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魔王は勇者の中にいる  作者: さかもときょうじゅ
四章 勇者と魔王と迷宮
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四十三話

「お、起きたみたいだぞ」


 幻惑(ダーゼル)でミノタウロスと戦う幻想を見せてから数分、眠っていた彼らが目を覚ました。


「お前ら、大丈夫か?」

「ガダルさん、俺達は大丈夫です。まさかこんなところでミノタウロスの集団と戦うことになるとは思わなかったですけどね」


 ガダルの問いかけに答えたのは盗賊みたいなチームのリーダーだ。

 問いかけの内容は幻惑魔法にかけられてたけど大丈夫かと言う意味だったのだろうが、答えはミノタウロスの連戦について。幻惑魔法はうまくかかってたようで安心した。


「いや、問題ねぇんならいいんだが」


 自分の考えていたものと違う答えが返って来たことに困惑した様子ながらも、彼らに問題がなそうで暗視したように頷くガダル。やはり多少の心配はあったのだろう。

 見かけによらずいいやつだな。


「本当に大丈夫なんだろうな」


 どうしても納得できないのか、それともただ確証が欲しいのか、周りに聞こえないように声を抑えて確認してくるガダル。

 まぁ、何度聞かれても俺の答えは変わらないんだけどな。


「大丈夫だ。前にお前に使った時も特に問題はなかっただろ?」

「前にって言われてもあんときゃ何が何だかわからわからなかっただけだったぜ。今も全然わかってねぇけどよ……」


 俺達の素性を話すわけにいかない以上、詳しい説明なんてできないから、大丈夫だとしか言いようがないんだけど。


「んー、なんだ、気にしすぎるのも体に良くないぞ」

「はぁ……ったく、訳がわからねぇ」

「帰ったらギルド長に聞いてみてもいいけど、多分、出発前と答えは変わらないからな。気にするだけ損だって」


 知って得する話でも無いしな。


「そんなことより、素材の分配とか決めた方がいいんじゃないか?」


 昨日のミノタウロス討伐時にBランク冒険者達が素材を欲しがり、その際に、他のミノタウロスが出て来たら素材のまま山分け、出てこなければ売り払った金額を山分けという取り決めをしていたので、今回ミノタウロスと戦ったことで素材を山分けするということになるはずだ。

 幻惑魔法の中で誰がどんな活躍をしたのかは詳しくわからないが、記憶との齟齬があまり出ないようにミノタウロスを置いた場所と、幻想内でミノタウロスが倒された場所を一致させるために、誰が倒すか、どうやって倒すか、といった内容はこちらで決めておいた。

 置いてあるミノタウロスは俺とエルが倒して来たものなので、殆どが剣による斬撃でとどめを刺してある。なので、自ずと剣を主体に戦う者が討伐者になっているのだが。


「一応、記憶内では三体はお前が倒したことになってる。残りの二体はBランクのパーティーで一体ずつって感じだな」

「俺が倒したにしちゃ刀傷が多すぎるが」

「乱戦だったから仕方ないな」


 流石に俺達も殴って倒したりはしていないので、そこは大目に見てもらいたい。

 打撃による傷って目立たないから大丈夫だと思う。多分。


「乱戦か、まぁこれも考えても無駄だってんだろ?」

「いや、そこは考えて欲しいけどな。他の連中が怪しまないように」

「無理言いやがる。俺は剣なんか使わねぇぞ」

「素材だけ取ってさっさと燃やしちゃえばいいんじゃないか?」


 灰になってしまえばわからないだろうしな。


「お前らは取り分無くていいのか? 本当はお前らが討伐してきた魔物だろ?」

「別にいいよ。まだ何体か余ってるし。茜色の渓谷(あかねのけいこく)の人達には何かあげた方がいいと思うけど」

「何体かね……どんだけ入るマジックバッグを持ってんのか知らねぇが、やっぱりおかしいぜお前ら」


 マジックバッグか、俺がマジックボックスからブラックミノタウロスやミノタウロスを取り出してるのを見てそう勘違いしたんだろう。都合がいいので訂正はしないでおこう。


 ガダルは、これ以上は聞くだけ無駄だと悟ったのか、内緒話を切り上げて他の冒険者たちの方へと向かって行き、指示を出し始める。


「よし、じゃあ素材を取っちまうぞ。CランクとEランクの奴らは俺が()った奴を手伝え。ミノタウロスの解体なんてそう経験できるもんでもねぇからな。今後この迷宮(ダンジョン)が公開されたら役に立つぞ。それに、働いた分は素材の一部を報酬として出してやる。

 Bランクの奴らは自分の分を片付けろ」


 どれが自分が倒したことになってるミノタウロスかわからないから、他の人達が選ぶように促したのか。うまいな。


(随所で顔に似合わぬ所があるやつじゃの)

(仮にもAランク冒険者ってことだろ。俺達も余ってるミノタウロスの素材を取りに行こう)


 エルの中でガダル株が少し上昇した所で俺達も作業へと移る。

 俺はミノタウロスの解体どころか、魔物の解体自体素人だったのだが、意外にもここで活躍したのはジェレーナだった。

 魔王直属の親衛隊と言うだけあって、色々な技術を持ち合わせているようだ。魔物の解体技術が親衛隊でどう役立つのかはわからないが。


「素材を取り終わったら各自で素材以外の残りを燃やしておけ」


 ガダルの指示のもと着々と処理を終え、亡骸を燃やしていく冒険者達。俺達も残りを燃やそうとしたところでちょっとした問題が起こった。


「やばい。俺と同じくらいのランクの冒険者が使う炎魔法の火力ってのがわからない」

「ちょろっとやってやれば良いのではないか?」

「それで強すぎたりしたらまた面倒なことになるだろ。ジェレーナは他の奴らぐらいってできるか?」

「わかりませんね。人族の幼稚な火遊びなど見たことありませんから」


 ここまで来る間にも、他の冒険者が戦闘で魔術を使っている場面は見て来たが、攻撃魔法を使ってたのは獣の咆哮(けもののおたけび)の魔術師だけだったし、流れ弾による被害を恐れてか、密閉された空間で火を使うのはまずいと知っているからか、炎系統の魔術は殆ど使ってなかったからな。

 こんなことになるなら火を起こす道具とか買ってくればよかった。


「仕方ない、火力をかなり抑えてやるしかないか……」


 なるべく他の人に見られませんようにと願いつつ炎系魔法である火炎(フレイム)を使おうとしたその時、後ろから声をかけられた。


「なんだ、ユウマ達は火種石(ひだねいし)を持ってきてないのか?」


 振り向いた先に立っていたのは茜色の渓谷のリーダーであるスクライムだった。


「ああ、実はそうなんだ。ちょっとばかり困ってたところだ」

「ギルドから期待されてるかと思えば、冒険者としての必須アイテムを忘れるっていう初心者がやるようなミスをするなんてな。よくわからない奴らだな」

「ついこの間冒険者になったばかりの初心者だからな」


 火種石というのは読んで字の如く、火種とする小さい火を出せる石で、少量の魔力を込めるだけで使用できる便利アイテムだ。

 野営の際の焚き火や、今回のように魔物の死骸の処理をする際などに使用する。

 スクライムの言う通り火種石は冒険者の必須アイテムの一つで、魔術を使える仲間がいないパーティーはもちろんだが、魔術を使える仲間がいる場合でも魔力温存の為に火種石を使用する場面が多い。

 だが、そもそもの話、魔法で火を起こせて魔力を温存する必要のない俺達にとっては必要ない物だからな。うっかり忘れてしまった。


「仕方ないな。俺達のを貸してやるよ。

 カリナの魔力を温存する為に、街に戻る直前の時くらいにしか死体処理に魔術は使わないからな。普段使い用にちゃんと持ってるんだ」

「そうか、ありがとう。助かるよ」


 スクライムのお言葉に甘えて火種石を借り、念のため魔力操作に慣れているエルに使ってもらう。俺が使って壊したりしたら目も当てられない。

 なんだかんだ言って、こういう魔法や魔術に近い効果を得られる小物は他の物と比べてそこそこ値が張るしな。

 勿論、普通に買える程度の金額なので入手困難というわけではないが。


「エル、大丈夫か? 壊すなよ?」

「妾をなんじゃと思っておる。これに魔力を込めれば良いのじゃろ」


 火種石を受け取ったエルがミノタウロスの死骸に近づいて魔力を込めると、子供の握り拳程の大きさの火の玉がポッと現れる。

 そんな小さい火で、あのでかいミノタウロスの死骸が燃やせるのかと不安になりながら眺めていたが、火の玉が死骸に着弾した途端に死骸は炎に包まれた。ただの火じゃないんだな。


「ミノタウロスの肉は筋張ってて硬いけど旨味が強くて癖になる味らしいんだよな。このまま捨ててくのは勿体ない気もするけど、まだ先に進むみたいだから荷物を増やすわけにはいかないし、こればかりは仕方ないよな」

「ミノタウロスって食えるのか」

「結構、好んで食べる人も多いらしいよ。迷宮が解放されたら街にもミノタウロス料理が流通するかもな」


 うーん、まぁ、大まかに言ってしまえばただ二足歩行するだけの牛だからな。食えないことはないか。

 てことは、ブラックミノタウロスも食えるのかな。


(食えるはずじゃぞ。上位種は普通の魔物より美味いと聞く)

(そうなのか? それはちょっと楽しみだな)

(今回のは食えんかも知れんがな)

(え? それはどういう——)


「全員処理は終わったか? CとEランクの奴らは解体した素材を一体分持ってっていい。各パーティーで分けろ」


 エルに問い返す前にガダルが声を上げた。

 ミノタウロスの素材なんてどうでもいいから、ブラックミノタウロスが食えない理由が知りたいんだけど。


「ユウマ、素材の分け前は売却値を山分けでいいか?」


 俺の疑問は解消されることなく、話はスクライムとの分け前についてのものに移ってしまった。

 これはもう後で聞くしかないか。


「いや、俺達は報酬はいらない。ミノタウロスとの戦いではあまり活躍できなかったからな。スクライム達で一体分持ってっていいぞ」


 幻惑魔法内で動いていた俺達は普通の冒険者レベルにしてあったので、ミノタウロスとの戦闘で役に立てたとは思えない。

 確実に足手まといだっただろう。


「そうはいかないだろう。これはミノタウロス討伐の報酬じゃなくて、解体した事への報酬だぞ。ユウマ達も解体はしたんだから報酬を受け取る資格がある」


 しかし、そんな俺の考えが伝わるわけはない。

 だからと言って、『マジックボックスにあと五体程残してあるのでいりません』などと言うわけにもいかないしな。

 どうしたもんかな。実際、俺達はさほど必要としてないからあげちゃってもいいんだけど。


 そんなことを考えながらエルの方を見ると、先程借りてから返すタイミングを逃してエルの手元で弄ばれている火種石が目にとまった。


「じゃあ、あの火種石を貰えないか? 解体の報酬はそれでいいよ」

「それじゃ釣り合わないだろ。いくらなんでも火種石はそこまで高くない」

「いいんだ。その差分は火種石を忘れた俺達に冒険者として教えを貰ったお礼ってことで」

「ユウマ達がそれでいいなら、こっちとしてはありがたい話だが」


 火種石はそこそこ値が張るとは言っても高級品ではない。ミノタウロスのツノを一本売れば差し引きでお釣りがくるだろう。

 そのミノタウロスのツノ一本と、魔核の半値、それらを合わせた金額と火種石一個を交換でと言っているのだからスクライムからしたら破格の条件なはずだ。


「気にしないでくれ。勉強代だ勉強代」

「そう言うならありがたく貰ってくけど」


 ガダルに伝えた通り最初からこのミノタウロスの報酬を貰うつもりはなかったからな。スクライム達が役立ててくれればそれでいい。


 そんな話をしているうちにガダルから集合の声が上がる。先に進むみたいだ。


「もう出発するみたいだから俺達も行こう」

「ああ、そうだな」


 報酬の話を切り上げ、俺達もガダルのもとへ向かう。


「準備はできたな。

 予定じゃ十二層まではBランクが先頭で行くってことになってたが、昨日のこともあるからここから先は俺が先を行く。Bランクの奴らは低ランクの奴らを守ってやれ」


 ガダルがそう告げ、Bランクのパーティーが編成変更後の配置の確認を始めた。

 結局、獣の咆哮(けもののおたけび)が前に立って、盗賊パーティーの方が付いて来る形で行くことになったようだ。

 獣の咆哮は守りに長けているし、盗賊パーティーの方は一人一人が戦闘に特化しているので、この配置が不意打ちに対する対応がしやすいと考えたのだろう。


「じゃあ行くぞ。わかってると思うが気ぃ抜いたりすんじゃねぇぞ」


 配置が決まったところでガダルの先導によって探索が再開された。



 探索再開後は特に問題も起こることなく順調に進んで行った。

 十一階層に降りてからはミノタウロスが普通に出現するようになっていたが、ガダルが先頭になったことで会敵時の対応力が上がり、二体程度までならば同時に出現しても危なげなく処理できている。


「また暇になってしもうたの」

「ブラック倒した後にそこそこ動いたろ。我慢してくれ」

「わかっておる。そこまで節操なしではないわ」

「しかし、人族の戦闘は無駄が多いですね。魔法を使えない者は魔族にも増えていますし寿命の短い人族ならば仕方がないことですが、魔術の運用もなってません」

「魔族と比べれば、魔術が使われるようになってから短いらしいからな。仕方ないんだろ」

「妾からすれば、寿命の長い種族の多い魔族が魔法を使えなくなっておる方が嘆かわしいことじゃがの」

「そう、ですね。面目次第もございません」


 エルの言葉を聞いて顔を暗くさせるジェレーナ。

 魔王本人ではないとはいえ、直属の親衛隊所属の者としては、魔法に長けていたと言われている元魔王のそんな言葉は耳の痛い話だろう。


「いや、時代というのは移りゆくもの。仕方ないのかも知れん。お主にいうことでもなかったしの」

「魔術の発展も色々と役立ってるみたいだしな。人間の間では鑑定板が改良されたりしてるって話だったし」

「魔族側でも魔術の研究が進められ、特に魔法陣を使った魔道具の発展には目を見張るものがあります。我々の国に来ていただいた際には初代魔王様にも色々ご紹介しますよ」


 そういえば、この依頼が終わったら今の魔族の国に行くんだったな。

 魔道具というのはなかなか心惹かれる。ファンタジー感溢れるアイテムとかあるんだろうか。


「ま、楽しみにしておくかの」


 魔族といえば魔術の本場だ。その魔術を利用して使用される魔法陣を組み込まれて作られる魔道具。まさに本場の一品といった物があるに違いない。

 空飛ぶ絨毯とか、魔力を込めるだけで水が出るポットとか。


(どれも魔法が使えればいらん物じゃがな)

(ロマンって奴だろ。魔法を使わないで実現できるからいいんだよ)


 実際、飛翔(ひしょう)を使えば空を飛べるし、水に関して言えば、水道水程度から滝レベルまで大小様々な規模の水を出現させることができる。下手すると水のない場所に大洪水を起こせるのが魔法というものだ。

 だが、魔法でそれができるということと、そういうことができるアイテムとでは感動のベクトルが違う。これぞまさにロマンと呼ぶものだろう。


「何にしてもこの依頼が終わってからだからな」

「そうじゃな。

……それにしても暇じゃの」


 結局、その後も俺達は同じような会話を繰り返すだけだった。



 その日のうちに十三階層まで降り、出現する魔物がスモールゴーレムから普通のゴーレムに変わったことを確認したところで偵察を切り上げることとなった。

 流石に、ミノタウロスと同ランククラスの魔物が普通に出て来る場所を俺達や茜色の渓谷の者達を守りながら進むのは難しいという判断による結論だ。

 俺達としても、ここまでの間ただ守られているだけで何もしていないのは暇でしょうがなかったので、この決断に文句はない。


「今日は、昨日の安全地帯の部屋まで戻って一晩明かす。明日には街に戻るからそのつもりでいろ」


 ガダルの言葉を聞いて他の冒険者達が色めき立つ。

 街に戻るということは持ち物をある程度増やしてもいいということ。つまり、奥に進んでいた時と違って素材を多めに採取できるということだ。彼らにとってはここからが稼ぎ時ということになる。

 ここまで降りて来る最中にミノタウロスを何体か倒したおかげで、素材は各パーティーが数体分ずつ確保できているが、噂のミノタウロスの肉はアイテムボックスを使用できる俺達以外は確保していない。

 彼らからしたらそのあたりを可能な限り持ち帰りたいところだろう。


「お前らが気合を入れる気持ちはわかるが、帰りも気を抜いたりすんじゃねぇぞ。

 編成はBランクを先頭に戻す。ミノタウロスが何体か出て来たら俺が対処するが、可能な限りお前らだけで進めるようにしとけ」


 上に戻る分にはミノタウロス以上の強敵はいないわけだから、降りて行く時程の警戒は必要ない。これも経験を積むいい機会ってことだろう。

 変異種のようなイレギュラーが出たら俺たちが対処するしかないが、俺が確認した限りではブラックミノタウロス以外のイレギュラーは存在していなかった。

 一日足らずで変異種が誕生するとは思えないしな。


「よし、じゃあ戻るぞ」


 編成を再度組み直し終え、ガダルの言葉を合図に俺達は帰路につくのだった。

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