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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
四章 勇者と魔王と迷宮
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四十四話

「やっと出られた」


 俺達が迷宮(ダンジョン)を抜けて地上へと戻ってきたのは、予定通り十三階層から戻り始めた翌日だった。

 今はお昼頃だろうか。太陽は俺達の真上にきている。


「よし、街に戻るぞ。戻ったら直接ギルドに行くからな」


 流石にこのまま解散というわけにはいかないらしい。

 ミノタウロスが出なくなる層からは俺達と茜色の渓谷(あかねのけいこく)が先頭で進んでいたため、その編成のまま森を抜ける。

 まぁ、流石にこんなところに出る魔物にやられるような者はここにはおらず、特に問題が起こることもなくデーヴァンの南門へとたどり着いた。

 全員が冒険者証を提示して門を(くぐ)り、その足で冒険者ギルドへと向かった。


「あ、ユウマさん、お帰りなさい」


 ギルドの扉を抜けたところでファムルに声を掛けられ、その後ろにも一人ゴソゴソと何かしている者がいるのが見える。


「ユウマお兄ちゃん、エルお姉ちゃん、おかえり!」


 ファムルの後から、近くの椅子を引きずってきたヤウメルの元気な挨拶が飛んでくる。


「ファムル、それにヤウメル、ただいま」

「ただいまじゃ。ヤウメルは仕事中かの?」

「うん! 今は書類の整理中!」


 受付カウンターの奥には、ヤウメル用と思しき少し低めの椅子と机が用意されていた。机の上にはやりかけの状態で放置された書類の束が置かれている。


「そうか、頑張るんだぞ」

「うん!」


 俺達に挨拶をして満足したのか、ヤウメルは再び椅子を引きずって元の場所に戻し、ヤウメル用の仕事机へと戻って行った。


「ヤウメルは文字が読めたのか」

「いえ、字の読み書きは現在勉強中です。今は依頼書に書かれているランク毎のマークを覚えて仕分けをしているんです」


 ファムルの説明を受けてヤウメルの方へ視線を移すと、一生懸命に紙を眺め、それをいくつかの箱に移し替えている。説明通りランク毎に別の箱へと移しているんだろう。


「頑張ってるじゃないか」

「とても優秀な子ですよ。文字を書くのはまだ出来ませんが、読みに関してはかなり覚えてきてますから。しばらくの期間商人の親戚と生活していたからか、多少の計算も出来ますしね」


 商人の親戚っていうのはヤウメルが盗賊に捕まった時に一緒にいたって人か。商売を手伝ったりしてたんだろうか。


「おい、報告に行くぞ」


 ヤウメルを眺めながらファムルと話していたらガダルに声をかけられた。


「任務の完了手続きをするだけじゃなかったのか?」

「ギルドからの直接依頼だからってことでギルド長に結果を報告する必要があんだとよ」

「めんどくさいな」

「依頼者に直接結果を報告する依頼ってのは結構あんだぞ」


 そのことは俺も知っている。特にランクが上がるとそういった依頼が増えるんだとか。

 貴族からの依頼に多いのだが、他の人間に詳細を知られたくないなんてものもあって、そういう場合は直接結果を伝えた方が安全ってわけだ。

 今回もまだ内情を公開されていない迷宮の調査結果な訳だから、そういった処置をするのもおかしくはない。

 というか、俺の場合は迷宮の主に関する報告もしなくちゃいけないから、どちらにしても直接報告する必要があるな。どうあがいても依頼達成手続きだけじゃ終わらないのか。


「報告は会議室でするらしいから上に行くぞ」


 ガダルについてギルドの二階へと上がり、迷宮に行く前に今回のメンバーと顔合わせをした会議室に入ると、既にギルド長であるマリアナが席に座っていた。


「みんな席についてちょうだい。報告を聞かせてもらうわ」


 マリアナに促されて各々適当に椅子に座る。

 全員が席についたことを確認したガダルが報告を始めた。

 入り口以降がどのようになっていたか、魔物の出現はどうなっていたか、など最初から説明して行く。途中でマリアナからみんなの動きに関して質問があったり、お昼ご飯がまだだってことで昼食休憩があったりしたものの、報告はつつがなく進んでいった。


「だいたいこんな感じだな」


 報告が終わったのは第三小鐘(だいさんしょうしょう)の三鐘が鳴る頃だった。

 第三小鐘の三鐘は十五時に鳴る鐘なので、街に戻ったのが昼頃だとすると、報告に五時間近くかかったことになる。

 こういうことに慣れているのかメインで話していたガダルは平気そうだが、茜色の渓谷のメンバー達は既に疲れ果てた顔をしている。


「わかったわ。それじゃあこれで解散してもらっていいわ。報酬は受付で受け取れるようにしておくから各パーティー毎にこの依頼達成書を持っていってちょうだい」


 マリアナの言葉で報告が終了し、各々達成書を持って会議室を出て行く。


「あ、ユウマ達とガダルは残って。Eランクパーティーがどう動けたか詳しく確認したいから」


 まぁ、俺達は帰れないよな。

 流れに乗って他のパーティー達と一緒に出て行こうかなんて考えもしたんだが、そうすると迷宮主の情報で報酬を上乗せしてもらえるって話が無くなりかねないからな。


 茜色の渓谷の面々から哀れみに似た目線を受けながらも席に座って待機し、他の冒険者達が全員出て行ったところでマリアナが口を開いた。


「じゃあ、他の件について報告してちょうだい」

「いいけど、ガダルを残す必要はなかったんじゃないか?」

「あなた達だけを残したら不自然でしょ」

「それもそうか。

 じゃあ、とりあえず最初は迷宮の主についてだが、あの迷宮の主はキマイラだった」

「あら、思ったより強い魔物ではなかったわね。それは都合がいいわね」


 ギルドにしても、街としても、可能な限り迷宮は利用していきたいはずなので、主は普通の魔物の方がありがたいんだろう。

 あまりに強く珍しい魔物が主だと、主を討伐して素材を取った方がいいとかって主張する者が出てこないとは言い切れないからな。

 キマイラは弱い魔物ではないが、迷宮で得られる利益を捨ててまで優先する程に強く入手難易度が高い魔物でもないので、目先の利益に囚われてしまう者も少ないだろう。


「それで、最初はってことは他にも何かあったのかしら?」

「いや、まぁ、これはちゃんと確認しないといけないものなんだが、十階層でブラックミノタウロスが出たんだ」

「ブラックって、それ変異種よね!? そんなものが出るとなると迷宮の旨味が薄まってしまうわね。十階層ってことは階層主かしら」


 ブラックミノタウロスの名前を聞いた途端にマリアナが肩を落とし、ため息をつきながら顔を伏せる。

 十三階層から出始める魔物がゴーレムだという情報はさっきの報告で伝えているし、迷宮自体が全十五階層だということも知っているので、エルが迷宮内で言っていたのと同じ考えに至ったのだろう。つまり、この迷宮は冒険者を呼び戻す材料としては使えそうにないと。

 しかし、顔を伏せた直後に何かに気付いた様子で顔を上げた。


「ちょっと待って、確認しないといけないっていうのはどういう意味?」

「エルが言うにはこのブラックミノタウロスは普通のミノタウロスが進化したものじゃないかってことなんだ」

「進化って、魔核吸収による進化ってこと?」

「そうじゃな、あの程度の迷宮で階層主がいるというのは考えづらいからの、進化個体であると考えた方が自然じゃろう」

「なるほど……ちなみに、そのブラックミノタウロスは回収してきてるのよね?」

「置いてきたら勿体ないからな」

「なら、確認のためにそれを買い取らせてもらえないかしら。金額はそれなりに出すわよ」


 ああ、エルがブラックミノタウロスを食べられないって言ってたのはこれか。確認のために渡すことになるから自分達の手元には残らないってことだったんだな。


(そういうことじゃな。ギルドとしても確認せねばならんものじゃからの)

(肉だけ貰うってわけにはいかないかな。魔核を見れば進化個体かどうかはわかるんだろ?)

(どうじゃろうな、難しいとは思うがの。単純に研究材料にもなるからの、買い取るということになったら全て持っていかれるじゃろう)


 うーん、こればかりはしょうがないのか?

 そもそも、珍しい進化の仕方をした個体が食べられるかどうかも怪しい気もするし、ブラックミノタウロスの肉は他の機会に期待するか。


「わかった。後で解体場にでも持って行くよ」

「助かるわ。それが本当に進化個体なら復活はしないでしょうし、情報料としても上乗せしておくから」


 まぁ、生活する上でお金は必要になるわけだから、しばらくはお金に困らないというだけで良しとしよう。


 大きな報告はこの二点だけだが、その後も、俺達から見た他の冒険者の働きだとかの細かい部分について聞かれたりなどの細かな報告をしていく。


「俺達からの話はこんなもんかな」


 報告を終えたのは二、三十分ほど話した頃だった。


「そう、今回は助かったわ。これは偵察の依頼に対する報酬よ。金額が他の冒険者達と違うからここで渡しちゃうわね。持って行ってちょうだい。

ガダルもお疲れ様。もう帰ってもらって構わないわ」


 マリアナが取り出してきた皮袋を懐に仕舞うふりをしてマジックボックスへと収納し、ガダルと一緒に席を立つ。

 そのまま会議室を出ようとしたところで俺達だけが呼び止められた。


「あ、そうそう。情報の報酬は領主に回してからになるから少しかかると思うけど、受け渡しはギルドの受付でいいかしら」

「構わないけど……そういえば伝えといた方がいいかもな。

 俺達はしばらく出かけなきゃいけない所があるんだ。だから、報酬の受け取りはそれが済んでからってことになると思う」

「出かける? 街を出るの? 帰ってこないってわけではなさそうだけど」

「まぁ、野暮用でね」

「野暮用ね、わかったわ。報酬の金額が決まり次第、受付で受け取れるようにしておくから、都合のいい時に来てちょうだい」


 マリアナは、ジェレーナに軽く目線をやった後にそう言って話を締めた。

 エルの正体を知っていて、最近起こった魔族のキングボア事件、そして急に俺達と行動を共にし始めた魔族側についている種族であるダークエルフのジェレーナ、ここまで情報が揃っていれば、マリアナにはなんとなく予想はついているかもしれない。


「ま、気を付けなさい。あなた達にその必要は無いかもしれないけれどね」


 少なくともエルに危害を加えようって考えでは無いはずだから大丈夫だろう。俺に対してはどうだかわからないけど。

 魔族側には俺の正体が正確に伝わってないらしいからなぁ、バレた時に面倒なことにならなければいいが。


 そうして、俺達はマリアナに別れを告げて会議室を後にした。


「この後はとりあえず自由行動だな。ジェレーナ、エルキール魔族王国に行くのは明日からで大丈夫か?」

「構いません。伝令の者に伝えておきます」


 ファムルとヤウメルに挨拶をしてからギルドを出た俺達は、現在ひとまず宿へと向かっているところだ。

 流石に今すぐ魔族の国に行くわけにもいかないし、ジェレーナに確認した通り今日はこのまま適当に過ごし、明日から魔族の国へ向かうことになる。


「では、妾とユウマは一旦宿に戻ってから明日以降の準備をしに行くが、お主はどうする」

「私も準備をしようと考えております。もしよろしければ初代魔王様の分もご用意も致しますが」


 それ俺の分は入ってるんですかね?

 いや、自分で用意するけどさ。

 ジェレーナにはエルの封印についてはまだ話してないので彼女はわかっていないだろうけど、エルの分の飯は絶対に必要なものではない。むしろ、俺が食わずに倒れる方がエルには影響が大きいだろう。

 ただし、エルのご機嫌をとるには必要なものと言える。うまい飯というのはなかなか強力な交渉道具なのである。彼女も、道中でなるべく良質な保存食を振舞って印象を良くしようと考えているのかも知れない。

 だが……。


「よいよい、妾達の分は妾達で用意する。飯に関していえばお主の分も用意してやっても良いぞ」


 残念ながら、食事に関してはマジックボックスを持っている俺が管理した方がいいのだ。マジックボックス内に入れておけば食品が劣化しないから、取り出すだけで出来立ての料理が食べられるしな。

 エルの答えにちょっとがっかりしている様子のジェレーナだが、俺も、自前で出来立ての料理が用意できるのに、態々他の人に任せる気にはなれないので、残念ながら諦めてもらうしかない。

 エルをもてなすのは魔族の国に行ってからで……ん? 道中にもてなす?

……お、これはいい方法があるぞ。


「ジェレーナ、お前は料理はできるか?」

「なんですか突然」

「エルキール魔族王国までの道中でもエルをもてなしたいんだろ? 料理はできるのか?」

「……できます。敵国に行く際に相手が出す物を魔王様が口をつけるわけにもいきませんから。魔王様の側につく者はある程度の調理技術を求められますので」


 そうかできるのか。

 ある程度のってのがちょっと気にはなるが、魔王本人に出す料理を作っているのだからおかしなものは作らないだろう。


「それなら、料理を用意してくれば俺がちゃんと管理してエルをもてなさせてやろう」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だ。俺はマジックボックスを使えるからな、料理を出来立てのまま持ち運べる」


 これならジェレーナがエルをもてなすことができて万々歳なはず。


(態々そんな面倒を受けてやる必要もなかろうに)

(いいじゃないかこの程度で食費が浮くなら)


 それに、ダークエルフである彼女が作る料理というのにも少し興味がある。


(ダークエルフの料理はあまりお勧めできんがの……まぁ良いか。お主がその面倒を引き受けるというのであれば妾は何も言わん)


 なんか、変に含みのある言い方をするな。


「わかりました。初代魔王様をおもてなしできるというのであれば、あなたに協力をお願いしましょう。お礼としてあなたの分も用意します」


 マジックボックスで持ち運ぶ代わりに俺の分の料理も用意してもらえる。これは望み通りの展開だ。

 エルの言い方からして、ダークエルフの料理ってのがあまり美味しくないんだろうけど。

 旅行で現地の郷土料理なんかを食べたくなるみたいなものだろうか、異世界にしかいないダークエルフという種族の者が作る料理というのには興味をひかれる。

 もてなす為の料理なのだから、それこそ郷土料理みたいなものを作ってくれることだろう。

 エルが絶対にやめておけと言わないあたり毒になるようなものではないだろうし。


「それでは、私は食事の用意もありますのでここで失礼します」


 いつもの宿に着く直前でジェレーナと別れる。

 どんな料理を食べられるのかと、少しばかりテンションが上がっている俺だった。


 まさかその日のうちに自分の言葉を後悔することになるとは思いもせずに。


 宿に戻った俺達は多少の休憩を挟んでから、魔族の国に向かうのに必要な物の買い出しに行ったり、念のために食料を確保したり、再度冒険者ギルドに寄って、ミノタウロスやブラックミノタウロスを解体場に置いてきたりなどして着々と準備を進めていく。

 全ての準備が終わったのは、あたりが暗くなり始め鎮めの鐘の音があたりに響き渡る時間だった。

 今は夕食を済ませて部屋でまったりと休んでいる。


「案外時間がかかったな」

「お主が道具屋でいつまでも動かんからじゃろうが」

「エルだって楽しそうに色々物色してたじゃないか」


 今日行った道具屋は、ギルドに紹介されたこの街で最も大きな商店だ。

 せっかくだから挨拶も兼ねてと、商人ギルドのギルド長であるルドマンに紹介してもらった。粗悪品をつかまされても面白くないし、せっかく使えるコネがあるなら使った方がいいだろう。

 その道具屋というのがとにかく商品が多く、迷宮で使ったランタンのような魔道具(まどうぐ)や、両手で持てる程の大きさなのに広げると大人が五人は寝転べるほどの広さになるテントなど、様々のものが置いてあっていつまでたっても飽きのこない素晴らしいお店だったのだ。

 俺達は二人して長い時間その店で商品を見て回っていた。


「結局、あまり買わなかったから店には悪いことしたな」

「まぁ、周りから見れば妾達はただの新米冒険者じゃからな、向こうも慣れっこじゃろう」


 そんな話をしていると、部屋の扉をノックする音が響く。


「はいはい。どちら様ですか?」

「ジェレーナです。料理ができましたので持ってきました」


 扉を開けると、ジェレーナが大きな箱を持って立っていた。

 この箱の中に料理が入っているのだろう。

 彼女を部屋の中に招き入れ、箱を床に置いてもらう。


「中を見てもいいか?」

「構いません。個別で梱包いていますから。別々に収納した方が取り出す時に便利でしょうし」


 製作者の許可を得たところで箱を開けてみると、スパイシーなとてもいい匂いがふわりと鼻をくすぐる。

 エルが心配するほどおかしな料理ではなさそうだ。やはり魔王に出す料理を作るくらいなのだからまともな物を作れるのだろう。うちの魔王様は心配性だな。

 そんなことを考えながら、マジックボックスに収納しようと個別になった箱の一つを取り出すとジェレーナが中身について説明してくれる。変なものは使っていないというアピールだろう。


「それはガジガジの炒め物です。そちらはガジブリの素揚げですね。もう一つはガマギリの卵が手に入ったので成体に詰めて丸焼きにしました」


 ん? なんか前世で似たような名前の生き物がいたような気がするんだが。

 しかも、どれも同じ分類の生き物だった気が……。


「これの中身も見てもいいか?」

「構いません。おかしなものは使っていませんよ」


 非常に嫌な予感に脳内で警報が鳴り響くのを感じながらも確認せずにはいられず、俺は手に持ったガジガジの炒め物とやらが入った箱を開ける。


 箱の中身は大量の虫だった。


 正確にはその虫を炒めた料理なのだろうが、俺にはちょっと料理としてみることはできない。

 スキルの精神強化がなかったら箱ごと投げ捨てていたことだろう。


(ダークエエルフは昆虫食を主食とする種族じゃ。

 妾達魔族にはそこそこ浸透おるから抵抗は少ないが、耐性のないお主にはきつかろうな。

 ちゃんと食べるじゃぞ)



 俺の、バカ野郎……。

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