ、見事なもんだな」

「そうじゃろ。お主はどんどん木を切ってこい。妾が器にしていってやる」

「わかった。ただ、その前に飯を収納しとこう。せっかく作ったのに冷めたら勿体ない」


 俺は、焼いたばかりのキングボアの肉と、スープの鍋をマジックボックスに仕舞ってから木を輪切りにする作業を始めた。

 俺が木を切り、それをエルが器にしていく。それを何度も繰り返し、器を作っていく。


「やっと全員分完成したな」

「ちと遊びすぎてしまったの」


 流石に木を切るだけの俺の作業は、器を作るエルの作業よりも早く進んでいくので、途中からは俺も器作りの方に参加したのだが、これがなかなか難しかった。

 炎飛斬を球状にすることはできるのだが、削る時の力加減を少し間違えただけで器の底が抜けてしまったり、角を取るときに縁が欠けてしまったりするのだ。正に職人技だな。

 結局、俺が器を作れるようになった頃にはエルも木を切る側に回り、お互いに自分で切って自分で削るという状態になっていた。

 しかし、いくつもの失敗作を作り出すことを代償に、力加減を覚えて俺も器を作れるようになってくる。

 そうなると、今度は見た目にこだわり始める。

 淵の一部分をわざと薄くすることで注ぎ口を作ることから始まり、取っ手を付けてマグカップのようなものを作ったりもしたし、炎飛斬の球を小さくし、それで器の側面を削ることで模様をつけられるようになってからは、エルと二人で品評会をやったりして少しだけ盛り上がった。

 お陰で、野営の準備をし始めた時はまだ空は薄暗い程度だったのが、完全に日が暮れてしまっている。


「さっさとあいつらを起こして夕飯を済ませてしまおう」

「そうじゃな」


 さっきしまった肉とスープをマジックボックスから取り出し、牢に入れている魔族達に気付け魔法を使用する。

 次々と起き出した魔族達は一様に混乱した様子だ。

 さっきまで俺達を襲おうとしていたはずなのに、エルに気絶させられて、気付いたら牢屋で寝かされていたのだから無理もないだろう。


「説明するのが面倒だから手短に状況だけ伝えておくぞ。

 お前達がエルにやられて気絶してる間に、よくわからん旧魔族派のやつが現れて、全員を爆弾として使おうとしてたから、阻止した。お前達は捕虜としてここにいる。最低限の食事を用意したから食べてくれ」


 説明したはいいものの、彼らはあまり理解できていないようだった。

 まぁ、これで説明責任は果たしたと言っていいだろう。後は信じるも信じないも彼ら次第だ。


 俺は作った器にスープと肉をよそい、パンと一緒に牢の中の者に手渡していく。


「毒を入れたりはしていない。なんなら試しに俺が食べて見せてもいい。せっかく用意したんだから食べてくれ」


 配った食事にあまり手を出そうとしない魔族達にそう伝えたのだが……彼らからしたら.さっきまで敵対していた相手を信じろって方が無理があるか。


「なぜ我々に食事など用意したんだ」


 誰も食事に手を付けない様子に、どうしたものかと困っているところに投げかけられたのはそんな言葉だった。

 牢の方を見ると、女性の魔族がこちらを睨んでいた。


「君は?」

「私はこの部隊の副隊長だ。答えろ人族の男。なぜ我々に食事を用意した」

「なぜって言われてもな、せっかく捕まえたのに腹減らせて弱られてもなんだしな」

「そんな理由で敵に食事を出すのか」

「別にいいだろ? お前らが損するわけでもないんだし」


 さっさと食べて欲しいんだけど。俺達が器作りで遊んでいたせいで、もう辺りはすっかり夜になってるんだからな。


「まぁ、食べなくてもいいけど、その肉は魔術で無理矢理進化させられたものとはいえキングボアの物だ。食べておかないと勿体無いと思うぞ」


 俺がそう言うと、何処からともなくゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてくる。

 ずっと寝てたとはいえ、俺達との戦闘から何も食べてないわけだし、お腹は空いているはずだ。


「ほら、俺が食べて毒がないことを証明するから、お前達も食いなよ。冷めないうちにさ」


 俺は、肉を一欠片頬張り、パンを齧り、鍋から一掬いのスープを器に移して口に含む。これで、そこそこ信用できるだろう。


「副隊長」

「……仕方ない。みんな食え」


 案の定、大丈夫そうだと思った隊員達による、お腹すいたという視線に耐えることができなくなったのか、ただ単に自分もお腹が空いていたのか、副隊長さんとやらが食事の許可を出す。

 副隊長の一声で、やっと全員が食事を始めた。


 そんな彼らを尻目に、この後はもう少し詳しく状況を説明してやらないとな。特に、明日も飛翔魔法で飛んでいくわけだから、その辺りを理解しといてもらわないと面倒なことになりかねない。

 なんてことを考えながら、俺もエルも肉とスープを食べ始めたのだった。

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