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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
五章 勇者と魔王と新魔族王国
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四十八話

「おい、なんか変な声で話し始めたぞ。気絶してるのに。ちょっと気持ち悪い」

「しばらく話しておった者の声がいきなり変わるというのは違和感があるの。確かに気味の悪い光景じゃな」

「……お二人とも冷静ですね」

「まぁ、話す相手が変わっただけっぽいしな」

「それにしても、こんな魔法はあったかの? 初めてみる魔法じゃが」


 さすが魔法に長けた魔王と呼ばれるだけあって最初に気になるのがそこなのか。

 ちなみに、魔法としては俺の知識にも無い魔法だけど……。


「これたぶん魔法というより魔術だな。どっかに魔法陣があるんじゃないか?」

「予め体のどこかに魔法陣を描いておいて、任意のタイミングで発動させたというわけか。かなり高度な技術じゃな」

「魔法だったら使用者が近くにいるかもって思ったけど、これは遠隔で発動できるやつっぽいから、術者はこの辺りにはいないだろうな」


『エルフェルタ様には見抜かれると思っていましたが、勇者にまで見破られるとは。人族が魔術の代理を頼むだけはありますね』


 感心してくれるのは結構だが、肝心の部分である『どんな魔法を発動させるための魔術なのか』という部分がわかっていない以上、魔法か魔術かという点には余り意味がない。

 そもそも、この場合の魔法と魔術の違いなんて、近くにいそうか遠くにいそうかって程度のことだ。単純に魔法陣という技術が魔術に分類されるというだけの話。

 問題なのは、なんの魔法を使ってるのかがわからないという点だ。相手が使っている魔法の内容がわからないということは、俺やエルよりも魔法の知識が多いということになる。つまり、下手すると魔法に関しては俺達より上手(うわて)である可能性もあるということになってしまう。

 もちろん、俺達が封印されていた間に新しく作られた魔法だったりだとか、他の理由も考えられるので、一概にそうと言い切ることは出来ないけど。


「それで、お主、いや、お主らか? どちらでも良いが……妾達の敵かの?」

「おい、なんか楽しそうだな」


 うちの戦闘狂さんが強そうな相手を目の前にワックワクの笑顔ですよ。

 怖いわ。


『簡単な素性は彼が話してしまったようですので、自己紹介は省きましょう。私は名乗るつもりもありませんしね。

 それで、我々が敵かどうか、でしたね。

 答えは『否』です。我々旧魔族派はエルフェルタ様を歓迎しますよ』

「歓迎、ね。仲間にしてほしいとか言ってないけどな」

『こちらとしても、勇者はいりませんよ。我々は、人族との友好をなどと謳うエルキールや取り巻き供とは違って、魔族としての誇りを取り戻そうと日夜活動しています。人族の象徴とも言える勇者など、我々からすれば邪魔以外の何者でもありません』


 魔族の誇りとかなんとか言ってるけど、結局のところ人族と仲良くしようとしてる現魔王が気にくわないってことだろう。


「旧魔族派ってのはただの人族嫌いの集団なのか?」

「そうですね。彼らの主張は基本的に人族との国交断絶に収束します。端的に言えば人族嫌いということになるかもしれません」


 まぁ、人間と違って魔族には大戦のほぼ当事者だった者がまだいるわけだし、気持ちはわからんでもない。

 人間の方だって、国交を結んだ当初は反対する者が多かっただろう。現に、そのおかげで使い勝手の悪い道が敷かれるという結果に繋がったわけで、俺達も魔族の国まで徒歩で向かう羽目になってるんだからな。


『我々は魔族の誇りを取り戻し、(まこと)の魔族の国を再建します。エルフェルタ様にはその国の王になっていただきたいのです』

「妾を祭り上げようと言うのか」

『我々にも御旗となる存在が必要なのです。こちらも色々揉めていましてね。纏め役を置かなければ、という話になっていたところでエルフェルタ様の封印が解けたという知らせを受け、お迎えにあがった次第です』

「この盗賊みたいなやつらはエルを迎えるためにいたってことか」


 普通なら盗賊なんて出ないような場所に盗賊がいた理由がエルのためって……なんか、随分と手の込んだことをしてるな。


『いかがですか? エルフェルタ様』

「どうにも面倒そうじゃし、断ろうかの」


 まぁ、そうだよな。

 もしここで『では行くとするかの』とでも言われたら俺が困る。相手さんはエルだけって言ってるけど、必然的に俺もセットなんだから。


『そうですか。残念です』

「案外あっさり引くんだな」

『断られることも想定していましたからね。

 こちらの誘いを断ってエルキールの元へ行くということは、魔王派につくと捉えてよろしいですね?』

「いや、よろしくないけど」


 己に従わなければ敵って、流石に短絡的すぎるだろ。


『となると、あなた方は我々の障害にしかなりません』


「……聞く耳無しだよこの人」

「元より、こちらの意見を聞く気が無かったのじゃろ。味方か敵かの二択しか用意していないらしいの」


『障害は早いうちに取り除いておいた方が良いと思いませんか?』


 勝手に話を進めた上に『障害は取り除く』ときた。身勝手なことこの上ない奴だな。


『もう一度だけ問いましょう。こちらにつく気はありますか?』


「これ、なんて答えても結果が変わらないやつじゃないか?」

「イエスと答えてみるかの?」

「それはそれで面倒なことになるだろうけどな」


『どうしますか? こちらにつくのであれば勇者も殺さずにおいてあげます』

「妾達からすればどちらでも変わらぬと思うしの、なんと答えてやっても良い。仲間になろうが敵になろうが、妾達の障害となるのであれば取り除いてやるのもやぶさかではないの」

「正直、どっちでもいいっていうなら、これからわざわざそっちに出向いてやるのが面倒だから断りたいところだな」

『最強の魔王と呼ばれたエルフェルタ様を引き込めないのは残念ですが仕方ありません。では——』


 彼がそういうと、突然俺達の足元に闇が広がる。影とかそういうのではなく、言葉の通りの闇。足元に黒い水たまりができたかのような状態だ。

 これは〈黒水(くろみず)〉という足止め用の魔法だな。ここに入ると足を飲み込まれて身動きが取れなくなってしまうというものだ。


『あなた方には纏めて消えていただきます』


 次に異変が起きたのは、今話している男以外の盗賊らしき魔族達だった。気絶しているところをロープで縛り付けて放っておいたのだが、彼等の額に魔法陣が浮かび上がってきたのだ。


『この男はまだ使い道がありますので、回収させてもらいます。では、エルフェルタ様、安らかにお眠りください』


 回収ってどういうこと? と疑問に思っていると、男の下にも闇が広がり、ズブズブと彼を飲み込んでいってしまった。

 後に残ったのは額に魔法陣を光らせた手下達のみ。


「あの魔法陣は自爆魔法のものじゃな」

「あの者達が全員自爆するんですか!?」

「いや、あの魔法なら俺の知識の中にあるな。解除しちゃおう」


——〈魔法妨害(マジックジャミング)


 このれは、簡単な魔法の発動を妨害するという効果の魔法だ。今は彼等を自爆させようとしている魔法の発動を妨害し、自爆できないようにしている。

 そして、俺達を足止めをしている黒水に光玉(ライト)の魔法を放った。この魔法はただの光源を作り出すだけの魔法なのだが、闇系統の魔法である黒水に対して使用すれば魔法を無効化することができる。対抗魔法ってやつだな。


「あとは、この魔法陣を……これは……こうか。よし、いけそうだな」


 魔法陣というのは魔術で言うところの呪文、つまり、『発動する魔法の効果、発動条件、発動する経緯(けいい)、魔法構築者』という魔法発動のために必要な内容を図形に変化して書いてある。

 魔術との違いは『発動条件』の部分だ。

 これは魔法を発動する為のトリガーとして働く部分で、魔術ではあまり使われない。迷宮(ダンジョン)で使われていることの多い魔法陣に『魔物以外が踏む』とかがトリガーになっているものがある。このトリガーが設定された魔法陣を冒険が踏むと、魔法が発動して爆発したり電気が走ったりする罠の完成となる。

 そして、魔法陣というのは、書かれている内容さえわかれば、簡単に書き換えることが可能だ。

 迷宮(ダンジョン)では斥候が罠魔法陣を解除したりもする。

 無論、簡単にといっても、普通は簡単に読み解かれないように複雑に作るもので、書いた者と書き換える者との技量が違いすぎる場合は、下手に弄ったりすると状況を悪化させる事にもなり兼ねない。故に、500年前は斥候の中でも魔法に長けた者が重宝されていたらしい。

 今回魔法陣に関して言えば俺の知識だけでどうにかなりそうだ。

 この人数に仕掛けた魔法陣に対処できるはずがないと高を括っていたのか、俺やエルが見縊(みくび)られていたのか、はたまた、実はさっきの声の主が思った程魔法に強いわけではなかったのか……真相はわからないが、どうにかできるのであればそれに越したことはないだろう。


「これ、魔法陣が発動したように見せかけておいた方がいいよな。どっかで確認してて、不発だったからってもう一回来られたりしたら面倒だし」

「そうじゃな、では、妾が魔法陣を新しく作ってやろう。お主は其奴(そやつ)らの魔法陣を解除しておけ」


 そう言ってエルは、地面に彼等の額に浮かぶ魔法陣の複製を大きく書き始めた。


「完成したら教えてくれ。多分、俺が魔法陣の無効化を終わらせるよりは早く済むだろ」


 今にも自爆しそうな魔族達の数は約二十人程。魔法陣の書き換えは一人一人やっていかなければいけないので、結構時間がかかるはずだ。

 エルが魔法陣を書き終える方が早いだろう。


 そうして俺は、途中でエルの魔法陣が完成したので防壁魔法で囲んでから作動させたりしながらも、気絶した者達の魔法陣の書き換え作業を続けた。


「やっと終わった」

「ふむ、にしても此奴ら全く起きんな」

「こいつらどうする? 連れて行こうにもこの道じゃ馬車は使えないっていうか、そもそも俺達徒歩移動だし」

「飛翔魔法で全員魔族王国まで運んでしまうしかないの。予定より早く着くことになってしまうが、仕方なかろう。この先にある集落とやらでこの人数を監視させるわけにもいくまいしの」

「そうですね。では、私は先行して国にこのことを知らせておきます。この者達を収監する準備も必要かと思いますので」


 ジェレーナは、兎を俺に押し付けてさっさと消えてしまった。


「俺まだ飛翔魔法使ったことないんだけど。初めてで人を運搬するって難易度高くないか?」

「いい練習になるじゃろ。此奴らならばある程度乱暴に扱っても良いしの」


 練習台にするのはちょっと可哀想な気もするが、まぁ俺達を襲おうとしてたわけだし、一応俺は、自爆させられそうになったところを救った命の恩人でもあるわけだから、少しぐらいは許してもらえるかも知れない。

 いや、許してくれるさ。

 よし、頑張ろう。


飛翔(フライ)の魔法は風を掴んで己を飛ばすイメージで使うんじゃ。多人数を同時に飛ばす場合はそれらを空気の壁で包み込む感じじゃな」

「とにかくやってみるか」


 その後、何度か挑戦して、何とか飛翔魔法を使って全員を運搬できるようにはなれた。

 結局、彼等への被害は少しぐらいでは済まなかったが。


「では行くとするかの」

「わかった」


——〈飛翔(フライ)


 魔法を使うと、俺と周りの者達がふわりと浮き上がる。


(これをこのまま……上に移動させて……)


 意識を集中し、全員が木に当たらないように空へと上昇していく。

 練習で一番時間がかかったのは魔法のコントロールだったが、次に大変だったのがこの『俺以外の者にも注意を向ける』というものだった。どうしても、誰かが木にぶつかったり、確認がおろそかになって包み込んでいるイメージの中から出てしまっていたりしたのだ。


「よし、うまくいったな。じゃあ、出発だ」


 ちなみに、エルは自分で飛翔の魔法が使えるので、俺に頼らずに飛んでいる。

 少しくらい気絶してる奴らを受け持って欲しかったんだが、練習だと言って一人も手伝ってくれなかった。流石魔王。鬼畜だ。


「ジェレーナはこのまま進めばいいって言ってたよな」

「そう言っておったな。暫く行けば見えてくるじゃろ」


 ジェレーナが言うには、このまま真っ直ぐ進んでいくとエルキール魔族王国とデーヴァンとを繋ぐ道が見えてくるらしい。

 多少遠回りになるが、飛んでいくのであれば、そちらの方がわかりやすいだろうとのことだ。


「そういえば、あの声だけの奴が最後に使ってた魔法が何なのかわからないんだよな。あれって空間移動系っぽかったよな?」

「そうじゃな、属性は闇系統のようじゃった」

「あれ便利そうだよな。好きなところに行ければ旅行とかし放題だろ。ぜひ教えて欲しいな」

「ああいった魔法には殆どの場合制限が付いておる。大方、どこか一箇所を拠点として設定して、移動先はその場所のみといったところではないかの。でないと魔法を制御しきれなくなる」

「それでも便利そうだけどな」

「制限次第じゃな。妾の魔王軍に似たような魔法を使う者がおったが、一度に移動できるのが手紙一通分程度で、使用すると二日は寝込むというどうにも使い勝手が悪いものじゃったぞ。その魔法は宛先の指定などが無かったから緊急時に役立っておったがな」

「それは微妙だなぁ」


 便利な魔法には枷があるのか、強い薬には強い副作用があるみたいなもんだろうか。


「お、あれじゃないか? なんか道みたいなのが見えてきたぞ」

「とりあえず今日は道の近くで適当に野営じゃな」

「もう暗くなるからな。そうしよう」


 俺達はそのまま魔族王国とデーヴァンを繋ぐ道らしき場所へと向かい、完全に道が目視できる所まで飛んでから程よく空間が空いた場所を探し、野営の準備を始めていった。

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